言い訳を考えると、公式設定でご丁寧にも逃げ道を塞がれている徹底っぷり。
R-9DP“HAKUSAN”
宇宙に進出すると言うことは非常に資源を消費する。
水、酸素は言うに及ばず、食料などの有機物や服飾、生活用品もプラントで作らねばらない。
住居も外壁はもれなく強化鉄骨を芯とした気密仕様だ。
そして戦争が行われているとなれば、
戦闘艦艇、輸送船、個人武装、R機。作る物には事欠かない。
鉱物資源は最重要資源の一つなのだ。
資源の詰まった小さな岩石塊であれば、資源採掘船で取り込み、資源基地に持ち込むが、
比較的大きい小惑星サイズの場合には、先ず採掘基地を建設してから、
用途に合わせた大型採掘機を用いて、鉱床をくり貫いていく。
さて、ここは開発途上の資源小惑星だ。
艦艇や基地外壁に使用するために、採掘体制が整い次第、鉱石が採掘される予定である。
基地建設のため、あちらこちらで重機が動いている。
まだ、簡易基地しか存在しないため、ここで活動するには宇宙服が必要となっている。
この建設現場の様な場所で、宇宙服の人間が3人蠢いていた。
『ふむ、掘削用屈折レーザーはちょっと慎みが足りないな』
『慎みというか、あれは浪漫が足りない。さて、ドリル系も有りだろ思うが、どうか?』
『ありなしで言えば有りだが、こう、もっと一瞬に賭ける男気が欲しい』
短距離通信を使って訳の分からない会話をする三人。
その目線は、淡々と作業を続ける重機に注がれていた。
安全第一である工事現場用の装甲付き宇宙服の動きにくさに四苦八苦して、
もがく様に移動する様子は、とても無様で工事関係者とは思えない。
『岩石切断用の高周波ブレードもあるようだが、アレは泥臭さが足りないな』
『あれはあれで良いものだが、人型にくれてやれば良い』
『そうすると、やはり当初の目的である、“アレ”だな』
宇宙服の一人が指し示すのは、基地建築を進める一つの重機だ。
四脚を駆使して、デコボコした地面に取り付き、狙いを定める。
自ら生み出すパワーに負けないように、各脚から周囲にアンカーを打ち込まれる。
重機の中央には長い特殊合金製の杭が一つ。
小惑星の埃にまみれた杭は、ゆっくりと接地面から持ち上げられていく、
それとともに、細かな振動が発生し、杭を駆動させる動力部が唸りを上げる。
杭が頂点に達した次の瞬間、僅かな一瞬の発光とともに鉄杭は超高速で振り下ろされ、
その質量と速度を持って、岩石を物理的に撃ち抜いた。
宇宙服の男らからは相当離れているが、まさにその振動が伝わってくるようだ。
思わずグッと手を握り締め、歓声を上げる三人。
『やはり、あれは見れば見る程浪漫の塊だな!』
『パイルバンカーとは、良いものだ』
『それには異論は無い』
ハイタッチをする三人を余所に、小惑星では基地建設が淡々と進んでいた。
***
記憶媒体が積み上げられた、埃っぽい一室。ここは資料室という名の倉庫だ。
Team R-TYPEの各研究班より吐き出された、
役に立つのか役に立たないのか分らない、玉石混合のデータの山だ。
もっとも、役に立つデータは大体機密指定の部屋にあるので、ここには石ばかりだが。
記憶媒体の治められた収納ボックスに腰掛ける3人。
目の前には重機のミニチュア、というか玩具がある。
“はたらく機械シリーズvol.86”の無重力対応自走式杭打ち機や衝撃緩和型ドリルなどだ。
「いやあ、有意義な視察だった。不正地対応シャトルを動かした甲斐があった」
「やっぱり、エルの言うとおりパイルバンカーが熱いな!」
スキンヘッドの中年男とひょろ長い栄養状態の悪そうな男が言う。
白衣の二人が喋りかけるのはDV系列研究班に居た研究員のエルだった。
足を向けて寝られないなと、二人がエルに言うと、エルは笑う。
「やめてくださいよ。お二人とも先輩じゃないですか。しかもスレッド研究員なんて班長格だし」
「いやいや、熱さを求める事に年齢や役職なんて関係ないぞ。同士よ。
あと、俺のことはスレッドじゃなくて、ビルと呼べ」
「ああ、名前呼びがいいですね。エルくんも僕のことはルーニーでいいよ」
スキンヘッドのビルと、モヤシのルーニーは若年のエルとガッシリと手を握る。
彼らは「R機に熱さを求める会」という同好会のメンバーであった。
そのまま、二時間ほど重機について語り合った後、
エルが二人の持つ端末にデータを送信しつつ切り出す。
「コレなんですけれど、どう思います?」
「パイルバンカー? 意見は面白いのですが、コレ敵に届かないんじゃ……」
「いや、そう決め付けるのは早計だ」
「コレを課長に提出したいと思うのですが、どうにも僕では力不足でして」
ルーニーが首を捻り、ビルが目を輝かす。
エルが送ってきたデータの名称は“パイルバンカー装備型R機について”
過激な意見を言うエルに、まずビルが乗った。
「いやはや、面白いじゃないか。Team R-TYPEに入った日の興奮を思い出すよ。
班長になっても、開発するのが普通の機体なのだったら、
いっそ俺はコレに夢を賭けても良いね」
「技術的な問題が凄いけど……、もしコレが開発できたらカッコいいよね?
よし、僕もフォース実験よりは機体側を触りたいし、乗った!」
「じゃあ……」
続いてルーニーも話に乗り、ここにパイルバンカー機開発班が発足した。
「さあ、エル。君が方針を決めるのだ」
「いや、僕よりビルの方が経験あるし、何より班長として適任ですよ」
「熱さに年齢は関係ないぞ。同士よ」
「でも、ビル、事務処理能力や課長レクを考えたら、やっぱりビルが班長に適任だよ」
「そう言われては仕方が無い。パイル機開発の論拠とするデータ集め、
技術実証の方向性、外部関係者との繋ぎ……やることは山ほどあるぞ」
***
Team R-TYPEが持っている倉庫の一部を借りて、様々な材質・大きさの鉄柱が置かれていた。
小型の物は人くらいの大きさだが、長さ20m、径1mにも及ぶデカ物まである。
それを上から眺めるのは、大急ぎで実験起案を上に挙げ、研究費を取り付けた三人。
「やっぱり太くて、長くて、硬いは男の浪漫だよな!」
「大きさよりも、むしろ収納が問題ですね」
ハゲ頭のビルが下ネタを大声で言うが、ルーニーは完全に無視した。
「データを検討した結果、杭の全長は最低でも15mは必要だけど、
そんな物をつけたまま戦闘なんてもってのほかですしね」
「どうする、エル? 折りたたみ式か? 」
「折りたたみは強度的に、稼動部で折れそうですね」
「それ以前に、折りたたみ式だと、一回パイルを一度機体外部に晒して延長した後、
打ち出す必要がある。それは流石に隙がありすぎるだろう」
「内部繰り出し式はどうだ?」
エルとビルが会話を続けると、ルーニーが横から案を出す。
手にはブリック飲料に付属していた伸縮式の所謂“延びるストロー”があった。
つまり、ストローの様に中空の杭の内部に一回り径の小さい杭が収まっており、
打ち出しと同時に飛び出して、延長される機構を示した。
「うーん、“かえし”をつけて置けば、押されて戻っては来ないはずだけど、
強度的にどうなんですか、ルーニー?」
「超高硬度金属に関する研究が軍部から上がっているよ。
要塞などの重要部隔壁に使われる奴だね。これなら強度も十分だよ」
「そうですね硬くしておかないと打ち出しにも堪えられないし……
そういえば、打ち出し機構はどうするんです?」
「ここはやっぱり瞬発力に優れる火薬で」
エルとルーニーが発射機構について、全く考えていなかったことに気がつく。
そして、エルがぼそりと呟く。
「波動砲じゃないと、開発許可下りないんじゃ……」
「エル、心配することはないぞ。火薬の起爆に波動エネルギーを使えば良いさ」
「ビル、それはもはや波動砲じゃ無い気が……」
「心配なら、対バイドの観点からパイルに少しは波動エネルギーを纏わせればいい。
波動砲の定義なんて新しく拡張すれば良いじゃないか。
波動エネルギーを用いた攻撃は全部波動砲だ」
「うわぁ……」
エルの不安にビルが強引に決着を付け、実験に持ち込むことになった。
***
軍の実験施設の一つ。戦艦装甲や巨大兵器の実験を行う為の施設を
Team R-TYPEで一時的に借りている。
巨大なチャンバーの内部には、片方に内部機構むき出しの杭が固定されており、
もう片方には駆逐艦の装甲が立て付けられている。
別の場所には艦橋が完全に破壊された駆逐艦なども係留されていた。
実験開始の放送とともに、実験区画にいる人員に退避する様、音声アナウンスが流れる。
R機に使われる主機の低い唸り声とともに、波動砲コンダクタの一部が発光する。
その波動砲コンダクタが接続される先は、巨大な杭“パイルバンカー”
波動エネルギーは極一部がパイルに付与されるとともに、
薬室に充填された火薬を極限まで圧縮する役目を持つ。
火薬の威力を余さずにパイルに伝えるためだ。
音は徐々に高くなっていき最高点に達したときに、一気にパイルバンカーに注がれ、
波動の光や爆炎とともにパイルバンカーが発射される。
予想される衝撃に実験を行っている者は皆本能的に目を瞑った。
防音壁の向こう側まで轟音が響き、実験管制室にいた研究者達が目を開けると、
駆逐艦の装甲板をパイルバンカーが貫通しており、
その威力に負けたように裂けていた。
歓声を上げる三人。
「まてまて、喜ぶのはまだ早い。発射だけならいいが、まだ不具合が見つかるかもしれんぞ」
「ええ、D系列の様に連射したらコックピット溶けたじゃ笑い話ですしね」
「そうだね。反復と、条件を変えての実験を行いましょう」
慎重なビルに、エルとルーニーが答える。
3人はそのまま、廃棄された駆逐艦を貫き、岩を破砕し、
出力を増減させて5時間ほど実験を繰り返した。
***
「で、結局これか」
軍の実験施設を借りた一週間後、3人が研究室でため息を付く。
目の前の端末には、実験データが映し出されている。
「高出力だと伸縮式パイルが保たなかったね」
「2ループが限界ですね」
ルーニーの愚痴にエルが付き合う。
火薬の威力を波動エネルギーで圧縮して使用すると、
衝突の衝撃に超高硬度パイルが持たないのだ。
試しに中空ではなく、中身が詰まったパイルをつかった条件で計算しても同じだった。
超高速で打ち出される固体を別の固体にぶつければ、結果は言わずもがな。
実験結果は研究者達に物理攻撃の限界を感じさせた。
もっとも、2ループまでの波動エネルギーに堪えられる素材を作った
軍開発部の偉業は称えられるべきだ。
「これはむしろ物理攻撃が可能であることを確認できただけでもよしとしよう。
発射エネルギーの増強に関しては今後の課題とすべきだな。それより、これも問題だな」
ビルが示すのは、一枚の画像。ズタズタに破壊された冷却機だった。
「ああ、これですね。機械系の装甲ならいいのですけど、岩石とかにパイルを打ち込むと、
バラバラに飛び散って、吸気ダクトを直撃するみたいですね」
「打ち出し速度がアレだから、弾けとんだ欠片も凄いエネルギーを持っているからな。
普通のR機は機体周辺に飛び込んできた細デブリをザイオング慣性制御システムで捉えて、
無効化するけど、勢いが付きすぎて無理だな」
どうする? と互いの顔を見る三人。
暫くの沈黙の後、エルがぼそりと言った。
「もうさ、盾状の装甲で吸気ダクトの正面を覆えば良いんじゃない?」
また、暫くの沈黙の後、それで行こうか。とビルとルーニーが言った。
***
果たして出来たのはR機とはとても言えないゴツイR機だった。
強化型コックピットの下部には、伸縮式にしてなお隠せないほど大型の超高硬度パイル。波動砲コンダクタはおまけの様に付いている。
吸気ダクトがある両サイドには、盾の様なダクトシールド。
脅威のパイルバンカー装備機第一号、R-9DP“HAKUSAN”の姿だった