プロジェクトR!   作:ヒナヒナ

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※R正史上、ルナティックウォー(イメージファイト本編)の明確な時期は確定されていません。
 よって、このssではR-TYPEⅡ~R-TYPEⅢの間の出来事と仮定し書いています。
 また、この話ではイメージファイト本編に反する設定がありますので、ご注意ください。


OF-1“DAEDALUS”

人類は冥王星宙域まで進出したが、未だ人間という種の限界として、生存圏とできたのは大気中のみだった。

その結果、宇宙都市では都市全体をシールドで覆うこととなるのは当然の帰結だった。宇宙進出初期にはエバーグリーン型コロニーが地球近郊に浮び、その後、各惑星、衛星には大規模な基地や都市ができあがっていった。

 

 

人類の多くが地球以外に飛び出すとその兵器群も宇宙に対応し始めた。中でもR機は汎用性を求められ、強酸の海から真空、ブラックホール至近、果ては異層次元までの運用性能が持たされた。しかし、運用が可能なことと、本来性能を発揮できることとは違うため、どうにも得手不得手ができる。

 

 

その中の最も大きいファクターが大気圏航行能力だ。宇宙空間では縦横無尽に疾駆できるR機だが、大気圏内では少々の不自由があった。無人惑星ならいざ知らず、大気内で全速力を出すと、広域への被害が起きる。人類が音速を超えたころから付いて回る問題であるが、相対速度が桁違いであるため尚重要な問題だった。

場当たり的な回避策として、R機の大気内速度の上限が定められることになる。緊急時においても艦隊の大気圏航行速度を守らせたことから、連合政府が如何に重く見たか分かるだろう。

 

 

***

 

 

「軌道戦闘機?」

「はい、宇宙空間と大気圏内をボーダレスに行き来できるR機です」

「……R機は基本的に汎用機だけれど、その機体に意味があるの?」

「地球連合は宇宙艦隊及びR機が主戦力ですが、バイドが地球に降下した際、現状では追跡が困難です。

大気圏突入中は戦闘を中止して、大気圏突入後再度戦力を展開する必要があります。逆もまたしかり」

「大気圏突入、突破時もバイドと戦闘できるようにということね」

「ええ、無理すれば現行機でも可能ですが、機体性能の40%も出せません。専用機が欲しいですね」

 

 

開発課長席に座るスーツ姿の女性上司に、白衣の女マリコが記憶媒体を渡す。慣れた手つきで、上司はデータを呼び出し、一つの企画書を立ち上げる。

 

 

「軌道戦闘機開発計画“ダイダロス”……ね」

 

 

企画を流し読みする上司に、マリコは補足説明を行う。上司は視線を端末のディスプレイに固定しながら、相槌を打っていたが、デスクの引き出しを探りながら、上司は説明を途中で遮って、マリコに声をかける。

 

 

「まあ、全く益がないわけじゃないとは認めましょう。でも、これだけでは許可は出せないわね」

「これだけでは? つまり何か付け加えることで実施可能だということですか?」

 

 

女上司は赤いマニキュアの付いた手で、一つの文書を手渡してきた。

“仮想練習機計画”

薄い電子回覧板の上にはそう書いてあった。

 

 

***

 

 

マリコは研究班の仲間とともにその計画の概要を眺めていた。

簡単にいえば、現行のものより更にリアルにした仮想演習の実施と、その専用機の開発だった。

その結果を優男のシンジが穏やかな様子で聞いてくる。

 

 

「で、女課長殿は何だって?」

「……簡単にいえば、今回はお預け」

「開発不可ではなくお預け? 今後は作れるってことかい?」

「仮想空間での練習機を作成して、そのデータやシステムがうまくいけば、リアルで作って良いって」

 

 

シンジと同じく班員のナンシーが顔を近づけて大声で言う。

 

 

「何それ、体よく練習用プログラムの製作を押しつけられたんじゃん」

「そうとも言うわ」

「仕方ないよナンシー。

当初はデータ上だけの機体だけど、足場は手に入れたから、実機製作にも踏み込めるかもしれないし」

 

 

シンジが場を納めると、マリコは自らのR機のための計画を立て始めた。

彼女が物事に没頭するときに邪魔を嫌うのを知っていたシンジとナンシーはそっと席を外す。

やがて、考えがまとまり始めると、ナンシーとシンジを呼んで計画を説明しだす。

 

 

***

 

 

仮想訓練計画なるものが、今頃騒ぎ出してきた理由。

これには背景がある。

 

 

軍はとある課題に直面していた。

たび重なるバイドの侵攻と、それによる熟練パイロットの喪失である。パイロットの充足数を満たすために操作系を簡略化し、脳へ直接詰め込み学習をさせても見たが、やはり、実戦の空気というものが再現できず、実戦で揉まれた兵と、仮想空間で訓練した兵とでは、その戦闘能力は雲泥の差となって表れていた。

 

 

そうはいっても、熟練パイロットを全て教官としても、新兵達の技能を底上げするには足りず、軍は自前のシミュレーションシステムだけでなく、Team R-TYPEへの技術協力を依頼した。

 

 

新機体開発と同時に、Team R-TYPE上層部から命令を受けたマリコは、こう分析した。実戦の空気というものの一端は、パイロット当人の認識によるところが大きいのではないかと。であれば、実戦であると思いこませれば技能上昇効率は飛躍的に高まるのではないかと。

 

 

しかし、機体の開発には異様なほどの熱意を見せるTeam R-TYPEだが、ソフト面ではそこそこだった。特に練習機などオマケ程度にしか考えていない。流石に、軍が敗退すればTeam R-TYPEの研究もできなくなる。上層部はそう思って、新型機OF-1の開発を認める代わりに、練習システムの開発をやらせることにした。

 

 

振れられた方も、新型機の開発が餌だとわかっている。しかし、何物にも代えがたいこのチャンスを逃すことなど到底できず、結局真面目に練習システムの構築を行うマリコだった。初めは、たかがシミュレーションに手を加える程度と考えていたマリコだが、実際、実験してみると意外とうまくいかない。機体開発の片手間ではなく、一次R機開発を棚上げしてこの難題に取り組むことになった。

 

 

マリコの分析ではこのバーチャル練習機にはパイロットを騙すほどのリアリティが必要だった。シミュレーションだと高をくくっている脳を威圧し、戦慄させるほどのリアリティだ。マリコは一計を案じ、組み込む練習プログラムに小細工を加えることとした。

 

 

導入部にはシミュレーションを強く意識させる説明。その途中では、練習ステージと補修システムという非常に作為的な事象。そして、脳を疲れさせた後に現れる実戦配備。前半のシミュレーション部が非常に訓練システムとして分かりやすいため、正常な状態なら判断が付くかもしれないが、脳疲労が一定に達していない訓練生には、システム側が難癖をつけ、異常な難易度の補修が科せられることで、強制的に判断能力を低下させられる。そうして、脳が正常な判断を下せなくなったところで、より深い暗示をかける。

 

 

“今までのお遊びとは違う実戦である”と。

 

 

いきなり実戦に投入された(と思い込んだ)パイロットたちは、死ぬ物狂いで足掻いて見せるはずだ。それこそ、一発で脳に記憶が染み付くほどに。

 

 

それがマリコの作戦だった。班員の二人に話したマリコだが、ナンシーやシンジから改善点が述べられた。

 

 

「ねえねえ、マリコ。どうせならストーリーを付けた方がいいよ。単調な作業は疑問を呈しやすいから、脳を誤魔化すためにも、いきなり実戦に叩き込まれたってのを補足する話を用意しないと」

「軌道戦闘機を作るのだから地球から宇宙、または宇宙から地球に急行しなければならない様な話ね」

「そうそう、月面基地ら辺が最近危ないって聞くし、ムーンベースが消失急行するって辺りでストーリー書いてみる」

「ナンシー、お願いね」

 

 

ナンシーが任せてと言いつつ、筋書きを練り始める。続いてシンジが意見を発する。

 

 

「マリコ、これ現実とシミュレーションの区切りをあやふやにする必要があるだろ?」

「そうね。途中から現実と混同させるから」

「じゃあ、それを補強するために、最低一機は実機を作る必要があるね。最悪外側だけでも」

「んん?」

「だから、パイロット達に実際に飛ぶところを見せないとリアリティがないだろ?

……って話にして、それを出しにして最初の一機だけ研究をスタートするんだよ。どう?」

「ああ、なるほど、機体の外見と、内部の開発を先にスタートしておいても良いのね」

 

 

こうして、悪夢の訓練用プログラムと、軌道戦闘機OF-1ダイダロスの開発が開始された。

 

 

***

 

 

ダイダロスはビットに似たポッド呼ばれる追従兵器を装備している。その他、各種レーザーと簡易版の波動砲を装備し、フォースコンダクター用のスペースも空けてある。現在フォース関連機器が収まるべきスペースは、シミュレーション用の機器が占領しているが。

 

 

内部は未だ改良段階ではあるが、外装は既に固まっている。可変戦闘機エクリプスの技術を用いて、大気圏―宇宙空間を自由に飛べる形状となっており、自動制御で翼形の変化させることにより、大気圏突破時や突入時の機動を容易にしている。

 

 

すでに、正式開発許可が下りれば直ぐに開発可能な具合だ。しかし、このOF-1ダイダロスは先行試作機数機のみの開発だった。シミュレーションでの状況次第で、実機の開発状況が変わる。仮想訓練がうまく行かなければ、確実に開発凍結となるだろう。そして、実際の訓練生を用いた試験が行われる。

 

 

結果から言うと、成功と失敗半々だったといえる。成功例は、実戦投入時の判断速度と気後れが、有意な差をもって改善されていた。逆に失敗例もいる。悪夢の補修授業を受けたものは、恐怖感を植え付けられ実戦さながらの後半ステージでも、その能力を振るうことができなかった。なまじ本格的すぎる脳への刷り込みが逆に働いた形だった。

 

 

肝心の訓練効果の方だが、やはり、熟練パイロットと比べると見劣りするが、初実戦での判断速度などはある程度改善され、今までのシミュレーターよりマシというまずまずな評価を拝借することになった。マリコはこれ幸いと、実戦機の開発の方に手をまわしOF系列の祖であるOF-1のひな型を作り上げる。この後、マリコの粘りにより、数機であるがダイダロスは実戦に配備されることになった。シミュレーターの代わりにフォースユニットを搭載し、実戦投入されたOF-1。ビットと違い、ポッドは専用のハンガーが必要であり、場所を食うお邪魔虫として嫌がられたが、この機体で練習してきた新兵からは、高評価を得ていた。

 




マリコ、シンジ、ナンシーは元ネタであるイメージファイトのボスの名前です。
ミヒャエルさんばっかり有名なのも……ねぇ

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