TL-2B“HERAKLES”
ここはTeam R-TYPE研究施設内にある小さな会議室。
“可変R機を作る会”こと変形機研の中堅研究員ブッチー主任と、その部下数名が座っている。
TL-2B開発斑のリーダーと相成ったブッチーと、その手下のカッツ、新人のニシムラ。
その他にも居るがメインメンバーは彼ら3人であった。
男臭いことで有名な“可変機研”とあって当然のごとく全員男だ。
「今回、可変機研のリーダーとなったブッチーだ。
TL-2Bの開発は、人型機研から予算枠を奪い取る形で、開発斑の設置まで漕ぎ着けたが、
それだけ人型機について軍部――特に現場の不満もあるということだ。
なので、我々なりの新機軸を打ち立てないと、即降板もあり得る。
と言うことで我々で新規案を検討したい」
「カッツです。
我々の案を出すとすれば、変形によるメリットを前面に打ち立てた形が好ましいですな」
「そうだな、どうしてもカッツの方向性が前提にはなるな。これは基本すでに前提条件だな。
ちなみにニシムラ君は何か意見があるかな?」
「いえ、僕は新人ですのでできるかという観点では怪しいのかもしれませんが、
できるなら、変形からのミサイルカーニバルをやりたいです!」
「それは方向性というか運用だろう。ニシムラ君もロマン派だったか……」
ロマン派とはまるで美術や音楽に関連しそうな雅な名称であるが、
Team R-TYPE内では理想及び妄想によって開発を行う人間の総称である。
そして広義にはTeam R-TYPEの大多数がここに分類される。
もちろん偉そうなことを言っているブッチーも例外ではない。
「いえ、人型に拘りはありませんよ。
むしろ美しければケイロン的な単純な機構の方が好みです」
「いいのではないか、とりあえず若いウチは現実性だけでなく目標が具体的な方がわかりやすい。
それに完全な人型は無駄が多いし、外見の変化はさほど重要ではない。中身だ。
と言うことで変形することで機構的な変更点のある美しい機能性の機体を押したい」
「ニシムラ君はとにもかくにもミサイル押し、カッツは具体的に?」
「R機ならやはり波動砲ですな。
変形機とは運用面を柔軟に対応できるようにするという面がありますから、
波動砲の運用として今まで余り取り上げられなかった短チャージで広域を攻撃できる機体ですな。
短チャージは各機関に負担を掛けるから機体が大型化して、機動性に劣る。
それを変形による巡航体型で補う……というのはどうでしょう?」
「それはおもしろくないな、技術的にでは無く意義的に。
波動砲よりはもっと運用に華がある物を作りたい」
「……ええと、ブッチーリーダー。運用に華とは?
人型機間で連携できるようにするとかですか?」
「間違っていないが、人型機隊による連携はナンセンスだ。
もともと人型というのは単独での運用が前提だ」
可変機という旨味を活かした人型機という、
ざっくりした方向性で始まった会議はだらだらと続いた。
しばらく意見を出し合った後、ブッチーはまとめに入った。
「既存R機の巡航について行けて、止まっての撃ち合いができる機体これがTL-2Bの方向性だ」
ブッチーはTL-2Bの開発方針を概ね決定した。
***
Team R-TYPE特有の狂気を孕んだ喧噪とは別種の、
重い雰囲気を醸し出す課長室で、二人の男が向き合っていた。
部屋の主であるレホスと、課長レクをしにきた可変機研のブッチーである。
もちろん話の内容も新たに開発に向けて動き出している可変機についてだ。
「ふぅん、既存部隊との連携を前提とした機体ねぇ。
通常R機と既存人型R機のニッチを当て込む訳だ」
「はい。R機の進化は早いですからね、生存戦略は必要かと。
私はこのTL-2Bを思いつきの特機にする気はありません」
「それはまた痛烈な当てつけだねぇ。で、具体的は?」
レホスの探るような視線に、ブッチーは用意してきたプレゼン資料を用いて解説を始めた。
Team R-TYPE開発部の現場で最も影響力を持っているレホスを説得するという、
研究員にとっての大一番だ。自然とブッチーの言葉にも力が入る。
「TL-2Bヘラクレスは、ミサイルポット装備型の人型R機として研究を進めています。
その機能を最も引き出すために、現状でもっとも普及して居るであろう早期警戒機兼、
管制機であるR-9Eミッドナイトアイとの連携を想定しています。
TL-2Bには6WAY追尾ミサイルを搭載する予定ですが、
管制機が居れば集団でミサイル弾幕が張れます。
前世紀の水上艦艇の運用法を想定して頂ければと。
ミッドナイトアイをイージス艦に見立てた運用ですね」
「それはR-9Bシリーズ爆撃機タイプの運用と被るんじゃなぁい?」
「核ミサイルではなく通常弾頭です。流石にばら撒くのにバルムンクは大きすぎます。
防衛を基軸としたR-9Bシリーズとは違い、攻勢に向いた機体として運用すべきです」
レホスから致命的な反論が無いことを確認すると、ブッチーは説明の続きを語り始める。
「先ほどの説明で分かるとおり基本的にこれは防衛戦向けの機体になりそうです。
そうですね、宇宙要塞などの防衛機として配備することを想定しています。
施設設置型の固定ミサイル砲台などは接近されると手の打ちようがありませんが、
TL-2Bならば人型機用汎用フォースであるビームサーベルフォースを装備可能であるので、
接近戦も問題なくこなせます」
続く話を一気に言い切ったブッチーは、大きく息を吸いレホスの質問に備える。
レホスは目の前の男が持ち込んだデータをしばらく読み込んでいたが、疑問をブッチーに尋ねる。
「ぶっちゃけた話、人型機である必要性が薄いんだけど、このTL-2Bが人型機である理由は?」
「ありません。この際四足なら人型ということにしようかと。
もともと我々“可変R機を作る会”が作りたいのは人型でなくて、可変機ですからね」
「もっとも方向性が近くて利用できそうな系統が人型機。という訳だ」
「はい。レホス課長。それに人型が近接戦対応能力に秀でているのは事実ですから」
そもそも、人型機はR機である必要があるのかという根本的な疑問はスルーし、
レホス、ブッチーともに、それぞれの別の思惑を抱きながら課長レクは終了した。
***
リーダーのブッチーが課長レクを終えて、研究室に戻ると、
TL-2Bに積む波動砲の研究のため、
波動砲研に一時的に出向いて研究を行っていたカッツが居たため、声を掛ける。
「ハイブリッド波動砲の6式の方はどうなった、カッツ?」
「レホス課長へのレクはうまく終わったようですね。お疲れ様です。
取り扱いが難しいため今まで敬遠されてきたライトニング波動砲を採用しました。
もう一つはもちろんスタンダードです。癖のあるものを組み合わせる意味はありません」
「それは確かに成果だな。
ええと、たしか今までの経緯としてはライトニングの波動-電気変換回路が、
大きすぎて他に組み込めなかったはずだが、どうやったんだ?」
「回路の小型化に成功しました。
……と、言いたいところですが、実際にはオリジナルライトニング波動砲より、
変換容量が小さくなっているため、出力そのものも小さくなっています。
射程も狭まっているため、短ライトニング波動砲と言うのが正しいでしょう」
少し悔しげなカッツの言葉だが、ブッチーはそんなものだろうと了解の意を示す。
波動砲についてはあまり興味は無い。使えるものがあれば構わないのだ。
そこに、研究室の奥から、日に日に不健康になりつつあるニシムラがやって来たので、
ブッチーが、若手のニシムラに進展を尋ねる。
ニシムラは目の下に育ってきたクマと充血した目を擦りながら答える。
「人型形態の安定性はどうなった?」
「ええ、ミサイルサイロを設置するため、背部の厚みが増し大型化が進んでいます。
これだけの大きさだと機動による回避も難しいですので、
フォースによる防御を活かすため前方からの被弾面積を減らしました。
それによって、人型というよりは四足に近い形状に落ち着きそうです」
機体のデザイン案を見ながら話して言いるブッチーとニシムラだが、
波動砲データを弄っていたカッツが話に加わる。
「いやはや、ミサイルポッドを変形の前後ともに撃ち出せる様にするのに手間取りましたよ。
主に波動砲コンダクタとの容積の食い合いという面で」
「ああ、波動砲のコンダクターとかフォース関連の機関は場所を動かせない上に大きいからな。
あれを避けて別の大型サイロを取り付けようとすれば。ああなるな」
「まあ、私は人型機というより、変形によって機能性向上すれば言うことはありません」
「TL-2Bは人型形体の立体勢以外はかなり無理してみないと人型に見えないからな」
実際にTL-2Bの模擬戦闘データを見ると、人型というには少々難がある。
戦闘機時の大型背面スラスター類が、頭部であるコックピットの後ろに付いており、
微妙にカーブを描いているため腰の曲がった“せむし”の様に見える。
脚部は閉所での運用する場合には、人間のように壁や地面を蹴り付けることによって
機動力を高める効果があるが、通常、宇宙空間での運用時には
背面スラスターと揃えて後方に向けるため、足を後方に投げ出している様になる。
機体の大きさに対して防御手段がフォースのみなので、
被弾面積を小さくしフォースの陰に隠れられるように、
頭もといコックピットを前方に向けて寝そべった様な体勢を取ることとなる。
近接戦に備えて、アーム部も備えられているが、TL-2Bの場合は固定の近接武装が無いため、
補助的なものに過ぎず、通常は脚部とのバランスを考慮して、
小さく肘を曲げた形で機体前方に緩く付きだしている。
つまり、なまじ人型をしているだけに、
戦闘時はハイハイする幼児といった外見になってしまうのである。
移動時にはちょっと大きいR機という感じだが、
足を止めての撃ち合いではこの体勢に落ち着くのだ。
ブッチーは改めてTL-2B完成予想図を見て呟いた。
「人型機……といっていいのか? カッツ、ニシムラどう思う?」
「R機に夢は必要だが、機能性はもっと必要ですから問題ないですな。何より可変機です」
「僕はミサイルが五月雨式に撃てれば満足ですが」
結局は彼らもTeam R-TYPEであった。
***
対バイド戦線、最前線の一つである木星-金星ライン。
そこに浮かぶのは難攻不落の要塞ゲイルロズだ。
非公開ながらも地球周辺域に来襲しているバイド群が、
小規模なものに押さえられているのは、要塞ゲイルロズの貢献が大きい。
しかし、バイドの物量は強大であり防衛艦隊次第では、内部に押し込まれる場合もあった。
その要塞内に一つの実験部隊が配置されていた。
TL-2Bヘラクレス部隊である。
現地実証中であるこの部隊は、入口の隔壁を睨みながら待機している。
障害物に隠れて部隊の目であるR-9Eミッドナイトアイが配置され、
弾切れに備えて後方には工作機も完備されている。
先ほど外の戦況が思わしくなく、突破した小規模バイドが入口に押し寄せていると
R-9Eのパイロットが部隊に伝えてきたため、
TL-2Bヘラクレスは機体の出力を上げて待機している。
「ミッドナイトアイ1より各機へ、
現在守備艦隊の裏をかいたバイドの一群が要塞にアタックを掛けている。
そろそろ先頭集団が来そうだ。ヘラクレス隊、準備は万端か?」
部隊の中核であるR-9Eミッドナイトアイからの通信にヘラクレス隊各機から了解の返事が返る。
場所は要塞ゲイルロズの正面シャッターの内側である。
波動砲の直撃にさえ耐えられる正面シャッターが、バイドの侵食により脆くなって軋んでいる。
ついにはバイド粒子弾によって打ち破られるシャッター。
待ち受けるのはヘラクレス隊の放ったミサイルの弾幕。
ミッドナイトアイの強力な索敵能力と組み合わされた大量のミサイルは
一斉射で小型バイドの半数を処理した。
工作機によりミサイルの補充を受けるころには外で大型バイドを叩いていた艦隊が駆けつけ、
結果として、バイドの規模の割に、R機・要塞ともに被害は軽微で切り抜けることに成功した。
そして、彼らは要塞ゲイルロズの不落神話の一端を担うことになった。
TL-2Bヘラクレスはこの実験部隊の働きが大きく評価されることになり、
従来型の人型機とは異なる価値観をもって評価されることになる。
ビームサーベルってフォースに付いているのに、
何故手がある必要があるのか? 本当に謎です。