プロジェクトR!   作:ヒナヒナ

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OFX-2“VALKYRIE”

OFX-2“VALKYRIE”

 

 

 

後にシリーズ化されるOF系列の特徴といえば、攻撃支援ユニット“ポッド”の存在である。

これはビットと同様の役目を持って開発されたものであるが、一つの特徴として攻撃性能に特化していた。

ビットは人工フォースとして、敵からの防御を主体にしているのに対し、ポッドは積極的に敵を攻撃する。ビットが局所的バリアならば、ポッドは砲塔と言える。球形の高エネルギー体であることは同様であるが、ポッドは銃口を備え、より攻撃的なフォルムになっているのが特長だ。

必定、研究者達の興味は、無理やり捩じ込まれた練習用プログラムより、ポッドの話に終始した。

 

 

「マリコ、ポッドにAI付けてみないか? どうも新人パイロット達は機体制御だけでポッドを上手く使えていないようだ」

「いいわね、シンジ。ポッドにAI付けるなら単純掃射やバリアだけでない働きも期待できるわ」

「ダイダロスのはデータだけだからね。テスト機を作る際に一緒に作ってしまおう」

「今度のOFX-2も結局テスト機だからワンオフになりそうだけれどね」

 

 

***

 

 

そんなこんなで取りつけられたのがレッドポッドであった。

レッドポッドは砲塔の角度が取れることと、そのシュート時の攻撃性能が特筆すべき兵器だった。

カタログ上はダイダロスにも付帯しているのだが、ダイダロスはどちらかというと訓練機としての役割がメインだったので、データだけの存在であった。

後続機開発のためのテスト機といった名目であるOFX-2の開発にかこつけて作り上げられた。

 

 

そんな、レッドポッドの実験を見ていたマリコが言った。

 

 

「何か気持ちの悪い動きね。プログラムに不備は?」

「プログラムというか、自己学習させましたからね。条件付けに問題があるのかもしれません。

敵撃墜率をスコアとして、もっとも高い値を取るデータを抽出して、学習させました」

「この、無意味にグルグル砲塔が回るのが妙に有機的ね」

「左右の砲塔が個別に動く方が、スコアが高いと判断したようですね」

「まあ、良いわ。これで実地試験して良いようなら決定。ダメならAIを消去の上、学習のし直しよ」

 

 

ポッドの本体は赤色の光に包まれたエネルギー対で、それだけ見ればビットの様だが、AIにより機体の機動に合わせてぐりぐりと砲塔が回る様子は、妙に生生しくて気持ちが悪いと、もっぱらの評判であった。AIによる動きはポッド側で判断し、攻撃方法を思考する単純なものであったが、切り離し(フォースシュート)と呼び戻ししか受け付けないフォースに比べ、自由度は格段に上だった。

 

 

こうして補助攻撃ユニットであるポッドが完成した。前身であるダイダロスにも形だけ装備されていたが、実機として適応されたのだ。続く全てのOF系列機に取りつけられ、OF系列の特徴ともなっていった。後々、Leoシリーズのサイビットサイファと同じように見られる事が多かったが、攻勢ビットと思考を捉えて動く半自動兵装であるサイビットに比べて、思考をコンピュータが肩代わりしてくれる分

新人向けとなっていた。

 

 

しかし、話はここで変な方向へ向かう。班員のナンシーがこう言い出したのだ。

ミサイルもAI制御ならどうか? と。

 

 

***

 

 

R機は高速戦闘を行う。もちろん搭載される武装類もそれに対応したものとなっている。が、単純に前方に打ち出す、通称バルカン砲や、波動砲、機体に追従するフォースやビットと違い、ミサイルは、重要武装であるのだが、どこか中途半端な武装だった。小型弾頭化によりサイロにはかなりの弾数が詰め込めるが、無為にばら撒くには勿体なく、誘導性には信頼が置けない兵装というのが一般的な評価であった。ただし、信用性を何より信仰する将兵の間では、枯れた技術を使用した兵器であると言うことが有用視されていた。

 

 

有効性については仕方のない面もある。ミサイル自体が高速戦闘には余り適さないのだ。後に開発される核弾頭ミサイル“バルムンク”くらい性能を尖らせれば主兵装たる威力であるし、遠距離からの投射とあって推進剤による軌道修正が効いてくる(しかし、バルムンクの命中率も大概だった)のだが、弾着まで時間の無い高速戦闘では、推進剤により軌道修正する余地が少なく、命中コースに乗せるのが難しい。ここぞと言うときにしか使えない補助兵器となっていた。

 

 

その兵器をマリコ達は遊び半分で改造してみた。

 

 

「何したかったのか分かるけど、これはない」

 

 

試験映像を見たシンジの評価は散々だった。マリコは無言だ。

しかし、ナンシーも自作のAI搭載ミサイルについて説明を付ける。

 

 

「でも、ほら、命中率も上がったし撹乱効果もあるし……何よりカッコいいでしょ?」

「糸引くミサイルが?」

 

 

ナンシーは命中率向上のため、ミサイルの誘導AIをより高性能なものとした。各種データから予測した目標の未来位置に向かって誘導されるのだが、一度機体から離れるように噴射してから、敵に向かう事でAIが誘導する時間的余裕を作った事と、推進剤を強化し、機動が効くようになった事が主な変更点だ。その結果が、シンジの言う糸引くミサイルだった。

 

 

敵の予想進路に向けて初期誘導されたあと、微調整として最終誘導されるだけだったのが既存ミサイル。しかし、ナンシー謹製の新式ミサイルは、その誘導性を活かすために機体から大きく離れる。そして、突入態勢を整えるために噴射を繰り返し、他のミサイルと干渉し合わない様に突入経路を変えながら、殺到する。AI特有の角々とした動きと、推進剤を強化したためミサイルの軌跡が明確に残る様子、そして、ダイナミックな動きをするそれらが絡み合う様子が、アジアとある国にルーツを持つシンジには“臭いあれ”を想像させたのだ。

 

 

このミサイルについては、ナンシーの様にカッコいい派と、シンジの様に動きがキモい派に分かれたが、

班長マリコの「どちらでも良い」という、ばっさりした言葉で切られた。

 

 

***

 

 

「マリコ班長、思いついたことがあります」

「何?」

 

 

OFX-2の構想も煮詰まり、大体の方向性を持って設計が詰められていた。互いに背を向けて情報端末を叩いていた、班員シンジが班長のマリコに声をかけた。シンジの真面目腐った声に比べて、マリコの声は物憂げだ。

 

 

「ポッド使えば、全周囲防御可能ではないですか?」

「全周囲防御って、ポッドシュートじゃだめなの? ポッドを数珠繋ぎにでもするの?」

 

 

シンジの提案に、割り込んできたのはナンシーだ。おそらく、面白そうな話のタネを発見したのだろう。が、シンジは気にせず話を続ける。

 

 

「いえ、元々が攻勢防御ですからね。周囲を囲わなくても大丈夫ですよ。ほらシミュでもそういう統計になっている。

そうではなくて、僕が言いたいのは後方ですよ」

 

 

シンジはそう言って半身をずらし、自分のディスプレイの画像をマリコとナンシーに見せた。赤いR戦闘機が鉄骨建材を避けながら進軍する様子であった。後方からの意地の悪い追撃を避けるOF-1。何故か攻撃判定が加えられたバックファイアで迎撃する様子が見て取れる。ナンシーが身を乗り出して大げさに評価し、それにマリコが意見を付ける。

 

 

「すごーい、何これシミュ結果? 大気突破用に調節したバックファイアの攻撃判定を利用しているの? 器用ね」

「ああ、他のR機は無理だけど、ダイダロスをはじめとするOF系列機ならいけるかも知れないね」

 

 

一応、地上から宇宙での自由な行き来を前提としたOF系列では、ザイオング慣性制御システムによる推進だけでなく、推進剤を利用した一時的な急加速が可能となっている。その無駄に強力なバックファイアを使って後方から接近してきた敵を焼き払う荒業をしていたテストパイロットがいたのだ。しかし、ナンシーが突っ込む。

 

 

「うーん、でも戦術とするには確実性のない曲芸よね?」

「ですよね。でも一芸としては捨てるには勿体なくて」

「じゃあ、こうしようか……」

 

 

しょげるシンジにマリコが出した答えは……

 

 

「なんです。裏技って」

「ゲームであるだろう。説明にはないけれどとても有用な技よ」

「……それはバグというのでは?」

「仕様よ。まあそれはともかく、実機でやるのは怖いからシミュレーション上でだけ可能な技としてアナウンスしましょう。

実際できないことはないけれど、実機でやらせるには危険すぎるわ。データ取る前に機体を壊されるのは困るの」

 

 

こうして、完成版レッドポットと、微妙に改造されたフォースとミサイル、裏技バックファイアを携えて、OFX-2ワルキュリアはOF-1ダイダロスのマイナーチェンジ版としてひっそりと完成した。ちなみに、新式ミサイルは、実験機OFX-2に採用されたが、所詮はサブウエポンと、コスト重視の実機に採用はされなかった。

 


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