TP-3“Mr. HELI”
異層次元探査艇フォアランナはある種の資源探査艇であった。
人類未踏の地平線の向こうを覗き、拡大と充実を手に入れようとした。
しかし、本来の目的とは異なり、人類の夢と希望を乗せて旅立った探査艇は
バイドとのファーストコンタクトを飾ることとなった。
しかし、現在は絶賛バイド来襲中。夢も希望もへったくれもない。
その中、資源探査用の機体が必要になるというのは、長引くバイドとの戦いの中で、
ある種の資源供給体制が苦しくなり始めていたからだ。
R機は通常資材と呼ばれるチタンや強化プラスチックだけではとても作れない。
R機はそれらの通常資材に、高エネルギー結晶体である特殊資材を混ぜ合わせることで作られる。
主に装甲などの強化に使用され、R機や艦艇の建造には必須となっている青い鉱石、ソルモナジウム。
フォースなどバイド兵器の原料で、バイド素子を含む化合物である赤い鉱石、バイドルゲン。
そして、エンジンなどのエネルギー効率の向上に必須となっている緑の鉱石、エーテリウムだ。
これらの内、もっとも需要のあるソルモナジウムは、太陽系や系内の小天体で採掘可能であり、
太陽系内に無数にある鉱山さえ順調に稼働していれば、在庫切れする事はまず無い。
バイドルゲンはバイド体から抽出したり、バイドに浸食された地帯で良く結晶化している。
バイドルゲンを採取するのは危険が伴うが幸か不幸か地球圏外縁部ではそういった施設には事欠かず、
バイド来襲も多いため、これも多くは無いがR機に合わせてフォースを生産する程度にはある。
問題は、ワープ空間に偏在するエーテリウム鉱石である。
エーテリウムは通常空間では非常に不安定でありまず結晶化しない。
通常空間に持ってくると、エネルギーを放出しながら次元の向こう側に消えたり、
戻ったりを繰り返す性質があるため、結晶の封入や保管もひと手間である。
もっとも、この資材の特異性であり、
この不安定で、特定条件下でエネルギーを放出・吸収再結晶する性質に意味があるのだが。
最近軍ではR機や艦艇の改修の為、エーテリウムの需要が増している。
しかし、ワープ空間はバイドの巣となりつつあるし、
通常空間から近い場所にある既存のエーテリウム鉱床は採取済みであり、これ以上の増産は見込めない。
そこで、次元の不安定な宙域に存在する小惑星系にエーテリウム鉱床が発達する事がある事に着目した。
***
「資源探査用のR機が欲しい」
軍需管理部署より来た補給参謀がそんな事をTeam R-TYPEに依頼した。
これは前述の事情の所為で、エーテリウム不足に悩む軍の意見であるが、
態々、自前の工廠もあるなか、補給を担っている参謀がこれをTeam R-TYPEに持ってきたのは
“Team R-TYPEが無節操にR機を開発して、
軍がその運用に追われている為にエーテリウム不足になっている”
という軍側の認識があるためである。
もっとも、R-9Aアローヘッドやヘイムダル級戦艦といった軍の主力が旧式化しつつあり、
軍備を新調しなければならないのは事実であり、Team R-TYPEの所為だけではない。
そんな、背景を余所に、参謀殿はTeam R-TYPEとの会議で要望資料を渡し、こう言った。
「要望としては此処に書いてある通りですが、最低限の自衛性能と燃費を追求してほしい」
しかし、要望を取り入れたうえで、無茶をするのがTeam R-TYPEだ。
軍需管理部署は後にこんな言葉を吐いたたことを、後悔する羽目となるのだった。
***
Team R-TYPEにおいて要請はクリアするものではなく、
クリアした上で更にいじくりまわすものであった。
この会議には小惑星探査R機開発班と割り振られた研究員達が詰めて第一回の会議が行われていた。
班員達が資料を読み込んだ事を確認したリーダーのパンが、まず口火を切った。
「軍からの要請は資料に書いてある通りだが、
これについて予算が下りてウチの班が担当する事になった。ついては意見を求めたい」
「うーん。当然だけどセンサー類を詰め込んだ唯の資源探査機にはしたくないよね。当然R機だし」
「調査機能に特化した戦闘機か。ありだな、形状は中に積むもので決まるから内部を詰めようよ」
発言した二人は、冴えない男のゲーリーとクアンドだった。
取りあえず案を出すためにブツブツを会話に成りきれない独り言を始める。
「そもそもエーテリウム検知装置って馬鹿でかかったような……」
「いや、ゲーリー、エーテリウム鉱床を感知するには直接感知より、
間接的に次元が不安定な場所を検知する方が楽だよ」
「ウォーヘッドとかに積んでいる空間異常測定機を積むかな。
そのままじゃ感知能力が低いから改造しよう。どうかな二人とも?」
「リーダーの言うとおり、それが楽だね。ところで浅異相次元航行装置は付けるの?」
「それは要件の低燃費に引っかかるんじゃないか、クアンド?」
パンがホワイトボードに“空間異常測定装置”と書いて大きく丸を付ける。
ゲーリーとクアンドが案を出し、リーダーのパンがそれを組上げる方式で、会議を進める。
次に議題に挙がったのは燃費についてだった。
「では話が出たところで、燃費についてだ。二人とも案はあるか? クアンドから」
「R戦闘機は何のかんので艦艇には敵わないんだよね。燃費。
だからフォアランナ以降、探査機と言えば、艦艇型だ」
「単独ミッションですら、R機はパウからの補給に頼って、
燃費低減の為にフォース・ビットは出発時に装備しないし」
「うーん、では逆に言うと艦艇型の燃費改善策でR機でも取り入れられるものは?」
「バッテリーとエンジンの併用かな。ちょっと容量食うけど。ゲーリーは他に案ある?」
「無いかな。でもバッテリーではR機のスラスターなんてまともに動かないぞ」
再び袋小路に迷い込む議論。
「うーん、二人の意見ももっともだが、此処は戦闘機の常識を捨てて考えてみてくれないか?」
パンが一応会議をリードすると、「戦闘機じゃない案、戦闘機じゃない案……」と
呟いていたゲーリーが、しばらくして顔をあげてぼそっと呟いた。
「そういえば、推進系ってスラスターじゃなくてもいいんじゃないか?」
「スラスター無し? ザイオング慣性制御システムだけじゃまともに進まないぞ」
「いや、プロペラ機」
リーダーのパンとクアンドは「はあ?」と疑問符を付けて発案者のゲーリーに意味を問う。
ちなみに二人の頭の中ではその昔第二次大戦型のイメージが回っている。
「あれを実体翼でなくて、半実体のエネルギーブレードをプロペラとして推進する」
「そうか、プロペラの重量を限りなく0に見せかける事ができるから、
星間物質でも推進できるし、既存のスラスターより燃費は格段に低い!
なあ、パン、ゲーリー案は考慮に値すると思うぞ」
「ああそういう、確かにな。その方向はありだろう。
ではエネルギーブレード製のプロペラ機と仮定して問題は……形状だな」
ゲーリーはプロペラのブレードの大部分をエネルギー製の半実体で補うという案をだした。
リーダーのパンはホワイトボードにゲーリーの言う図を描きながらさらに説明を付け加える。
「エネルギーブレードで推進するためには結構な長さが必要だ。ハブに近い部分は実体部になるが、
不可視の半実体ブレードはこの2倍の長さになる。
これは形状変化可能だが、こちらの攻撃などの邪魔になる。
R機は形状的に機体の直ぐ下部に波動砲コンダクタがあるため、
機首にプロペラを付ける単発は難しい。
両翼にプロペラを付ける双発も、
コックピットが干渉されないために翼を無駄に延長しなければならず非効率的だ。
R機にはプロペラは装備しにくいとなる」
ここで、説明図に大きく×をつけるパン。
そして徐に別の絵を描き始める。
「……そこで提案なのだが、パウを基礎ボディとしてヘリ型にするのはどうだろう」
「ヘリ……地球上での遊覧用メインの航空機でしたよね。機体上部に翼のある機体だな」
「パウを基礎ボディとすることで、多くの観測機器を入れる容積を確保し、
プロペラ機というオーダーもクリアできる」
パンは次第に熱を帯びたように語るが、途中から星間資源探査機ではなく、
如何に宇宙航行用の“ヘリ”という変態機を作るかという事に議論がシフトしているが、
Team R-TYPEでは日常なので、誰も不審に思わず議論は続く。
ここTeam R-TYPEでは、目的と手段は入れ替わるものなのだ。
***
とある辺境の資源衛星基地で新たなR機のテストが行われていた。
現場にはオーダーを行った軍の補給を管轄する参謀殿もおり、このテストに参加していた。
現在はTeam R-TYPEから資源探査機としての簡単な性能説明が終わったところだ。
参謀的にはスペックは満足できるものであり、特に燃費効率は彼の想像以上だった。
それを思えば、この時代錯誤的な造形も無理やり納得しようという気持ちにもなるものだ。
Team R-TYPEに常識を求めてはいけない。
そこでTeam R-TYPEの担当リーダーであるパンという研究員が
更に聞き捨てならない事を言い始めた。
「さて、自衛用武装ですが、各種レーザーの他、クリスタル波動砲を装備しており、
またこのTP-3“Mr. HELI”専用フォースであるプロペラフォースを装備可能です」
「……パンリーダー。ちょっと意味がわからないのだが、
なぜバルカンではなく波動砲やレーザー、フォースを装備することになっているのですか?」
「もちろん、バルカンも標準装備していますよ。むしろこれが一番重い武装です」
そういう事を聞きたいのではないと、参謀殿が絶句していると、
パンリーダーが更に勝手に解説を続ける。
レーザーはまあいいが、波動砲はどう考えても過剰兵装だろう。
「このクリスタル波動砲ですが、燃費との兼ね合いで苦労しました。
何しろ通常波動砲は乗せられません。
なので、この機体に装備されている装置類を利用しようと考えました。そ
れがこのクリスタル波動砲です。
資源探査機なので積荷である資源サンプルの輸送用倉庫として擬似的に倉庫内の次元を歪ませ、
エーテリウム鉱石の安定化を図っているのですが、
ここに小惑星などで採取したケイ素系資材を貯め、波動砲として射出します」
研究員の説明中、メインスクリーンでは資源探査機であるはずのTP-3が、
機体の数倍もある結晶体を射出して、標的を粉々に打ち砕いていた。
参謀は砕け散るクリスタルが綺麗だなと、現実を認めることを拒否した感想を抱いていた。
しかし、パンリーダーの精神攻撃は続く。
「さらにこのフォース。ブレードをフォースにも付けることでフォース単体でも推進力を持ちます。
あ、もちろん攻撃性能は通常のフォース以上です。ビットもヘリ型にしてあります。さらには……」
スペックだけ見れば見事といえるR機開発事例だ。
これを不採用とすることは 参謀の感情だけでは不可能なレベルである。
だから、このミスターヘリとかいうふざけた名前のR機が世に出ることを防ぐことはできない。
参謀は姿も知らぬ辺境小惑星探査部隊の精神衛生が保たれることを祈るしかなかった。
パウ系屈指のネタ機ですが、そもそもR機の半数以上がネタであることを思い出したので
今日もTeam R-TYPEは通常運行だと思いました。(バイド並感)