プロジェクトR!   作:ヒナヒナ

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※第一次バイドミッション直後くらいの時間軸です。


R-11A“FUTURE WORLD”

R-11A“FUTURE WORLD”

 

 

 

 

未来世界というと、どういったものを思い浮かべるだろうか。

意外と世相に左右されるそれは、明るい世界だったり絶望的な世界だったりする。

バイドの侵攻を受けている現在、アンケートを取るならば、きっと、暗い未来予想図がメインになるだろう。

過去の時点、未来への希望が溢れていた時期には、滑稽無到ながら明るい未来を想像するものも多かった。

完全管理社会、温めると巨大化するピザ、自立型ロボット、チューリングテストをパスするAI……

 

 

しかし、圧倒的未来に生きるTeam R-TYPEの前には、未来世界など新機体の名称でしか無かった。

 

 

***

 

 

「辺境警備隊が何か寄こせって言っていますよ」

「ほっとけよ。俺たちはR-9を小型化するのに忙しいんだ」

「2人とも、手と頭を動かせ」

 

 

発言順にマチス、ターナー、エッシャーの三人だ。Team R-TYPEの研究員ではあるが、

メインの設計や研究には触れられない予備斑として、所属していた。

今の彼らのR-9の小型化とそのバリエーションモデルの構築。

これはR-9A2デルタの開発の余波であったが、彼らにはまだ知らされず、単に技術集積として研究している。

 

 

暫くして、一番年かさの班長エッシャーが小休止を提案すると、ターナーとマチスも賛同の意を示した。

そして、泥のように濃いコーヒーを飲みながらマチスが話す。

 

 

「なんか唯の技術集積のためにR機作るのも虚しいし、例の注文もあったから、

今研究している小型R機を辺境警備隊仕様として開発するのはどうだ?」

「えー、マチス先輩大丈夫ですか? 僕らR-9の開発時にも下受け的な作業しかしてないじゃないですか」

「馬鹿だなターナー。R-9は唯一の制式R機。つまりこれ以前に制式機開発に関わった奴は居ないんだよ」

「メインメンバーはR-8とかの頃から関わっているじゃないですか」

「あれは唯のテスト機だ。つまり、まだ、研究者層の厚くない今がチャンスなんだ」

 

 

マチスとターナーがそんな雑談をしているのをエッシャーが黙って聞いている。

班員2人が、口数の多くないリーダーが意外と行動派だと知るのは、翌日になってからだった。

 

 

***

 

 

味気ない研究室、最低限のものだけが置かれたそこには、エッシャーとマチス、ターナーが揃っていた。

 

 

「今日から我が斑で新R機の開発が始まることとなった。暫定的に9、10に続くR-11Aの開発番号が与えられるが、

先日の話にあったように、小型かつ旋回性に優れた機体であることを前提として、

信頼性を高めコストを下げるため、既存技術を使えるところは徹底的に使っていく。

また、武装警備隊でも使えるよう、武装は最低限とする。これによってコストも引き下げられる。

場合によっては新規制式R機の波動砲積み込みテストにも使用することがあるらしい」

 

 

いきなり、エッシャーから大事を告げられたマチスとターナーはポカンとしている。

今まで、日陰者扱いだったのが急に開発プロジェクトチームになったのだ。

 

 

「えっと、班長、俺の言ったこと、あれ、冗談半分だったんだけど……」

「私は他の研究者よりちょっと出遅れただけで、ここで終わるつもりはない。

マチスもターナーもやる気がないなら他の斑の奴に声かけるぞ」

「え、やりますやります」

「よろしい、では……」

 

 

方針を説明するエッシャーであったが、結局のところ小型化に集約されたため、

マチスとターナーはため息を付くことになった。

そして、意見が特にないことを確認したエッシャーはそのまま、武装案についての検討を開始した。

 

 

「波動砲は上の方がテスト用のを載せたいらしいから、こちらでは手をつけられないぞ。

フォースもだが、レーザーはこちらの言う物を搭載させてくれるらしい」

 

 

エッシャーがそう言うと、ターナーが意見を述べる。

 

 

「やっぱり、市街地戦用ってことで周囲に気遣った武装にしたいですよね。

というわけで、搭載するレーザーは細身にしましょうよ」

「それは良い考えだが、いざ面的な攻撃をかけなければならないとき大丈夫か?」

「マチス、心配は無用だ。

トリガーは増やすと操縦が煩雑になるから、速度スロットルか何かに連動すればいい」

 

 

こうして、武装案が詰まって行き、武装案が確定する。

速度によって変化するレーザーというコンセプトを打ちだし、

速度によって径の変わる対空レーザー、打ち出し角の変わる反射レーザーと対地レーザーが採用された。

誘導ミサイルなどを組み入れられるようにサイロも設置することにし、R-11Aの全容が決まっていく。

日陰者の研究者達は半年をかけて形を作っていく事になった。

 

 

***

 

 

「班長、ボルトクラスターってなんですか?」

「上曰く、複合電磁射撃らしい。大推力のR-11Aに目を付けた武装研究班が作り上げた武装システムだ。

低速時に有り余るエネルギーを変換して、汎用武装であるレールガンを複数並列で駆動・制御し、

実弾を高密度、高速で打ちだし弾幕を形成するらしい。自動制御により単装よりも多少面制圧が効く……だそうだ」

 

 

最年少のターナーは、純粋な疑問として班長のエッシャーに問うのだが、回答は心なし歯切れが悪い。

だが、それには気付かず言葉を重ねるが、途中でマチスに窘められる。

 

 

「実弾を高密度高速で? 非常に面倒な上に回りくどい武装システムですね、それ。

R-11Aは高機動が売りの戦闘機なのだから。低速でその武装システムを使うより、

高速で動き回りながらレールガンを叩き込む方が有用ですし、正直レールガンでも手数間に合っていますよね。

威力の話ならいっそミサイルがありますし、そもそも射程が……」

「おい、俺もそう思うけど、あまり言ってやるなよターナー。

武装研究班といえば、レールガン開発後、分離した波動砲、

フォース、ミサイル研究班に美味しい処を食われ、既存兵器の改良に精を出そうとしたら、

今度はなまじレールガンが完璧なデキだったからやることなくなったんだ。

おそらく、レールガン関係で色々考えていたら、元の目的忘れたんだろ」

 

 

マチスにとって、自分達余り者的な予備班に近い境遇の武装開発班は、他人事ではない。

そんな、下から数えた方が早い組の、妙な連帯感は余所にして、

上層部の取りあえず予備実験機に何でも付けてみて、まとめて評価してみればいい、

というのが新規制式R機のコンペを控えた上創部の方針だったが、R-11Aがその被害に合うこととなった。

 

 

***

 

 

結局、役に立つのか分からない複合電磁射撃システム、ボルトクラスターをR-11Aの胴体に積み込み、

機体重量のバランスをなんとか取り終えた後にそれはやってきた。

 

 

「これが、衝撃波動砲(初期型)……」

「これR-11のフレームに組み込むにはでかすぎませんか?」

「スピードが犠牲になるが、まあ、重量制限には引っかからないだろう」

「いえ、マチス先輩、そうではなくて、この巨大な波動砲コンダクターはどこにつけましょう?

さすがにこの大きさではコックピット下には無理ですし、サイドはボルトクラスターで埋まってます」

 

 

ターナーのつっこみに黙ってしまうマチス。そして、暫くしてエッシャーが回答する。

 

 

「……よし、波動砲は背負わせよう」

 

 

あんまりだが、どうしようもない回答に黙って従う2人。

そして、ターナーが小声でマチスに言う。

 

 

「マチス先輩、圧縮炸裂波動砲って広域殲滅用ですよね。で、R-11って警備隊に渡す予定じゃないですか。

これ市街地上空とかで使ったら被害でませんか」

「それは……ほら、おまえ、あれだよ。バイド警報出たら即非難が義務だし避難しているだろ。多分」

 

 

半ば諦めた様な表情で適当に言うマチス。被害がでることなどマチスも分かってはいたのだが、

上からの指示ということで、あえて気が付かない振りをしていたのだ。

 

 

結局、無意味武装ボルトクラスターと、上からの圧力で当初の開発目的を無視したちぐはぐな武装を装備した

R-11Aフューチャーワールドは、未だバイドが蔓延る辺境警備隊に預けられ、現地検討されることとなった。

 

 

***

 

 

圧縮炸裂波動砲で小型バイドを打ち破りし、辺境施設周囲に群がるバイドを駆逐していくR機。

バイドミッションが終わっても辺境に居残るバイドを駆逐する辺境警備隊だった。

自らの街を守るべく、バイド浸食が始まった外壁を吹き飛ばし浸食を食い止めたり、

いつの間にか侵入した小型のバイドを討ち滅ぼしたりと、

小型で小回りの効くフューチャーワールドは都市部で八面六臂の活躍をした。

広範囲を巻き込む、圧縮炸裂波動砲はバイドを逃がさず、周囲の障害物ごと消し飛ばしていく。

今までバイドの侵攻に軍が対応するのを、指を銜えて見ていた彼らにとって、まさしく気分は未来世界の英雄だった。

 

 

だが、辺境都市内部から見ると様相は一変する。

どう見ても、見慣れぬ紫色のR機が都市を攻撃しているようにしか見えないのだ。

軍の英雄機R-9アローヘッドは目の醒めるような白色に赤い差し色の戦闘機だったはずだ。

バイドが機械を浸食して取り込むこともあるという。ならば都市を攻撃するあれは敵ではないか?

そう考えた、人々は紫色のR機から逃げまどった。

この掃討戦が終わった後、辺境都市のビルは中腹から抉られ、倒壊しているものも多く、廃墟のような有様だった。

フューチャーワールドは破壊の限りを尽くすR機として恐れられていた。

 

 

***

 

 

「マチス、ターナー、R-11A系列は計画を一時凍結されるらしい。今ある分は工廠に戻されて武装改修を行うらしい」

「改修型は辺境警備隊で制式採用……その辺境警備で被害拡大したんだろ、いいのかよ」

「あの都市はバイド汚染の可能性を鑑みて廃棄処分となったから、そこでの活動は考慮されない。

それに既存技術が多いことから信頼度は高いし、ボルトクラスターと波動砲は除いて、基本性能はかなり優秀だ。

R-9では入れないところまで入れるし、軍でも低コストの随伴機としての運用が検討されている」

 

 

そんな会話を最後に、波動砲装備型のR-11Aは実質消え去った。

そして、武装がレーザーのみになり更に重量が軽くなったR-11Aの辺境警備隊仕様(2式)は、

スピードを制限された状態で辺境都市の周囲を飛び回ることとなった。

 

 

R-11Aは都市部での波動砲などの武装と、軍以外の都市警備のあり方に疑問を投げかけた。

その後11A系列は直系の後継機の開発を計画凍結され、系列の名称をR-11Bに変更し、

改めて都市部でのR機運用を目指す流れになる。

 

 

しかし、この時期から辺境からもバイドが駆逐され、バイドの侵攻はパッタリとやんだ。

R-11Aが次に日の目を見るのはサタニックラプソディ 事件の時だった。

 

 




投稿期間が開いていたのは、予約投稿分が切れているのに気が付いていなかったからです。

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