プロジェクトR!   作:ヒナヒナ

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一周回って人型機に戻ってきました


TL-1A “IASON”

TL-1A “IASON”

 

 

 

 

「前回の失敗は機体のインパクトだけで攻めようとしたことだと思う」

「班長、さっさと出して。あ、赤ならドロー2ね」

「おいフェオ、毎回毎回ドロー出しやがってこの早漏が。……班長の番だからさっさと引けよ」

「あの……話聞いてる? あ、丁度ドロー4だから」

「ドロー4返し、メイローもそろそろドロー引いただろ」

「……」

 

黙ってカードを8枚引くメイロー。

レトロカードゲームをしながら、と話をしているのは、ブエノ、フェオ、メイローの三人。

記録媒体や何かの部品、模型などがそこかしこに散乱する汚部屋――もとい、人型機班の研究室は、

元々はナンバリングされた部屋番号で研究班として呼ばれていたのだが、

今では前作である人型R機ケイロンの開発から人型機班だのロボット班だのと言われている。

人型機班は完全にイロモノ扱いである。

 

 

じきに、メイローだけがカードを抱え込んで負けると、

班長ブエノがカードを乱雑にどけて、唐突に、研究の話をし出す。

 

 

「扱い辛いとか運用に困るってどーゆーことだよ」

「分かってただろ。ロマン機体ってそーいうものだって」

 

 

フェオが突っ込みを入れるとブエノが逆上して、捲し立ててきた。

どうやら触ってはいけないところだったらしい。

一気に話し立てるブエノにカードゲームで負けて不機嫌なメイローが律儀に突っ込みを入れていく。

 

 

「ほら伝統的に人型って感覚的に扱えるようにってことじゃん?

なのに俺たちの人型機が扱いづらいってどういうことっ」

「感覚的に云々って、単に“アホな性能”って言葉を封じ込めるための屁理屈……」

「分かってない、分かってないな。大地に二本の足で立つっていうのが、格好いいんだろ!」

「宇宙での活動前提なのに何それ?

惑星上にしたって重力を支える機関としての足とかマジ無理。

あれらは僚機や内壁に軟接触しなきゃならんPOW型の補助装置だろ」

「ぐ……そ、その昔地球連合でも二脚戦車を作っていてな」

「姿勢制御系に無駄にリソース使った上に、

制御系がノーガードだったからバイドに浸食されて敵になったけどな!」

 

 

理由のことごとくを、メイローにK.O.され燃え尽きる班長ブエノ。完全に煤けている。

ちなみに最終的に班で開発した機体なので連帯責任制なのだが、

まったく班員二人は意に介していないというか、

そもそもTeam R-TYPEに製造物責任を問う方が間違っている。

彼らには製造物が自分の責任という考えが無い。あくまで研究成果物なのだった。

そんな班員二人にやり込められて意気消沈するブエノ。

しかしこれだけでへこたれる様ではTeam R-TYPEは勤まらない。

ブエノは机に伏せていたが、気味悪くゆらりと立ち上がり、

嫌な笑みを浮かべながら人型機への愛が足りない二人へ、投げやりな発言を放る。

 

 

「まあ、ここまで議論しておいてなんだけど、実は人型後継機開発は課長命令です。

ついでにバックには軍のお偉方がついていまーす。

だから君たちは強制的に後続機の開発してもらいまーす。

いやあ、夢のある研究に付き合ってくれる良い班員を持って幸せだなぁ」

「ハァ? そんなん最初から選択権ねぇだろ!」

「そんな面倒くさい奴らに目をつけられるとか馬鹿なの?」

 

 

罵倒はそれぞれメイローとフェオである。

班長のブエノがさらに挑発すると、メイローがどこか投げやり気味に言う。

 

 

「まあ、紐付き援助なので、俺たちは人型機開発を行うことが決まっています」

「っち、こんな研究室にいられるかっ。俺は帰るぞ」

「何その場違いなフラグ? ちなみに異動希望は却下します。さあさあ、会議はっじまるよー」

 

 

***

 

 

「はいっ、今日も新型人型機開発会議はじめまーす。まずは前回の反省から意見どーぞ」

 

 

無理矢理気味にテンションを上げたブエノが班員二人に意見を求める。

が、もちろんまともな議論になんてならない。

 

 

「反省点というか、反省しか無いというか……」

「なぜ作ったというところが、反省点だよねー」

「具体的に!」

 

 

前回同様、存在自体にダメ出しをする二人に、さすがにキレるブエノ。

だが、へこたれずメイローも強くなじる。

 

「じゃあ、言わせてもらうが、そもそも、試作機だからって

波動砲もフォースも乗せてないとはTeam R-TYPEとして怠慢だろ」

「う……あれは前回納期が迫っていまして」

「そんなの理由にならん」

「案段階で棄却してもらうために細部を詰めませんでした。すみません」

 

 

痛いところを突かれて、あっさりと謝るメイロー一応研究者としての矜持だけはあるらしい。

 

 

「メイローの言うことももっともだし、さらに言わせてもらえば、

人型といいつつ、何だよあの中途半端な変形機構。

手足みたいなのが四つあれば、なんでも人型ってわけじゃないって」

「……ほら。R-9Kベースだから」

「そんな言い訳はいらないでしょ! エクリプスみたく一部だけの変形の方がまだましだ」

「はい。まじめに変形機構も考えます。

でも今回も期限厳しいし、次回以降の改善になると思います。

許してください、オナシャス」

 

 

強気だったブエノが一転萎縮してしまい、そのまま反省大会に移行した。

 

 

***

 

 

「なあメイロー、最近リーダー見た?」

「ああ、ここ一週間研究室に来ないな。見るだけなら見たが」

「どこにいるの、あのサボリ魔」

「波動砲研に詰めてたり、フォース研究棟にいたりしたぞ。声かけてないけど」

 

 

背中合わせのデスクに座り、個別に論文(機密が多すぎるので、外部には発表できず部内向け)

を打ち込みながら、フェオとメイローが雑談を交わす。

反省大会から一週間。人型機研究室ではリーダーであるはずのブエノが準行方不明になっていた。

基本的に自由人ばかりなので、暇なときに2~3日の留守では誰も何も言わないが、

一週間となると、さすがに気にもなる。

今までにも、内部で処理されているが、

フォース作成作業中消えた研究員が残滓がバイド培養槽で発見されたり、

間違いで試験管コックピットに入ったまま5日間出られなくなったなどの事件が発生している。

 

 

「まあ、他の研究班にいたなら心配ないね。前回叩きすぎてちょっとめげたのかな?」

「あの責任感皆無のリーダーだぞ? ないだろ」

 

 

そんな会話をしていると、研究室の扉が開き大きな声が聞こえてきた。

 

 

「今帰った! メイロー、フェオちょっと集まれ!」

 

 

もちろん研究班リーダーのブエノだが、その目が異様に輝いているのを見て、

メイローとフェオがアイコンタクトを交わす。

意味は「リーダーがまた何か馬鹿をやらかすぞ」である。

目を爛々とさせるブエノに、アイコンタクト合戦に負けたフェオが声を掛ける。

 

 

「聞かないと始まらないから一応聞いてあげるよ。リーダー何やらかしたの?」

「聞いてくれフェオ、前作TL-Tケイロンの改善点を踏まえて次回構想を練ってきた!」

「いやな予感がするのだが」

「奇遇だねメイロー、僕もなんだ」

「二人とも、ごちゃごちゃ言ってないで奥のディスプレイ前に集合だ!」

 

 

いつもにも増してハイテンションなリーダーのブエノが研究室の奥に消えると、

フェオとメイローも面倒臭そうな顔をして後に続いた。

 

 

「まず、前回の改善点として波動砲を改善してみた。前回は試作機と言うことで、

枠だけ取って波動砲コンダクタ本体は積んでなかったのだが、今回は波動砲研に相談して、

人型機で搭載可能かつ、最もコンセプトにあった波動砲をチョイスしてきた! これだ!」

 

 

端末を操作し、ディスプレイに記憶媒体を読ませて映像を呼び出すブエノ。

そこには、実験用によく使われるR-9Kのフレームに、適当に波動砲コンダクタを換装した実験用R機。

画面端のタイマーが0になると波動砲のチャージ音とともに波動粒子の燐光が集まり、

鋭く特徴的なチャージ完了音が響く。そして実験機が波動砲を発射し……

 

 

「おい、リーダー。何がコンセプトにあった波動砲だ。ただの拡散波動砲だろ!」

 

 

まず気の短いメイローが怒りの声を上げるが、隣のフェオも明らかに不満顔だ。

 

 

「まあまあ、諸君。まだ先があるから黙って見てみたまえ」

「うぜぇ」

 

 

メイローの怒りの声にも取り合わず、ドヤ顔のブエノがそう言うと、

フェオがぼそりと不満を漏らす。

画面ではそのまま画像が流れ、実験機に接続された波動砲コンダクタが、

折りたたまれ、配線や回路の組換えが行われる。そして第二射。

 

 

「圧縮炸裂波動砲。コンダクタの形態変化で二種類の波動砲か。これがコンセプトって奴か」

「ふふん。どうだ形態変化で波動砲も変化する。人型機にふさわしいとは思わんかね?」

「ぐぬぬぬぬ……」

「メイローもリーダーも落ち着きなよ。でもこれコンダクタの変形機構いらなくない?

オリジナルのR-9/0みたく、一つのコンダクタに両方載せられるでしょ」

 

 

英雄機オリジナルラグナロクはコンダクタが一つであるが、

ハイパー波動砲とメガ波動砲を打ち分けられた。

それを行えないのかというのがフェオの突っ込みだ。

 

 

「だって、変形して波動砲変わる方が格好いいでしょ?」

「……まあ、どうせ浪漫機体だからいいか。で、フォースは?」

「おお、フォースも面白そうなの引っ張ってきたぞ、これ」

 

 

ディスプレイが切り替わり、フォース画像が現れる。

フォース本体の赤道上に配置されたリング状のフォースコンダクターには、

何か所かエネルギー集積端子が見てとれる。見た目は通常の範囲内だ。

何故か自信満々のブエノにメイローが尋ねる。

 

 

「一応聞いておこう。リーダー、このフォースはなんだ?」

「よくぞ聞いてくれた。これはシールドフォース。今までレーザーに回していたエネルギーを

小さな楯状に展開する事によって、正面防御性能をアップさせるというフォースなのだ!」

「そのスバラシイフォースが今まで採用されなかった訳だ。……で、欠点は?」

「実はエネルギーをシールドに回しすぎて、レーザーの射程が短くてな」

「具体的に言え」

「30mくらいかな。一番長いので」

「精々R機二機分。要するにバンザイアタック専用と」

「だからシールドなんだって、玄人向けと言って欲しいな」

 

 

ディスプレイに映し出された映像は、フォースからバーナーの火の様なレーザーが灯され、

フォースの回転と共にクルクルと回るというもの。

その様子はどこかかわいらしく、武装というよりは玩具を思い起こさせる。

呆れた様な顔をし始めたメイローとフェオに取り成すようにブエノが言う。

 

 

「ほら、浪漫機体だから。メイロー」

「浪漫……あるか、これ?」

「まあ、浪漫以外無いと思うけど。レーザーに頼らず、波動砲で突き進む雄姿は浪漫じゃないか?

因みにTL-Tケイロンにも付けられるようにした」

「まあ、案を提出してOKなら作ればいいよ。

なんか前回の流れを考えるとGOサインでそうで怖いけど」

 

 

リーダーのブエノとメイローの話をフェオが引き取ってまとめる。

そしてメイローとフェオはリーダーそっちのけで、話をする。

 

 

「いいのか、フェオ。リーダーの暴走を上げる事になるぞ」

「うーん。僕はどっちかと言うとこの件に噛んでるお偉方が、

どこまで突き進むかが見てみたいんだよね

それに僕的には、技術としての可変機って所は興味あるし」

「それにしたって人型である必要はないがな」

「目的は一部合致しているから、僕的にはOKだな」

 

 

人型機班内部でOKが出た事で、リーダーは意気込んで書類を作り始める事にしたようだ。

 

 

「よし! 明日までに今日の内容を入れ込んだ企画書を作るぞ!」

 

 

そして、二種類の波動砲とシールドフォースを持った

人型可変R機TL-1A“IASON”の開発が行われる事になった。

 




続きを書くことをまるっきり考えていなかった初回投稿時の自分を殴りたい
マジで

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