TP-2H“POW ARMOR Ⅱ”
人類は初めてバイドという天敵に襲われた時、
バイドミッションと呼ばれる単機突入作戦を決行した。
これはR-9アローヘッドとフォースによるバイド中枢破壊作戦だった。
それから時は流れ、数度のバイド来襲とバイドミッションの後、
人類最大の危機と逆転に転ずるための一大計画
“オペレーション・ラストダンス”が決行された。
表向きにはR機によるバイド本体への単機突入ミッション、
その裏では対バイド戦闘を根本的に変えるための戦略構想。軍は焦っていたのだ。
無秩序ともいえる開発計画にGOサインをだし、
兵站や運用の限界さえ超えてR機の乱開発が行われた。
が、しかし、
Team R-TYPEは、そのあまりに自由な研究環境と裁量に、
むしろ嬉々としてR機の研究開発を行っていた。
***
“パウアーマー”
それはもっとも毀誉褒貶の激しいR機の一つだ。
R機乗りからは、必須ながらもその事故率の高さから、
可愛さ余って憎さ百倍と、憎しみを一身に受け、
整備員からは、その機構の単純さと、自己献身的な補給によりアイドルとされ、
Team R-TYPE研究員らからは、拡張性と自由度の高い
民間からは、軍のマスコットとして愛される。
しかし、パウアーマーはただの無人輸送機というだけではなかった。
変態整備員達の改造と研究員らの悪ふざけにより、
操縦席とR機にも劣らぬ武装を取り付けられ、
何時しか、戦う輸送機としての地位を確立していた。
そして、ラストダンス作戦も中盤に差し掛かったある日、
とある会合で改造計画が持ち上がった。
「それがこれだ!」
長ったらしい口上を述べた後に一つの改良原案を示すのは、
油で汚れた作業着を身に付けた整備員だった。
改良原案も、整備用のPOW図面に赤や青のラインで直書きされた、未だ叩き台状態のものだ。
場所もR機ハンガーの片隅、資材保管庫に近い整備員ご用達スペースで、お世辞にも綺麗ではない。
しかし、周囲で盛り上がっているなかには整備員だけではなく、白衣や士官服を着た者もいる。
階級なども超越したこの集団の中、地声の大きな整備員は自らラインを引いた資料を手に熱く語る。
「このパウアーマー改は有人パウの後続機になる。
輸送性はそのままに加速性能や運動性を向上させる。
正に前線で戦うためのパウだ!」
そう、ここは“POWを愛でる会”の定期集会の場だった。
戦闘機仕様パウアーマーの開発――通称、整備員の反乱事件の後、
パウの魅力にとり憑かれた人々がその無駄に熱いリビドーを発散していたのだ。
整備員達が主導したこともあり、代々の会長は整備員と決まっているが、
Team R-RTPE研究員や、軍の技術士官、一部高官、広報官なども所属する。
情報管理に煩い地球連合軍としては、異様に横の連携が強い組織となっていた。
そこに改造案などぶち込むとどうなるか?
「おお、やっぱり時代は高機動機だよな。
R機と同等、少なくともR-9アローヘッドと同じくらいには動きたい。
新式のR機用のスラスター類乗らないかな?」
「POWの完成したフォルムをこのままの路線で超える事は不可能だ。
ここはPOWらしさを踏襲しながらも、力学的、能力的、マスコット的に
優れる外部装甲案を作らねば!」
「時代はハンドメイドフォースだろ。前回のニードルフォースは予算の都合上、
休日返上の上、手作業に成らざるを得なかったが、
今回はちゃんと申請を通して最高の機材を使っての職人芸を見せてやる」
「フォース班がそこまで男気を見せるなら。レーザー担当としても従来通りとは行かないな。
よし、レーザーも美しさと力強さを兼ね備えた新式を開発してやる」
「軍での配備に関しては任せてくれ! 事務職の力で書類作成なら完璧だ」
「テストはPOW好き変わり者パイロットを多数噛ませてみよう。
奴らならきっと最高の評価を叩きだしてくれるはずだ」
俺も俺もと、次々に理性が残っているなら止めるべき発案がノリで飛び出てくる。
全員が全員、前のめりで止める者のいない現場。
雰囲気だけで、パウアーマー改の開発は、ほぼ決定事項として取り扱われた。
軍としては非常に残念なことに、この集まりには有能な変わり者が多すぎたために、
その暴走は実現に向かって動き出す事になってしまったのだった。
***
とある会議室には、作業着とスーツ、白衣に軍服などまったく統一感のない一団が占拠していた。
パウを愛でる会である。
「さて、今回はパウアーマー改開発プロジェクトの中間報告である。
まずはTeam R-TYPEより開発のタザキ班長頼む」
会長である整備員の指名を受けて白衣の男が立ち上がる。
「はい、我々Team R-TYPEでは“軍部の依頼を受けた”形で
PT-2H“POW ARMORⅡ”の開発を開始しました。
私が班長として、この会の意見を集約し盛り込み、
開発については外部協力を得る形で進めていきます」
「これで他のR機と同様に“名目上は”Team R-TYPEからの開発となりますな。
POWの時の様に、新型R機のコンペティションに無理やり捩じ込むなんて
ウルトラCをしなくて済みますな」
タザキ班長の言葉を受けて小声を漏らすのはスーツ組の一人で、事務方の男だった。
R機の開発と登録にかかる事務手続きに精通した男は、
開発・運用にかかる事務的な手間を減らすために、
軍の現場が必要性から開発陳情を上に出し、上がその発案を承認して
Team R-TYPEに依頼を出すという一般的な機体開発の形を取らせた。
これだけで面倒な手続きが非常に減り、POW改配備への障壁が低くなるのだ。
もちろん全ての行程で、POWを愛でる会のシンパが噛んでいるのだが。
事務方の男は満足げに頷くと、話を止めた事を謝罪し、続きを促した。
咳払いしてタザキ班長が続きを述べる。
「現在、レーザー、フォースの方向性が決定し、主機などの選定中です。
レーザー、フォースについては担当者より報告があります」
「はいレーザー担当です。現在は主力の貫通性レーザーで超短波レーザー、
広域殲滅に分裂反射するレーザー、
バウンドレーザーの発展形の地形対応レーザーを開発中です。
パウを愛するパイロットがそのまま機種変更できるように、
基本的にはパウの物を踏襲しつつ、新たな発展を盛り込んだものとなっています」
心電図の様な直進レーザーと、反射時に七色に分裂するレーザー、
ランダムに弾むように動き回るレーザー、三種類の試射映像が端末から再生され、
会議室内の巨大モニターに投影されている。
「続きまして、Team R-TYPEフォース班です。
パウ改に乗せるのはニードルフォース改になります。
前回は残念ながら正式な依頼で無かったため、
止むなく正規機材を使えずハンドメイドになりました。
しかし、逆にそれが限界近くまでフォースの攻撃性能を引き出すことにもつながったのです!
ならば、今回我々がする事は唯一つ。
ニードル型ロッドを打ち込むコツを掴み、職人の域に達する事。
現在、ニードルフォース改の性能を100%引き出せるように修行中です」
画面に映るのは巨大な棘をフォースに打ち込む作業用アーム。
スティックを微調整しながら、防護服を着た研究員がアームを動かしている。
周囲には、失敗作と思われるフォースが複数、ハンガーに固定されている。
フォース班の話も、流れる映像もとてもシュールなものであったのだが、
会議室の誰もが真剣に聞いていた。
突っ込み不在の中、会議は進んでいく、次に会長が指名したのは軍部の技術士官だった。
「よろしい。ではエンジン回りは軍部の受け持ちだったな。ベント技術大尉」
「はい、主機はコンペに落選したものを使いました。燃費が悪いのですが小型で強力です。
パウは燃料漕が大きいですから、多少の燃費の増加は許容範囲です。
これ以上は乗せようと思えばもっと大きいものも可能なのですが
輸送漕の容量を圧迫しますので逆に方向転換用のスラスターは小型化しました。
パウは脚部が可動式の為、多少ならば融通が効きます」
いくつか質問が飛びながらも、そつなく答える技術大尉。
時間を見計らって会長にアイコンタクトをとり、続きを促す。
「エンジン回りはどちらかと言うと、冒険はしない方針だな。
あと波動砲は今回既存のものとする。
これは上層部が“バイド砲とは何事か”とうるさくてな。そのまま現状維持になる。
続いて……輸送漕と装甲案は整備からの発案になるな。
実際に開発するのはTeam R-TYPEと組んでになる」
そう言いながら、整備員の一人に話を向ける。
比較的若い瓶底眼鏡の男が話を引き取った。
「輸送漕ですが、みなさんからの改良案を加味した結果、
従来のパウの85%程度となりそうです。
ですが、整備や補給係員が内々に検討していたエネルギー輸送漕を乗せる事を提案します。
これは高圧で圧縮状態のエネルギーを保管、補給可能にする装置です。
これにより容量を小さくしても輸送エネルギー量をパウと同等にすることができます。
もっとも弾薬は圧縮できませんので、実質的にはパウと輸送量はかわりませんが」
眼鏡のブリッジを人差し指で持ち上げる様が、余りにも奇妙だがだれも指摘しない。
完全に自分の世界に入り込んでしまっているが、
ここに集まった誰もがそんな熱に浮かされているので、ツッコミは入らない。
その流れをいつまでも続ける訳にもいかないので、
整備員である会長が締め役として声を掛ける。
「これで、案件は出揃ったかな。
では最後に外面である装甲案と外形について私から説明する。
装甲案だが、大前提としてパウの全体バランスを崩すようなものは無い。断じて無い」
一般的な認識としてパウを構成する要素とは、貨物コンテナを収めた球体ボディに、
操縦機関部一体型の巨大なアイセンサー、スラスターを組み込んだ逆間接脚。
サタニック・ラプソディ時期に行われたパウの有人化計画でも一切手をつけなかったほどだ。
会長は新たな改造図案を示した。
手元のカメラを使って画面に映し出したのは、まだ3Dモデルでもない、手書きのデッサンだった。
周囲の反応は賛否両論の微妙なもの、
期待に満ちた目を向ける者もいれば、不満げなものもいる。
他のR機が(一部を除いて)アローヘッドとの形状的な類似点を色濃く残しているのに比べて、
これは確かに球体っぽいし戦闘機でもないが、はっきりパウと言えるかどうか微妙なところだ。
会長はそんな空気を全く気にせずに話し始める。
「まず、衝突防止対策として視認性を高めるために白色であった装甲を暗灰色にする。
これは、対人戦を睨んでの改良案だ。
今まで時間を掛ければ要塞メインコンピュータさえ落とせるだけの
マシンを積んでいるのに、まったく意味をなしていなかった。
これなら敵陣に切り込んでの破壊活動ができる」
「……会長、あなたは何と戦っているのですか?」
「浪漫を解さない軍の上層部と味方に対してだ!
敵陣に単機切り込んで要塞奪取とか熱いだろう?」
「それは……確かに!
でもメインコンピュータの書換えは中央制御室じゃないと無理です。
必然パウ単機で、敵陣中央に乗り込むことになりますが?」
「問題ない」
「私もパウなら大丈夫なような気がしてきましたっ」
そんな常軌を逸した会話を繰り広げながら、ツッコミ不在の会議は続く。
「形状に関しては整流ウイングを後方に流して、
球体故のバランスの悪さを是正する効果を見込んでいる。
これにより速度なども増すはずだ。後方スラスタ周辺も増強されている。
あとは前回剥き出しだった波動コンダクタを装甲で補強する。
脚部ももちろん強化するとして、全体像はこんなだな」
今まで紙の設計図の上で話を進めていたが、
ここでいきなり実寸大の模型を画面に呼び出す。
パウといえばパウだが、今までとは違う球形機体。
クルクルと模型の周囲をカメラが巡ってきたが、
整流ウイングの装甲部でズームアップした。
「そして! 何があろうと絶対に外せないのが、このペインティングだ!」
会長が端末を操作して投影していた画像を消すと、席を立ち天井付近を眺める。
全員の目線がそれにつられて、天井に向くと、
そこには何故か天井付近に掛かっていた掛け軸の様なものが。
会長が引棒を使ってそれを引っ張ると、するすると紙が解かれる。
そこには一字『改』の文字が……
「俺が魂を込めて書いた一字だ。他の案としては“炎”“無”“鬼”も書いたが、やはりここは“改”しかない!
パウアーマーⅡなんて味気ない名前にされてたまるか、これだけは誰が何を言おうと外せない!」
そう力を込めて言い放つ会長は、やっぱり日系人種だった。
***
その後、バイドに汚染された要塞で、
内部を駆ける黒いパウアーマーの姿が見られる様になったらしい。
パウだからね。ぶっ飛んだものになるのも仕方ないね