プロジェクトR!   作:ヒナヒナ

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TP-2M“FROGMAN”

TP-2M“FROGMAN”

 

 

 

重く静まりかえった室内。

壁際には地球連合軍を示す旗と、薄青地に金刺繍で錨がかいてある旗が掲げられている。

調度の良い椅子に座っているのは、良く日に焼けており目つきの鋭い老人達で、

その深い皺と威圧感のある物腰は如何にも古強者といった体である。

入り口付近に座っている老将官が重々しく口を開いた。

 

 

「地球連合海軍本部、本年3回目の将官会議を開始する」

 

 

汎用機であるR機が全盛の今、連合に海軍などあったのかと疑いたくなるような話ではあるが、

一応、地球にのみ海軍が存在している。

知名度はほとんど無いため、地球以外基地を母港とする宇宙艦隊の人員や

宇宙生まれの軍人の中にはその存在すら知らない者はいる。

治安維持任務や基地防衛戦力、果ては人足といった側面がある陸軍より酷い状態だ。

海軍任務は、そのほとんどの場面でR機と通常の艦艇で代用が効くというのも大きい。

ちなみに海兵隊は宇宙軍設立時に宇宙艦隊の一部署として飲み込まれている。

 

 

そんな日陰部署なので、当然人員は削りに削られているし、

予算もつかないので遣り繰りは相当に苦しい。

特に人事面は顕著である。

海軍の若手将校・兵は致命的に宇宙戦闘の資質が無いとされた一部のものが

配属される“はずれ所属”となっている。

持病や怪我により宇宙での活動が不可能なもの、PTSDによって宇宙空間にいられないもの達だ。

 

 

対して、ここに座って現状を嘆いている老将たちは生粋の海軍軍人達である。

もっとも生え抜きと言えば聞こえが良いが、

長年海軍に所属しており今更配置転換が不可能な者ということでもあった。

 

 

そんな会議なので、開始時から既に澱んだ負のオーラが漂っていた。

 

 

「今回の懸案事項は海軍武装に関する議題です。現状説明を」

「エーギル級水上攻撃艦は定数とは言いがたいが、各艦隊に最低1隻は配備されております。

完全に時代遅れで対バイド打撃力はほとんどありませんがイージス艦などと組み合わせれば、

バイドの中規模集団が来ても応援が来るまでの時間稼ぎだけは可能ですな」

「来年には最新鋭の水上攻撃艦ラーン級ネームシップが進水することになるが、

本部を守る第一艦隊に配備。後続艦も、もう一隻の配備が関の山だろう。

其の後は地球上の艦隊よりも水系を持つ小天体への配備が優先されるだろう」

「まったく、政府のお偉方は海上防衛をなんと心得るか!」

 

 

憤慨しながら言う口調にも勢いがない。

一向に前に進まない会議に空気も澱んでくる。

もっともここ数十年ほど、海軍の空気が明るかったことなど、

エーギル級の進水式くらいなものだが。

ため息が降り積もって空気の重さが増すようだった。

 

 

「仕方なかろう。

現実を見れば、我々海軍の役割は地球地表部までバイドが到達した場合の捨て駒。

もしくは精々が脱出のための輸送手段といった所だろう。どちらも命がけの任務になるがね」

 

 

もっとも年かさの老人の歯に衣着せぬ言い方に、沈黙が会議室を包む。

反論が起きないのは、全員それが真実であると分かっているからだ。

 

 

「それは我々とて重々承知です。

しかし、それが真実だとしても現状に甘んじることはできません。

せめて、建設的な議論をしましょう」

 

 

比較的若い――と言ってもすでに50は超えている――軍人が、顔を歪めながら言った。

それだけでも重苦しい雰囲気が多少緩和され、

口を閉ざしていた参加者の一人が案をあげ、議論が再開される。

 

 

「水上攻撃艦がだめならば、大型潜水艦の配備はどうだろうか?」

「実験中の潜水艇であるグランビアが、小回りも効く上、

武装試験も考え得る最高の成績を叩き出しました。

なにより一人乗りであることが大きい。グランビアのF型が程なく量産態勢に移るだろう」

「水上はR機で何とかなる。我々は海上護衛ではなく、海底海軍の道に踏み込むのか。

……旧ドイツ第三帝国だな」

 

 

数人からため息が漏れる。もう海底基地でも作るかと、だれかがブラックジョークを零す。

潜水空母や大型潜水艦の案が出されるものの、

考えれば考えるほど既存の兵器群で代えが効いてしまう。

 

 

「海中でレーザー関係は減衰が酷い上、高出力のものを放ったら斜線上にいる艦艇が全て沈む。

今の地球の海で航路でない場所なんて無い。それ以前にバイドは航路など考慮してくれん」

「武装としては推進系を持った実弾か……魚雷かミサイルになるか?」

「魚雷はグランビア、ミサイルはR機で間に合っている。

艦艇として有利な点は弾数を多く積めることだな」

「砲門、サイロの数が限られているから、一射あたりの打撃力は頭打ちだな。

かといって動く水爆ミサイルであるバルムンクなどは乗せたくない」

「地球の海で水爆などを発射したくない。となれば結局母艦扱いになるだろうか」

「宇宙では大艦巨砲主義が持て囃され、肝心の海では精々ミサイル発射機構のついたR機母艦扱いとはな」

 

 

そう言って天井を仰ぐ男。

宇宙艦隊で広く使われている汎用戦艦ヘイムダル級は非常に性能が高く、

後継機種が開発され、すでに第一線を退くことが決定しているにも関わらず、愛用する艦隊が多い。

その強力無比な索敵能力と、艦載能力、そして艦首砲という三拍子そろった傑作だったためだ。

実際には海軍が思うほど、大艦巨砲主義に傾倒している訳では無かった。

だが、その後継機種であるテュール級やヨトゥンヘイム級、その後の開発計画を思うと、

大艦巨砲主義というのも笑えない事態になっている。

 

「水上艦の時代が過ぎたことは悔やんでも仕方ない。今我々に必要なのは、

昔の魚雷艇の様な小回りの効き、継戦能力の高い海中専用機だな。

それでいてグランビアの様に専用の海底基地が必要なく、

最低限現状のエーギル級を改装せずにR機用のハッチから投下可能な機体だ」

 

 

そんな結論に至るまで、2時間は掛かった。そこに言いにくそうな声が上がる。

 

 

「代案が無ければ起案しましょう。ですが……

軍の工廠は宇宙戦艦の建造に手一杯で海軍には手がまわらないでしょう。

なので、非常に、この上なく、危険ですがTeam R-TYPEに依頼することになるかと」

 

 

了承替わりのため息が聞こえてきた。

 

 

***

 

 

――ある日のTeam R-TYPE

 

 

「なになに海軍が要望書を出してきたって?」

「海軍なんてまだあったっけ?」

「ええっと、地球とかエウロパにいる奴らかな?」

「エウロパのは基地防衛部隊の一部門だぞ。

地球のあれも都市防衛部隊だと思っていたんだけどな。俺は」

 

 

そんな会話がされるR機開発課会議。

ちなみに課長のレホスは開会だけ宣言してすでにバッくれた後だ。

自由人しか居ない部署で、まとめ役のいない会議。まともに進むはずもなかった。

もっともTeam R-TYPE視点で重要な議題がないせいであるが。

 

 

「で、どうするこれ? 流石に放置は予算的に拙いよな」

「要は海中専用機で、グランビアより燃費が良くて、小回りが利いて、

ハッチから出る程度の自走ができる。と」

「まあ、その心は宇宙軍でなくて海軍の人員に動かせる機体ってことだな」

 

 

だらけながらも行間を読み込む研究員たち。

ちなみにこの議題にたどり着くまでに、

バイド性ゴミの廃棄日の徹底だとか、廊下での睡眠禁止であるとか、

非常にどうでもいい議題を経てきている。

 

 

「うーんと、海軍ってあれだろパイロットの適正審査とかにはねられた奴らばっかりだろ」

「うわー、あれ完全に落ちる奴いるのか。俺らだって10代だったら丙種合格くらいならいけるぞ」

「丙種って……まあ、パイロット適性ないならR機型は無理だろうな。せいぜいがPOW型か?」

「POWも球形だから安定取りにくいんだけど……って、

まあ地球上なら上下決まっているしそこまでじゃないか」

「武装は実弾系にすればどうとでもなる。問題は移動法だな」

「流石にキウイみたく無限軌道は無理だから、やっぱりスラスターか? それともスクリュー?」

「両方とも小回り効きにくいぞ。ここで俺が一案。足ひれ」

 

 

明らかにウケ狙いの一言に爆笑する一同。完全に休み時間のノリだ。

しかも、日頃の人権を無視した労働で頭のネジが飛んでいるらしく、周囲も囃し立てる。

 

 

「無いわー足ひれとか無いわー。でも結構ビジュアル的には可愛いな」

「うん見た目はありだな。ほら、POWだし、足付きだし」

「この路線でちょっと考えてみようぜ。

てか何これ見た目のインパクト凄い。マーメイド? マーマン?」

「最初はハッチから飛び降りるし、どっちかというと蛙じゃね?」

「海軍機フロッグマンか。よし乗った。どうせなら宇宙空間もOKなように設計しようぜ!」

 

 

完全にノリだけで進む論議。

こうしてTP-2M”FROGMAN”が作られることになる。

海軍が起死回生の願いを込めた機体が、

この様な設計過程を経て完成したことなど、海軍では知るよしもなかった。

しかし、人不足、物不足に悩む海軍ではフロッグマンは正式に採用され、

水中で小回りのきく小型機としてメインを張っていくことになるのだった。

 




TACの沈む夕日で出てくるエーギル級水上攻撃艦は
本拠地を守るための陽動として出ているという感じで
胸が熱くなったものです。
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