プロジェクトR!   作:ヒナヒナ

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※今回は少々グロめな表現があります。


R-9W“WISE MAN”

R-9W“WISE MAN”

 

 

 

 

照明が落とされ薄暗い研究施設の中、R機のキャノピーを摸した実験台があった。

R機の前部のみを切り離して風防を取り払った様な形状のそれは、

キャノピーの下部にあたる整備用窓が開け放たれていて、多量のコード類やチューブが繋がれており、

それらは四方にある観測機器や何らかの出力機に接続されている。

よく見るとそのコードの奥にはパイロットスーツの様なものを身に付けた人間が見える。

多数の計測機器から単調ながら複数の電子音が響いており、その様子はまるで前衛音楽の様だ。

 

 

その光景を見渡せるガラスで覆われた実験管制室の中では、白衣の集団Team R-TYPEがいた。

ディスプレイの青白い光に照らされながら、小汚い白衣を着た男が実験の開始を宣言した。

 

 

「時間だね。実験開始するよぉ」

「サイバーコネクタ、インターフェイス感覚神経系を外部ナノマシンと接続します。……3、2、1、接続」

「ナノマシン活性上昇、通常時の220%です」

「仮想誘導試験開始します」

 

 

開始宣言を確認した研究者が、赤いスイッチをオン入れると、周囲の機械が低い音を立てて唸り出す。

コードだらけのパイロットがビクンと反応し、今まで単調だったグラフが大きく波打ち始める様子がディスプレイに映る。

研究者達は失敗続きだった実験の出だしが、今回は順調に行われた事に安堵しつつ、データを読み上げていく。

実験が新たな段階に入るたびに、試験パイロットはもがく様に身じろぎするが、

ベルトによって固定されているので、内部からは出られない仕様だ。

 

 

「実験開始から500秒、脳波乱れています。呼吸数毎分50、過呼吸気味です」

「バイタル低下。イエローに入ります」

「レホス技術課長、被検体死亡の危険がありますが実験継続でよろしいですか?」

「何時ものことだよ。実験しないことにはどこがボーダーかも分からないし、限界までやっていいよ」

 

 

研究者とレホスが場違いに和やかな応答をしていると、急に警告音が鳴り、ディスプレイの中のパイロットの体が飛び跳ねた。

筋肉の異常収縮から痙攣が始まったようで、拘束ベルトを千切らんばかりだ。

飛び跳ねる体に合わせてコードの束が踊り狂い、計測機も異常値を叩き出している。

 

 

「脳波計測不能、不整脈、いえ心室細動が発生しています」

「バイタルレッドです!」

「仕方ないなぁ、ここまで来て壊すのもアレだし実験中止で」

 

 

レホスがそう宣言すると、緊急停止コードが打ち込まれ、実験が中止される。

それとともに、パイロットの首筋に太い針が打ち込まれて液薬が注入され、痙攣が弱まり始める。

数分後、未だ異常な呼吸をしているパイロットだが、キャノピー型の実験台から引っ張り出され、

脱力したままストレッチャーで搬出されていった。

 

 

***

 

 

実験から数日後、Team R-TYPEの技術課長室ではレホスが、デスクに向かって報告書を打ち込んでいた。

そこに中年の研究者がやってきた。レホスのデスクの前まで来ると情報記録端末を手渡す。

 

 

「レホス課長、ナノマシン誘導実験のデータです。

死亡5、統合失調が9、PTSD程度で済んでいるのが2です。いずれ、強度の神経衰弱で入院ですが」

「ジョーもお疲れだね、ああ、その成功した2件のデータだけちょうだい」

 

 

データを流し読み、レホスが言った。

死亡者や精神崩壊を起こした被検体の写真があるページを飛ばして、測定データだけを呼び出す。

 

 

「これなら、誘導波動砲いけるかもしれないね」

「ナノマシンの微力場操作による波動砲の誘導……本気だったのですか?」

「高濃度ナノマシンを同期させて、一斉に微弱力場を展開できれば高エネルギー流の操作も可能っていうのは、

すでに論文に上がっている内容じゃない?」

「ですが、今回のナノマシンの操作実験では、被検体の殆どが死亡か使い物になりませんし、実用には耐えないのでは?」

「そんなことないさぁ」

 

 

疑問文に疑問系で答えたりするレホスだが、どうやら確固たる自信があるらしい。

一週間で被検体の1/3近くを死亡させるというハードな実験を行ったあとだが、

その考え方は以前より、確信に近くなっていた。

 

 

「人間って意外と柔軟でさぁ、自分の能力を超えている事でもちょっと無理してどうにかしちゃうんだよね。

負担を無理やり他の個所に肩代わりさせることで。もうほんと、格好の研究対象だよね。人間もバイドも」

「まあ、両方とも二重螺旋構造を基礎としていますし、突き詰めれば同質という言い方もできますからね」

 

 

唐突な話だが比較的レホスと付き合いの長いジョーは、適当に頷くとそのまま聞く事にした。

そのあと、3分ほど研究対象としての人間とバイドの共通性について語っていたレホスだが、

思い出したように、ナノマシンの話に戻ってきた。

 

 

「あ、そうそう、ナノマシン制御の話だけど、パイロットにナノマシン制御に対応する感覚を持たせればいいって事になるわけさぁ」

「ショック死やら発狂やらが続出で、今回の実験はとても成功したとは言えないのでは?」

「失敗は成功の父とかいうでしょ? データさえ生きていれば被検体は別にどうでも良いさぁ」

 

 

そう言ってレホスは、手元のディスプレイに失敗例と成功例の各種データを並べて表示する。

 

 

「初回のショック死した被検体1は、痛覚を司る部位にナノマシン制御インターフェイスが繋がったらしいね。

痛覚でも視覚、聴覚でも感覚器にナノマシン制御回路が繋がると、情報量が膨大すぎて死亡か発狂する様だねぇ」

「ああ、検体の一人が自身の目を抉り出していましたね。あれが視覚野につながったのですね」

「単純に情報処理を行う脳領域に繋がった検体は生きているみたいだし、この方針で行こうか?」

「分かりました。脳マップと連動させて適切な脳部位にナノマシン制御回路を構築する実験を検討します」

「任せるよ。じゃあ、僕は軍からのお偉いさんへの説明資料書かなきゃ。

誘導波動砲を使った新型機は軍から次期主力として目をかけられているらしくてね」

 

 

お人好しそうに見えるジョーと、レホスは和やかに人体実験の話をし終わると、ジョーは退室していった。

レホスは面倒そうな顔をしながら“ナノマシン制御による誘導式波動砲試験機の開発”という説明資料を書きだした。

 

 

***

 

 

地球にある南半球第一宇宙基地。

地球連合軍の本拠地であるが、外見は意外とスッキリしていて、周囲に広がる敷地は広場のようになっている。

流石に軍服の人間が多く、民間人は殆どいないが明るく、南国の観光地といった感じの開放的な雰囲気だ。

それもそのはず、この基地の主な構造物は地下にあるのだ。

バイドの侵攻やその他反政府勢力のテロを阻むため、この海岸地帯の地下に広く根を張っているのだ。

その規模は地上物が海岸から10数km離れているにも関わらず、海底港に直接接続しているくらいだ。

 

 

その地下の一室では軍の開発局、軍高官、そしてTeam R-TYPEを交えた会議が行われていた。

機能優先を旨として作られた会議室だが、Team R-TYPE施設にはない威圧感ともいえる重厚さがある。

その雰囲気に合わせてか、比較的真面目な言葉を選んで新型機開発計画の現状の説明をしているのは開発課長のレホスだった。

 

 

「……この様に波動砲自体はスタンダードと変わりませんが、

ナノマシン制御により誘導性を付属させることに成功しております。

レーザー、フォースはデリカテッセンで試験を行ったハニカム式のものを採用する予定です。

現在の開発状況としてはナノマシンの制御機構の構築を急いでいます」

 

 

レホスは大型スクリーンに投影された“R-9W(仮)”という図を示しながら説明する。

形状としては特筆すべき事もないような“R機らしい”ラウンド型のキャノピーを持った機体だった。

15分程度の説明が終わり、レホスが座ると出席者たちが意見を出し始める。

技術的な意見が出終わった頃、軍開発局の局長が首を捻りながら、意見ともいえない独り言を言う。

 

 

「ふむ、レーザー、ミサイル、フォース共に高水準にまとまっているが、その分燃費は悪い……

単機突入任務というよりはOp.Last Danceの間の地球圏の防衛任務に就く、迎撃機となるが?」

 

 

それに答えるように話しだしたのは背筋のピンと伸びた老齢の将官であった。

この軍人というよりは政治色の付き始めた軍務大臣が口を開く。

 

 

「構わん。

世論は長期渡るバイド根絶作戦を続ける政府への不満を表明し、

バイドからの防衛や退避を望む声も高まっている。

ここらで、今までとは誰の目から見ても明らかに違う、

防衛用の機体を作り、民心を宥める必要がある。

この誘導式波動砲は構造物などへの被害を避けてバイドだけを攻撃できるし、

航続飛行距離の問題も防衛用ならば問題ない。

R-9Wを次期主力機として据える事で、軍、政府は民間の安全を第一に考えているという意志を示す事ができる」

 

 

軍務大臣は一度言葉を区切り、周囲を睨むように見渡してからより張りのある声を出す。

反論を許さない威圧感さえ感じる視線が、この老人が政治家ではなくて軍人であった事を思い起こさせた。

 

 

「R-9Aアローヘッドに続く次期主力機にはR-9Wを据える。R-9Wは迎撃型のR機とし、

市街地での運用や、閉所で強力な攻撃力を付加させるため、誘導型の波動砲の搭載を絶対条件とする。

これは地球連合軍としての決定である」

 

 

軍政分野で軍務大臣の言葉に反論する人間はいるはずもなく、これが事実上の命令となった。

 

 

***

 

 

「これはいけるねぇ。あの大臣のおじさんには3日くらいは足向けて寝られないねぇ!」

 

 

南半球第一基地での会議後、数日経ったTeam R-TYPEの課長室。

子供のようにはしゃぐのは部屋の主たるレホスだったが、呼び出されてきた研究員のジョーが呆れて見ている。

ジョーに対して、レホスは一方的にまくし立てる。

 

 

「軍務大臣によるあの言葉は内部的には命令に等しいんだよ?

あのおじさんが万難を排してR-9Wを作るって言えば、僕らは好きに研究できるって訳さぁ。

何時ものように軍部に文句を言われることなくできる。ジョー、君も好きにやって良いよ!」

「はぁ、そうですか」

 

 

暫くハイのまま治まらなかったレホスだが、5分程度で通常のテンションに戻ってきたので、

ジョーが業務報告を行う。

 

 

「課長。誘導型ナノマシン波動砲なのですが、ナノマシン制御に使う脳部位の選定が終わりました。

Wp-3と名付けられている領域ですが、接続のショックが少ないため比較的平易にナノマシン制御領域を構築できます。

初回起動時にサイバーコネクタを通して脳内にナノマシン制御領域を確保……ダウンロードするようにしました。

初回こそ時間がかかりますが、二度目以降は早急に接続が可能です」

「Wp-3ねぇ。うん、このあたりなら生命維持に必要な領域はなかったはずだし、死ななければ良いんじゃない?」

「ええ、死にはしなくなったのですが」

 

 

世話話の様な調子で話してはいるが、ジョーから提示されたデータは非常にショッキングなものだった。

脳切開の写真、喉を掻き毟る様に発狂する動画、脳の電極を刺さった被験者の反応を窺う研究員達。

バイドとの戦闘を通して凄惨な体験に慣れている軍人であっても、Team R-TYPEで行われる人体実験には顔を顰める者も多い。

人間をも材料に研究を行い、楽しんでいる様に見えるのも、Team R-TYPEが嫌われる一因だろう。

 

 

しかし、彼らにとって外部評価は余り問題ではなく、今は開発を阻む要因こそが唯一の問題だった。

 

 

「レホス課長、これを見てください」

「一時的な重度統合失調状態が90%オーバーねぇ。一時的になら問題じゃないでしょ。

放っておくか、投薬で戻るみたいだし」

「ええ、被検体が精神崩壊して完全に潰れる事は無くなったのですが、その代わりに一時的統合失調と、

平衡感覚の喪失が起こるようになりました。要は搭乗後に感覚的な問題と精神疲労の両面で、

まったく動けなくなります。R機から降りる事すら困難です」

 

 

事故事例としてジョーが示したのは、ナノマシンその接続状態すら自力で切れずに、強制シャットダウンされる事例や、

コックピットの浅い装甲板を超えられず、もがく被験者。

一時的とはいえ、完全に思考機能、身体機能を失った準廃人達の動画だった。

レホスはジョーと二三受け答えをしたあと、笑い出した。

 

 

「簡単な話だよ。あの実験台のようにコックピットブロックを取り外せばいいじゃない?」

 

 

レホスの目線の先には、今回の実験が行われていた実験台の画像。

ナノマシン同期試験のために、R機から先端部分を無理矢理切り取った様な“頭だけのR機”があった。

 

 

「ご存じでしょう? R機のコックピットブロックは下部構造が装甲と一体となっています。

あれは実験用にコックピットブロックだけ切り取って設置していますが、実機では無理です」

「あの形状は確かに力学的な見地から有効な形状だけど、ラウンドキャノピーじゃなきゃいけないわけじゃないさぁ。

確かに、R-9A開発した頃には、選択肢のない唯一の解だったけど、今は違うさ。素材も進化したし、技術も進歩しぃ。

いっそコックピットの下部装甲取り払って、取り外しの効くキャノピーで全面を覆ってしまってもいいんじゃない?」

 

 

***

 

 

Team R-TYPEの研究施設らしき場所。

テロップによると、その施設で誘導型のナノマシン波動砲での実験が行われたと書いてある。

画面中央には、すでに大体の形になっているR-9Wが、観測機器などのコードに接続された状態で固定されている。

奇妙なのはそのシルエットで、コックピットブロックが見当たらない。

通常、R機はコックピットを覆うラウンド型のキャノピーを上部に開け放ち乗り降りする。

だが、このR-9Wにはキャノピーどころかコックピットが付属していなかった。

コックピットがあるべき場所には円形の接続部と宇宙空間に出るとしても厳重過ぎる何重にもなったパッキンがあるだけだった。

 

 

続いて、画面脇から現れたのは、直径1m以上はありそうな球底チューブ状の巨大な“試験管”。

紫色の半透明に着色されているそれは、どうやら中に液体とコックピットらしき機器が封入されている。

しかも、良く見れば、液量を図るためだろうか、目盛にも似たラインが入っている。

作業用アームで、そのまま“試験管”の開口部がコックピットのあるべき場所に接続される。

紫色の試験管はR-9Wに押し込まれると、機械音とともに何重にもロックが掛かり、固定されていく。

 

 

合成音声が流れると、試験管の内側を覆う全天型モニターが起動したらしく、試験管が瞬く。

全天型モニターの電圧変化の所為か不透明だった試験管が一瞬透明になり、再び不透明に戻った。

一瞬であろうとも、試験管の中にコックピットと人間が乗っていることは見て取れた。

 

 

画面が変わり、R-9Wを後方から移した画面となり、テロップでナノマシン波動砲試射開始と出てくる。

R-9Wの前方に複数のダミー標的が配置される。それらは同軸上にはなく通常なら反射レーザーを使って破壊する様な配置だ。

試験管の異様さに比べれば、なんら通常と変わらない波動砲コンダクタの先端に波動の光が輝きだす。

虚数空間から漏れ出た波動エネルギーの余波だが、特にスタンダード波動砲と変わったところはない。

チャージ完了を示す光が瞬くと発射の寸前にオレンジ色の発光が確認され、続いて波動砲が発射される。

画面が光で満たされ、瞬間的にダミーをすべて破壊しつくした。

 

 

再度、発射シーンだけが超スローで再生される。

発射後、すぐにオレンジ色の燐光が瞬き、何もないはずの空間が水面のように歪み波動砲の進路がねじ曲がる。

ダミーを二つほど消滅させた後、再びオレンジの光が現れ、波動砲が曲がる。

3回ほどそれを繰り返して、施設の壁面に到達すると、波動砲が閃光とともに霧散した。

そして、再実験とテロップが流れる。

 

 

「ただ今、ご覧にいれたのが、R-9Wに搭載予定のナノマシン波動砲になります。誘導性能はご覧の通りです。

パイロットについても特殊訓練は必要とせず、サイバーコネクタを通してナノマシン誘導に関わる領域を新設します。

脳内の未使用領域の検索とナノマシン同期領域のダウンロードがあるため、初回出撃時は多少時間を食いますが

従来の乗換訓練を考えれば、問題のない程度でしょう」

 

 

スクリーンに投影された動画を止めてから、レホスが補足を述べた。

この南半球第一宇宙基地地下会議室での会議とR-9Wの運用に関する担当レクを実施しているのだ。

今回は軍務大臣未満の高官たちと、軍開発局となどになっているが、

高官らは会議が終了した時点で、想定バイド撃破率とパイロット死亡率の比率が劇的に向上しているのを確認して

満足げに去って行った。

 

 

残ったのは実務を担う技術官らだ。

すでに軍務大臣によりR-9Wが次期主力として内定しているので、

配備やパイロットの選定などの実務的なことを検討しなければならない。

何人かの技術士官らが意見を述べる。

 

 

「レホス課長、このコックピットはラウンド型ではないのですか、

試験管(チューブ)形状で強度が落ちるのでは?」

「それもですが、このパイロットの充足数なのですが、なぜ機体数の5~6倍なのですか?

無理矢理24時間交代制でのシフトを考えても2~3倍では無いのですか?」

「それは、両方ともR-9Wの操縦によるものですね。見た方が早いのでこちらをご覧ください」

 

 

レホスは手元で操作して、先ほど上映した動画を、途中から続きを流す。

 

 

パイロット交換という少し不穏なテロップが流れる。

波動砲発射テスト後の様で、周囲の隔壁には煤が見える。

先ほどの動画を逆再生するように作業用アームがコックピットである試験管を掴むと、ロックの外れる音がする。

アームが試験管を掴んだまま、ゆっくり動くと試験管がR-9Wから外れ、アームにぶら下がる。

そのまま画面外に退場していくが、画面が切り替わり巨大な試験管立ての様なラックに掛けられると、

試験管の上部を塞いでいた簡易シールドが開く。内部は紫色の液体で満たされている。

小型のアームが試験管の内部を探り、試験管の中から何かを引っ張り出す。

どう見てもパイロットだ。その人間はスーツの胴体部に付いているベルトに全身を預けており、まったく生気がない。

アームがパイロットを床に下ろすと、そのまま殆ど動けないパイロットが搬出されていった。

 

 

そこまで、動画が進むと、軍の技官達が顔を真っ赤にしていた。

パイロットが吊りだされたあたりですでにざわついていたが、ついに怒号となった。

 

 

「一体どういうつもりだ! パイロットを使い潰す気か!」

「潰しては居ませんよ。これから動画でも説明が入りますが、一時的な精神衰弱状態になるだけです。

ただし、ご覧の通り自力での乗り降りができないため、要望にあった出撃時間の短縮に引っ掛かります。

ですので、コックピットごとパイロット換装することで、再出撃までの時間を短縮しました」

 

 

そのあんまりな説明を聞いた出席者達は再び一斉に怒鳴り出した。

基本的にTeam R-TYPEへの不信感と、人権に関するものだ。

説明が面倒臭くなったレホスはこの場を黙らせることにする。

 

 

「人間を何だと思っている? パイロットが哀れ?

何を言っているのか分かりませんね。我々はTeam R-TYPEですよ。

もてる知識を結集し研究を続ける、利用できるものはすべて利用して不可能を可能にする。

それが我々Team R-TYPEです」

 

 

そう嘯いたレホスは、未だ感情を優先する面倒な相手に、最後にトドメをさす事にする。

もはや、口調すらも繕う事をやめて、タメ口で嘲るように挑発する。

 

 

「言っておくけどさぁ、このR-9W開発計画は事実上の軍務大臣命令によるものなんだよね。

で、大臣と次官にはすでに説明とデータを渡してあるわけ。つまり、これはもう決定事項ってこと。

じゃあ僕はこの後も研究があるから、バイバイ」

 

 

この仕様が最終案であると述べて、思いつく限りの罵声が轟く会議室から退出していった。

 

 

***

 

 

R-9W“WISE MAN”はロールアウト後直ぐに各地に配備された。

黒を基調にして紫色の試験管コックピットというR機は、非常に人々の目を引いた。

ワイズマン(賢者)という皮肉な名前を付けられたR機は民衆にもっとも近い処に配備され、

R-9に続く主力機としての任についた。民間には詳細は伏せられたまま……

 

 

この試験管機の配備を止められなかった地球連合は、この後ずるずると正気を失い続け、

最終的にはB系列機という狂気の兵器の配備を許すこととなる。


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