プロジェクトR!   作:ヒナヒナ

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B-1A “DIGITALIUS”

B-1A “DIGITALIUS”

 

 

 

「おい、エント。おもしろい論文見つけた。これ見ろ。すんげーぞ」

「んん。『低汚染状況下でのバイド素子の利用法について』。また基礎研究班の奴らか。アホな論文を上げて……」

 

 

オガールと呼ばれた栗毛天然パーマが液晶端末に入った論文を持ってきて、エントと呼ばれた男の机に乗せる。

読んでいた報告書の上に端末を載せられたエントは、一瞬ムッとした顔をするが、一応それに目を向ける。

しかし、題名を一瞥して鼻で笑うとそのまま、脇にある袖机に追いやろうとした。

バイド素子は開放すればすぐに周囲の物質を汚染して取り込む。

低汚染状態といってもそんな危険物質が蔓延している状況は異常で、実際にあったら周囲ともども確実に封鎖されている。

そんな論文、「実験したら汚染されました終わり」と書いてあるのは想像に難くない。

 

 

「あ、おい題名だけで捨てるなよ。中身はすげーんだって。あ、ラミちゃんもちょっと」

「なーに、オガールくん。またエントくんに絡んでるのー?」

 

 

オガールは自分の端末が、袖机のゴミと一緒に床に落とされる前に机に乗せ直して、

そのままの体勢で、開いたままのドアから、廊下を通りかかった女性を呼び止める。

現れたのはロングスカートに白いブラウスを着た、いかにもお嬢様な格好をした女性だ。

もちろん、それらの服は地球連合の宇宙用服飾の規格に沿ったものだが、明らかに質が良い。

ゆったりとした口調だが、首から提げたセキュリティカードには班長と書いてある。

女性を見た男二人組の態度は明らかに変わった。

 

 

「ラミ班長か。問題ないオガールに絡まれているだけだ」

「ラミちゃん、良いもん仕入れてきたんだ。これ読んでよ」

「『低汚染でのバイド素子の利用法について』? 文章は硬いけどずいぶん挑戦的な内容ねぇ。あら……これ」

 

 

端末に指を滑らせながら論文を手にとって眺めていたラミが、呟いて小首をかしげる。

論文名の下で指が止まっている。論文著者名のラストネームの辺りだ。

 

 

「さっすがラミちゃん。気付いたな! そうこの論文発表者こそ基礎研究班のやつだけど、

連名がすごいんだ。レホス開発課長に、バイレシート開発部長がいるんだぜ」

「え? お、おいこれ他の連名も主任クラスばっかりじゃないか! なんでこんな論文が今まで埋もれてたんだ」

 

 

ラミに釣られるように論文を見るエントだったが、言われてみればアホっぽい題名に反して、

連名はTeam R-TYPEのそうそうたるメンバーだった。

そうして見るとファーストネームの地味な名前の奴はむしろ偽名っぽい。

そもそも、バイド関連の研究でこれだけの人員を動かせる人物ならば、自分たちも知っていないとおかしいのだ。

だとすれば、これは何らかの意図を持って流された情報であると考えることができる。

何故そんな回りくどいことをするのか分からないが。

 

 

「……これ第一種機密指定が解けたってこと?」

「ああ、なんでか会議なんかで持ち上がらず、シレッと第二種機密指定データベースに降りていたんだ」

「意図はわからないけどー、きっと早い者勝ちってことね。私たちの班でもらっちゃいましょ?」

「そうそう、始めに開発を始めた班が、新技術一番乗りの栄誉を手に入れるって寸法だ」

「俺たちは今開発計画がひと段落してフリーだ。これはチャンスだな」

 

 

無言で顔を見合わせる3人。

 

 

「エントくん、オガールくん。明日の昼までにこの論文の情報の精査を行って、内容を読み取るわ。

それから機体開発計画の発案をするわ。みんなやるわよぅ」

 

 

ラミの笑顔が深くなり、エントもオガールもそれに釣られて笑う。

 

 

***

 

 

周囲では……

 

 

「あそこの部屋また3人で篭ってんのか」

「本当に仲いいな、あそこの班は」

「仲がいいというより、お嬢様とその付き人だろ」

「違いない」

 

 

という会話があったが、論文をむさぼり読んでいる3人には聞こえなかったし、

聞こえたとしても三人三様で満更でもないので、軽く流しただろう。

 

 

 

***

 

 

「では、この論文についての、調査発表を行います。じゃーまずはオガールくんからねー」

 

 

35時間ぶっ通しでの調査の後であるが、ラミには疲労の色は見えない。

機嫌がよさそうで、いつもよりさらにニコニコしている。

対する二人は少しクマが出来ているが、目は少しギラついていて意識はハッキリしているようだった。

ラミに指名を受けたオガールが記憶媒体からデータを取り出して二人に配りながら話す。

 

 

「オレはこの背景にあるレホス課長のプロジェクトについて調査した。レホス課長に資料を貰うのは大変だったよ」

「レホス課長に頼みごとをすると、後が大変だぞ」

「そうなんだよな。まあバイド素子添加プロジェクト試作機BX-T‘ダンタリオン’の開発計画だったんだが、

開発部長も巻き込んだ一大計画だったんだが、結構な内容でヒラ研究員のオレらには伏せられていたらしい。

内容は論文に在るとおりバイド体を機体の装甲に用いた機体を作ることだ。結果からいうとこの研究は成功している」

 

オガールはデータを示すと、ダンタリオンの画像を出して二人に見せる。

シルエットだけみればなんとかR機に見えなくもない機体だ。

それを見てラミとエントがコメントをつぶやく。

 

「ダンタリオンねえ。ソロモンの悪魔の一柱ね。たしか知識を司る悪魔でー、

その手には全ての生き物の過去、現在、未来にわたる思考が書かれた本を持っているのだったかしら」

「しかし、バイド素子を装甲に、か。……制御が難しいだうろうに」

「この研究の特筆すべき点はもう一つある。サラリと書いてあったのだが、ダンタリオンに付属するのはライフフォース。これだ」

 

 

複製禁止と書かれたデータを見せる。

 

 

「! コントロールロッドが無い……どうやって制御しているんだ」

「これ……制御しているのではなくて、機体とフォースが同調しているの……?」

「ああ、このプロジェクトはR機のブレイクスルーだ。実際に機体番号もRシリーズではなく、BX-Tになっている。

この機体はテスト機だから、ここから新たなR機の新系統が始まるということだろ」

 

 

オガールがデータを見ながらいう。

予想以上の情報に、ラミはオガールに対して華が咲いたような笑みで、褒める。

この仕草はラミがよくするもので、まあ単純な男二人に人参を与えるのも班長の仕事と言うことだ。

 

 

「ありがとう、オガールくん。次はエントくんね」

「ああ、俺はこの論文技術を実機に適用させるための問題点の洗い出しだ」

 

 

エントは咳払いをすると、データを持ち出して説明を始めた。

 

 

「まず、これを見て欲しい。ダンタリオン稼動実験のときの各実測値だ」

「実験一発目で成功かよ。レポス課長パネェな」

「あら、これは酷いわね。パイロットのバイタルイエロー入ってるわぁ。2回目では一瞬レッドまでいってる」

「そう、機体にバイド由来物質を用いると、パイロットが物質的に隔離しても精神侵蝕を受ける。

それを緩和するためにこの実験では、パイロットの選定と、深層精神障壁の形成、投薬処理を行っているところがミソなんだ。

関連論文みたら、処理なしでやるとだいたい15分くらいで発狂するそうだ」

「えげつねぇ」

「うーん。その処理時間が掛かるし、パイロットを選ぶなんて、テスト機ならともかく量産機では許されないわね」

 

ラミは少し思案顔でデータを見つめる。

論文中にも結構エグイ画像が埋め込まれているが、それくらいで気分が悪くなるようではTeam R-TYPEはつとまらない。

ひとしきり感想をいったあと、ラミはエントに次の課題を促す。

 

 

「次だな、知ってのとおり素子を純粋培養するとフォース原基になる。

不純物がはいるとバイド化してしまうのだが、機体に用いるには不純物を加えて物質化しつつ、急激なバイド化を抑える必要がある。

この不純物=誘導体の種類と環境によって、物質化が異なり、条件によっては著しい不活性を示す……R機の装甲に使えるほどにな」

 

 

「つまりー、誘導体の選択とノウハウの蓄積が必要になるのね」

「素子研究か……。フォース実験とかいって素子を貰って、実験できるな」

「楽しそうな実験ね。でもー、セキュリティの高い実験区画の申請が必要ね」

「この論文ではテストが目的だから比較的安定するゲル状を選択したと言っている。だが、数値をみるに装甲としては今一だな」

「なにが装甲に適するか。調査実験か……グッドだ!」

「装甲適性だけでなく、活性値と生産性もみないとねー」

 

 

新しいおもちゃを手に入れたような、楽しそうな雰囲気。

徹夜上がりとは思えない。

 

 

「いいわ、これで行きましょう。エントは誘導体選定実験計画の策定。できたら言って、実験は手数で勝負よ。

オガールはパイロット処理の最適化を調べて、私は実験申請と材料の確保をするわ」

 

 

ラミは立ち上がり手を胸の前で組んで、お願いのポーズをしながら、男どもに奮起を促す。

女王様も楽ではないのだ。

 

 

***

 

 

クマが増えた三人が居た。ラミも化粧で隠し切れないクマが見え隠れしている。

一週間の睡眠時間が3人合計で24時間を切っているためだ。

 

 

「どうかしらー。誘導体実験の結果がでた?」

「量がすごいな。エント根性出したな」

「俺、反復実験で死ぬかと思ったぞ」

 

 

一番憔悴しているエントは良く分からない栄養剤を啜りながら答える。

 

 

「とりあえず、使えそうなのをピックアップしてみた。選定条件は硬度、コスト、安全性と俺の勘だ」

「……疲れてるな」

「じゃあ、検討しましょうか。ダメだったやつのデータは後でまとめて論文にでもすればいいわ」

 

 

全員発言が緩慢で、動きも怪しいところがある。

しかし、目だけぎらぎらさせてデータを見る姿は、

正にパイロット達の恐れるTeam R-TYPEの姿だった。

 

 

「硬度は機械系が成績いいが、コストに難が在る……、正直どれも一長一短なんだが、総合的に取り回しやすい一押しはこれだ」

「なに、植物細胞を誘導体にしたの?」

「植物はさっき誘導体として没って書いてなかったか」

「実際には、植物体のDNAを切り取った物を与えた。そのままやるとただの植物性バイドになる」

「いいわねこれ。可愛いわ。胞子状の波動砲なんて素敵ね!」

「……」

「……」

 

 

オガールとエントが顔を見合わせる。

また始まった。と、趣味が分からない。というアイコンタクトだ。

二人ともラミのことを尊敬しているし、女性としても足を舐めても良いくらいには魅力的と思っているが、

未だに趣味やツボが分からないでいた。

 

 

「まあ、その、俺が勧めたし、気に入ってくれたようで何よりだ」

「初期機は安定性こそ命だな」

「やったー。じゃあ誘導体はこれで決まりね」

 

 

無理やりまとめる二人、と喜ぶ一人。

オガールとエントはとりあえず喜んでいるから良いと考えて、藪はつつかないようにした。

 

 

「さて、オガールくんは?」

「目処、たったぞ。とりあえず、深層精神障壁処理は時間とコストがやたら掛かる上に、

結果が安定しないからオミット、その代わりに投薬処理をふやすことにした」

「5回か。多いな」

「無茶言うな。これで4割減だ。試行錯誤でちょうどよいバランスを探したんだから。

見ろ、オレの芸術的な投薬メニューを!」

「……綱渡り的なバランスねー。でもいいわ。これで本申請上げましょう。明日、課長がきたら上げるわー」

「あとは実際やってみての試行錯誤か」

「とりあえずこれで寝れるな……」

 

 

目だけギラギラさせたラミは、データを集めて自分のデスクに向かってゆっくり歩いていった。

それを見送った男二人は、そのまま机に突っ伏して何日かぶりのまとまった睡眠に突入した。

 

 

 

***

 

 

周囲では……

 

 

「あそこの部屋まだ明りついてるよー」

「明りつけたまま寝てるのかと思ったら、たまにうめき声とか聞こえるんだぜ」

「一週間徹夜か。チームゾンビだな」

「あそこの班、なんか怖え」

 

 

という会話があったが、死んだように椅子で寝ている2人には聞こえなかった。

 

 

***

 

 

【課長室】

 

 

今日も今日とて、完璧な服装を汚い白衣と履き潰したサンダルで粉砕している部屋の主。

ラミはデータを渡しながら部屋の主に微笑みかける。自分の容姿に自身のあるものだけができる顔だ。

 

 

「あら、レホス課長。今日のタイピン素敵ですねー。注射器ですか?」

「もらい物だ。で、君が一番手とはねぇ。外見に似合わずガッツクのだね」

「あらいやだー。私じゃないですよ。オガールくんが見つけてきてくれたんですよ」

「でも10日で資料をまとめて、新型の企画書を持ってきたんだから、敏腕リーダーってところかなぁ」

 

 

レホスはデスクに座って端末を見つめる。

 

 

「ところでレホス課長。なんであの論文を会議で話さずに適当に研究員が触れる場所に放置したんですか?」

「君は何でだと思う?」

「釣り針……かしら?」

「言いえて妙だけど、正確には試薬だねぇ。研究者はどんなときでも貪欲でなければならない。

なぜなら我らはTeam R-TYPEだから。我々の前には倫理も、理屈も、法だって意味を成さない。

そういうトビキリな研究者を選定するための試薬だからねぇ」

「あら、それは光栄ですわ。私はそのトビキリの研究員として合格ですか?」

「これだけのものを10日でまとめる熱意と狂気を認めて、実験と開発のGOサインを出そうか」

 

 

そういうと端末にカードキーを通して、承認と予算をつける。

それを見たラミは満面の笑顔になって、礼を言う。

 

 

「さて、一番乗りに敬意を表して、この機体はB-Aシリーズとしようか」

「わあ、A番をもらえるんですか!」

「そう、で、君のB-1Aになんて名前をつけるんだい?」

「それはですねー……」

 

 

***

 

 

B-1A ジギタリウス完成。

 




改稿したらラミが黒くなった。

この当時、何故か研究班を毎話入れ替えるという、
意味の分からない縛りをしていました。
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