TL-T → TL-1A → TL-2A → TL-2B → TL-2A2 → TL-2B2
という感じを想定しています。
2Aと2Bは時間を前後しながら別の班で行う感じです。
ただし2B2ヒュロスは人型機班も噛みます。
TL-2A “ACHILLEUS”
Team R-TYPEの研究本部のある南半球第一宇宙基地付近にある研究施設には、
研究者用に施設区画内に居住区画が存在する。
敷地内に居住施設があるのは研究内容の秘匿性が高いため。というのが建前だが、
そうしないと、研究室に住み着く物臭や研究の虫が多すぎるためだ。
そんな施設課の健闘も空しく、個別の研究室を持っている研究員の多くは
研究室に寝袋や簡易ベッドを持ち込んでいる。
しかし、流石にTeam R-TYPEといえど、外用の多い課長クラスにもなると住み込みともいかず、
隣接した居住区画からの出勤となる。
自宅から職場ビルまでの道のりをインプットされた半自動運転の電気自動車の中で、
洒落たシャツと細身のスーツ、革靴を身につけ出勤する様子は、ベンチャー企業の社長といった体だ。
しかし、課長室に入るなり仕立ての良い上着をハンガーに吊し、靴を仕舞うと、
いつ洗濯したのか分からない様な白衣と、底の抜けたサンダルを取り出して課長席に座る。
ベンチャー企業社長から、Team R-TYPE研究員に早変わりした。
「今日の案件は、と。んんー、軍の現場からの人型R機回収要望についてと、
お偉方からの新型人型機の要望かぁ
現場の要望も正規ルート通してきているし、お偉方も無視できないし面倒だなぁ」
端末にパスワードを打ち込み電子書類を読むレホス。
レホス的には余り重要で無い案件であるのか、あまり乗り気では無いようだ。
独り言にしては大きな声で自分と会話しながらキーボードを叩く。
「うーん。この案件は独創性だけが取り柄だけど、
一班だけに任せ続けるのもマンネリ化になりそうだなぁ」
レホスはひとり喋りながらも指を滑らせ、担当の研究班のデータを呼び出す。
班長のブエノとメイロー、フェオのデータが出てくる。
その顔ぶれを眺めながら思案をする。
「このメンバーだけだと不安だなぁ。他のグループも噛ましてみようかなぁ。
まあ、その前にブエノ君にだめ押しで釘を刺しておこっと。内線番号は……」
そんなことを言いながら、レホスは内線でブエノを呼び出した。
***
人型機班のブエノが“至急”と呼び出されたTeam R-TYPEの危険地帯である開発課課長室。
シンプルながらも調度の良いデスクセットや応接セットがあるのだが、
主たる課長レホスと会話すると、その濃さに霞んで部屋の様子など記憶にも残らない。
「課長。毎度毎度その白衣とサンダルはどうなんですか」
「汚れた白衣は研究者の研究者の勲章だからね。
それに君はそんなこと言ってられなくなるから大丈夫じゃない?」
「非常に嫌な予感がしますが、何ですか?」
「人型機、好きだよね?」
まだ用件にも入っていないのに、もう青い顔をしているブエノ。完全に躾られている。
その彼にレホスは良い笑顔で命令を告げる。
「君らの班には人型機の再開発してもらいたいんだ」
「しかし、課長。TL-1Bは我ながら傑作だったと思うのですが……」
「うん。でもあれは現場としては傑作であってねぇ、
人型機というコンセプトとしてはこう日和った感じだからねぇ」
「うっ……」
TL-1Bは、人型機は全く戦力にならないという評価こそ覆したが、
未だ人型機自体があまりにも需要が少ない。
どちらかというと、趣味的な面が強く、レホスの考えとしては多様性の一環という感じだ。
「まあ、いいや。君たちへの開発命令は、
君たちが考える人型機を明確な形として作れって感じで」
「今までも我々の考える人型機だったのですが」
「今回、妥協は認めないからねぇ。まあ、案だけでも一ヶ月後に出してね」
「……はい」
泣きそうな顔をしたブエノがとぼとぼと帰って行った。
それを見送るとレホスは人型機班とは別の内線を呼び出し、連絡をした。
「ああ、レホスだけど、君らの会のボス居るぅ? ああ、可変機を作らせてあげようかと思ってね」
***
一ヶ月後、少しやつれたブエノがレホスの前に現れた。
期日ぎりぎりまで粘ったのだろう、目の下にクマが構えている。
「さぁて、君の班の案はどんな感じになったの?」
「TL-2A(仮)。これになります」
「ふぅん……あ、そこで寛いでていいよ」
「いえ、大丈夫です」
レホスが目線で促したのは、応接セットのソファで、
適度に弾力があって寝不足の者なら5分と経たずに夢の世界へと旅立てそうだった。
しかし、ブエノも流石にレホスの前で寝る度胸は無いのか、ドンヨリとした目のまま首を横に振った。
眠気をわずかに上回る程度には気が張っているようで、課長席の前で立っているブエノ。
手早くデータを呼び出したレホスが、資料を読みながら質問をぶつけてくる。
「でぇ? 何となく分かるけどコンセプトは?」
「TL-2Aは今までの人型機で先送りにしていた“人型であること”そのものがコンセプトです」
「その意義は?」
「浪漫です……い、いえいえ冗談です。無言で考査表開くのやめて下さいよ!
TL-2Aの意義は人型にしかできないギミック。
今までのR機では極力廃されていた関節機構を主軸に据えたことです」
眠気も覚めて一気に汗をかいているブエノは早口で言い繕う。
明らかに冗談を言う相手を間違えているあたり、やはり寝不足だったのだろう。
そんなブエノを試すようにレホスは質問を投げかける。
「一応、工作機なんかでもアーム部は自由関節になってるんだけどなぁ」
「攻撃に用いるほど強靱のあるアームはありませんし、可動部の技術革新は有用です。
今回は人間の腕に付随する機能である“道具を振るう”事をさせようと考えています。
可動部の延長に伴い、外部スラスター部をカウンターウエイトとして
安定しやすいように外に伸ばしています」
「この手足モドキねぇ。アームの有用性は認めるし、その方針は嫌いじゃ無いけど、
このビームサーベル(仮)っていうの? これ持って振るうのは流石に許可しないよ」
「え……」
「フォースが付くのにどうやって手でサーベル持つのさぁ?
どう考えても敵にサーベルが当たる前に、フォースにエネルギーを吸収されるだけじゃない?」
そこでハッとするブエノ。
彼は、レホスがビームサーベル自体は否定していないことに気がつき、
このままの路線を修正しながら行くことを決定する。
「レホス課長。TL-2Aにビームサーベルを持たせるのは流石にやり過ぎなようです。
でも、フォースについてはまだ議論詰めていませんでしたので、そちらを考えようかと思います」
「ふーん。また、イロモノになりそうだけど。それも君の班の存在意義だからねぇ」
「やっぱり、うちの班の存在意義ってイロモノ担当なんですね……」
部屋に入ったときより、幾らか眠気が飛んだような顔をしてブエノが退室していくのを見送るレホス。
「人型……ねぇ。運命論者じゃないけどバイドミッション時のバイド帝星中枢も胎児の様な形状。
バイド化が進んだサンプルも結構人型を残すのも多いし、
生態部品でも人間とかほ乳類由来っぽい部位があるしぃ、
人型に何らかの意味を見出せるかどうか試金石として……。もしくは生体自体に意味があるのかな?」
そう呟いて未だ伸び続けるR機の系統樹に、人型機の新たなるラインを書き加える。
その後、点線でR-12クロス・ザ・ルビコンの後にラインを引いては消してを繰り返した。
***
「課長、発表案を持ってきました」
そう言って、翌月に課長室に駆け込んできたのは、
ここのところ研究詰めで無精髭を濃くしたブエノだった。
対するレホスは、汚い白衣とサンダル姿で健康的な顔をしている。
「で、どうするの?」
「人型優先は変わりません。
ビームサーベルですが腕に装着するのではなく、フォースに接続しました。
ミラーフォースの反射機構に使っていたエネルギーをサーベルに回しまして、
射程と威力を確保しました」
「それ、人型である必要性がまたなくなってない?」
「いえ、急接近、緊急離脱を繰り返す必要があるため、
機体制御性能を上げるため機体末端である腕脚に増設スラスターを取りつけました」
「目的と手段が入れ換わってるけど、まあ、その方が都合は良いからいいけどね」
ブエノが一気に説明すると、レホスが小さな声でひとり呟く。
「波動砲は……流石にエネルギーをフォースの方に回しすぎたため
スタンダードと衝撃波動砲になっています。
まあ、あの、その軍部とかも散々普通の波動砲が良いとか言っていますし、
単純なグレードダウンという訳では……」
「まぁ、波動砲は期待してないから良いよ。
どちらかというとハイブリッド波動砲そのもののデータが必要なのであって、
組み合わせの有用性は考慮外だからぁ」
「ほっ……」
レホスはその後、多数の項目について突っ込みや駄目だしを入れ、
それをブエノが必死に修正をいれた案を見渡して言った。
「まあ、色々穴があるけどもともと穴だらけの計画だからいいかー。
じゃあ、正式にTL-2Aとして案通していいよ。で、名前は決めたの?」
「TL-2Aアキレウスにしようかと」
「なにギリシャ縛りなの?」
「こう、シリーズ物っぽくてカッコいいじゃないですか。
人型機はすべてギリシャ偉人縛りにしようかと思っています」
「あー、そうそう言い忘れてたけど、
人型機はもうひとつTL-2B系列を作ることにしたから。別の班で」
「え……? ウチの班が人型機班ですよね?」
「勝手に呼ばれてるだけでしょ?
って訳でぇ、名前に規則性を持たせたいなら別班と打ち合わせしてねぇ。
あ、僕はこれから中間報告のまとめを書かなきゃならないから、勝手にやってね。
予算は今つけたからぁ」
そう言って、強制的に締めくくると混乱するブエノを追い出すと、レホスは端末に向かい、
思いつくまま、散文的に文章を打ち始めた。
***
――Team R-TYPE第23期中間報告用メモ
R機開発において、第一次から第三次バイドミッションまでR-9/0などを頂点として、
オーソドックスといえるR機の強化系には、一定の成果と、開発の壁が観察された。
Team R-TYPEでは研究員を従軍させ、現場での集団運用も研究させたが、
決定的なブレイクスルーは果たせず、
オペレーション・ラストダンスの進行についても模索が続いている。
“対バイド戦におけるもっとも有効な攻撃、 それはバイド をもって、 バイドを制することである”
対バイド兵器、特にフォース開発における基本理念として有名すぎるほど有名な言葉であるが、
さらに、端的にバイドの進化、性質、特性といったものを兵器に組み込む事により、
新機軸の兵器となる可能性があると考えている。
バイドは戦闘機に近い形だけでなく人型などを取ることがあり、
今期計画では、その形状的な意義を複数のモデルを持って観察している最中である。
ただし、現状では未だ形状的な意義は見いだせていない。
今期の開発に区切りがつき次第、今後は性質、特性、生態などを順次研究課題として取り上げる。
次期にR機系統ついては――