・R-9B2“STAYER”
バリア波動砲という防衛兵器を搭載したR-9Bストライダーであったが、
他の機体と隊伍を組んでの防衛戦には強いが、
単機での戦闘は“お察しください”と言わざるを得ない性能。
そんな中で長距離任務などまともにできるわけが無い。
長距離移動では他のR機が付いてこられないのだ。
長距離任務を達成するには飽和的にバリア波動砲を展開し、
そのままバリアと通常ミサイルで押しつぶすといった、
バリアやR機の本来の意義を疑う戦術を取ることになる。
そんなイロモノ機をどうにかするため、検討会議が開かれることになった。
一度でもR-9Bストライダーの現状を見れば全員が諦めろと言う所だが、
軍事関係者にとって未だ長距離巡航機は諦め難かった。
それだけ戦場にばら撒くPOWアーマーが負担だったのだ。
しかし、軍開発局代表とTeam R-TYPE代表という二者での話し合いのなかで
(デ・ハミルトン社は部品提供に留まりたいとして参加を辞退した)
まともに検討が進むはずが無かった。
「軍としては決定力を維持したまま長距離無補給運用が出来る機体を望んでいる」
「R-9Bストライダーはその条件をクリアしています。
POWアーマーの随伴なしでの航続距離は他のR機に比べて群を抜いており、仕様通りの性能です。
デフェンシヴフォースはレーザー発射時のエネルギー消費が少なくこの場合適切だと判断します。
生存性という意味では、波動砲による防御が可能で、
また攻撃面においてもバリア波動砲の瞬間最高威力は……」
「分った! ストライダーの話はもう良い。
これから開発する新規機体性能を改善する議論をするべきだ!」
実際の成績を重視する軍と技術を重視するTeam R-TYPEの溝は深かった。
なぜなら軍は実際の惨状を見て失敗と判断し、Team R-TYPEは新しい発見に成功と判断しているからだ。
噛みあわない議論の中、議論は横道にそれ続け、
何故か、武装関連はTeam R-TYPE、その他は軍(+一部デ・ハミルトン社)で開発して、
くっつけるという謎の事態となった。
「R-9Bの用途として、どのみち集中運用が決定事項なら、レーザー砲台として使えば良い。
その上で致命的な事項は、大気中での不安定さだ。
長距離鎮圧任務の多くは外縁惑星や宇宙基地戦での露払いだから、
大気中では機体性能が70%程度とあるのを、100%にするだけで、単純計算で1.5倍の戦力となる。
B系列の改良としては、バリアの強化と大気圏運用型とするのはどうか?」
会議にうんざりした誰かの発言したこの言葉は、
明らかに本来の問題を無視しており、偏った機体になるのが開発前から分るような発言だった。
***
会議から数週間後、
Team R-TYPEのスタークルと軍開発局のアドマイヤーの二人が月面基地で再開していた。
「アドマイヤー技術大尉。またよろしくお願いします」
「R-9B系列の開発担当とはあまり嬉しくないが、今度も頼む。スタークル研究員」
「あれ、バータレック技師は?」
「デ・ハミルトン社は今回、限定的技術供与に留まることになったからな」
Team R-TYPEのスタークルと軍開発局のアドマイヤーが再びチームを組んで、開発を行うこととなった。
ただし、今回は共同開発というよりはそれぞれの部門の改良という言葉が正しいような案件となったが。
が、バータレックが来なかったのはそれだけではないだろう。
「この性能要求書おかしくないですか? バリア波動砲改良型に大気圏任務遂行性能の付与って、
軍部はバリアを嫌っていたような……いえ、別に我々Team R-TYPEはいいんですけど」
「おかしい。私も掛け合ったが、上層部の判断で決まった事として突っぱねられた。
私も技術士官といえども軍人だから、上の決定には従うことにするさ」
「じゃあ、我々Team R-TYPEは武装だから波動砲の改良ですね」
「またバリアか……いや、開発局では機体フレームの改良を考える」
こうして、数々の議論の妥協と末端の暴走の末、R-9B2の開発が始まることとなった。
***
月面基地のTeam R-TYPE研究分室でスタークルが実験結果と睨めっこしていると、
アドマイヤーが訪ねてきた。
「波動砲の方向性なのだが、それで行くのか?」
「ええ、防御と攻撃を両立できる波動砲ですから」
「堅さもだが継続時間が長いほうが助かるのだが……」
「バリアの顕現時間は、攻撃力に関与しないので優先順位はかなり下ですね。
開発費や期間に余裕があるなら、といったところです」
こうして、R-9B2の開発が始まった。
バリアは出力の問題が殆どなので簡易に改良できる見込みが付いたのだが、
難問だったのが、大気圏運用型という項目だった。軍開発局員であるアドマイヤーの分担部であるが、
行き詰った感のあるアドマイヤーはTeam R-TYPEからスタークルを呼び、二人で検討をすることとした。
「惑星内航行能力に難があるのは、システムが宇宙空間に最適化されている所為ですね。
その他細かい部品も宇宙用で空気抵抗をあまり考えていません。ザイオング慣性制御システムの恩恵で、
惑星上でも重力は無視できるし、空気抵抗もかなり弱められますが、抵抗の完全無視はできませんから」
「機体に大気圏内用の整流ウイングを付けて安定させるか。機体重量が増えそうだな」
「宇宙空間においては完全なデッドウエイトですからね。それより、航行システムはどうします?
デ・ハミルトンで担当したところですよ。弄くっても良いならTeam R-TYPEでやっても良いですが」
アドマイヤーは少し考えて一つの決定を下した。
「これもアフターサービスの一環だ。バータレックを呼び出そう」
デ・ハミルトン社の所有する宇宙研究施設の一つで、別途軍部の支援を受けながら
未だに核ミサイルの研究を行っていたバータレック技師が呼び出されることになった。
前回R-9B開発では開発内容での意見の相違から、喧嘩別れに終わっただけに、
シャトルから降りて来たバータレックの顔は不機嫌そうに歪んでおり、
スタークルとアドマイヤーの顔を見るなり皮肉を吐いた。
「お久しぶりですね、お二人とも。R機開発に長けたTeam R-TYPEや開発局では、
我社の技術など必要にはなさらないとばかり思っていましたが?」
「……その節はお世話に」
「社交辞令は結構」
ミサイル兵器開発中に無理やり呼び出されたバータレックはかなりお冠の様で、
前回彼と喧嘩をしているスタークルは萎縮気味だ。
「R-9Bの航行システムに穴が見つかった。デ・ハミルトンとしてもアフターサービスは必要だろう?」
「システムに穴? 航行効率15%アップを達成していたのはあなた達も確認したでしょう」
「だが、宇宙空間特化のため大気中での安定性が非常に悪く、惑星上では燃費が悪くなる」
「少々、特殊ケース過ぎやしませんか」
強気に出るアドマイヤーに、軍という権力の看板は便利だとスタークルは感心していた。
二人の会話をぼーっと聞いていると、アドマイヤーが「お前も何とか言え」と目線で話しかけてきたので、
スタークルはおずおずと、フォローらしきものを口に出す。
「その、R機は全状況型の戦闘機ですからね。水中は制限がかかっても仕方ないですが、
Team R-TYPEでは大気中、ワープ空間中もほぼ同等の機動性が出るよう考慮します」
「……ほう、私の手落ちだとおっしゃる?」
「そこまでは」
気弱なスタークルは押され気味だが、技術者としてのプライドを刺激されて
バータレックが食いついたと見たアドマイヤーが餌をぶら下げる。
「バータレック技師。
知ってのとおり軍開発局のメインは艦艇開発なのだが、そちらには私の友人の技術士官がいるのだ」
「……それで?」
「純粋水爆ミサイル開発には資金がいるし、水爆ともなれば臨界前試験だって審査が厳しい。
だが、軍開発局のお墨付きがあれば、軍施設を使える上に起爆実験だって可能だ。
それに、ミサイル艦ならあの試作型のミサイル‘バルムンク’も運用できるのでは?」
「……いいでしょう。機体のデータをください。私がデータを持ち帰って航行システム改良します」
大人の会話を終えた二人が、にこやかな笑みを貼り付けた顔で握手していた。
***
アドマイヤー大尉が色々と伝手をたどって航空機メーカー、マクガイヤー社から
大気圏用ウイングにかんするデータを受け取り、色々試行錯誤をしては大気圏用に慣らした。
そのたびに「機体仕様が変えやがって、航行システムがまた作り直しだ」とバータレックが憤慨していたが、
軍開発局への口利きの威力は素晴らしく、文句を良いながらも素早い仕事をしてのけた。
バリア波動砲はチャージにさらに時間を掛けることで、燃費に影響を及ぼさない範囲で
威力の向上が可能になった。
バリアとなる擬似物理構造ブロックの最大発生数が増加しており、展開する前の、基部の攻撃力は更に上昇している。
こうして、R-9B2ステイヤーが完成した。
***
「そういえば、バータレック技師に言っていた件ですが。ミサイル艦に水爆ミサイルを積むのですか?」
「いや、現在就航しているニーズヘッグ級や、開発中のフレースベルグ級までは、
亜空間潜行してくるバイドに対抗する兵器を積み込むことになっている」
「え、それじゃあ、口利くって嘘じゃ……」
「駆逐艦は値段が安く、取り回しが良くて酷使されるから寿命も短い。必然的に新型の開発も早い。
あと10年もすれば新しい駆逐艦の開発も始まるさ。それにあのバルムンクが採用されるかはしらないが」
この後、アドマイヤーの仕組んだとおり、
‘バルムンク’を標準装備した新型ミサイル駆逐艦が少数配備されることになる。