プロジェクトR!   作:ヒナヒナ

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※R-TYPEⅢ時点から、かなり時間が経過してFINAL時点での話です。


R-9/02“RAGNAROKⅡ”

・R-9/02“RAGNAROKⅡ”

 

 

 

 

ラグナロック開発当時、波動砲班を担当していたアークルは、Team R-TYPEの課長室でレホスと話をしていた。

 

 

「ラグナロックを更に改良ですか、レホス課長?」

「そうそう、あの英雄機は現場からの要求が高くてねぇ」

「実戦配備型ラグナロックではダメなのですか?」

「あれじゃ、物足りないってさ」

「私、実戦配備型のハイパー波動砲をあげるために、死ぬほど残業したのですが……」

 

 

***

 

 

サードライトニング作戦(実質、第三次バイドミッション)において、

地球連合軍はR-9/0ラグナロックによる、敵中枢の単機突入を決行し、

銀河系中央に巣食っていたバイドマザーの撃破に成功した。

が、流石に3度復活したバイドに対する油断は自らの滅亡に繋がると判断し、

緩やかながらR機開発の技術維持と、既存機のマイナーチェンジを図ることとした。

実際、バイドは復活することになるのだが。

 

 

その一環として組み込まれたのが、ギリギリの運用を行ったラグナロックの改良と、実戦配備型の開発であった。

具体的には1連射ごとにオーバーヒートする試作型ハイパー波動砲の完成と、不安定なフォースの改良だった。

波動砲は冷却機能とすり合わせながら単発の威力を大幅に落として連射性を確保することになり、

大型バイド撃破のためではなく、広域殲滅用途の弾幕という役割となった。

また、採算性からメガ波動砲はオミットされた。

フォースについても、サイクロンフォースは完成したが、

結局ゲル状でコアを投入した状態が最も安定するとして、コアとコントロールロッドの性能を改良することになったが、

サイクロンフォースはその形状(ゲル)から通常フォースロッカーでの保管が非常に困難として、

安定性と安全性が高い人工フォースであるシャドウフォースが制式とされた。

こうして、サードライトニング作戦に投入されたオリジナルラグナロックとは

ほぼ別物と言って良いほど弱体化する事となった。

結局、ラグナロックは時代を先読みしすぎた機体だったのだ。

 

 

***

 

 

「まぁ、オリジナルラグナロックを想像した後、実戦配備型のあの性能ではガッカリしますよね」

「そうなんだよね。バイドが居ない時期はあれでも良かったんだけど、ほらラストダンス作戦が発動したから、

パイロット連中がもっと高性能機をって息巻いちゃってさぁ、でも僕としては一度開発済みの機体なんて、

多少中身変えて再度作っても意味ないから、作りたくないんだよね」

「それでは、いっそ後続機を開発してしまえ。ということですか?」

 

 

Team R-TYPEは独自会計となっているなど軍関連団体としては、かなり自由度の高い組織であるが、

やはり現場とは無縁ではいられないので、現場の声とか上からの圧力といった形で研究にノイズが入る。

軍は、ともすれば狂気の世界に没頭し、前衛的な研究に走るTeam R-TYPEの手綱を握りたいし、

Team R-TYPEは最終目標達成のため、余計な茶々を排してプロジェクトRを遂行したい。

そんな関係だった。

 

 

「そうそう、分ってるね。フォースとかはサイクロンを通常運用できるようにすれば使っても良いよ。

ただ波動砲はハイパーじゃ意味ないから新規で作ってね。軍の要望は“最強”だってさ。

あと、名前と型番は決まっていて、R-9/02“RAGNAROKⅡ”になるから宜しくぅ」

「ラグナロック2……なんてやる気の無い名前」

「だよねー。でもその名前にして置けば中身別物でも良いから」

「分りました」

 

 

***

 

 

「と、いうことでラグナロックの後続機ラグナロック2を開発します。班員のカッツとリョウ意見よろ」

「その説明はおかしい」

「アークル班長、本当になにやってもいいの? 予算は?」

 

 

Team R-TYPEは上下関係が余り厳しくない。

というか常識からドロップアウトした者が大半なので、そんな事を考えることを期待してはいけない。

彼らにとってR機やバイドの研究開発以外の事柄は等しくゴミなのだから。

もっとも課長であるレホスや、その上の部長クラスとなると、楯突く事で実被害が出るので流石に弁えるが。

 

 

「コンセプトは“最強”だから。意見は? カッツ」

「そうは言っても、オリジナルラグナロックの性能自体、未だにほぼ最強だと思うぞ」

「フォースは、現状アレ以上は無理だから、開発なら波動砲一択だよね」

「うん実は、波動砲をメインでやれって言われているんだ。すべての研究費をそこに突っ込む方向でいいか?」

 

 

カッツとリョウの意見は現最強武装であるサイクロンフォースにレーザー、主機、冷却系に、

更に改良した最強の波動砲を積めば、最強のR機になるだろうという巨砲主義な意見だった。

果たして最強の波動砲を作るための男達の研究が始まった。

 

 

***

 

 

10台近くはあるディスプレイにはTeam R-TYPEで行われた数々の実験の記録動画が再生されている。

それを食い入るように見る男三人。

どこかのディスプレイで波動砲が発射される度に、口を開けた三人の顔が照らされる。

カッツがその中の一つをさして述べる。

 

 

「高威力波動砲としては、やはりハイパー波動砲だろうか」

「いや、広域への攻撃性能としてみればライトニングや衝撃波動砲の系統も有望じゃないかな」

 

 

アークルが別の画面を指しながら言う。

隅の方のディスプレイを指しながらリョウが意見を述べる。

 

 

「それなら俺はこれだ! バリア波動h……」

「だ・ま・れ」

「ひどい! バリアを張りながら突撃できれば強いかもしれないのに!」

 

 

やいのやいのと騒ぎながら話を詰めていくアークル班。

2~3時間脱線しながら騒いでいた彼らであったが、次第に話がまとまり始める。

点いているディスプレイは唯一つ、メガ波動砲の試験記録だ。

画面を見ながらアークル、カッツ、リョウが話す。

 

 

「結局、メガ波動砲からの進化系となるか」

「貫通能力が決め手だな」

「ハイパーも良いけれど、意外と貫通性能がないのが辛いからね」

 

 

アークルがディスプレイの一つに端末を繋げ、キーボードを叩き開発予定をたて始めた。

 

 

***

 

 

Team R-TYPEが所有する大型実験施設では、波動砲の実験がおこなわれていた。

外装も無く剥き出しのまま固定された波動砲コンダクタに青白い光が灯り、

虚数空間に大量の波動エネルギーが集められ凝縮されていく。

実験機から遠く離れた、実験管制室の制御板ではチャージ回路が3ループ目から4ループ目に入る……

そのとき、チャージ回路が不安定に点滅し、ディスプレイが白くなったかと思うと、

次の瞬間ブラックアウトし、何も映さなくなった。

 

 

「うん、今回も明らかに過チャージでの暴発だったな。カッツも同意見だろ」

「班長、そんなことは分っているから、問題はあれを回避する方策だ」

「あーあ、さよなら実験用フレーム第18号……」

 

 

爆破されているのは例によって試験用に回されたR-9Kのフレームだった。

 

 

アークル班の面々が会議室に場所を移し、検討を開始した。

アークルが実験データを呼び出し、分析を述べる。

 

 

「これ、チャージ回路が急速に増加するエネルギー負荷に堪えられないみたいだな」

「それは分っている。その負荷に対応させないと」

 

 

廉価と言っても決して安くは無いR機フレームを盛大に吹き飛ばして実験するアークル班。

何せ研究開発資金の殆どを波動砲に突っ込んでいるので、局所的に資金は潤沢なのだ。

その後も数回R-9Kフレームを爆破し、議論を詰めていった。

 

 

「うーん、何かつかめたか、リュウ」

「凄く抽象的で概念的な話だけどさ、ループって例えば長い織物をコンテナに詰めるようなものなんだよね」

「なんだその喩え」

「カッツは黙る」

 

 

アークルは口の前で指を立ててカッツを黙らせる。

 

 

「でさ、そのコンテナに仕舞える量は決まっているんだけど、キチンと畳まないと入らない。

畳まないでグチャグチャに入れたら入らなくなっちゃう。今回の暴発も同じ。

で、急速にチャージするものだから、チャージ回路に流しきれなかった波動エネルギーが溢れて、ドカン」

「……ああ、そういう考えもあるか。メガ波動砲は2ループで留めているからアレだけの急速チャージが可能なのか」

 

 

リョウのとても分りにくいあやふやな説明を聞いたアークルが暫くしてから納得した表情になる。

 

 

「ってことはあれか、チャージ速度が速すぎるから暴発する。もっとゆっくりチャージすれば暴発しないと?」

「オリジナルラグナロックではメガ波動砲とハイパー波動砲で回路の設定を分けていたけど、

それを一つの波動砲で使いきれば、究極の波動砲が出来るんじゃないか」

 

 

カッツが憮然とした表情で言うと、アークルが我意を得たりと答える。

こうして、暴発させないギリギリのスピードでチャージさせるという、

チャージ回路の限界を挑むチキンレースが始まった。

 

 

***

 

 

デブリ地帯での試射映像を見やる三人。

威力が高すぎてすでに閉鎖系の実験施設では試射すら出来ないのだ。

 

 

「7ループチャージか……最強じゃね?」

「いや、まだ理論値的にはもう1ループ可能なはず」

「リョウの言うとおりだ、妥協はいかんだろ」

 

 

カッツ、リョウ、アークルがそれぞれ換装をもらす。

すでに、膨大な波動エネルギーは実空間に顕現しきれず、虚数空間にまで散っており、

大多数のバイドに対してはオーバーキルであろう威力だ。

ふと、カッツが呟く。

 

 

「なあなあ、班長。これ貫通能力というか、輻射にしても妙に攻撃範囲が広くないか?」

「うーん、これ波動砲射撃軸からずれた箇所も、被弾しているな」

 

 

パチパチと端末を叩くアークル。

 

 

「……一瞬で発射するには波動エネルギーが膨大すぎて、虚数空間で渋滞起こしているな。

で、流れ切れないエネルギーが虚数空間軸を通って、無理やり通常空間に顕現している?」

「これさ、もうちょっと威力上げたら、更に多くのエネルギーが虚数空間を回ってから現れるから、

現実の地形関係なしで攻撃できるぞ。貫通性能が向上するのじゃないか?」

「ああ、レーダーに映る範囲を一掃できるな……これはアリだな」

「じゃあ班長、限界値の最大8ループに?」

「もちろん」

 

 

悪い顔をしたアークルとカッツが手を握り合う。

 

 

***

 

 

波動砲の限界に挑戦する研究は、幾度も壁にぶつかり、そのたびに研究員達の脳を絞りとり、

三人しかいない研究班は喧嘩まがいになりながらも一歩ずつ一歩ずつ進んでいった。

 

 

「メガの上はギガしかないだろ!」

「いや、メガ波動砲の1,000倍の出力は可能なのか、むしろ1,000倍で事足りるのか?」

「すごくどうでもいい。メガ波動砲だって、単純に出力が大きいってだけでメガなんだから」

 

 

とても、どうでも良い喧嘩をする大人三人。

 

 

「カッツもアークルも喧嘩しないで。で、ループ時の表示はアルティメットでいい?」

「アルティメット? ダサいから却下。もっと字数が少なくてやばそうな単語もってこい」

「やばそうな単語って……バイド?」

「バイド……」

「バイド……ありかな?」

 

 

研究が思うように進まず既に脳が疲れているのか、アークルが適当に「仮置きで」と、

8ループ時の警告表示を「BYDO」とOKを出してしまった。

この表示はその後、省みられることも無く正式採用されてしまう。

 

***

 

 

一年かけて研究を続け、

単純にチャージのしすぎで自爆したり、

波動コンダクタの制御が効かず、波動エネルギーが虚数空間上を後方に流れて自爆したりと、

発射余波で大破したり……多くのR-9Kフレームを消滅させながら、最強の波動砲の研究が続けられた。

 

 

「完成したな」

「ああ、できた」

 

 

カッツとリュウが感極まった様に目頭を熱くさせる。

彼らの目の前には黒い攻撃的なフォルムのR機、R-9/02ラグナロック2があった。

 

 

「サイクロンフォースに、ストラグルビット、レーザー各種。オリジナルラグナロックの雄姿を見ているようだ」

「ああ、波動砲に予算つぎ込みすぎて、他の開発予算が尽きたからな」

 

 

リュウの呟きに、アークルが同じく感動して泣きそうになりながら答える。

 

 

「これはRの開発史に残る偉業だな」

 

 

アークル班三人は自分達が作り上げた波動砲の完成に感動し、声を上げて泣いていた。

しかし、ラグナロック2はその馬鹿らしいまでの火力と、波動砲チャージ時間、

そして、オリジナルラグナロック並みの生産コストのため、封印されることとなる。

 


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