地球圏全体を巻き込んだ対バイド作戦である、オペレーション・ラストダンスも中盤。
多くのR機系統が揃い作戦は成功しないまでも、個々の戦闘力としては充実してきた頃。
Team R-TYPEの中では、倦んでいた人物がいた。
「うーん、アローヘッドの純粋後続機もだいたい先が見えたしぃ、
人型は勢いあるけど到達できるところは限られている。
パイルバンカー機もそろそろ打ち止めでぇ、
シューティングスターからの系統も固まったし、試験換機もアレくらい。
あとはケルベロス系統とかかなぁ、バイドシステムαの情報開示にはまだ早いし。
他の斬新な案は無いものかなぁ」
プレートに課長室とかかれた部屋。
大きな独り言を言い続けるのは、見栄えの良いパリッとしたスーツに
壊れかけのサンダルと小汚い白衣を着こんだ開発課長のレホスだった。
徐に端末からデータや要請案を探るが、目が滑るばかりで浮かない顔だ。
次から次へと提出された案件に目を通しては、ゴミ箱送りにしていく。
「軍の要請では足の速い補給機かぁ。POWだなぁ
5班に振った案件だけど、これだけじゃあ何の面白味も無いなぁ。
フォース班もいつも通りだし。人型は……あの班に任せておけばいいや。
何かいい事案無いかなぁ」
グダグダと言いながらデスクに座ってデータをいじくりまわすレホス。
「やっぱりいいのが無いさぁ。僕はBX-Tの理論試験を進めないといけないしなぁ。
いっそ適当な班に畑違いの研究テーマを割り振るか。
もしかしたら棚から牡丹餅で何か面白いものができるかもしれないしぃ」
レホスはおもむろにガラクタだらけの引き出しからサイコロを2つ取りだすと、机の上に放り投げる。
4と5の目が出たサイコロを見ておもむろに頷くと、Team R-TYPE研究施設のフロア地図と見比べる。
「F4の5番目の部屋っと……11号室。
この部屋の現在の研究チョイスは、と……ああ、ちょうどいいや、
最低限の条件だけつけて放り投げようっと」
カタカタとキーボードを叩くレホスは11班の研究室から上がってきている雑多な研究案に
中身を流し読みして全てGOサインを出し、条件付きの予算を付ける。
そして、開発条件として注意書きを書きながら呟いた。
「何ができるのか……面白いものができるといいなぁ」
***
「POWの新型機の開発?
どういう経緯でこんなものがウチに来たのですか、リーダー」
Team R-TYPE施設に入っている食堂。そこで11班のリーダーと若手が話をしていた。
ちなみにこの食堂では時間にルーズな研究者や、やたらと根を詰める作業員が多いため、
特定の時間に人が集中することはない。
軍事施設の食堂でよくある、別の意味での戦場のような光景はみられないのだ。
「POWは最近のR機に比べて足が遅めだから、エンジンを新式に換装するってことだけど、
どうしてうちに来たかは分からない。ただ、以前の様に先行投入待ち伏せ型ではなく、
現場に飛んで行って補給できるようなのがお望みらしい」
「それこそなんで、うちに?
軍ご自慢の工廠で出来ると思うのですが。この前も火星工廠の技術者だかが、
大型艦を覆うステルスシステムを開発したとか吹いていたじゃないですか」
「軍の技術者連中は戦艦用兵装とか大物は得意だけど、何でもかんでも大きくするからな……
本当に今はいつの時代だって感じで、大艦巨砲主義が蔓延している」
リーダーの頭の中にあるのは巨大化し続けたために、大気圏内での運用に支障が出始めている戦艦群だ。
「まあ、我々としても研究室として目標ができるのは良いことだ。
ついでに予算確保と研究室存続のためにやろうか。実はさ、この案件蹴ろうかと思っていたのだが、
レホス課長から唐突にGOサインを出されたんだ。しかも怪しい条件つきで」
「レホス課長が? 珍しいですね。あの人が軍の案件を積極的に推進するなんて」
「まあ、なんか企みがあるんだろ。
研究がスタートすればまた寝られなくなるかもしれんし、班員への通達は明日にしよう」
けだるい食事を取り終えた二人はトレーを洗い場に戻して、11班の研究室に戻っていった。
***
翌日。
11班の研究室は多数の研究者がざわめき蠢く雑然とした大部屋だ。
波動砲関連で雑多な案件も多いので、一般の研究員としてはあまり好かれていない。
こういう大部屋で光るものを見せて自分の部屋を貰うのが研究員としてのステータスなのだ。
しかし、11班は無類の波動砲狂いなのでそんなことは気にしてはいない。
その研究室の入り口で、リーダーの男が仁王立ちになり大声を上げた。
「突然だが、波動砲バリエーションについての研究が今回の我々の研究ミッションだ!」
「知っています。いつもの事ですよね」
「だが、昨日レホス課長からの命令で、高機動型POWの新型を作ることになった」
そこで、ざわめきが広がる。
それもそのはず11班は別名波動砲研。いつだって新しい波動砲についてのみ、愛情を掛けているのだ。
波動砲についてのオーダーがあると先ずは彼らの班に持ってこられる。
それ以外でも他の班から“こう言った原理でこういう物を作りたい”という要請に答えて、
もしくは暴走して技術や案を提示することもある。
Team R-TYPE研究員としては肝心のR機の開発という、
おいしいところを持っていかれている状態だが、
彼らは波動砲が好きで三食を惜しんでも研究したくてたまらないという変態達なので気にしていない。
彼らの研究室である波動砲研は、通常の研究室より人員が多い。
なぜなら、他の研究室から勉強がてら派遣されて、そのまま居ついてしまったもの。
技師が勉強を続けた挙句、そのままツナギから白衣にジョブチェンジしてしまったもの。
そんな人間たちのたまり場で、全員が好き好きに話し出した。
「喜べ! 今回は我々波動砲研だけのミッションであり、完全フリーハンドだ。
基礎条件さえ合えば、波動砲のための機体を作れるっていうことだ!
これから方針を打ち合わせようと思う」
わぁっと、はしゃぎだす班員たち。
そして歓声の後には、怒濤のごとく自分の腹案を叫び始める。
「主砲なんだからパワーに決まっているだろ」
「ライトニング波動砲やナノマシン波動砲の様に、キラリと光るものが欲しいな」
「広域殲滅って言葉に憧れます」
「もっと、燃費よく連射できるのもありだな」
「どうせだから一機に二本載せようぜ!」
皆、自分のデスクの引き出しを開けて、ため込んだ波動砲研究案を持ち出す。
一見しただけでまともなものが少ないのがよくわかる。
そもそも、まともな案ならばすでに研究が取り上げられて現実化しているのだ。
「では最低限の方針だけ決定しよう。方針案はあるか?」
十人十色過ぎて意見が纏まらない班員達、
もっともそんな事はいつもの事なので班長は気にしない。
意見で揃い方針を決定しようとしている班長に、一斉に答える班員達。
「「「「派手なやつ!」」」」
こうして、新規波動砲の開発方針が非常に大雑把に決定した。
そして、それがほぼそのまま新POW機案として通る事になる。
***
時は少し流れ、波動砲研では試作案の検討に入っていた。
さすがに、すべての波動砲の試作を行ってコンペティションを行うわけにはいかなかったので、
やたらと物理演算エンジンに打ち込み、仮想空間上で試射を繰り返していた。
もっとも、このやたらと精密な物理演算エンジンを
起動させるマシンの使用コストだけでも、相当のものなのだが。
「一号案、発案者スタンリーいきます。
スタンダードで高性能な波動砲を目指しました。連射性はR-9Aと同様ですが、威力は理論値で……」
「地味すぎる、没」
「では二号案は私デイジーが発表します。
見ての通り波動エネルギーを変換して様々な色を出してみました。
紫色を出すのに波動エネルギーを超高力場で圧縮して……」
「おい、コンダクタのダメージがひどすぎて2発目で暴発しているぞ。
波動砲として破綻しすぎ。没」
「三号案、マクレイン。
俺はウートガルザロキの資料を見まして時代は大きさを求めていると確信しました!」
「これは要塞砲だろう? 没」
「四号案、ヨネダです。
今までの弾幕には厚みが足りませんでした。
波動エネルギー弾を放射状に展開させる低速スプラッシュ砲を考えました」
「弾速が自機より遅いとかこれを機動中に撃ったら自爆用になりそうだ。
でもともかく派手なので保留!」
「五号案、チェレンコフスキヤ。バルムンクと波動砲を掛け合わせました。
目をつむると青色の美しい光が……」
「没。というか、コックピットブロックは99.99%放射線をカットするから!」
「六号案。パイル波動……」
「パイル班でやれ! 没」
「七号案……」
「うーん、保留」
***
数時間に及ぶ検討会の末、新型POWアーマーに乗せる波動砲が決定した。
多少疲れの色が見えるリーダーが、発表した。
「我が班が採用するのは、超新星波動砲だ!」
喜ぶ発案者とどよめき、そして悔しがる声が混ぜ合される。
「理由は次の通りだ。まず、スーパーノヴァという中二っぽい響きが堪らないこと。
次に通常範囲の砲長と、重量。
これによりエンジン班より引っ張ってきた大出量エンジンがそのまま乗せられる。
そして何より。この非常に派手な爆発!
隠密性など完全に無視した思い切り、超新星爆発級の威力を求めるその意気や良し!
最終的にはどこまで持って行けるかの勝負になるだろう。
現段階で威力はスタンダードレベルだが、2ループで派手さと威力をそろえたことは評価に値する!」
そう締めくくったリーダーは、周囲を見回して気合いを入れ直す。
「さあ、我々波動砲班が馬鹿にされないように、波動砲に見合った機体に仕上げるぞ!」
「エンジンは任せてください。エンジン班から詳細データを強請ってきます」
「前は機体制御系をやっていたんです。やらせてください!
POW型ならば前の班では馬鹿にされたうさ耳補助バーニアの設計書を持ち出してきます」
「では私はジェネレーターを見繕ってきます。各員は熱量データ下さい」
「波動砲改良はまかせろー」
そうして思い思いの方向に散っていった波動砲研のメンバー達。
それを見届けるとリーダーは満足げに頷いた。
破綻しかねない機体の調整をすることになるという事は頭から抜けていたのだった。
***
宇宙空間に浮かぶのは銀色に塗装された球形の物体。
オペレーターの呼びかけとともに、規定の機動を始める。
新規POWアーマー“CYBER NOVA”が宇宙空間を駆け出す。
POW型には大きい背中のスラスターに明かりが灯るとともに、
上部についている一対の独特の形状の補助スラスターが展開した。
更にはPOWアーマーなら脚部がある部分もスラスターになっている。
そして、POW型機には似つかわしくない加速度で一気に加速すると、
波動砲コンダクタに光が集まりだしていた。
2ループの波動砲は意外と直ぐに溜まり、
POW機サイバーノヴァは振り向きざま、標的に波動砲を打ち込む。
打ち込まれたカメラは横から捉えた。
標的に着弾すると一瞬光を発して衝撃波が走ったあと、直ぐに爆縮するような反応が見られた。
そしてエネルギーはすぐさま拡散し、残ったのはチリになった標的の残骸だけだった。
微妙な間を置いて、押し黙って映像を見ていた一群から質問が上がる。
「ひとつ質問があるのだが?」
「ええと確か参謀本部の……なんでしょう」
「我々の想定では、これは流動的な戦場において従来型のPOWによる支援が不可能な際に、
R機と共に前線を掛ける支援機としての役割なのだが。
なぜあのように無駄に派手な波動砲を積んでいるのか?」
「もちろん、前線における自衛のためです」
「最低限の自衛戦力が必要なことには賛同しよう。
しかし、波動砲の名称は君たちの資料に寄れば“超新星”波動砲となっているが、
あれは味方機を巻き込むのではないのかね?」
「それならば、問題ありません。あれは実質衝撃波動砲と同程度の威力となっています」
「……」
波動砲研のリーダーが軍人からの質問にキビキビと答える。
リーダーは胸を張って答えているが、
初老の軍人の方はどう考えても呆れと驚愕とを混ぜ合わせた様な表情をしていた。
「……なぜそんな物を作った?」
「だってカッコイイでしょう?」
スクリーンでは“CYBER NOVA”がうさ耳スラスターをピンと立ててカメラ画像から離脱していった。
グリトニル終盤戦で気が付いたんだ
占領コマンドが無いって