R-9SをFINAL設定で書いたのにもかかわらず、R-9/0はⅢ設定が濃い目です。
R-9/0“RAGNAROK”
地球近郊の基地は開発最前線である。
ことに過疎地域に立っている火星基地の比較的広い大会議室には白衣の集団が集まっていた。
対バイド兵器開発集団Team R-TYPEである。
ワインレッドのスーツを着た女性、
バイレシート開発課長が壇上に上がると間を空けずに発言する。
「さて、今日政府の発表にあったとおり、サードライトニング作戦が発動された。
これは各地で観測されたバイドの発生が、今後大攻勢につながると見られたためだ。
これに伴いTeam R-TYPEでも戦時体制に移行する」
女性は一度言葉を止めて周囲を見渡す。
ここに居るのが軍人なら、覚悟を決めた顔や、恐怖、怒りなどが表に出るのだろうが、
研究員達は笑っていた。目が爛々と輝き、期待に満ちた顔をしている。
「戦時体制」という予算と権限が降ってくる魔法の言葉を聞いた所為だろう。
知的好奇心の赴くままに研究をするTeam R-TYPEに科せられた制限が緩むのを期待しているのだろう。
なんとも罪深いことだ。と女性課長は内心呟き、説明を続ける。
「Team R-TYPEでは総力を結集して、その支援にあたることになる。
具体的には新たなる単機突入機の開発と、それに伴う、波動砲、フォース、その他技術の開発。
また、Bランク以下のR機研究は計画が一時凍結される。
現在、宇宙艦隊とR機部隊がバイドの戦線を維持しているが、今後バイドの構成は一層苛烈になる。
そのため、サードライトニング作戦の核として単機突入作戦が決行されることになるはずだ。
実質的には第三次バイドミッションが我々の戦場だ……レホス班長開発状況の説明を」
珍しくまともなスーツに、それをすべて無にする汚い白衣を着込んだ男、
R機第1開発班班長のレホスが壇上に立ち説明を引継ぐ。
「どうも、レホスです。これから単機突入機の開発がすべてにおいて優先されるわけだけれど、
一応、内示で僕が単機突入機R-9/0の研究開発の現場まとめとなる事になったから宜しくー。
じゃあ、研究枠を割り振るからぁ、呼ばれたら返事をしてねぇ」
どうやら、会議室にいるのは身内とあって、初めから真面目を取り繕う気はさらさらない様だ。
学校の出席確認の様な異様な光景のなか、人類の未来を賭けるR機の開発チームが結成されていった。
***
「で、どうなったの?」
「シャドウフォースは完成していますが、高バイド指数型の方が中々安定しませんね」
唐突に現れたレホスに、ため息を付きながら答えるのはフォース班に割り振られた研究員達だ。
大型フォース培養漕には一つのフォースが固定されている。
妖しい緑色の光を放つフォースに、それぞれ逆向きに取り付けられた二本のロッド。
既存のフォースとは違う淡い緑の光は、心なし柔らかい様な気がした。
「このシャドウはバイド素子をまったく使わない人工フォースですが、バイド由来の攻撃性が無い分、
攻撃力は心もとないですが安定しています。フォースというよりビットから進化した形ですね。
取っ掛かりが無くて厳しかったですが、一度、ヒントを掴めば楽なものです。比べて高バイド指数型は……」
その横には巨大な培養漕が青く光っており、内部はエネルギー体ではなく、流動的な何かがうごめいている。
それはぶよぶよとして歪んだ球形をしているが、まるでアメーバのように蠢き、
バイドとしての特質なのか、他の物質を取り込もうと手を伸ばそうとしているように見える。
フォースとして昇華しきれないバイドエネルギー体の塊だった。
「ご覧の通りです。
この高バイド指数型フォースは、今までにない高いバイド係数が徒となって、
球状エネルギー体として安定しないのです。ご覧の通り不定形のゲル状ならば安定しますが、
培養漕から取り出してコントロールロッドを接続しようとしても拒絶されます」
「うーん。今までにない面倒なフォースだねぇ。
そうは言ってもコントロールロッドが無いと、制御も出来ないから、
ここはもう補助制御機関を使うとか裏技も考えてみてよ。
ほら、アンカーフォースとかが有線にしてたみたいにー。
じゃ、次の会議で進捗報告よろしくー」
量産機ならば安定性に秀でるシャドウやスタンダードフォースが喜ばれるのだろうが、単機突入機は違う。
場合によっては多少安定性に難があろうと、攻撃力や突破力を優先することが必要なのだ。
是非とも高バイド指数フォースを完成させたい。それがレホスもといTeam R-TYPEの方針だった。
そうは言っても、R-9/0開発を総括すべきレホスがフォースだけに関わっている訳にはいかない。
研究方針だけを示して、後は丸ごと投げつけになる。
レホスはそのまま次の研究室に向かった。
***
「新型波動砲はどう?」
「メガ波動砲についてはR-9Sでの実験の甲斐あって問題ありません。一つのコンダクタ、チャージ回路で
複数の波動砲を撃ち分ける事についてはR-9A2デルタの実例がありますし、多少の改良で何とかなるでしょう。
問題はハイパー波動砲のオーバーヒートですよ。連続発射すると直ぐに冷却系が根を上げますからね」
「冷却系については、もともと分っていたことだから言い訳にならないんじゃない?」
研究室を渡り歩いているレホスが次にきたのは、波動砲の開発担当のところだった。
レホスと研究員が見つめる画像は、波動砲コンダクタと接続された前方がとろけたフレームはR-9Sのものだ。
「そうですね。現在改良中ですが波動砲単発の威力は下げて、連射性を向上させることを考えています。
絶え間なく弾幕を張ることこそが、この新型波動砲の正義ですから」
「いいね、その発想嫌いじゃないよ。ただし回数制限と付けるのは認めないからそのつもりでねぇ」
「1回こっきりの奥の手って言うのも良い響きなのですが?」
「1回も10回もダメ。実弾でもないのに始めっから回数をつけた兵器なんて欠陥も良いところだからねぇ」
問題があると言いつつ、何処か楽しそうな研究員達。
それもそうだろうフォースと並んで波動砲はR機開発の花形なのだ。
そんな研究員達からデータを受け取りながらレホスは研究室を出た。
***
“エンジン命!”と張り紙された研究室にレホスが入ろうとすると中から奇声が聞こえてきた。
「推進コアジェネレーターは従来比200%を目指してぶん回すぞ!」
「「「ウッス!」」」
「超加速なんか楽勝で出せる出力だ!!」
「「「ウッス!!」」」
「波動砲チャージがエネルギーを喰うらしいから同時並行でハイパードライブジェネレーターも作るぞ!!」
「「「ウッス!!」」」
「よし形が出来たら小型化だ! 試作型の70%が目標だ!!」
「「「ウッス!!」」」
「班長、この熱量だと冷却系が間に合いません!」
「それは冷却機班の仕事だ! 奴らの尻を叩け!!」
「「「ウッス!!」」」
各研究員の研究意欲を優先的に考慮して班を割り振ったのだが、
体育会系ばかりが固まってしまったのは間違いだったかと、レホスは廊下で僅かに反省した。
完成品が企画通りの機能を持っていて、品質さえよければ自分が困ることは無いと考え直した。
「今は面倒くさそうだしー、後で中間報告書を貰えば良いや。最悪エンジン二台を繋げば良いしね」
そういうと、踵を返して次の研究室に向かった。
***
「こっちはどう?」
「ああ、レホス第一班長ですか、聞いてくださいよ。主機と波動砲コンダクタの熱量でか過ぎて冷却能力が……」
「主機班も波動砲班も冷却機に期待しているらしいからよろしくー。性能はこのまま容積は半分以下にね」
「死ねるっ!」
冷却機はR機の中で最も酷使される機関の一つだが、他が自重しない分、皺寄せが行くことが多い。
冷却機性能と波動砲性能は競り合う運命なのだ。
「レホス第一班長……どうしましょう? どんなに緻密に作りこんでも要求の75%性能が関の山です。
よしんば要求をクリアできたとしても、現在の波動砲の性能では確実にオーバーヒートします」
「オーバーヒートについては波動砲班と調整しなくちゃだけど、
使える者は何でも使って良いから、君らは自分の受持ちを100%にしてねぇ」
「……」
特に今回は波動砲で弾幕を張るという恐ろしく冷却系に負担のかかる事をするので、要求が高い。
その結果、こうして絶望的な顔をした研究員達が出来上がるというわけだ。
しかし、その絶望の中にさえ悦が見え隠れしている。Team R-TYPEの業は深い。
レホスはR-9/0の完成のためにはフォローが必要かと考えながら、部屋を出た。
***
「レーザーは問題なさそうだね」
レホスが言うのはすでに対空、反射、対地というレーザーの基本3種がすでに完成しており、
他の案にまで取り掛かっている姿を確認したからだ。
「リバースにオールレンジ、ガイド。面白いレーザーが出来ましたからね!」
「なかなか癖の強いレーザーだねぇ。他にも色々やっているようだけど?」
「ええ、コレだけじゃ詰まりませんから、それは色々と……」
へっへっへ。と壊れた笑いを浮かべている研究員。
レーザーに関しては特に問題が無く、癖を覚えるのが大変そうだが、
使いこなすのはパイロットの責任の内なので特に気にすることは無いと判断し、
レホスは自室に戻っていった。
***
何回かの研究指導や相談を繰り返し、粗方の仕様が決定する中間報告に漕ぎ着けたTeam R-TYPE、
ここからは最終的に齟齬が起きないように、調整をしていく作業になる。
隔離された研究室では、レホスが大きな一人ごとを言いながら、調整作業をしていた。
「最初に上がったのはレーザーか、新型はスルー、スプラッシュ、カプセルねぇ、
まぁ、威力的にもコレが本命だろうからこの三種で話を進めていいかな」
カタカタと仕様を打ち込む。
「次は冷却系か、波動砲班からの要望でハードルが上がったから、当初予定の130%になったんだよねー。
そうそう、結局冷却機だけじゃ用が足りないから装甲に放熱機構を装着することで120%まで引き上げたんだっけ。
装甲に稼動部をつけるなら装甲を補強しなきゃ。折角モノコック構造にして内部容積を取ったのになぁ。
まあ、R機の装甲なんて小型デブリ用だし、波動砲発射とか、高速機動とかで自壊しなきゃ良いよね。
ザイオングシステムで干渉できないような大型のデブリは問題外とー」
レホスはディスプレイの中の設計図に補強材を加え、フレームをセミモノコック構造に変更し、
「R-9Sのデータそのままじゃないからまた実験しなきゃ」と呟く。
「新式波動砲はハイパー波動砲試作型だけど、冷却システムの機能不足で発射後の強制冷却が必要と……
これ以上の威力の弱体化は避けたいから、強制冷却込みのシステムにするかなぁ、まあ回数制限はないし。
まあ、メガ波動砲もあるし隙を見せたくないときはメガ、一撃必殺でハイパーかなぁ
単機突入機はこれでいくけど、技術開発に試作型を残すわけにはいかないから、
後で低威力のオーバーヒート無しのものを上げなきゃねー。波動砲班は作戦後も居残り決定と」
ディスプレイの波動砲欄の書き込みを終えると、画面上でフォースを選択する。
でてきたのは画像は大型で二つの随伴エネルギーが付属した青いフォース。
とてもぶよぶよとした質感に見える。
「フォースも未完か。試作型サイクロンフォース。有線式じゃなくて制御コアを投入して無理やりだね。
ゲル状で実体があるからフォースシュート時の破壊力は魅力的だし、暴走しないならいいか。
むしろ暴走しても敵目標が射程内なら良いか。シャドウは予備としてとって置こうかな。」
各班からの報告を纏め、R-9/0の全容が見えたのに満足して、大きく伸びをするレホス。
あとは微調整を行って、各班に最終調整を行わせることと、実際に組み上げて各種試験に出すことになる。
そして、最後に残った区画であるコックピットブロックをクリックする。
コックピットブロックはレホスの担当なのだ。
「コックピットはエンジェルパックより生身の方が火事場の馬鹿力が期待できるからそのままでぇ。
R-9Sのデータからは、女性の特に若年の方が素体としては適性があるけど、
この作戦でパイロット経験が足りないのは致命的な問題だし、軍部も認めないしなぁ」
「どうしよーかなー」とやる気が全く感じられない声を上げていると、ノックの音が聞こえた。
一応最高機密なので、ディスプレイを一時的に消してから、誰何するとレホスの部下の一人だった。
実験結果を持ってきた部下の研究員にレホスが問いかける。
「あー君か。君なら良いや。これどう思う?」
「一番良いのは10代前半の体にエースパイロットの脳を載せることだと思いますが、
どちらを取るべきだか私には判断が付きません」
「R-9/0は妥協無しで行きたいから、両方取りたいんだけどそこを切り抜ける方法はないものかなぁ」
「では女性成人パイロットの脳を、肉体的に優れた十代の被験体にでも移植しますか?」
「外から脳を移植すると免疫抑制剤と移植のショックでサイバーコネクタの反応が格段に悪くなるから無理」
「では十代の被験体にサイバーコネクトを流用して、学習で無理やり10年分のシミュレートを脳に焼き付けるとか」
「そりゃ、残念ながらシミュレート訓練と実践で育てたパイロットでは、能力が雲泥の差だからねぇ。
パイロットの言う現場の空気って奴がデータ化仕切れないからね。でも、その考え方は何か引っかかるものがある」
うーん、と唸りながら考え込むこと15分。報告に来た研究員が帰ろうかどうか悩み始めた頃。
レホスが突然声を発した。
「別人の脳を外から持ってくるからダメなんだ。脳に焼き付ければ良いんじゃない?」
「いえ、だからシミュレートによる焼付けは役に立たないのでは?」
「いやいや、実戦配備されたパイロットの記憶、というか体験を十代被検体の脳に上書きするのさ。
記憶・体験を成人パイロットの脳から取り出すとき、高出力精密走査で移植元の脳が破壊されるし、
移植先の被検体の脳も上書きで完全に不可逆的になるけど、これなら諸問題をクリアできるよねー。
人間二人分を食いつぶすことになるから、今までは資源を無駄にする技術として無視されていたけど、
こういう採算度外視、倫理無用の作戦なら可能だよね」
良いことを考え付いたと一人頷くレホスに研究員が疑問を投げかける。
「で、そのパイロットはどうなるのです?」
「もちろん10代の方の人格は抹消。記憶の元になっている成人パイロットの人格には
肉体のみ10代として固定したと信じ込ませるべきだね。
別人の体と知ったときのショックでサイバーコネクトが不安定になるのは避けたいからね。
あと投薬は最小限にしたいなぁ」
若返りは女性の夢って言うし僕って優しい。とのたまうレホス。
「わかりました。条件に当てはまる10代の被験体と女性エースパイロットを10件ずつピックアップします」
「よろしくぅ」
***
こうして、採算度外視、研究者が脳みそを絞り技術の粋を結集した機体が完成する。
未完の部分もあるがTeam R-TYPEとして現段階で最高の作品であり、新規技術を惜しみなく搭載した機となった。
倫理などは無視した仕様ではあるが、サードライトニング作戦(第三次バイドミッション)発動前には、
軍民問わずにバイド侵攻に対する危機感が蔓延しており、多少の無茶には目を瞑る態勢となっていた。
人類に三度襲い掛かったバイドを完全に消し去るため、R-9/0は最終戦争“ラグナロック”の名を与えられた。
人々の未来を託す願いと、Team R-TYPEの自負を載せて、
R-9/0ラグナロックは銀河系中心部に向け、単機旅立った。