B-1A2 “DIGITALIUSⅡ”
「みんな、集まってー」
様々な記録媒体が床に落ち、栄養ドリンクの空き瓶が散らばる汚い研究部屋に似合わない声が響く。
女性特有の高い声によって、機器類や雑貨の隙間で丸まっていた男二人がもぞもぞと起き上がる。
オガールとエントだ。
「ラミちゃんなにさー、ジギタリウスが完成したから、とりあえずは基礎研究に戻るんじゃないの?」
「やっと、バイド素子誘導体の論文があがったのに……眠い」
二人は眠そうに目をこすりながら寝ぼけた声を出す。
「実はジギタリウスに問題が見つかってねー。対策を練らなきゃならないのー」
さすがに研究員だけあって、自分たちの研究成果に問題があると聞いて、
エントは急に姿勢を正して、オガールはラミにその意味を聞き出す。
「ラミちゃん、問題って?」
「ほら、あの機体ってバイド装甲維持のために保存液に漬けて保管するでしょう。
その保存液が人体に猛毒である事が分かったのよー。神経系に作用するんだってー」
「なぜそこが問題になるんだ?保存液なんて素手で触んないし、ましてや飲まないし、
体内に入る要素ないだろう」
植物性の誘導体を使ったせいか、ジギタリウスのバイド性装甲は一部植物に似た性質を取る。
通常植物は根から栄養・水分を取り光合成するが、Team R-TYPE謹製のこの装甲には根が無い。
その装甲を生かすために、駐機中は保存液に漬け、栄養分と水分を吸収させる。
保存液自体には、バイド素子は使われていないはずだが、どうやらその保存液に問題が見つかったらしい。
「それがー、現場の作業員とかパイロットは軽装備だから、結構保存液の扱いが雑らしいのよね」
「戦闘で機体性能が足りなかったらどの道死ぬんだから、問題ないだろ。それより波動砲を……」
「そうそう、パイロットは消耗品。機体返してくれればいいよ」
「それがねー。軍のお偉いさんからの苦情らしくて、開発部長から直々に言われちゃって、改良しないと予算凍結するってー」
「「それは問題だ!」」
研究の存続に関わる事態に一気に身を乗り出して叫ぶ二人。
そして、ラミはホワイトボードを引っ張り出して、会議仕様に部屋を変える。
その前に男二人が椅子を持ってきて座った。
「うーん、通常毒性ならば、要はパイロットと作業員が保存液に触れなければいいんだろ?」
「しかしなー微量だけどパイロットスーツを透過する上に、アレ乗ったやつって自力で出てこれないやつ多いだろ?
そうすると、作業員の安全性も結構考慮する必要もあるな」
「そうねー、さすがに作業員全員に特殊防護スーツを貸与するわけにもいかないし、そもそも費用も手間も現実的では無いわ」
ちなみに今日はこれをどうにかするまで寝れません。とラミが良い笑顔で言い切ると、
全員が唸り思い思いの格好で思索し始めた。
***
周囲では……
「ああ、またこの班が何かやりだしたな」
「バイド機作った班だったか?」
「ああ、なんか狂ったように研究している時期あったろ?そのとき開発してたらしい」
「……ここではこれが、普通なのかな?俺来たばかりだけど自信無くしてきた」
***
3人はたまに話したり、自分のデスクと往復しながら結局1日中保存液の問題について考え続けていた。
そのうちエントが疲れたように二人につぶやく。
「なあ、俺達一晩かけて案を出してきた訳なんだが、現実的な改良案は浮かばなかった」
「エント、疲労感を増やすような事を言うな」
「エントくん、何か思いついたのー?」
「発想の転換だ。問題点は二つ、保存液の処理とパイロットの保護だ。
今までの実験から保存液無しでは機体を維持できない。だから、パイロットの保護になるわけだが……」
「だーかーらー、その話も現実的に運用できるような案はでなかっただろー」
「オガールくん、混ぜっ返さないの」
「いや、ラミ班長、オガールの言うとおりだ。パイロットが頻繁に搭乗する関係上、現実的な案は無い。
ここで逆転の発想だ。パイロットが乗り降りしなけりゃいいんじゃないか?」
「は?」
「無人機ってことかしら?」
明らかに何言ってんだって顔をするオガールとラミ。
R機は有人でこそ意味のある、対バイド兵器だからだ。
そしてオガールの顔がかわいそうな者を見る目になる。
「エント、論文で疲れてたんだよな。とりあえず寝ろ」
「病人あつかいすんな。俺は正常だ」
「でも、無人機化は無理じゃないかしら」
「無人機化じゃない。要は一度乗ったら次のメンテナンスまで降ろさなきゃいいんだ。
そうすれば保存液で汚染される心配もない。とりあえず栄養補給とか生命維持関係は、
パイプで外と繋いでおいて、保存液で保管できるようにすればいい。
作業もアームで生命維持パイプ繋いで、保存液にボチャンだ」
「なんという、暴論……」
「エキセントリックな案だけど……一考に値するわね」
ラミは面白いものを見つけた顔をし、
それを見た男二人は今日も寝られない事を悟った。
「さあ、じゃあ今晩はこの案を検討しましょう」
***
周囲では……
「またか、チームゾンビ」
「ここのやつの生態は72時間単位なんじゃないだろうか」
「このむちゃくちゃな生活で結果を出せるのが不思議だ」
「俺、ここの班に配属じゃなくて良かったって心から思うぞ」
そろそろ、奇人認定が板についてきていた。
***
「検討した結果をまとめましょう」
「まず、結論としてパイロット封入案は実現可能であることが分かったわ。運用上も艦艇やドック設備にもっとも負担が少ないし、従来の器具で対応可能だわ」
「ただなぁ」
「そうだよなぁ。これどうみても改良って段階じゃないぞ」
「なら、後続機にすればいいわ。装甲の硬度・軽量化もさらに研究進んでいるでしょう?
その成果も盛り込んで、次の機体にしちゃえばいいのよー」
「もー、それでいいか」
「じゃあ、また検討して、来週には新しい計画案を提出するわよ」
「研究に殺される……」
「過労死って戦死になるかな?」
***
【課長室】
「いつもの」格好をした課長のレホスが座っている。
アポを取っていたラミが資料を提出に入ってくる。
「で、出来たぁ?」
「はい、レホス課長。こちらが計画書になります。改良案ではなく改良を盛り込んだ後続機の設計です」
「あー真面目にやってたんだねぇ。こんなの適当でよかったのに。
どうせお偉いさんになんて設計わからないし、現場の監督不十分って言い張れば流せたんじゃない?」
「それでも、開発をしらない現場の人間に欠陥機なんて言われるのはプライドが許しません。
やるなら、外部の有象無象にとやかくと言われない位に徹底的に、です」
「君、いつも思うけど、結構マッドだよねぇ」
「あら嬉しい」
「まぁ、良いでしょう。現場の声に対応したという事実が必要なんだ。
改良型という事で開発すればいいやぁ。はい、案件通したよ」
***
ジギタリウス2開発。
ジギタリウスの時に「劇薬溶液」のエピソードを盛り忘れたので、補足的な話しになっています。
1話目にも書きましたが、序盤は好き勝手な順番で書いているので、
ジギタリウスシリーズはこれで一時中断です。3はまだ書いていません。