プロジェクトR!   作:ヒナヒナ

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※先にR-9C“WAR HEAD”の読了をおすすめします
また、独自設定(エンジェルパックに関する解釈)が入ってくるので注意してください



R-9K“SUNDAY STRIKE”

R-9K“SUNDAY STRIKE”

 

 

 

R機の開発史は軍とTeam R-TYPEの闘争の歴史でもある。

軍、Team R-TYPEともに、より強力な機体を求めてきたのには変わりないが、

軍が生産性を重視し、現状を打破できる即戦力を求めたのに対し、

Team R-TYPEはより技術的な高みを目指し邁進した。しかも趣味成分も多分に混じって。

 

 

変態研究者集団がR機の魔改造に精を出している頃、

軍の開発部ではコスト性を前面に押し出した、R機の開発を急いでいた。

 

 

「量産機ですか?」

 

 

地球連合軍の開発局の技術大尉は呆けたように聞き返す。

ここは南半球第一宇宙基地(所謂本部)の近くにある軍の工廠である。

開発局は主に艦艇の開発がメインである軍開発関係者の中で、

技術大尉の所属は異色のR機関係所属だ。

流石にフォースの研究はTeam R-TYPEのお家芸であるので、「触らぬ神に」の精神で専門外だが。

 

 

その技術大尉の目の前にいるのは、開発幹という役職にある老齢の将官だ。

 

 

「ああ、君に任せたいのはR-9Cウォーヘッドをベースにした量産機の開発だ」

「英雄機からの開発ともなれば、それは開発者冥利に尽きるのですが……なぜ私に?」

「それを説明する前に、Team R-TYPEの開発レクリエーションの資料は読んだかね?」

「はい、名機といえど、未だに旧式R-9Aアローヘッドが主力機としている現状を踏まえて、

次期主力機をアローヘッドと入れ替えで一気に普及させ、戦力の底上げを図るとありました」

「その次期主力機が問題なのだ!

やつら、あの“パイロット潰し”を次期主力機に持ってくる気だぞ!?」

 

 

開発幹が唾を飛ばしながら罵っている“パイロット潰し”とは、R-9Wワイズマンの事だ。

色々悪名高い機体で、新型インターフェイスを採用した副次効果として、

パイロットに過剰な精神的負担がかかり、適性の無いパイロットが

搭乗後しばらく自発的活動不可能になるという機体だ。

“試験管機”の通称の方が通りがいいかもしれない。

 

 

技術大尉は試験管機が次期主力機に押されているとは知らなかったが、

確かにスペックは良いなと技術大尉は思った。

が、感心してばかりも居られないので、開発方針の確認を図る。

 

 

「ウォーヘッドは軍の開発局の意向が濃い機体ですし、改良開発自体は可能ですが、

フォースはどうしますか? Cタイプのままという事ですと些か打撃力が心もとないかと」

「流石にフォースはやつらに任せるしかあるまい。ただしちゃんと企画書段階で関わって、

まともなフォースを装備させること。私はテンタクルフォースなぞ認めん!」

 

 

目の前の老将官はTeam R-TYPE関連で何か嫌なことが会ったらしい。

人員を臨時で派遣するから、期日までに仕上げるようにと、開発幹に言われ、

技術大尉は、その命令を受けて自分のデスクに帰っていった。

 

 

***

 

 

「さて、どうしたものかな?」

 

 

技術大尉のデスクの周囲は現在騒がしい。

臨時派遣される人員のデスクが続々運び込まれているのだ。

もともと、閑職のこの部屋は技術大尉と数名の補助要員のみが在籍している。

今回の仕事は大事になるので、人員が強化されたのだが、

どの道、技術大尉が音頭を取らねばならないので、仕事的には全然楽にはならない。

そのことにため息を付き、メモを取りながら脳内会議をすることにした。

 

 

〇求められる性能

 ・波動砲は拡散以上の威力

 ・量産性

 ・低コスト

 ・万人が運用できる汎用性

 ※フォース、ビットはTeam R-TYPEに相談

 

 

R-9Cウォーヘッドはある意味完成された機体だ。第二次バイドミッションの単機突入実績もあり、

対多数も対大型もこなし、亜空間戦闘もOKという何でもござれの万能機だ。

ただし、実はこれは下駄を履かせている状態だ。

単機突入という特殊作戦用に盛大に改造され、無理やり採算度外視の装備が付けられた。

整備性も少々どころでなく難がある。実績は輝かしいが、普段使いには向かない。

その性能をそのまま、量産機を作れというのだ。

 

 

「まずは……波動砲か。拡散波動砲はパイロットからの評価も高いしそのままで良いか。

Team R-TYPEみたいに新しい方式をやたらと取り入れて不評を買うような事はしたくない」

 

 

独り言を呟きながら“波動砲は拡散”とメモに書き赤丸をつける。

その間も、サイズダウンを……などとぶつぶつ言っている。

 

 

「量産性と低コストは構造を単純にすることである程度は可能なはず。

当時の冷却機と主機を最新版にするとさらに出力が上げられる……

いやいや、夢は見ないで現行版に当てはめると……ああ、2割は堆積減らせるな。

よし、無理やり詰め込んで立体パズル状態になっていた構造を組みなおして、ブロック化、と。

これで生産ラインへの負担が軽くなるから量産が容易だし、量をだせばコストが下がる。

ついでに部品交換や整備が楽だから、現場にも易しいだろう」

 

 

もはやメモ用紙と会話しているような技術大尉。

メモには機体フレームと内部の様子がざっくりと書き取られており、

スラスターや冷却機のだいだいの位置が書き取られているが、全くの手付かずの部分もある。

フォース関連部位や、コックピット周りだ。

なぜならR-9Cウォーヘッドは悪名高き、エンジェルパック装備機なのだ。

 

 

「特別機はしょうがないと思うけど、流石に汎用機に乗るパイロットを四肢切断にするのは、

倫理的にも、機密保持的にも、コストの面からも無理だな。

当時はどうしてエンジェルパックなんかにしたんだ?」

 

 

人間を四肢切断して溶液水槽に詰めるというエンジェルパックは、

(初代機は脳髄だけ、その他初期ロットは四肢切断で搭乗可能)

あまりに倫理面で問題があるとして軍事機密として否定されているが、

人の噂というのは侮れないもので、すでに公然の秘密になっている。

 

 

「まいいか、どうせTeam R-TYPEにも意見を聞かなければならないし、

フォース開発を向こうに投げるついでに、コックピット周りについても聞いておこう」

 

 

技術大尉はそう自分に向けて言うと、事務処理をしていた下士官に外に出てくることを告げると、

Team R-TYPEの巣に向かった。

 

 

***

 

 

南半球第一基地にあるTeam R-TYPE本部オフィスに乗り込んだ技術大尉だが、

もちろんアポ無しなので、当時のウォーヘッド開発関係者などいる筈も無かった。

そもそも、Team R-TYPEの主戦場は、気兼ねなく実験研究が出来る宇宙基地である。

ここはTeam R-TYPEの情報統括兼権力的中枢であり、研究員自体はあまりいないのだ。

そうは言っても誰かいるだろうと窓口で粘る技術大尉に、

とうとう研究報告で来ていた研究員が対応に出てきた。

 

 

「という訳でスタンダードCの上位フォースをお願いしたいのですが」

「今研究中のKはどうです?

突破力はCに劣りますが、単機突入はないでしょうし、コスト面で秀でています。

あと、Kに対応させたレーザーは基本的に散弾としています」

「スペックはスタンダード系列で、散弾というはスプレッドレーザーというこれですか」

「ええ、廉価……コスト性ならKが一番ですね」

「分りました。これで、上げてみましょう。参考になりました」

 

 

そもそも量産期ということであまりフォースには力を入れていないので、

技術大尉は早めに話題を簡潔させて、次の話題に移る。

エンジェルパックについてだ。

技術大尉としてはコストや倫理、汎用性に問題のでるエンジェルパックなので、

特別な理由でもない限り取り外して、通常コックピットにしたい。その検討にきたのだ。

 

 

「ところで、R-9Cのエンジェルパックなのですが、通常コックピットにしなかった理由は何なのでしょう?」

 

 

フォースについて話が終わり、腰を浮かし帰りかけていた研究員が座りなおす。

 

 

「エンジェルパックの導入理由ですか」

「ええ、あれは(パイロットから)余り評価が高くないと思うのですが」

「そうですか? (当時最新技術の開発としてTeam R-TYPE内では)高評価だったと思いますが」

「え?」

「え?」

 

 

互いの反応に対して疑問符を浮かべる二人。

それでも会話は続く。

 

 

「えーと、あと(四肢切断という事が)倫理的な問題と聞いていますが……」

「あれは(パイロット容積を削っても脱出装置を取り付けたという意味で)倫理的に最適化した結果ですが」

「倫理的……ですか?」

「倫理的……ですよ」

 

 

見事にかみ合わないが、それでも技術大尉の会話するための努力は続く。

 

 

「まあ、倫理はある意味主観的な問題でしょう。

エンジェルパックは(四肢切断手術や、その後の復帰など)危険ではないのでしょうか?」

「いいえ、(ザイオング慣性制御システムで緩和しきれないGから人体を保護できるので)

むしろ通常コックピットより安全なくらいです」

「……そうですか」

「そうですよ」

 

 

二人とも相当訝しげな顔になっている。

自分達は真面目に話しているのに、相手の反応がおかしいのだ。

技術大尉は「これがTeam R-TYPEか」と内心ため息を付きながら

これ以上の会話は無駄かと締めに係る。

 

 

「でも、今回量産型でエンジェルパック取り外しても(安全面、機能面で)問題ありませんよね?」

「ええ(Team R-TYPEの成果機ではないので、我々にとって)問題ありません」

 

 

一度仕事に取り掛かると自分の世界に没頭し、最近まともに他人と会話していない技術大尉と、

基本的に同類同士で固まり、他人に理解を求めることが少ないTeam R-TYPE研究者。

そんなコミュ障同士の会話であった。

 

 

***

 

 

テストを経た後、R-9Kサンデーストライクの名前を与えられた量産型R機は大量生産される。

コスト対策としてロット数を稼ぐためだ。

そのため一時的に前線各所で見られたが、

いまいち現場の反応が悪く次期主力機の座も取り逃し、次第に廃れていくこととなった。

スタンダード・フォースKとレーザーが非常に使いにくかったのも理由の一つだろう。

この後、スタンダード・フォースKがメインに据えられる機体が開発されることは無かった。

 

 

ただし、まったくの役立たずという訳ではない。

あまり癖の無い操作性が評価され、現役引退機が後方でニコイチされて練習機になったり、

内部各部がブロック単位に分けられ換装が容易なため、

新機体の開発初期に取りあえず新型波動砲を搭載してテストするため

使い捨て用途の開発ベースとしての役割を振られていった。

 

 

この後、技術大尉が「発想が突き抜ききれなかったのが敗因か」と呟いたとか何とか。

ちなみに彼は後々、陸戦兵器開発室という僻地に異動することになる。

 




公式のR-9Cの設定ではパイロットは「四肢切断(軍は否定)」とされており、
脳髄とまでは言及されていません。

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