プロジェクトR!   作:ヒナヒナ

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R-9F“ANDROMALIUS”

R-9F“ANDROMALIUS”

 

 

 

R機の特徴といえば色々あるが、武装面では波動砲とフォースに集約される。

波動砲はその波動エネルギーの取りまわしやすさから、非常に多くの傍流を生みだした。

だが、フォースには暴走事故や、バイド汚染などの危険があるため、波動砲ほどには改良が早くはない。

何せ、一回の事故で基地が丸々吹き飛ぶのだ。完全に。

なので、フォース開発はバイド研究と機器開発のできるTeam R-TYPEの専門となるのだ。

政府や軍はTeam R-TYPEに技術を独占させておくのは危険だと思いつつも、任せるしかない。

予算などの首輪を付けて飼いならすしかないのだった。

 

 

「で、できたのがこのアンドロマリウスという訳ですね」

「ええ、そうだね。こんなナリだけどR機の歴史上重要な機体だよ」

「ええ、最初期のR機ですし、R’s MUSEUMで、特に前面に押し出すのにはちょうどいいでしょう。

でも、この仕様書の説明をそのまま文章化するわけにはいかないですね」

「そこは君達広報課の仕事だろう。そう言えば奥さんは元気かね?」

「……ええ、お陰様で身体の方もぼちぼちです」

「それは君が苦労かけすぎたからだろう。まあ、独身貴族である私には縁の無い話だがね」

 

 

白衣の壮年男性とチノパンにポロシャツという自由業的な格好をした男が話している。

ちなみに、両方ともTeam R-TYPEの職員ではある。

白衣の方は古株の研究員のリネット、暫定自由業の方はTeam R-TYPE広報課の担当者ロジェだ。

二人が話しているこの広大なフロアは、Team R-TYPE主催のレジャー施設であるR’s MUSEUMである。

と、言っても未だ建築中であるが。

 

 

「ところで、閉鎖的なウチ(Team R-TYPE)がよくこんな施設の建築を許しましたね。しかも発案は開発課からでしょう?」

「ロジェ、それについても誤解があると思うのだが、我々は閉鎖的なのではなくて、外に興味がないだけだよ」

「基本的にオタクの集まりですからね」

「オタクだけという訳ではないよ。権威主義者もいる事にはいるが、能力が伴っていないと消える。

つまり組織の自浄作用が働いた結果、能力があって秘密を守れる人間だけが残ったという事だ」

「それ、自浄作用って言わないです。というか現在進行形で人体実験している組織が言わないで下さい」

 

 

R機の研究は異様に深く広がっていて、この世界に足を踏み入れたら他の物は見えない。

そういう人物しか馴染めない組織なのだが、例外的に広報課や総務課などは研究者以外の事務職であるため、

Team R-TYPEの大多数を占める開発課とは、人種が隔絶しているのだ。

そんな考えに沈みかけていたロジェは考えを振り払う。

 

 

「おっと、いい加減広報課の仕事をしないと、人事部に次にどこ飛ばされるか分からないですね。

アンドロマリウスはこの展示エリアの顔として特に詳しい説明を入れますので、開発エピソードとかを聞かせてください」

「ふむ、始まりのR機アローヘッド以降、R機は幾重にも枝分かれして進化していったのだが、

フォースもスタンダード以外の道を探し始めた。で、その際にフォース実験機となったのがR-9Fアンドロマリウスだ」

「アンドロマリウス、ソロモンの悪魔ですね。R-9Fはフォース実験機専門として開発されたという事でよろしいですね」

「いやむしろ結果論だな。R-9の基礎フレームを使って、フォーステスト用に使いやすいように改良していたら、ああなったんだ」

「実験用機が格上げされたのですね。それで、工事中みたいな色なのですね」

 

 

ロジェはオレンジに白いラインという目立つ色を思い出して言った。非常に宇宙空間では目立つ色だ。

そして、メモを取りながら、「ほう」「なるほど」「それから?」など適度に相槌を打ってリネットの話を促す。

 

 

「では、あの特色のある腕は何時ごろ取りつけられたのですか? リネット研究員」

「コントロールアームかね。実験中のフォースというのはともかく暴走事故を引き起こしやすくてね。

小規模暴走でも基地を半壊させる。なので、フォースのコントロールロッドとは別に機体側に、

制御機構を取りつけようと言って付いたのがコントロールアームだ。つまり暴走抑制機構さ」

「R機に常設するという意見はなされなかったのですか?」

「ああ、テスト機専用だな。当初は暴走抑制だったのだが、次第に改良されていってな。

まず、研究の都合でフォースの付け変えに対応できるように前後への稼働が可能になった。

そして、次に色々遊……テストしているうちに、個別のフォースが作られてな」

「ロッドレスフォースですね。コントロールロッドを持たない特異なフォースでしたか」

 

 

広報課の男がちらりと資料を見ると、まんまるなフォースに杭を打ったようなシルエットをした奇妙なフォース。

ロジェは上から資料を持ち逃げしないと信用されているので、一部、機密度の低い資料を見られるのだ。

本人としては非常に不本意な事だが。

 

 

「ロッドレスというけど、ロッドがないのではなくて、埋め込み式の物があるし、大本は機体側についているだけだよ。

当時は新しいR機の可能性を見出そうと、皆躍起になっていてね。で、レーザー関連の機能をいっぱい付けようとしたんだ。

そうしたら、まあ、余裕で通常のコントロールロッドを容量オーバーしてね。それで、コントロールアームに分割する事なった。

で、その最中に誰かが言ったのさ。これならフォースはロッドなしでいけるんじゃないか。って」

 

 

昔に思いはせているのか、リネットは完全にここでは無い何処かをみて言った。

それがこの老研究員の青春だったのだろうか。とロジェは生温い笑顔を浮かべた。

若い時分やんちゃして暴れまわっていた自分とは偉い違いだ。そのお陰でこんなブラックな職に就くことになってしまった。

やたらと変な方向に向かう考えを振り棄てて、ロジェはリネットに次の質問を発する。

 

 

「それが本当なら、各種レーザーへのエネルギー受容体やエネルギー変換機構は機体側にあるのですよね?

機体側のアーム換装でいくらでもレーザーを変更できるということでは? 一般に普及しなかったのですか」

「いやいや、そうは問屋が卸さない。非接触型のアームではレーザー出力も小さくならざるを得ない、

この資料の通り、各種レーザーの出力は小さい。そして、何より暴走問題があったからね」

「? アームが暴走制御をするのでは?」

「君は各基地や艦隊でフォースがどうやって保管されているのか知らないのか?

バイド汚染の見地から、機体から引き離されて別途保管される。で、ロッドレスフォースの制御機構はどこにある?」

「……機体側です」

「そう、フォース側にあるのは機能のごく一部だからな。

分けて保存されて不安定になったロッドレスフォースは時限爆弾の様に暴走するっていう懸念……

そう懸念があったため、R-9Fとロッドレスフォースはテスト用以上の機体、フォースにはなりえなかったのさ」

 

 

確かに戦艦であろうと、腹の中でフォース事故を起こされたら助かるはずもない。

このフォーステスト機はTeam R-TYPE以外ではまともに動かないだろう。

 

 

「ええと、とりあえず紹介文では暴走だとかのところを省いて、フォース開発に貢献した事だけ書きましょう。

で、ですね例えで、どんな機体の発展にもっとも貢献したのか知りたいのですが」

「まあ、RX-10アルバトロスとテンタクルフォースだろうね。スネイルRAYの攻防一体の比較的強いレーザーだ。

フレキシブルフォースにも継承されているし、その大本になった触手レーザー試作タイプの功績は大きい」

「触手って……ここの施設は子供の入場も予定しているのですが。むしろ子供にR機の素晴らしき歴史を教える事が目的です」

「唯の明確な比喩として名称にしただけだ。君といい軍部の奴らといい、なぜ触手という単語にこだわるのか。

スネイルなんて名前に変更させられるし、触手なんて唯の無脊椎動物に付いている感覚器と手腕を兼ねた部位だろう。

君は腕とか目鼻なんて単語に欲情するのか!?」

「え、いえ、そのそうは感じませんが、その教育上あまりよろしくない単語は……」

「何がよろしくない単語だ。理科の教科書や解剖図には堂々と子宮や睾丸などの単語が乗っているぞ!」

「それはそうですけれど、そういう問題ではなく……」

 

 

グダグダと噛み合わない言葉のドッヂボールを続けた後、正式名称だからという研究者側の意見が通り、

“触手レーザー試作タイプ”の文字が堂々と武装欄に明示されることになった。

ロジェは開館後にこの機体の前で子供から、単語の意味を問われることになる哀れな父親を想像した。

自分で想像したその平和そうな光景にイラっとしてから、ロジェはインタビューを続ける。

その後も色々聞きだしていたが、締めに入る事にした。

 

 

「分かりました。ではこの聞き取りを元にデータ作成します……ことろで、これ、実践投入されていますか」

「いや、実験機と言っただろ」

「いえ、オフレコですから。昔、軍部の奴でこれが飛んでいるのを見たっていう噂があるのですよ」

「どこでそんな事……ああ、君はそういうのが得意だったな。まあいいだろう。実はな……」

 

 

男が語った事によると、

当所からフォース実験機としてTeam R-TYPEが運用していたR-9Fであるが、

やはりというか何というか、Team R-TYPEの必然として、武装化案が出たという。

時期的には第二次バイドミッションでバイドを打倒し、人類がつかの間の平和を手にした時代。

Team R-TYPEも余裕があったことから、何故かそんな無駄な案が秘密裏に実施されてしまった。

フォースにレーザーはともかく、調子に乗った彼らはミサイルサイロを増設し、あまつさえ波動砲さえ搭載した。

RX-10に積んでいた衝撃波動砲を無理矢理搭載したのだ。

そして、標的として廃棄寸前のPOWアーマーを放った異相次元で、R-9Fの試験運用が実施された……

 

 

「そのあと、どうしたのです?」

「まあ、その頃の地球圏にはバイドもいなかったし殆どのR-9Fが帰還したよ。ただ秘密作戦だからな。

戦艦や巡航艦なんて贅沢な迎えはない。普通の輸送艦に格納して、実験終了……になるはずだった」

「はずだった?」

「ああ、さっきも言っただろ。ロッドレスフォースは単体では制御が不完全だから、R-9Fからひきはなしてはいけないと」

「……フォースが暴走したのですか?」

「ああ、でもまあ中古輸送艦1隻とTeam R-TYPEで管理している試験機だからな。誤魔化しはいくらでもきいたがね」

「だから、ウチは周囲から危険物扱いされるのですよ」

 

 

ロジェは大いに呆れてそう言った。

政府機関に立ち入る際、警備に身分証明書を見せた途端、バイドを見る様な目をされる事など、日常茶飯事だ。

そういう対応には個人的に慣れているとは言え、これ以上事務に支障をきたしたくない。

 

 

「失敗は成功の父だ問題ない。しかし、ロジェ君。所属部署は違えど君はウチの職員だから言ってみたが、

外に漏らす様なことがあれば、君は実験室に人事異動だからね?」

「分かっていますよ。それに私がそんなことできない事はご承知でしょう?」

「ああ、分かっているなら良いんだよ」

 

 

***

 

 

Team R-TYPEには一部特殊な職員が居る。

犯罪者の内でも特に、経済犯罪やサイバー犯罪などで長期刑を宣告された受刑者、

いわゆるインテリ系犯罪者を職員として秘密裏に事務職採用しているのだ。

もちろん、業務に足る能力と向上心があり一定の弱点のあるものが選定されている。

彼らはTeam R-TYPEで勤務している内は身分が保障され、給料も支払われる。

だが、職業の自由は無く、Team R-TYPEに不利益を及ぼす行動を取れば即座に実験体として内部で処理される。

万が一、外に逃げられたとしても、犯罪者として登録してあるので、まともな人生はおくれない。

また、彼らの選定基準として、家族などの弱点を持ち、裏切れない性格の者が選ばれている。

かくして、Team R-TYPEは使い捨ての効き、守秘義務を守れるという矛盾する人材を確保していた。

 

 

だから、広報課の職員が過去に愉快犯的に軍のシステムにハッキングして機密情報を盗み見たり、

それがバレて終身刑を食らったりしていたとしても、

Team R-TYPEとしては、使い勝手の良い駒が手に入るだけで、比較的どうでもいいことだった。

 


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