今回がラストダンス発動後になります。
R-11S2“NO CHASER”
第一次バイドミッション、サタニックラプソディ、デモンシードクライシス、第二次バイドミッション。
そして、サードライトニング作戦。
人類はバイドの侵略を受けてはそれを跳ね返してきた。
しかし、人類の天敵とも言えるバイドは、滅ぼされる度に更に強力となって復活してきた。
現在もサードライトニング計画完遂によって、バイドは完全に駆逐されたと政府は宣言しているが、
軍は戦力の回復に力を注ぎ、対バイド兵器開発機関であるTeam R-TYPEも裏で蠢動していた。
実際には、どこからともなく出現するバイドを早期に打倒すために秘密裏に軍が投入されていた。
政府はバイドが地球圏に存在することを秘匿しようとしていたが、時に都市部にすら出現する事があった。
バイドに触れたものはすべて汚染体として処理すべしとの命令が出ていたため、
被害の拡大を恐れる軍は、都市部にバイドが現れると周囲に厳戒態勢を引き、その処理にあたった。
バイドが居住区を破壊すれば、地方都市のシェルターごときでは歯が立たず潰される。
バイドが長時間都市部で暴れれば、バイド汚染体として多くの都市住民が“処理”される。
一分一秒を争う都市部バイド掃討戦において、その圧倒的な機動性から、R-11Sがその任についた。
そして、何度目かのバイドの来襲とともにオペレーション・ラストダンスが発動された。
***
「レイジさん、現場からR-11Sの文句が酷いです」
青年から中年に片足踏みこんだ様な白衣の男性が肩を落として部屋にはいってくる。
そして、研究室内で論文を検討していた坊主刈りの男に泣きついた。
「酷いって、ちゃんと簡易説明書にも最初のページに大きな文字で“最高出力で旋回するな”って注意しておいたのだが、
カクテルになった馬鹿どもは文字が読めなかったのか?」
「軍は都市部での運用を念頭に置いていたようですから。障害物を避けようとしての事故みたいですね」
「ロックオン波動砲もあるのだからビルくらい破壊すれば良いのに、まったく」
R-11開発班、班長のレイジに報告するのは、うんざりした顔の班員ノナカだ。
R-11Sトロピカルエンジェルは高機動が売りで、他のR機を圧倒する加速性能と旋回性能を保持しているが、
残念ながらR機の最も脆弱な部位はザイオング慣性制御システムのキャパシティを超えた超機動により、
原型を保てないため、リミッターを付けての運用を行っていた。
しかし、バイドから都市住民を守ろうとする、R機パイロットの決死の努力の結果
R-11Sは、R-11Bピースメイカーをもじって、“スープメイカー”と呼ばれることとなっていた。
「ビルからの避難が進んでなかったので、避けようとしたようですね」
「それで事故ったら本末転倒だろ。何を考えている。
まあ、外の雑事はどうでもいい。それよりノナカ、この新式ザイオングシステムの案はどう思う?」
「すごく、小さいです」
「だろう? これなら並列で積み込む事で、R-9/0だって引けを取らない最高速を叩きだせる」
レイジは新しく改良したザイオング慣性制御システムの企画書をノナカに見せる。
ノナカはその浮かれた様子に少し呆れながら、スピードに命を掛ける上司に、適当に相槌を打つ。
「これからこれが主流になる」とか「スピードが命だ」とか言っている上司に付き合っている内に
ノナカは「最近、あまりR機開発に関わっていないな」と考え、むなしくなってきた。
幾つかの班の様に、平均睡眠時間1時間のデスマーチを敢えて敢行する気は無いが、
そこまで自らを追い込んで何かに打ち込む同僚達を見ると、今の自分に虚しい感じがするのも確かなのだ。
ノナカは、ふと思いついた。
「レイジさん。新しい系列機作りませんか?」
「新しい機体? そりゃ他の研究室でラストダンス用に色々作っているし、俺達が作る必要はないだろ」
「ええと、あー、その、R-11系列に変な名前を付けられたままも嫌ですし」
「ハキムも他の研究班に取られてしまって、新人にザイオングシステムのイロハを教え込まないとならんのだが」
研究室のストッパーとして機能していた研究員のハキムは、万能さを買われて他のR機開発班に転属している。
現在、班長のレイジが新しく入った新人研究員を、自分の趣味―スピード狂―に染めている真っ最中だ。
ノナカは、班長を上手く乗せるにはこれを利用するしかないと考え、セールストークを放った。
「……じゃあ、そうですね。“最速”のR機。作りたくありませんか?」
「最速……んんん。その方針なら考えない事もないが、流石に上の方針を無視はできんよ。その辺の案はあるのか?」
「さっき言ってたじゃないですか。このラストダンス作戦の御陰で色々やっていますし、理由はどうとでもなるのでは?」
「……まあ、また市街地戦前提で話を進めるか」
こうして、R-11系列の新型R-11S2(仮)が新たなR機開発競争に紛れて開発を開始された。
***
宇宙空間のTeam R-TYPE開発施設。そのユニットそのものが立ち入り禁止区域に指定された研究施設では、
白衣を着た中年男性ノナカが、若い女性研究員と相談していた。
「ノナカ先輩。班長がおかしなことを言っているのを聞いたのですけれど?」
「ミリー、レイジさんがおかしいのは何時もの事だろ、で、なんだって?」
「何年か前に開発凍結になっていたR-11系列? それで新規開発を行うとかなんとか」
「ああ、それね。うんほらミリーもどうせならR機開発やりたいだろ?」
「もしかして、先輩が嗾けたのですか?」
「ミリーは知らないんだろうが、何年間ザイオングシステムだけ研究していると思ってる!?
新たなR機も作らないんじゃ、これじゃ何のためにTeam R-TYPE入ったんだよ」
「気持ちは分かりますけど、嗾けるのはどうかと思いますよ」
「いいんだよ、速さを求めた機体ならレイジさんの趣味でもあるだろ。ともかく、俺はR機が作りたいんだ!」
「んー、でも新しい機体かぁ、やっぱり武装とかも作るのかしら……?」
腕を振り回してエキサイトするノナカと、ぼうっとあらぬ方向を見つめて呟く新人ミリー。
ミリーも満更でもなさそうということもあり、結局、R-11S2の研究を進めていくことになった。
***
翌週、ノナカ達の研究室に班長のレイジが意気揚々と入ってくる。
ザイオング慣性制御システムの試作模型が転がっているのを除けて、会議スペースを作る。
出席者はもちろん、中堅研究員のノナカと新人ミリーだ。
「さて、先週言っていたR-11S後継機開発計画として、R-11S2(仮)のGOサインが出た。
まあ、内容としてはR-11Sの純粋なバージョンアップと言ったところだな。
ただ、軍部と武装警察から念を押されたこととして、パイロットが潰れるのは困るとのことだ」
ちなみに、ここでいう“潰れる”とは比喩ではない。文字通りの意味だ。
簡単な企画書を確認しながら話すレイジに、勢い良く挙手したミリーが目をキラキラさせながら尋ねる。
「新しい機体ですか? 新しい機体ですね! 武装は? 波動砲とフォースはどうするのですか?」
「この機には破壊力は求められていない。だから波動砲もフォースも本来的におまけだ!
フォースは据え置き、まあ、波動砲はロックオン機構とループ回路を強化するけどな」
レイジがはっきりと言い切ると、ミリーは悔しそうな顔をする。どうやら新人は武装マニアだったらしい。
しかし、何よりもスピードを信奉する班長のレイジとしては、これ以上のデッドウエイトは許容できなかった。
ノナカも今回のコンセプト上は、武装関係はこれ以上要らないと思うので、班長レイジ寄りの立ち位置だ。
R-11Sの活躍する実際現場として、これ以上の火力は求められていない。いや、むしろ邪魔にさえなる。
フォースの強化は、基本的にバイド係数の上昇に結び付くので、これ以上の強化は求められない。
波動砲も都市部に下りてくる雑魚バイドを掃討するには、強力な一撃よりも、多数の弱攻撃の方が良い。
以前の事件の様にA級バイドなどが都市部に発生する様な事態なら、本来なら艦隊が出動する事になる。
R-11S2に求められるのは現場に急行できる足と、小回りが可能な制御能力。つまり火消しなのだ。
「ということで、ロックオン波動砲Ⅲに技術的な問題はない。ループ回路は既存の物だし、
ロックオン数の強化は、波動砲コンダクタでは無くて制御システム側の問題だからな」
「班長、ロックオン波動砲ってロックオン数が増えると、波動砲が分散されて、威力がさがりますし、
目標当たりの破壊力が落ちるという、致命的な弱点があります! なのでもっと火力を……」
「リボーや、キャンサー、または障害物を破壊できればいいのだ!」
その後、レイジは設計思想を説明すると、鼻歌を歌いながら研究室を出ていった。
おそらく、今回のR-11S2に載せるザイオングシステムの選定に行ったのだろう。
ムスっとするミリーに、ノナカはこのままでは不味いかなと、思った。
新人といえど貴重な戦力なのだ。この事を不満に思われて他の研究班に逃げられてはたまらない。
そこまで考えると、ノナカはミリーの席の近くに座りフォローらしきものをしてみたが、
ミリーに面倒くさい人扱いされて終わった。
結局、R-11S2は武装を犠牲にして機動性をとることとなった。
***
「結局これですか?」
「うーん推力にザイオング慣性制御システムのエネルギーの大半をもっていかれるからなぁ」
「一時期酒舗にあった、トマトジュースを入れたカクテル“トロピカルエンジェル”ってこれが原因だったのですね」
ノナカ、レイジ、ミリーはそう言って、実験機のコックピットを覗き込む。
そこは一面赤黒く染め上げられており、パイロットスーツの切れ端とヘルメットだけが主張している。
風防を開けた際には床面に溜まったスープが、湯気を立てながら滴り落ちてきたほどだ。
スプラッターな光景であるが、彼らの顔を引き攣らせているのは、テストパイロットの悲惨な末路ではなく、
手を尽くしたのにも関わらず、全速加速時に急旋回をかけると、搭乗者生存率が0になるという事実だった。
うーん、と悩みながら検討する三人。
超加速と急旋回のダブルパンチによって、ザイオング慣性制御システムは酷使され、
どうしても、急激なベクトルの変更を緩和するのにラグがでるため、それを取り除くのが急務となっていた。
余力があれば、常時機体に働く慣性を強く管理しておけるのだが、
設計を切り詰めたR-11S2では、全く余裕がなく、ぎりぎりの慣性管理しかできない。
通常は誤差ともいえる慣性制御の揺らぎによって押しつぶされてしまうのだ。
三人はザイオングシステムの余力を絞りだそうと知恵を絞っていたが、どうも上手くいかない。
そこで、3日ほどクールダウンをして、その後三人それぞれ考えてきた案を検討することになった。
***
三人が再び研究室に集まる。
まずは班長のレイジが前に出て意見を述べる。
「では班長である俺からだな。こういうときは成るべくシンプルなアプローチの方がうまく行くんだ。
もっとも簡単な解決法の一つは、旋回用フロントブースターを取り外すことだ」
「はい?」
「ちょ、ちょっと、レイジさん、R-11S2を直線番長にする気ですか?」
ミリーとノナカが即座に突っ込みを入れる。
スピード狂であるレイジからスピード優先案が出ることは、二人とも想定していたが、
さすがに、完全に旋回性を捨てるとは予想外だった。
「だってもう中途半端にするくらいならそれ位勢いよく割りきった方がいいと思ってな」
「趣味だけに走らないでください。ほら、企画書見てください。市街地戦前提って書いてあるでしょ!」
「っち……しかし、そんな記述修正して、最速のR機を作ってみせる」
「そんなこと言ったら速度だけならグリトニルのワープ装置で飛ばせば最速になっちゃいますよ、
それはR機である必要ないじゃないですか。R機という制約内で作るのがTeam R-TYPEでしょう?」
「……わかった。だが他の案がなかったら実行するからな」
ノナカの必死の抵抗を受けて一度引き下がるレイジ。
ノナカとしてもさすがに駄作になるのが分かっているR機は作りたくないのだ。
万能でなくても、最強でなくても、キラリと光る何かを持ったR機を作りたいのだ。
「では、次はノナカだ」
「ええ、この案を見てください」
前に進み出た、ノナカは案をレイジとミリーの端末に転送する。
ノナカが出したのは、要は“トロピカルエンジェル”方式だった。
つまり機体制御に制限を付けるという案で、制御システムにリミッターを付けるのだった。
「なんだこれは、これならトロピカルエンジェルを改修してザイオングシステムを更新すればいいだけだろ」
「思考停止ですね」
一応、R-11Sとの差別化にいろいろオプションを付けてみたのだが、
どうも妥協している用に見えるため、却下され、レイジとミリーに罵倒され端に追いやられた。
ノナカを追いやる様に前に出てきたのはミリーだった。
ミリーは胸を張って資料を取り出すと、レイジとノナカに説明を始めた。
「パイロット達が潰れたのは大体緊急回避時のようです。
ならば、その一瞬だけザイオングシステムの姿勢制御を強めてパイロットを保護しましょう。
一瞬だけなら速度に制限を掛けることなく、パイロット保護が可能です」
「強めるっていっても推力に全部持ってかれるのにどうやって、姿勢制御用のエネルギーを持ってくる?」
「一瞬ですから、ループ回路を用いてザイオングシステムを120%位出せるはずです」
ミリーの言うのは、緊急回避の瞬間だけザイオングシステムをオーバードライブさせて、
余剰出力を捻出し、それを機体制御に回すことでパイロットが潰れないようにするのだ。
レイジがザイオングシステムの研究者として、一応の同意を示す。が、問題点も提示した。
「120%は出せるには出せるが、すぐに出力を100%に落とさないと爆発しかねないぞ。ずっと出しっぱなしにはできない。
事前に回避するタイミングが分かっていない限り、机上の空論になるぞ」
「うーん、基本的に最高速時に急旋回をするのは回避行動時ですよね。
で、基本的にサイバーコネクタって脳波によって出力しているのですよね?」
「ああ、初期型R機ならともかく現状では手で操縦していたら間に合わないからな。
サイバーコネクタが情報の受容器に直接電気信号として伝え、脳からの指令を機体側に伝える」
「ええ、そのときの動作に地味にラグというか人間として思考時間があるみたいなのです。
その間に、“やばい”っていう恐怖情報ならばもっとも早く脳から伝達されますが、
その電気信号を捉えて、ザイオングのオーバードライブのトリガーにすればいいです」
ノナカとレイジはしばらく考えた後、積極的に否定する材料がないことを認めた。
そして、ノナカは技術的な方針の確認をとる。
「ミリー、君の案が最も成功率が高そうだ。で、どうやって脳を観測して一番早く情報を取り出す?
サイバーコネクタが反応するより早く情報をキャッチしないと意味ないぞ」
「恐怖を生み出す元である扁桃体に端子を埋め込んで、恐怖の信号をキャッチしましょう」
「うーん、側頭部からコードを通せば直通回路にできそうだ。
ヘルメットの中を弄って、ヘッドセットに端子口を取り付ければいいか」
「そうですね、極細ニードル使って一度脳内回路を設置すれば、殆ど不便は感じませんよ」
何より速度を削らなくて良いという点について、レイジの賛同を得て、ノナカも同意したため、
ミリー案が通ることとなった。
***
出来上がったR-11S2は“ノーチェイサー”という名を付けられ、最速の称号をほしいままにした。
が、市街地戦用にも関わらず軍部以外では使われず、武装警察などへの配備は見送られた。
何故なら、軍では脳内に端子を突っ込んだりすることに対して、余り忌避感がなかったが、
(というよりは、R-9CやR-9/0、R-9Wなどの噂もあり、感覚がマヒしていた)
警察では流石に、職務のためとはいえ頭蓋骨に穴をあけて脳と機体を直結させるのはためらわれたのだった。