プロジェクトR!   作:ヒナヒナ

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R-9Leo“LEO”

R-9Leo“LEO”

 

 

 

Team R-TYPEでは、研究員達を少人数班に分けて研究内容を割り振っている。

各班はフォースなり、フレーム強化なり、レーザーなりの研究改良を受け持っている。

ただTeam R-TYPEの華である新機体開発を皆やりたがるため、通常研究の合間に新機体企画を書き上げ、

提出し、新機体開発専属として指定を貰う。そして一定の優遇措置を受けるのだ。

その力は絶大で「この機体の仕様にあうフォースを開発しろ」など他の班に対して一定の開発要求を通せたり、

予算配分も優遇されるし、出世にも繋がる(余り興味の無い研究員が多いが)。

そして一番重要なこととして、非常にやりがいのある仕事だった。

 

 

この様に班を分け競争を煽るのは研究の効率を上げ、バイド殲滅のための武器として多様性を高めるためである。

 

 

そんな中、ここはビット研究がメインのどちらかというと、というか、かなり影の薄い研究室だった。

 

 

「エリー、オットー、聞いたか? また新しい機体がロールアウトしたらしいぞ」

「いいなあ、私もたまにはビット以外も触りたいなあ」

「俺はビットを研究するためだけにTeam R-TYPEに入った訳じゃないんだぞ。ビット研究班だって開発がしたい!」

 

 

そう言ってぼやくのはビット班の班長レイトン、班員のエリーとオットーだった。

若手が主力のTeam R-TYPEにおいて、全員中年過ぎという高年齢班である。

 

 

「オットー、この裏切り者め! お前みたいな奴が逃げるから、うちの研究班は常に人不足ではないか!」

「でも、班長、オットーの言うこともおかしな事ではないでしょう、実際のところビットはオマケ扱いですよね。

ビットからのレーザー射撃にしたってフォースの余剰エネルギーを貰わないといけないし、盾扱いですし」

「エリー、なんて事を言うんだ。ビットは、R機の生存率を飛躍的に高める重要兵装だ!

しかもPOWでの持ち運びも出来、フォースみたいにバイド汚染の心配も無い」

 

 

レイトンがヒートアップするように、ビットは確かにR機の重要な兵装の一つだった。

ビットは人工フォースの研究過程で出来た武装で、バイド素子が用いられず純粋なエネルギー球となっている。

当然、バイド汚染や、フォースほどの危険性は無い。

反面、フォースまでの攻撃性能はもたず、研究中の最新型でもレーザー放出時の余剰エネルギーを、

ビットから打ち出す程度しか対応していない。

ビットは単体では安定せず、カバー状の制御体を取り付けないと行けなかったり、

どうしてもある程度の大きさ以上にはならないため、付属兵器としての面が大きい。

ただし、R機はデブリ避け以外考慮されていない紙装甲なので、低エネルギー弾などから守る盾としては機能している。

一般に、その程度の認識だ。

 

 

「可も不可もないがビットですから。あ、カメラビットだけは大ブーイングでしたかしら?」

「可も不可も? ふむ、オットー、エリー、では……」

 

 

あまりやる気の無いエリーとオットーを余所に、何か思いついたような表情でレイトンが言う。

 

 

「今まで、上からの仕事を淡々と請けて来たが、最強のビット。作りたくはないか?」

 

 

その言葉が始まりだった。

 

 

***

 

 

3日間に及ぶ資料との格闘と、技術検討結果、レイトンがある案を出した。

 

 

「ビット自体を体当たりさせるの?」

「だが、レイトン、それは可能か?」

 

 

班員二人の疑問にレイトンは自信ありげに答える。

 

 

「ビットの最大の弱点は飛び道具が無い、もしくは貧弱なことだ。これでは戦闘機の武装として主役にはなれない。

では、なぜビットには飛び道具がほぼないのか?

理由は簡単だ。フォースがエネルギーの吸収、増幅、収束、放出がすべて高水準で出来るのに対して、

ビットはエネルギーの収束放出が苦手からだ。エネルギーを吸収したあと、ゆっくり放出して逃がしている。

では、ビットで攻撃するには?」

「その結論が、ビットでの体当たり? でもそれって劣化フォースシュートになるのではないかしら?」

 

 

ビットは無理やり閉所にでも突入しない限りは、通常、R機の上下を一定の距離をとって浮遊している。

それはR機の盾として機能するのにもっとも都合の良い場所だからだ。

R機の武装は、諸所の理由から前方のみとなっている。フォースやミサイルでやっと前方以外の敵を攻撃できる。

そのため機体の上下左右は自機の武装が届かず、特に死角になりやすい上下部にビットは固定されている。

左右ではないのは、地面という二次元の上で生きてきた人間は左右より上下の注意を怠る傾向があるからだ。

もちろん、意識できないだけで、コックピット自体は360°擬似パノラマであり、全周が投影されている。

 

 

「うーん、だがレイトン。それでも放出が弱いからちょっと固いバイドだと通らないかもしれないぞ」

「それならば、放出補助用のデバイスを取り付けて、高エネルギー状態にしてシュートすればいい。

ついでに、射撃可能なように制御用殻を大型化して簡易レーザー機構を取り付けて、

機体側にビットコンダクターを設置すれば遠距離でも制御が効くはずだ」

 

 

制御用殻が小型で機体から離れすぎると、制御が利かなくなって何処かへ飛んでいってしまう

というオットーにレイトンが回答する。

レイトンの熱に影響されたのか、次第にやる気になり始めた班員二人。

企画書を立てて提出するまでに1週間はかからなかった。

 

 

***

 

 

「サイバーコネクタで受信した思考を、同調がたナノマシンに飛ばして操作する形にしてみた」

「レイトン、幾らサイバーコネクタでも、機体を制御しながらビットを操作するのは困難だ。

パイロットの負担が大きくなりすぎる。補助プログラムを組んで抽象的な思考で動くようにしよう」

「これ、ビットコンダクターの出力をもっと大きくしなくちゃ間に合わないわ」

 

 

思考を捉えて動く半自動兵装は、思念を捕らえるという意味で、サイビット(PSY bit)と名づけられた。

エネルギーを与えてシュートした後は半自動で目標を追尾、破壊して、再びビットとして復帰する。

レーザー発射機構も強力となり、各レーザーはサイビットからも放出できるようにしてある。

 

ただし、非常に使い勝手の良い性質とは裏腹に、巨大なビットコンダクターの搭載が必要であり、出力も非常に喰う。

すでに、“補助”兵装でなくなりつつあった。

 

 

Team R-TYPE研究室。何度目かのサイビット機の開発会議において、レイトンが難しい顔をして口を開いた。

 

 

「このサイビット搭載機には問題がある」

「何かしら? レーザーとの同期問題は何とかなったし、フォースも極力出力を喰わないものを試作してもらえたでしょ」

 

 

レイトンはエリーの疑問に答えず、データをディスプレイに表示する。

そこにはフレームだけのR機の設計図があった。内部にはコックピットやら何やらが配置されていた。

 

 

「……レイトン。この設計図だと波動砲がまともに動かないぞ」

「搭載スペースがビットコンダクターに取られた上に、出力も半分以上削られている。

冷却効率的にも不味いから、波動砲が載せられない」

「それは流石にR機ではなくなってしまうわ」

 

 

画面に赤表示された波動砲コンダクタは、設置に不適切なことを示していた。

R機は基本的に、主武装としてフォースと波動砲を備えている必要がある。

 

 

「フォースは盾として削れないし、主機もこれ以上は無理だ。その他無駄な物は無だろう」

 

 

オットーがそう言いながら、穴を見つけようと端末を叩く。

レイトンもエリーも思案顔だ。案をだしては検討するまでもなく却下されるといった事が数十分続いた。

暫くして、オットーが顔を上げた。

 

「これスタンダード波動砲だからいけないのではないか? 威力を削って、必要エネルギーや容積を確保しよう」

「スタンダードよりもっと削る?」

「それは良い案だオットー、波動砲のループ機構を取っ払って、単ループ波動砲として機能させよう。威力だって、サイビットという主武装が増えるから、スタンダードの半分以上なら良いだろう」

「決まりなら、波動砲の研究班にダウンサイジングを依頼してくるわ」

「ああ、じゃあ、上に書類変更を出してくる。オットーは組み込み案を作ってくれ」

「分った」

 

 

Team R-TYPEには珍しい、息の合ったチームワークでサイビット搭載機を作り上げていく3人。

結局、R-9より前の機体に搭載されていた試作型の波動砲を小型化して積み込むことになり、

無事、特殊武装サイビット搭載機、R-9Leo“レオ”が形になる運びとなる。

 

 

***

 

 

レイトン、エリー、オットーの三人が何とかサイビット搭載機を開発し、

その完成祝いで騒いでいる間。

地球南半球にあるTeam R-TYPE本部ではまた別の研究が行われていた。

 

 

格納庫にしては厳重な警備体制が引かれた一角。

Team R-TYPE研究員であろうとも、ここにたどり着くまでにはかなり高位のセキュリティーカードが必要になる。

そこには破損の激しいR機が一機置かれている。

しかし、そこはR機用のハンガーではなく調査機器が多量に詰め込まれた測定台だ。

それを見ているのは二人の男女だった。

Team R-TYPE開発班主席班長のレホスと、女性の方はその上司のバイレシート部長補佐だ。

 

 

「これの調査は?」

「もう終わったわ。技術としてみるべきところは記録済みよ。まあ、特段見るべきはサイビット搭載機ということだけれど、

既に“コチラ”でも開発済みよ、技術的な意味は無いわ。コレはこれで保管かしら」

「別次元からの贈り物ってやつですね。まー、バイドが次元を渡るのだからR機が来たって驚きませんけど」

 

 

そこにあったのは先ごろロールアウトしたばかりの、レオだった。

ただし、外部装甲など細部に違いがあり、また機体番号も“R-9Leo”ではない。

内部調査で分ったことは、各部品の製造番号もメチャクチャで、中には存在しないロット番号などもあった。

しかも、まだレオは先行試験機だけで実戦配備されていないはずなのに、大破している。

軍の管理する機体でも、Team R-TYPEの実験機でもないこれは、地球軌道上を巡る哨戒機が発見したもので、

軍を通してTeam R-TYPEに調査依頼が回って来た。

 

 

外見、内部構造はTeam R-TYPEで開発したばかりのR-9Leo“LEO”に似ているが、

Team R-TYPEでの結論は別次元からの何らかの異変でこちらの次元に転移してしまった物体と結論付けた。

 

 

「コックピットは壊れているけれど、本体のプログラムは生きていたから、断片的だけれど面白いことが分ったわ」

 

 

女性曰く、バイド検出プログラムがないうえに、フォースに関する記述が全く無い。

しかも、内部時間が2163年(第一次バイドミッション時)になっている。

そこから彼らが導き出した結論は、このLEOに似た機体は、

バイドの存在しない平行世界で開発されたLEOであるということだった。

 

 

「まあ結局、すでに別の技術経由でサイビットも完成してるのでー。見るべきは別世界の情報くらいですね」

「そうね、寧ろ驚くべきは、この機体は第一次バイドミッション時相当の機体ということかしら、

アローヘッドと同世代機として開発されたとすると、そういった意味では脅威ではあるわね。

にしても、これ二機連携専用にプログラムが書かれているのだけど、もう一機はどうしたのかしら?」

 

 

レホスと女性上司は話しながら隔離試験室を後にする。

隔壁をくぐりながら話を続ける二人。

 

 

「それにしても、バイドがいなくても人類はR機を作っていたのは何の因果かしら」

「しかも、あの機体のプログラムの最後見ましたぁ?」

「テキストになっていた様な気がしたけれど、特には印象に残らなかったわね。ではまた」

 

 

そんな会話の後、上司と別れるレホス。

レホスは単身宇宙港へと向かい、シャトルで移動中、遠くなっていく地球を見ながら独り言を呟く。

手元には異世界からやってきた方のレオのプログラムデータがある。

 

 

“アノホシヲ、コワスタメ。”

“PROF. LEIGHTON.F, ELLY.S, and OTTO.V”

 

 

「模造品とはいえ地球を壊す作戦ねぇ。僕らと彼ら。果たしてどっちがイカれているのかな?」

 

 

Team R-TYPEで行っている外には出せない研究の数々を思い出しながら笑った。

地球を自ら汚染し過ぎて、地球そのものをコピーし、人工知能に管理を任せたり、

それが暴走して、惑星破壊用にレオを作って“二機”突入作戦を決行するくらい追い詰められたりと、

コチラとは別の意味で刺激に満ちたステキな世界らしい。

 

 

「……それにしても、あの三人。別の次元だったら若くして名を残せたのにねぇ」

 


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