プロジェクトR!   作:ヒナヒナ

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※設定が設定なので、この話では核融合であるとかメルトダウンといった話題を扱います。
 そういったものに不快感を覚える方は、申し訳ありませんがブラウザバックをお願いします。


R-9Sk“PRINCIPALITIES”

R-9Sk“PRINCIPALITIES”

 

 

 

 

“対バイド戦における もっとも有効な攻撃、 それはバイドを以ってバイドを制することである”

 

 

これはかつてのバイド研究所所長がバイド対抗策を模索中に残したとされる言葉だ。

現在ではバイド兵器であるフォースを研究するTeam R-TYPEだけでなく、

軍人や民間でも良く知られるようになり、もはや常識となってさえいる。

 

 

だが、そんな中、常識に一石を投じる者が現れた。

 

 

「“バイドを以ってバイドを制す”か……しごく名言ではあるが、そろそろ他のアプローチがあっても良いのではないだろうか?」

 

 

そんなTeam R-TYPE研究者の一言から、うっかり変態機開発計画が始まってしまったのであった。

 

 

***

 

 

白衣の男が、別の白衣の男二人に詰問されていた。

 

 

「なんで勝手に良く分からない研究開発取ってきたのです?」

「おい、ヤザキ班長、俺たちの研究班の研究課題はなんだ?」

「そ、そのフェルナンド君も、ディキシー君もその睨むのやめてください。僕、一応上司なので」

「私の質問、答えて頂けます?」

「誰が上司だって、ああ!?」

「すみませんでした。ぼくが悪かったです。反省しているので怒らないでください。

その、僕の班の研究課題が波動砲の基礎流用課題であることは重々承知だったのですが、

今の“フォース最強”とか“波動砲は威力だぜ”みたいな風潮が嫌でさ。

で、気が付いたら新波動砲搭載機を作ってやるって言ってしまっていて……」

「で、それをお偉方に聞かれやがって、カッコつけて引っ込みがつかなくなった、と?」

「……はい」

 

 

外では調子がいいが、身内でのカーストが低いという割とどうしようもないヤザキ班長と、

慇懃無礼なフェルナンド、口の悪いディキシーといった班だった。

ヤザキも完全に無能ではないのだが、大言壮語が過ぎて身内の信用は0である。

脂汗を垂らしながら引き攣った笑いを浮かべるヤザキ班長に対し、

これ見よがしな溜息をついてフェルナンドが言う。

 

 

「これは、次の班長会議で当りさわりのない適当な案をだしましょう。

廃案になってもいいですし、やるとなったら潰しが効くように。わかりましたね?」

「わかりました」

 

 

ヤザキがまた余計な約束を取り付けてこないように、これでもかと念を押し、

フェルナンドとディキシーが差し障りのない案を検討し始めた。

 

 

***

 

 

リーダー会議の場、新規提案を図る議題を振られて、ヤザキ班長が立ち上がる。

 

 

「我が班提案としましては、新機軸波動砲の提案を押します。新技術……その、そう!

灼熱です。超高熱の波動砲を以ってバイドの殲滅を……」

 

 

大言壮語するヤザキ班長の手元には「ループ技術の改良による、省力化について」といった、

差し障りのない議案書が伏せられていた。

が、こういう場に出ると悪い虫が動き出すのか、

ヤザキの口から滑り落ちたのはまたしても、未検討の案件であった。

 

 

***

 

 

「あなたは本当に救いようのない人ですね」

「差し障りのない議案を上げろって、俺をフェルナンドで案まで作っただろうが……!」

「ははは……すみません」

 

 

小柄なヤザキ班長は、ディキシーに胸倉を掴まれてつま先立ちになっていた。

ヤザキに何を言っても無駄だと判断したフェルナンドがディキシーを諌める。

 

 

「まったく困った人です。フォース培養漕に投げ込みたいくらいに。

ディキシー、そうやっていても時間の無駄です。仕方ないですね、可能な案を考えましょう」

「できるか? 波動エネルギーを熱量に変換したとして熱ではバイド素子は消滅しないぞ」

「それはやりながら考えましょう。失敗したら責任を取る人もいますし」

 

 

チラリと班長に見やるフェルナンドであったが、その目線は完全に冷え切っていた。

 

 

「ははは、ごめんねー」

「波動砲ぶち込みてぇ」

 

 

その後、顔に青タンを作ったヤザキ班長とフェルナンド、ディキシーが会議室に座っていた。

 

 

「いや、本当にごめん。でも、全く口から出まかせではないんだよ。

ちょっと前に超小型トカマク型融合炉の技術論文を読んでさ。これだと思ったんだ」

「思い付きだけで、方針を決めるとかあなたは小学生ですか」

「いや、バイド素子って単独状態であると意外と小さい波動エネルギーで消滅するんだよ。

通常の波動砲の威力ってさ、バイド素子が何者かに付着した状態っていうのを考慮した破壊力なんだよね」

「熱で分子までバラバラにしてバイド素子を露出させ、最低限の波動エネルギーで破壊するということですか」

 

 

詰問調のフェルナンドが一応は不満ながら納得する。

それに続いてディキシーが疑問を投げかけてきた。

 

 

「でもそれって、波動エネルギーの大半を電気に変換していたケルベロスと同じ轍を踏むんじゃね?」

「そうですね。異相次元の壁を切り開くのには、最低限スタンダード波動砲クラスの波動エネルギーが必要です」

「そうだね。だからこれは迎撃用、特に生物バイド専門機となるだろう。と思うのだよ」

「思うのだよ。じゃねぇ。それしかできないんだろ!」

 

 

他にも罵声が上がったが、なんとか臨時審問会は終了し、

とりあえず作る方向で班員二人が不承不承納得することとなった。

 

 

***

 

 

試作型の灼熱波動砲が組み込まれたフレームだけのR機。

試射実験が行われだして10分。まだ通常ならばやっと機材が温まったくらいの時間だ。

しかし、波動砲コンダクタの周囲からは液漏れのように何かが滴っていた。

 

 

「おいヤザキ班長、これ、温めるを通り越して周辺機器が融解しているぞ」

「えっごめんごめん。でもおっかしいな。試算ではまだ余裕なはずなのに」

「トカマクの放射だけでなく、トカマク維持に使っている波動粒子が熱を持って周囲に拡散しているようですね」

 

 

良く見ると、方々が溶け出しかけている波動砲コンダクタの胴体接続部の奥赤熱した部分が見える。

磁気で核融合が起こる条件である高温高圧のプラズマを維持するのが、トカマク型核融合炉の骨子だ。

トカマクはドーナッツ状の高温高圧のプラズマを形成する。超小型のドーナッツが赤熱部の奥にあるのだ。

 

 

「おい、トカマク保護装甲が赤熱してるぞ! 色々飛び散る前に処分!」

「えっと、緊急廃棄ボタンは……と」

 

 

ヤザキ班長がコンソールにあるカバーが付いた赤いスイッチを押し込むと、

回転灯が回り大きなブザーが鳴る。

試験施設の一端に設置された固定式の波動砲ユニットが稼動し、

青白い正統的な波動エネルギーがきらめき始める。

実験部を中央に捉える用に波動砲が発射された。

消し飛ばされた物体は原子単位までバラバラにされ、

一か所に封入処理されて廃棄されていった。

 

 

***

 

 

前回の失敗を踏まえて、ヤザキが改良案を上に上げた日。

 

 

「いやあ、やっと形になりそうだよね。前回のメルトダウン騒ぎは機体の中心、一番熱のたまりやすい場所に、

トカマク場を置いたのが失敗だったんだね。トカマク保護シールドも強化すれば安心だよ。

あ、そうそう名前も決まったよ。プリンシパリティーズって言うんだカッコいいだろ。

型番は今検討中なんだけどね」

「そんなことどうでもいい、お前また大法螺吹いたそうじゃなか、ええ?」

「いや、法螺だなんて……ただちょっと早く完成しそうですって、会議で言っただけで。

嫌だな怒らないでよ。僕らの研究が実って実際早く完成するかもしれないだろ? ね?」

「“僕ら”ではなく“私とディキシーが”の間違いでしょう? 分かっています?

あと、私とディキシーが研究を急いでいるのはこの仕事を早く手放したいからです」

 

 

フェルナンドが平坦な声で言い渡し、ディキシーが改良思案書を引っ手繰ると、

ヤザキ班長は半笑いのまま「ダイジョブだって」と繰り返していた。

ディキシーとフェルナンドはそんな彼のことをゴミを見るような目で見据えていたが、

暫くすると、二人して部屋を後にし、隣の部屋へ並んで入って行った。

 

 

***

 

 

二人はコーヒーを用意して、向かい合わせで座る。

怒りを抑えるようにゆっくりと息を吐くとディキシーが切り出す。

 

 

「もう限界だろ。個人の問題でなく、あれは組織としても害悪にしかならんぞ」

「そうですね。

そこまでしてやる意義があるとは思えませんが、

一応灼熱波動砲搭載機については現状ならば可能な範囲です。

問題はアレです。これ以上ひどくならない内に、ここらで手を打っておく必要がありそうです」

「……俺たちが手を打つとしてだ。これがTeam R-TYPEとして尾を引くことはありそうか?」

「立ち回り次第ですが、私はそこまで問題にはならないと思いますね。

Team R-TYPEとしても惜しい人材じゃない。上に取入るのは得意ですがアレは能力も下の中といったところです。

上も、内部的な見せしめか、組織が自浄作用を発揮したという事で収めるでしょう」

「決行はいつに? できれば早い方がいい」

「フォース培養漕からバイド素子が遊離し、除染が行われる。よくある事故です。

研究者が単独でフォース培養漕の様子を見に行くことも、よくある事でしょう」

「わかった。俺は各人の防護服に“穴がないか”チェックをしておく」

「では私は、それとなく上に話をつけてきます」

 

 

アイコンタクトを交わした後、二人は別れた。

その一週間後、フェルナンドが班長代理として指名されることになる。

 

 

***

 

 

その日Team R-TYPE実験区画は賑わっていた。新機体の波動砲試射実験が始まる所為だ。

新しい物好きなTeam R-TYPEにとってはお祭り代わりになる。

白衣の二人の人物がこのお祭りの主催者らしい。

仕立てのいい背広を着た、明らかに権力の匂いのする中年男性が二人に近づく。

 

 

「さて、フェルナンド班長代理、先々月の“痛ましい事故”にも関わらず新機体が形になったようで何よりだ」

「ありがとうございます。ディキシー研究員の補佐もあり不肖私も班長代理としての職務を全うできそうです」

「それはよかった。しかし、前回実験では核融合炉が暴走寸前までいったそうだが、安全管理は万全か?」

「ええ、問題ありません。前回のあれはトカマクの周囲に他の熱源があり放熱が間に合わないことが原因です。

今回は、超小型トカマクを波動砲コンダクタの先端に固定しています。

波動砲の発射経路をトカマクの円の中心を通すことによって、より効果的に波動エネルギーに熱を載せられますし、

何より波動砲の軸をずらさずに済むので、余計な熱が発生しません。

排熱に関しては機体全体を放熱仕様にしてあります」

「それで、あの表面積をできるだけ増やした形状というわけか。

しかしトカマクだろう、そんなものがコックピットの直下にあってパイロットは平気なのか?」

「冷却機と直結してありますし、トカマク保護シールドが壊れなければ大丈夫です。理論値でも問題ありません」

「……まあいい、実績を以って、君が前任者とは違う有能な班長であることを証明したまえ」

 

 

そう言って離れていく中年男。Team R-TYPEでは珍しく政治対応に特化している上役だ。

口調を取り繕うのが嫌いなディキシーなどは煙たがっているが、フェルナンドにとっては良い後見人である。

 

 

「お偉方のお相手御苦労さん。そろそろ実験を始めるぜ」

「わかりました、ディキシー。機体形状やレーザーなどの一般武装については説明を任せて構いませんね?」

「ああ、波動砲だけはお偉方から質問もあるだろうから帰ってきてくれ」

 

 

そう言ってフェルナンドは後方の座席に座り、落ち着く。

ディキシーもつっけんどんながら実験説明をし、卒なく実験をこなしていく。

口調こそ荒いが、研究員としての腕は上々なのだ。

特に問題はなく、波動砲の試射実験までこぎつける。

 

 

この波動砲実験のために、Team R-TYPEの野次馬研究員たちが集まってきたのだ。

灼熱波動砲というコンセプト。

高熱を纏わせた波動砲で生物系バイド構成物質を焼き尽くし、バイドを丸裸にして殲滅する。

それは機械バイドにも効くのか。

生物系バイドでも、高熱に出力を回し過ぎて、極小になった波動エネルギーでバイドを殺せるのか。

研究員の疑問は尽きなかった。

 

 

そんな期待を一身に背負って波動砲の試射実験が始まった。

まず捕獲したリボーが固定された標的が設置され、灼熱波動砲がチャージされる。

安定状態にあったトカマクに新たなエネルギーが追加され、唸りを上げる。

今まで外に捨てていた排熱を波動コンダクタに集中すると、コンダクタの先端が赤熱しはじめる。

チャージ完了音が鳴り響くとともに、自動光量調節シェードのない状態では目がつぶれるレベルの光と、業火状になった波動砲が実験区画を通り抜けていく。

 

 

『目標消失、バイド反応0』

 

 

研究員達の屯する区画に合成音声によるアナウンスが流れる。

研究員達の反応は「ふーん」といった具合だ。リボー程度ならレールガンでも殲滅可能なくらいだから

 

ここからが本番である。新たな標的が設置される。巨大に膨れ上がった生物系バイドだ。

R機の3倍はありそうな大きさのドドメ色の細胞塊に顔の様な腫瘍が幾つも浮かび上がり、

叫ぶように口を開け閉めし、内臓の様な構造が露出している。

一般人なら卒倒する光景であるが、研究員たちといえば、

「生きのいい実験体だ」とか「スタンダード波動砲ではコアを狙わないと厳しい大きさだな」などと雑談をしている。

 

 

実験班長代理であるフェルナンドが無表情で試射開始を宣言すると、再度チャージが始まる。

巨大バイドは危険を察知したかのように、手の様な構造を作り研究者たちのいる実験管制室に向かって伸ばす。

怒っているかの様な顔が浮かび上がるが、灼熱波動砲のチャージが溜まるにつれ怯む様な顔に変わる。

チャージ完了音が鳴り響くと、まず白い光で焼き尽くされ、続いて試験空間に漂っていた物質が赤熱して、空間を赤く染める。

業火の後には何もなかった。

消し炭どころか、黒い霧の様な煤だけが残っている唯一の残滓だった。

 

 

『目標消失。バイド係数0。計測を終了します』のアナウンスが流れると、

研究者たちは「場合によっては灼熱波動砲もあり」だとか言いながら、実験は終了したとばかりにはけていく。

その中、人の流れとは逆に、管制室と実験区画を隔てる強化ガラスに向かう人影。

実験区画を眺めるフェルナンドにディキシーは近づいて行った。

 

 

「ふむ、灼熱波動砲でもバイドをちゃんと消滅させられるのですね。いい勉強になりました」

「誰に言っているんだ? フェルナンド?」

「一応上司でしたからね。報告だけでもしておこうかと思いまして」

「後悔しているのか、まさか」

「いいえ、全く、完全に、ありえません」

 

 

ディキシーが、フェルナンドが眺めていた方向をみると、

強化ガラスの向こう、消滅したバイド体を構成してたであろう煤が無重力空間に漂っていた。

 

 

***

 

 

数ヵ月後

R-9Sk“PRINCIPALITIES”がロールアウトした

 


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