プロジェクトR!   作:ヒナヒナ

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OF-5“KAGUYA”

OF-5“KAGUYA”

 

 

 

「不味いことになった」

 

 

開口一番そう告げるのはOF開発班のリーダー、マリコだ。

OFX-4ソンゴクウのデータをまとめていたナンシーとシンジは

それを聞いて、マリコの持っている端末のディスプレイを代わる代わる覗き込み、、言った。

 

 

「あー、そもそも、OFシリーズは名目と実態が別々だからしかたないわー」

「不味いのは、始めっからです」

 

 

今、彼らOF開発班が検討しているのはテスト機であるOFX-4と、その後続機についてだ。

これまで、軌道戦闘機という微妙な皮を被り無茶な研究開発を続けてきたが、

その結果がマリコが頭を抱えている電子文書――「軌道戦闘機開発の打ち切りについて」だった。

結論から言うと軍からの不興を買いすぎたため、Team R-TYPEの壁を突き抜けて現場の意見が通ったのだ。

更に言うと、既にポッドやOF系フォースに付随する特殊レーザーの研究は、これ以上の発展が期待できず、

(そもそも内部的には“軌道戦闘機”というコンセプト自体がお飾りであると認識されている)

Team R-TYPE内でもこれ以上の研究リソースを使うメリットが無いと判断されたのだ。

内部と外部、両方から突き上げられての実質的な計画中止通告だった。

 

 

未だ、通告文からのダメージから立ち直れないマリコが、呻くように言う。

 

 

「まだ……、まだ終わってないぞ、この書類が正式に下りてくるのは来週だから、

それまでに研究方針をまとめて、上に受理されれば機密指定を楯にとって、軍からの横槍は防げる」

「マリコ、幾らなんでも欲張りすぎですよ。OF系列機も4機ですからそろそろ潮時です」

「私は、許可下りるなら開発やってもいいかなー。どちらにせよ。上を納得させられないと完全に流れるわよー?」

「では今から、緊急開発会議だ。ナンシーは乗るとして、シンジはどうする?」

「ここで降りる選択肢は無いでしょう?」

「では、30分後に会議を開始する」

 

 

こうして、突貫で五機目のOF機体開発計画がスタートした。

 

 

***

 

 

開発会議が終わって、資料の散乱した机に突っ伏すマリコ。

 

 

「前回のとおりポッドはナンシー、シンジは機体バランス取りまとめ、私はレーザー、フォースはF研に投げる。

時間が無いのは知ってのとおりだ。とりあえず、今週中に基礎データだけだして、研究開発費を引きだすぞ」

「マリコ、前々から私とマリコの役割が逆だと思うのですが。普通リーダーが機体バランス見るでしょう?」

「私は私のやりたい研究に邁進したいから、軌道戦闘機開発なんて皮を被ってきたんだ。最後なら羽を伸ばす。私はレーザーがやりたいんだ」

 

 

どうせ最終機だからと盛り込んだ会議は、研究者の希望のみを盛り込んだ内容だ。

レーザーでは、生存性を高めるためのバリア、戦闘機のロマンである弾幕、次いで爆発物が作られる方針となり、

フォースもレーザーに合わせてマイナーチェンジされる。

ポッドは現状でできる最優秀のものという、何とも漠然とした目標を言い渡された。

バランスはともかく破たんしなければ良いという、完全に使う側でなく、研究側を向いた計画となった。

 

 

いち早く会議の熱が引いたシンジが、改めて企画書案を見て顔をひきつらせる。

 

 

「マリコ。これ、また現場から怒られませんか?」

「最終機だから、そのころには我々は解散している。問題ない」

「マリコじゃないけどー。底の見えてしまった技術と発展させるべき技術。

それが色分けされるだけでも上的には価値があるん無いんじゃない? 今後の研究リソース節約のためよ。

特にレーザーはこれだけ色々やれば、研究の礎になるのは確かだからー」

「それって平時の基礎研究でやるべきなのでは……」

「あら、シンジ。まだ焦るような時間じゃないわー」

「……」

「では、私はこれをもとに書類を起こして上に掛けあってくる。シンジとナンシーは準備を頼む」

 

 

マリコは会議前とは打って変わって、妙に張り切って研究室を出て行った。

シンジとナンシーは手元の書類――テスト機であるOFX-4から取られたデータを元に改修案として出すはずだった書類を、OF-5案として書き直す作業に入った。

 

 

***

 

 

何故か通ってしまった企画書案に沿って研究がスタートしたOF開発班。

ナンシーの言っていた“上に利益があれば通る”という言葉が通った形だ。

 

 

「まずは……ナンシーのポッドか。案が適当過ぎると思うけど、ナンシーはフリーハンドの方が得意だからな」

 

 

シンジは、例によってぶつぶつ言いながら、ポッドの試作品をテストしているナンシーの元へ向かう。

機体バランスが破たんしないように各部署との調整を行うのがシンジが振られた仕事なのだが、

研究開発のおいしいところをマリコとナンシーに取られて、貧乏くじを引いたとも言える。

 

 

シンジがナンシーのいると思しき辺りに向かうと、砲塔と一体型のポッド制御部品が転がっている。

機体に付随していると大した大きさには見えないが、人間スケールで改めて見ると結構大きい。

エネルギー球体を覆っている半球状のカバーから砲塔が突きだしているものだが、

連装砲になっているものや、球体が2つ連なって“ピーナッツの殻”の様になったもの、

反射板の様な構造を持ったもの……

 

 

良く分からないものを含めれば、見えただけで数十はある。

どうやらナンシーは時間が無いため、試作品を山と作って片っ端から試験をする総当りを行っているらしい。

シンジの美的センス的には余り美しくない方法であるが、何が何でも結果を出さねばらならい場合においては

結構有望な手段となりうる。

 

 

「ナンシー、流石にこのガラクタの山はやりすぎじゃないかい?」

「でも、最初の方向性を決めるのには必要だわ。初期値を絞って局所解を得るだなんて笑えないもの」

「ちなみに君の一次試験を突破したのはどれ?」

「これとこれ、あとは22番。あっちの35番は保留ね」

 

 

ナンシーが提示した物は、特色が薄く優等生的なポッドだ。

どれも単純にエネルギー変換率の向上により威力を引きだすタイプだ。

形状も既存のレッドポッドやブルーポッドと殆ど変わらない。

シンジの研究者としての直感として、こういうときはあまり良いものは出来ない、というのがあった。

 

 

「ねぇ、ナンシー。この試作品達は横並びすぎる。精度を高めるだけなら他の工廠でもできる。我々がやる必要が無いよ」

「うーん、実は私もこの子たちを採用する気になれないのよねー」

「そっちの保留っていうのは?」

 

 

ナンシーは未確定タグを付けた電子資料を呼び出すと、端末ごとシンジに渡し、

ガラクタの山から少し外れたところにあるポッド砲塔を台の上に乗せた。

 

「一つがだめなら二つで?」

「この35番のコンセプトは“前から後ろから”よー。エネルギー弾を前後方向に打ち出すの」

「そのコンセプトはともかく、これだけ保留なのはなんでかな」

「試験中に不安定で挙動が怪しかったからよー。軸が不安定で機体の方向にまで攻撃が打ち出されたの。

まあ、でも威力はピカイチだったわ。あ、これが実験動画ね」

 

 

呼び出された実験映像はR機型の試験用機材と、前後に砲塔とつけた緑色の発光体。

ポッドは機体側面に沿うようにゆっくり浮遊しながら前後方向に射撃を繰り返している。

しばらくして、ポッドシュートの試験が行われ、仮想敵に向かって淡々とポッドが繰り出される。

再び射撃に戻ったあと、ポッドの挙動がおかしくなる。

ポッド砲塔の軸が安定せず、ぐらぐらと揺らいでいる。射撃を繰り返すたびにその揺れは激しくなり、

ついにはポッドの軸が回転し始め、乱射を始める。赤い警告灯が灯り試験が強制中止されるが、

試験区画の壁は元より、R機型の試験機材も穴だらけだった。

 

 

「つまり、自機を撃つ暴走ポッドと」

「うーん、ポッドシュートや長時間の射撃なんかで、軸が重心からずれるのが原因みたいだけど」

「砲身が独立しているからバランスが崩れるのか。でもこれ、他の十把一絡の優等生ポッドより良いな。

完成すれば強力だし、何より面白いよ。エネルギー球体本体を砲塔が貫通する様にして、一つの部品にはならないかな。

それなら軸は安定すると思うのだけど」

「串刺しスタイルね。そう後押しされるとこの子で行っても、どうにかなるような気がしてきたわー

ありがとう、シンジ。35番を改良する方向で、再調整してみるわー」

 

 

「頼んだよ」と言いながら、他のデータをチェックして次の研究施設に向かう姿は完全にヒラ班員ではなかった。

マリコから無茶振りされた調整役の所為で、リーダーみたいな言動が染み付いてきてしまったシンジだった。

 

 

***

 

 

所変わって、レーザー研究棟。

本来の班長であるマリコが籠って、レーザー研究に精を出している場所だ。

シンジはガスマスクだけでなく防護服を着込んで施設内に足を踏み入れる。前回のMonkey事件と呼ばれる爆発性レーザーによる施設破壊事件のことが頭をよぎったのだ。動きにくい恰好でマリコの実験コンパートメントまで歩くが、やたらと遠く感じる。

おそらくMonkey事件で時に目を付けられ、万が一の時に被害が限定される端を割り振られたのだろう。

やっと着いた部屋にノックをしてから入る。

 

 

「ん、ああ、シンジか。他の部署はどうだった?」

「機体自体は問題ありません。ナンシーも方向性が決まったので時間の問題でしょう。フォースはマリコ待ちです。

……これって班員がやる事じゃなくて、リーダー業務ですよね?」

「そろそろお前もリーダーになるかもしれないから、私がその前に鍛えてやってるんだ」

「人はそれを押しつけと言います」

 

 

マリコの人事面での適当っぷりをなじってみるも、暖簾に腕押し状態と知り、諦めるシンジ。

その諦めの良さが、仕事を盛られる原因になっているとは知らない。

 

 

「まあいいです。レーザーの開発はどうですか? 方針とか」

「方針は作る前から決まっている。後は実戦レベルに高めるだけだ」

 

 

R機のレーザーはフォースロッド性能との兼ね合いの為、3種類である。

通常はR-9アローヘッドに倣って対空、反射、対地の特性を持ったレーザーが充てられる。

が、自由過ぎるTeam R-TYPEの面々にとっては、基本とは破壊するもの、常識とは破るもの、というのが常識だ。

基本を破りすぎて最早跡かたも無かったり、常識を疑った結果新たな価値観の境地に辿り着く者が後を絶たない。

 

 

もちろん、マリコも例外でなく、そもそもレーザーという概念に縛られない研究開発を行っていた。

 

 

「まず対空兵装としてスピードキャノン。2連装エネルギー弾を打ち出すのだが、連射性と貫通性を選択できる。

次に、反射はしないが広域制圧用の5WAYバルカン。弾幕を張る事にかけては右に出るものはない!

最後がバリアだ。これは広域制圧地帯を抜けるときの為の武装だ」

 

 

一気に説明を行ったマリコは、まだ聞いてもいないのに実験設備に命令を送り、実演付きで見せ始めた。

バリアこそ地味だが、非常に派手な攻撃だった。

 

 

「マリコ。これレーザーでやる必要ありました? 5WAYバルカンはまだ良いとして、

スピードキャノンって言うなら補助武装を取り付ければいいでしょう。あとバリアってなんです? 本当にやるとは」

「レーザーでなければ、スピードキャノンのあの速射性から貫通性への滑らかで美しい移行が実現できんだろうが。

バリアは弾幕合戦になった時に必要な装備だ。が、そんなことはどうでもいい、見ろこの素晴らしい版幕を!」

 

 

OF-5のレーザーの一種であるはずの5WAYバルカンはメイン武装に代わっていたらしい。

OF-5と仮置きされたレッドポッドからは5つもの射線が引かれ周囲に嵐のようなレーザー弾幕をまきちらす。

一射一射は短いが、連射されるとまるで光の雨の中にいるようだ。

 

 

「そういえば、マリコ。ナンシーは前後方向に2つの砲身を持ったポッドを作る方針らしいですよ」

「それでは+2で7WAYバルカン……これはぜひナンシーに掛けあって仕上げて貰わなければ!」

「まだ試作段階ですけれど」

「そこは調整役であるシンジの責任の内だろう」

「いや、もうそれでいいですけれど……」

 

 

何かを幻視するようにレーザーバルカンの試射を見つめるマリコ。

きっと彼女の脳裏では7WAYバルカンが荒れ狂っているのだろう。

どこか熱で浮かされた様な目のままマリコが呟く。

 

 

「7WAYであれば、広域制圧が可能だ。現状で稼働しているR機の中で広域制圧ができるものはない。

今巷では水爆ミサイルなどを遠距離から打ち込み制圧するのが流行っているらしいが、それは美しくない。

基本武装の中で収めるからこその制圧機だ」

「……一応、OF系列は軌道“戦闘機”ですからね?」

「もちろん知っている。しかし、だれが戦闘機で制圧してはならないと決めた?」

 

 

***

 

 

赤い機体色はOF系列機であることを示している。

上下に浮遊しているのはOF系列機の特色であるポッド。

グリーンポッドは緑色のエネルギー球を貫通する様に細長い砲身が一対、前後を向いて付いている。

フォースは代わり映えこそしないが、主にレーザー変換機能が一新された新式である。

完成したのはOF-5“KAGUYA”。軌道戦闘機の最終機だった。

 

 

名称の由来はグリーンポッドの緑と、その光に照らされる砲身が光る竹を想像させるためだろう。

そして、後光を纏う様に7WAYバルカンを発射する様は正にOF系列機の締括りにふさわしい機体だった。

 

 




この系列機を5機も作る必要あったんですかね(半ギレ)

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