プロジェクトR!   作:ヒナヒナ

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TL-2B2“HYLLOS”

TL-2B2“HYLLOS”

 

 

報告書「人型R機の研究成果」

 

 

・TLシリーズ概要

 TLシリーズはTL-2B“HERAKLES”を除き、一貫して近接戦に特化してきたR機群であるが、そのリーチの短さや、攻撃手段の乏しさから、単機・単機種での運用には向かないという現場からのレポートが多数挙がっており、基本的には他のR機のバックアップが必須である。現場ではこれらを補うため混成部隊を作るなど対応しているが、その速度や航続距離などが問題となっている。これに関してはR-9E“MIDNIGHT EYE”を管制機とするTL-2B“HERAKLES”も同様である。

 

 

・TL-2B2“HYLLOS”の開発評価について

 TL-2B2“HYLLOS”では前述の欠点を補うため、中距離戦から近接戦までを一機でカヴァーできる性能を付与することが前提条件となった。TL-2B2“HYLLOS”の開発コンセプトとしては“エースパイロット専用機”として開発された。開発の方向性としては単機による近距離戦を可能とする機体である。これまでの人型機の発展系としての近接性能と武装を装備するとともに、TL-2B“HERAKLES”で開発された6WAYミサイルによる中距離での攻撃手段を加えた。また、補給頻度を減少させるためエネルギータンクおよび、ミサイルサイロを従来よりも大きく取った。このため、さらに大型化が進んだが、短期運用であるため、問題にはならないものと思われる。

 

 

・運用準備について

 特殊機体であるため、まずパイロット選定が問題となる。先行ロールアウトした2機のTL-2B2“HYLLOS”のために、TL系列機を触ったことのあるパイロットの中から、調査・選定を行い、精神的、肉体的テストを行い、既存の人型機での戦闘記録が良いものを2名挙げた。なお、当機体は非常に操縦性が特殊であるため、輸送パイロットも専用である必要がある。現実的には実戦配備時には輸送機などで移動することになる。なお、今回は輸送機が使用不能であったため、Team R-TYPE上層部から送られてきた薬物処理済みの人員を使用した。

 

 

・輸送時事故について

 今回の先行ロールアウト機2機は、前線部隊に届け選定したパイロットに運用試験、実地運用を行わせる予定であった。しかし、2機はそれぞれの経路で輸送中に、各別の小型バイド群に接触し戦闘に突入した。戦闘を行ったのは正規パイロットでは無く、輸送任務専門の仮パイロットが行った。TL-2B2“HYLLOS”は1機大破、1機損傷軽微となった。大破機からは戦闘データを回収、損傷軽微機については改修後正規パイロットに受け渡しを行った。大破機データは次期増産に備えて分析を行っている。

 

 

・現地運用について

 上記事故により現場に配備されるTL-2B2“HYLLOS”は一機となったが、正規パイロットの適性が高く、当初スペックを超える成果を上げている。配備3ヶ月でのデータで顕著なものは瞬間最高速112%、近接撃破率:172%、反応性148%である。(※これらは既存人型機データを基に試算したスペック値との比となっています)現場からのレポートでは特に待ちでの性能が高く、基地防衛隊を中心に要求が挙がっている。

 

 

 これらのデータを総合し、TL-2B2“HYLLOS”先行ロールアウト機の現場評価は高く、人型R機として成功であると思われる。また現場からの要請に応えるため、増産計画と、人型機開発研究の継続が必要である。

 

 

Team R-TYPE開発部開発課 主幹研究員  ブエノ・クラスマン

              主幹研究員 ブッチー・パンタナス

 

 

 

 

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○人型R機に関する最終報告書

 

 

 かねてより行ってきた次元突破実験の余波や、まれに観察される事故により、“知的生物が生存し平行的に存在しうる異なる次元”(以下平行次元と称す)から当次元に現れた“漂流物”群を観察した結果、人型兵器の記述や部品が非常に多い。書物・データの一部はその自己矛盾したな内容から妄想や空想の類と観察されるが、稀に人型機の部品と思われる現物が漂流してきた事例が複数件ある。漂流してくる人型兵器についても、Team R-TYPEの技術では解析の難しい技術(試料不足による)が、多数見られる。

 

 

 これらはR機とは明らかに違った技術体系の元で作られたことが明白である。これについて身近な例を挙げると、平行次元の一つである“26世紀の地球”で作られたバイドに、魔道力学とでも呼ぶべき技術が利用されていることは研究員の間では良く知られている。漂流してくる人型機も同様に我々とは別の技術体系が用いられているが、その技術も平行世界毎にタイプが違う。

 

 

 異なる技術体系間で同じような機動兵器が作られる事についてが、この研究の発端である。これは収斂進化の一つとして見ることができる。つまり、“人型であることに何らかのメリットがあると考えられる。”Team R-TYPEでは、“機動兵器が人型である事でメリットがある”ことを仮定として研究を行うこととした。平行次元の文明にとって人型であることが、何らかの意義がある事を想定し、その知見を深めるためにTL系列の開発を実施した。

 

 

 “人型であることに何らかのメリットがある”という命題については別の推論もある。人類の敵であり、もっとも興味深い研究対象であるバイドである。一般的に知られている通り、小型、大型バイドの多くは肉塊や機械が一見デタラメに配置されることによって構成されている。しかし、特に強力に進化したバイドの一部個体については人型を取ることがあるという事実がある。バイドミッション時のバイド中枢は胎児の様な形状であったことが記録されている。このバイド中枢は侵蝕を受けた物では無く、完全にバイド素子が周囲元素を取り込んで成型したものと想像され、取り込んだ物質由来の形状ではありえない。また、一部に人間の物と思われる気管を持つバイドは多い。カルスや筋組織といった生物に普遍的な組織では無く、ほ乳類の内臓器や眼球、明らかに人間に類似する顔面や脳が分化することもある。バイド化して間もない場合には、バイド侵蝕を受ける前の形状を色濃く保っている場合もあるがこれは除外する。

 

 

 また、人類の人型機を基とした小型バイド“ゲインズ”があるが、現場から報告される接触頻度から考えて、鹵獲侵蝕されたものを直接使っているわけでは無くバイド化した物質から選択的に人型のゲインズとして“再生産”されている事が分かる。状況証拠ではあるが、バイドも明らかに人型であることで、何らかのメリットを得ていると想定される。

 

 

 「バイドが26世紀地球人類によって作られたので、人間の遺伝情報を持っていることは当然である」といった反論を政府の高官が述べた例があるが、人型のデータを持っていることと、それが表現系として出現する事は別の問題である。人型の形質が淘汰されずに、生成ミスとしての誤差範囲を超えて頻繁に発現するという事に意味がある。

 

 

 これらの仮定を検証するために人型機であるTL系列の開発を進めたが、スペック上での効果はほぼ認められなかった。ただし、パイロットが強い感情を発露した時に限り、スペック以上の戦果を記録する事例が散見された。他機でも感情の発露による一時的な反射神経の向上などが見られるが、この系列機では特にこの影響が強く表れている。ただし、感情的な要因によって引き出される能力は恒常性が無く、持久力に劣る。薬物、暗示などによって興奮状態を維持した被験体を使い、予備試験を行ったが、事故率、被験体の消耗率ともに高く、それに対して再現性が低い値を示したため廃案とした。

 

 

 これについて実機では結果が異なる可能性も考慮して、TL-2B2“HYLLOS”の配備前にも極秘にブラインドテストを行った。これはTL-2B2“HYLLOS”の輸送任務につけたパイロットに暗示処理と薬物処理を行い、バイド小規模群体の予想経路上を飛行させるというものである。ただし生産台数の都合から母数が2であるので、参考値以上のものではない。生産された2機のうち1機が、パイロットの過剰興奮によって判断を誤り、撃墜判定を受けた。もう1機はパイロットの興奮作用が良好に作用し予想値以上の成果を上げ、任務を達成した。

 

 

 この後、正式に該当部隊に配備されたTL-2B2“HYLLOS”だが、予想値を超える成果を上げ続けている。これは輸送任務中の逸話や、1機のみの特別機、特殊機体などというパイロット側の思い込みにより、自己暗示状態にかかり、自ら興奮状態を作り上げているためと思われる。ただし、その後行った追試でも再現性は取れていない。

 

 

 これらの研究から、人型R機のメリットや運用法が確立されたが、これらのメリットの多くは個人の資質に強く依存し、再現性に劣る。人型R機で挙げられる運用上のデメリットや構造上の限界を考慮すると、これ以後の開発方針としては、従来型の形状に一本化することとした。

 

 

 人型R機開発でのOp.Last Danceの成果としては、近接戦闘データの蓄積と、全状況運用を可能とする波動砲のテストケースとなりうる、多種多様なハイブリッド波動砲シリーズが挙げられる。Op.Last Danceの最終目標として、“最強の一機ではなく、究極の汎用機”というコンセプトがあり、様々なシリーズの施策検討を実施してきたが、人型機で吸収すべき事項は研究し尽くしたと判断したため、研究データをまとめた後に、人型R機TL系列機の開発を凍結する。

 

 

Team R-TYPE研究開発部開発課長レホス

 




ナルキッソスなんて無かった

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