プロジェクトR!   作:ヒナヒナ

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※結構初期の話ですが、設定的に色々混じっています。


R-9B“STRIDER”

・R-9B“STRIDER”

 

 

 

 

後に発想の大元が迷走していたと言われているR機開発であるが、

当初は駄作といわれていたが、後のバージョンアップで大化けしたものもある。

その中の一つがR-9B系列、バリア機シリーズであった。

 

 

***

 

 

白衣蠢く、Team R-TYPEの拠点のひとつ。

そこで、呼び出しを食らった研究員が、自分の開発班の班長と話をしていた。

 

 

「巡航型のR機ですか?」

「単機突入戦でのPOWの消耗が激しすぎるので、POWの要らない巡航機の開発を、だってさ」

「で、なんで辞令が俺一人なのですか? 普通R機の研究開発ってチーム戦でしょう?」

 

 

そう、何故か班ではなく、スタークル研究員にだけ辞令が出たのだ。

しかも、もれなく月面基地への長期出張付きだった。

 

 

「なんでも、軍と軍事産業とかの横槍が激しいらしくて、共同開発をすることになったらしい」

「その結果がライトニング波動砲を装備したケルベロスでしょう。碌な結果にならないような」

「ケルベロスは脱出失敗したけど作戦自体は成功だし、民間成分が色濃く入っているアルバトロスや

軍の意向が強いデルタ、整備が暴走して作り上げた攻性POWアーマーがあれだけの結果を残したからね。

再び食い込みたいのだろう。なんにせよ辞令貰ったらどうにもならないから諦めて行け」

 

 

上司からありがたい言葉を貰ったスタークルは、多量の研究資料と僅かな私物の入ったトランクひとつだけで飛び立った。

 

 

***

 

 

所変わって、月面基地ルナベース2。

スタークルは二人の新しい同僚と顔合わせをしていた。

 

 

「軍開発局から出向してきた。アドマイヤー技術大尉だ」

「デ・ハミルトン社より参りました。開発部門技師バータレックです」

「Team R-TYPEからきました研究員スタークルです。よろしくお願いします」

 

 

濃い面々だった。

軍開発局のアドマイヤー大尉はTeam R-TYPEの独走を防ぐためのお目付け役だろうか。

とりあえずお堅そうだが、現場のパイロットなんかに比べれば、技術者ということでマシだろう。

ただし、妙な拘りや偏見をもっているパターンが多い気がする。

 

 

バータレック技師は、キチンとしたスーツを着用しており、

普通の30代サラリーマン風だが、デ・ハミルトンといえば精密機器などに強い民間企業だ。

ミッドナイトアイなどE系列のレドームにも、同社の機器が用いられているはずだ。

最近、周辺機器や補助武装などを取り扱い、軍事産業へと食い込んで来ている変態企業の一端だったはず。

そんな事を考えているスタークル自身だが、Team R-TYPEの彼は他の二人からもっとも危険視されていた。

 

 

なんとなく、他の二人の視線が自分に集まっているのを感じたスタークルが、先陣を切って話してみる。

 

 

「今回のR-9Bのコンセプトは巡航型のR機、無補給での地球-木星航行可ということですが……宜しいでしょうか?」

「軍としては、従来のR-9を用いた作戦ではPOWアーマーの設置が欠かせず、兵站の負担になっている。

なんとかしてこの負担を緩和したい。せめて補給基地間だけでも往復可能としたい」

「それでしたらわが社の巡航システムならば出力をコンピュータ調整で突き詰めて燃費15%ほど改善できます。

それ以上をお求めならば増漕としてエネルギーポッドをつける必要があるのではないでしょうか!」

「え、あ、はい、ありがとうございます」

 

 

ここぞと開発局のアドマイヤーとハミルトン社のバータレックが畳み掛けてくるのに、気圧されるスタークル。

基本的にTeam R-TYPEは同僚以外とのコミュニケーションが苦手なのだ。

コミュニケーションって何、とばかりに高圧的になったり、外部に毛ほども興味なかったり、

まごまごして普通に話せないなどのパターンがある。

スタークルは確実に普通に話せないパターンだった。

 

 

「えーと、その、まとめますと燃費効率15%上昇だとほとんど雀の涙というか、確実に増漕が必要ですが、

重量が増えるので主機出力も上げる必要がでますね。重量増と出力増強で小回りは全く効かなくなりますが」 

「小回りが必要ならアローヘッドがあるから良いのではないか?」

「専門性というか一点には秀でていないと売り込みに困りますからね」

 

 

完全に雰囲気に飲まれて自分の発言ができなくなるスタークル。

口では負けると察して、携帯型端末のキーボードを叩き、二人の案を組み込んだモデルを見せることにした。

黙って端末に向き合うこと3分、アローヘッドのフレームを大幅に超過しエネルギータンクが本体に見える

歪な機体が画面に表示される。

 

 

「コレは鈍重すぎて戦闘に向かなくなりそうですね」

「流石にこれで戦闘は自殺行為だが……。スタークル研究員、回避を無しで済む様に遠距離からの狙撃は不可能か?」

「D系列、他の研究班で研究していたようですが、冷却機や波動砲コンダクタに負担がかかるらしく

各部が大型化してしまって、最早R機の型に納まらないと思います」

 

 

よく分らない機械の塊のようになる3Dモデル。それはR機ではなくて機械系バイドの様だ。

色々な案を出しては内部で否決されていく。異業種混合開発班は、回り道しながらも、

日を跨いでR-9Bの形を組み立てていく。

 

 

「で、波動砲はどうします? 長距離狙撃は他の班とコンセプトが被るのでNGです」

「波動砲単体ではなく、R-9Bのコンセプトの中で話すべきでは?」

「長距離巡航機としての波動砲か。運動性なら速射性だし、防御面については……どうしようもないな」

「ん?」

 

 

装甲が紙なのはR機の宿命だが、装甲=防御ではないのではないか。

という、考えをスタークルは閃いた。

 

 

「バリア……はダメですか?」

「バリア? ビットやフォースはその長距離狙撃型の物を使いまわすということになったのでは?」

「いえ、バリアです。強いエネルギーは障壁として機能するのは周知の通りです。

形状は検討すべきと思いますが、それを導入するのはどうでしょう」

「試してみるのはアリかな」

 

 

そうして、検討事項にバリアの文字が並ぶことになる。

そして更に検討が続けられていく。

 

 

「防御は波動砲か実弾で考えるとして、攻撃面はどうするのだ? さすがにレールガンだけではな」

 

 

バリア波動砲の話が煮詰まってきたのを確認して、アドマイヤー大尉が別の話題を問いかける。

それに答えたのは、バータレック技師だった。

 

 

「攻撃性能、ミサイルは如何ですか?」

「そもそもR機にはミサイル標準搭載ですよ」

「いえ、アトミックミサイルです」

「原爆って、コストと破壊力を考えると余り意味の無い選択のような」

「純粋水爆ですよ。基本的に純粋水爆の臨界に必要な制御と計算を司るコンピュータが非常に大きく、

高価であるので機載が不可とされてきたのです。

オフレコでお願いしたいのですが、わが社では、これらを可能とする基盤とプログラムが研究されています。

軍の開発局とさえ連携できれば、これでR機に積める水爆ミサイルを作れます」

 

 

怪しい笑みを浮かべたバータレック技師がスタークルとアドマイヤー大尉に提案する。

アドマイヤー大尉は民間が軍に知られずに、強力な兵器技術を持っていることに目を細め、

スタークルはどこの秘密結社だよと、自分達のことを棚にあげてあきれていた。

 

 

こうして、第一回R-9B開発会議が幕を閉じた。

 

 

***

 

 

数ヵ月後、各所に戻って情報やら基礎実験やらを繰り返し、データを持ち寄った3人が居た。

 

 

「先ずは、軍開発局から説明させてもらう。巡航視察艇の高圧縮エネルギータンクを改造した。

これによりオーダー分のエネルギーをまかなうことが出来る。コレがデータだ。

デ・ハミルトン社との共同研究についてはバータレックに任せる」

 

 

アドマイヤー大尉が説明しながら示した書類にはR機の倍はあったエネルギータンク(増漕)が小型化されていた。

ギリギリR機として見られる程度の大きさに収まる。

他の二人は納得顔で頷く。

 

 

「では、次は私バータレックから報告します。わが社では軍と共同で小型水爆ミサイルの研究を進めました。

水爆ミサイル、“試作型バルムンク”は全長15mにまで縮小されました。

もう少しシェイプアップの可能と思いますし、現状でもギリギリ搭載可能な大きさでしょう。

その他航行関係のシステムチップの改良を行いまして、これは目標を達成しております」

 

 

今度はR機並みに巨大なミサイルが、表示される。

巨大すぎるが、今後の改良次第でもう少し小型化が見込めることが付け加えられている。

 

 

「Team R-TYPEスタークルです。機体フレーム、主機、推進系は改良が済みました。

ビット、フォースコンダクタは他機種のものを流用が可能なので、ディフェンシヴフォース搭載となります。

で、バリアについてはバリア波動砲として開発し……」

「「はぁ?」」

 

 

スタークルの発現に、他の二人からかなり強めの疑問符が投げかけられる。

R機の二大武装である波動砲とフォースのうち一つをバリアという消極的な兵器に回すのだ。

しかも、フォースにしてもデータを見る攻勢というよりは守勢に回るものに見える。

前代未聞のこの兵装に唖然とする、アドマイヤー大尉とバータレック技師。

そして、Team R-TYPE流のジョークだと思ったバータレック技師が半笑いのまま、スタークルに突っかかった。

 

 

「バリア波動砲とか、プッ、攻撃性能はどうするのです? まだ、実弾化したほうが使えるのでは? クスクス」

「……あ゛? 」

 

 

今度はスタークルが切れる番だった。

Team R-TYPEは研究者集団であり、すべからく自分の開発研究結果には自信を持っている。

それを嗤われるという事は、彼を怒らせるには十分で、普段、よく喋る二人にやり込められている分、

爆発も酷かった。

 

 

「基板屋は黙ってシステム構築だけしていろよ」

「基板屋? わが社のメインは基盤とシステム系ですが、それだけと思われては遺憾ですな」

 

 

その言葉を皮切りに、醜い罵りあいを開始するスタークルとバータレック技師。

暫く大人とは思えないような喧嘩が続くが、嫌気が差したアドマイヤー大尉が仲裁、というか評定にはいる。

 

 

「あーあーあー、二人ともそこまでだ。軍開発局としての意見だが、

長距離巡航機という当初の目的から見ればバリアが実弾化するのは、補給の観点から面白くない。

それなら波動砲として回数制限を取り払うべきだろう」

 

 

こういうときに私情を挟むと泥沼化することは目に見えているので、コンセプトを盾にとって、意見を述べる。

が、スタークルもバータレック技師もそんな気遣いを考慮する心の余裕は無かった。むしろ火種だった。

 

 

「おや、アドマイヤー大尉はTeam R-TYPEの肩を持たれるので?

しかし、その方針で行くならば、単発しか搭載できないバルムンクも無理ですなぁ。

アレはサイロが必要ですし、実弾です。まさかバルムンクも取り払うのですか?

生存性を高めたR機だとしても、決定力不足ではバイドに囲まれて鉄の棺桶になること請け合いです」

「いや、バルムンクは是非とも欲しいのだが……」

「ふん、基板屋さんは視野が狭い。

バリアの発現基部は非常にエネルギーが高い状態となるので、攻撃にも使えますよ」

 

 

勝手にヒートアップしていく二人を見やるアドマイヤー大尉。

ココで二人と無理やりでも仲裁しなかったことを彼は悔やむことになる。

 

 

後日、デ・ハミルトン社は当初の規約通り、基板や開発済みのシステムはR-9Bに搭載したが、

それ以上のかかわりは無用とばかりに、担当者も変わりその後の研究には超消極的参加となった。

 

 

***

 

 

R-9Bストライダー

バリア波動砲コンダクタ、通常型ミサイル、バルカン搭載。

フォースは防御性能優先のディフェンシヴフォースに決定した。

無補給での長距離巡航が可能。

だが、雑魚バイドを蹴散らすには小回りが利かず、

大型バイド相手には至近距離波動砲砲撃を行うという。

9ナンバーの皮を被った狂気の機体だった。

 

 

デ・ハミルトン社本社で、R-9B完成の報を聞いたバータレック技師は人事のように一言だけ述べたという。

 

 

「とんだ変態機ですな!」

 

 


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