プロジェクトR!   作:ヒナヒナ

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OFX-4“SONGOKUU”

OFX-4“SONGOKUU”

 

 

 

 

荒れた室内には、記録媒体やら、端末やらが山積みになっていた。

床にはエンジン模型やら、装甲片やらが雑然と置かれ、通行不能地帯を形成している。

これが戦闘艦艇内部ならば、ザイオングシステムが拾いきれない外部衝撃を受けた瞬間に大惨事になる。

しかし、ここは後方ともいえる地帯にあるTeam R-TYPEの研究施設であるので、

部屋の主たちはほぼ唯一の居住空間である椅子の上に胡坐をかいて、のんきに会話をしていた。

 

 

「OF系列はやっぱりポッドとレーザーかな」

「マリコ、軌道戦闘機って路線忘れていませんか?」

「でもー、もう軌道戦闘機って路線はナンセンスよねー」

 

 

相も変わらずOF系列開発班に名を連ねているマリコ、シンジ、ナンシーだった。

新型機の話をしていたのだが、軌道戦闘機というコンセプトがネックとなって、なかなか良い案が出ないでいた。

だれた雰囲気の中、面倒になったナンシーが言い放つ。

 

 

「どうせ、“軌道戦闘機”なんて開発枠確保のためのお題目だったんだしー、無視しても良くない?」

「いや、でも……まずくないか?」

 

 

シンジは口先では止めるが、無意識に頷いている辺り、ナンシー案に賛成したいのは明らかだった。

そして、マリコが考えをまとめながら意見を出す。

 

 

「うーん、ナンシーの言葉も一理ある。もともとの軌道戦闘機って構想はダイダロスでやりきったし、

OF-3の反応を見ても、この開発方針ではこれ以上進展がないのは明らか。

ならば、この設定は無かったものとして他の改良に力を注いだ方が、このままだらだらするより断然良い。

試したいレーザー案もまだあるし、何よりポッドはまだまだ進化できる!」

 

 

男らしく言い切るマリコ。

すでに彼女の興味は攻勢デバイス“ポッド”とレーザーの研究にシフトしていた。

完全に開き直り、前提を全く無視して自分の興味の向くままの開発に舵を切る。

こうして、軌道戦闘(もできる新型レーザー&ポッド武装)テスト機OFX-4の開発がスタートした。

 

 

***

 

 

強固な防護壁を持つ実験施設。

溌剌と赤く輝く光球と静かに青白い光を放つ光球。それぞれ一対ずつが中空に浮いている。

それらは完全な球体ではなく、砲身が取り付けられていた。

OF系列機の独自武装であるポッド。その既存バージョンであるレッドポッドとブルーポッドだ。

 

現状OF系列に装備されているのはレッドとブルーの二つ。

その性質に合わせてエネルギー対の色を変えてある。

ブルーポッドは初心者用として開発したもので、砲身が機首方向に固定されており、

多少の軸調整機能は付いているが、前方への火力集中が基本となっている。

反面、レッドポッドは砲身の稼働域が非常に広く、機体の挙動に合わせてグルグルと砲身が廻る。

各方への攻撃が可能で、多彩な攻撃ができる半面、パイロットには空間把握能力が要求され、

操作性の煩雑さと相まってかなり使いづらい。

OF系列機は熟練が必要とされたのも頷ける。

 

 

それらを見ているのは、OF開発班のうち二人、シンジとナンシーだ。

 

 

「ナンシー、会議ではああ言っていたけど、案はあるのかい?」

「もちノープラン!」

 

 

赤と青の砲身は、事前に組み込まれたテスト動作を繰り返し、激しく動き回っている。

ひとしきり射撃動作を終えた後、一瞬間をおいてポッドが飛び出していく。

互いに干渉し合いながら、目標地点に向けて飛び出していくエネルギー対。

その動きを横目で見ながら思いついた案を検討する二人。

 

 

「ポッドの正義は攻撃力だから、射撃系を充実させたいがどうにもうまくいかないんだよな」

「そうねー。砲身部分に挙動制御関係も乗せているから、余剰機能は乗らないしー、どうしよう?」

「どうできるというより、まずどうしたい?」

「射撃ばかりでなくて、武闘派装備も作ってみたいわー」

「……ひょっとしてパイルバンカーみたいな?」

「パイルにする意味さえないわ、もともとポッドはエネルギーの塊なんだからー……て、え?」

 

 

そこまで話して、ふと話をやめて見つめ合う二人。

沈黙とともに天使が通り過ぎたあと、笑顔を浮かべるナンシーとシンジ。

 

 

「そうよ、ぶつけるだけでいいんだわー、だってポッドはエネルギーの塊なんですもの」

「だけど今までのポッドシュートに代わる目玉をつけないと」

「ポッドの利点は思念的な操作でなく、機械的な操作を受け付ける事よ。

そして“戻り”が早い事もフォースシュートにない利点だわ。よし、そのままにシュート能力を最大限まで上げるわよー」

「射撃に回すエネルギーとの配分がネックになるね」

「射撃なんていらないし、物理全振りで作ってみるわ。制御系は任せて!」

「まあ、その辺は君の専門だね、じゃあ、ナンシーよろしく。

僕はマリコのところに行ってくるよ。たぶんレーザー関連弄っているだろう」

 

 

何か妙な方向に走り出してしまったが、あとで全体調整を掛ければいいだろう。

調整役になりつつあるシンジは、ポッドの当面の研究方針と進捗伺いに、レーザー出力棟に向かった。

 

 

***

 

 

光学兵器であるレーザーは貫通性に問題があったり、大気中での運用に問題のあるものが多いが、

そのエネルギーをそのまま敵に伝えるため、単位時間あたりの破壊力が高い。

フォースという万能エネルギー変換器を通すことで、直進しかできないという性質は克服され、

機首軸に固定されたレールガンよりも強力である。

しかも、フォース側の性能や設定などにより千変万化、多種多様なレーザーが撃てる。

 

 

レーザー研究棟は減衰壁を標準装備した施である。

下手に施設の壁を一般的な強化壁にしたりすると、反射レーザー等を撃った場合大惨事ともなりかねないからだ。

霧状の減衰剤を混ぜたエアカーテンと、それに覆われた減衰壁がないとテストもまともにできない。

減衰剤は吸い込むと肺炎のリスクを増大させるので、一応管理区画側でも対ガス装備が必須となっている。

 

 

そんな建物の中をシンジはガスマスクを装備してから研究棟に入った。

研究者のいる制御系統には減衰剤は撒かれないが、一応規定なので装着する生真面目なシンジ。

呼気が耳障りな音を立てるなか、受け付けでリーダーのマリコの所在を聞き出し、マリコの元に向かった。

もう少しで、マリコのいる第三コンパートメントに到達するというそのとき、爆音が轟いた。

振動自体はたいしたことないので、シンジに実害はないが、レーザー研究棟で爆音がすること自体異常事態だった

シンジは今までの付き合いからマリコが犯人であると確信して、コンパートメントまで走る。

ガスマスクが息苦しい。

 

 

「何事ですっ!」

「大声を出さないで、さっきから一射ごとに煩い!」

 

 

扉を開けるなり、大声を出すシンジ。

ガスマスクにはマイクが装備されており、相手の受信機にそのままの音量で襲いかかる。

室内に立っていたマリコはガスマスクは外していたが、イヤホンは入れっぱなしだったらしい。

耳部分を押さえて眉間に皺を寄せていた。どうみても不機嫌そうであった。

 

 

マリコは相手がシンジである事を確認すると、「なんだシンジか」と言った後、コンパートメントに呼び込んだ。

当然と言えば当然だが、研究用機器の並ぶコンパートメントは全く影響を受けていない。

ただし、コンパートメントから見える実験設備の壁は煤けていた。

 

 

「マリコ、ここレーザー実験棟ですけれども、実弾でも撃ったのですか?」

「施設課からの内線でも散々そう言われたが、もちろんレーザー試験だ」

「普通、レーザーを発射しただけじゃ爆音なんて起こりませんけど」

「見た方が早いな」

 

 

マリコはそう言って手元のコンソールを操作すると、警告灯が灯り試作型レーザーにエネルギーが送られる。

フォースの代わりに施設電源からエネルギーを充填したレーザー発射機構は淡い光を放い、何かを放出する。

そして一瞬後、激しい爆音と振動がコンパートメント内部まで、伝わってくる。

シンジは胡乱気な目をマリコに向ける。

 

 

「どうだ、シンジ。これはエネルギーで擬似隔壁を作り着弾時に内部圧が高まり、一気に解放される。

重力光弾によるグラビティボムと、追尾式のサーチミサイル、地形依存型のグランドミサイルができた」

「レーザーって何でしたっけ?」

「これがやりたかったのだが、流石に実戦機に付ける訳にも行かなくてな。テスト機ならいいだろう」

 

 

シンジの疑問など歯牙にもかけないマリコ。

シンジは「好きにしてください」と言い残して黙る。

マリコはハイになっているのか、なんやかんやと言いながら、

続けざまにレーザーという名のミサイルもどきを発射する。

OF-3ガルーダの悪評価で、マリコにはストレスが溜まっていたらしい。

なぜかミサイル型になったサーチミサイルやグランドミサイルを景気よく発射させている。

 

 

半ばマリコのストレス解消装置となった発射ボタンをさらに押したとき、

サイレンが鳴り響き、回転灯が光る。

 

 

『警告、警告、ガス漏れ警報。減衰剤がレーザー実験施設より漏れ出しました。一般研究棟の研究員はガスマスクを装着し……』

 

 

「あ」

「あ……」

 

 

口をあけ、合成音声を吐き続ける天井のスピーカーを見つめる二人。

 

 

「レーザー研究棟の壁、耐えられなかったみたいですね。……どうしますマリコ?」

「……」

「とりあえず、ガスマスクして下さい」

「はい……」

 

 

マリコは首にぶら下げていたマスクを装着し直すと「始末書かな?」と呟いた。

非常事態を現す赤い回転灯に照らされながら、気まずそうに二人は佇んでいた。

ガス漏れを告げる合成音声と、シュコーシュコーという自分達の呼吸音だけが響いていた。

 

 

後日、マリコは始末書と設計書と同時に提出することになったのだった。

 

 

***

 

 

OF系列の特徴である小豆色のボディーに群青色の風防。

前身であるOF-3ガルーダとの違いは、後方に設置されたウイングの形状。

そして、これから機体の横に添えられる黄色いエネルギー対。

 

 

射撃機能を廃止して、エネルギーの保持量を上げた特殊型。

デバイスによる体当たりを前提とするそれは、小型のフォースシュートといってもいい。

淡い黄色に輝くイエローポッドはその砲身を光らせていた。

新たにロールアウトしたOFX-4“SONGOKUU”を見ながら、シンジはふと疑問に思った事を聞く。

 

 

「ところでナンシー。体当たり主体なのになんで砲身が付いているのです?」

「制御機構が此処に入っているからね。後は……ノリ?」

 

 

このパイロットのことを全く考えていないテスト機は、

その糞さと名称からから”monkey”と蔑称されることになる。

テスト機であって量産されないことだけが救いとまで呼ばれたのだった。




西遊記の孫悟空ってとある英訳版では”Monkey”ってなってるらしいですね。

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