プロジェクトR!   作:ヒナヒナ

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R-9AF“MORNING GLORY”

R-9AF“MORNING GLORY”

 

 

 

「良い波動砲って何かな?」

「何だ唐突に」

 

ここは要塞ゲイルロズの数ある食堂の一つC食堂である。

通常の兵員用であるのだが空いている。

理由は簡単。ここはTeam R-TYPE研究区画に隣接しているのだ。

将兵の間では、ここは研究員達が被検体を選ぶ際の狩り場である。

と、まことしやかに囁かれている。

いかに狂科学者集団といえども、理由もなく通常兵員を被検体として扱うことなど

殆どないのだが、今までの悪評から半ば真実のように言われていた。

そんな訳で、先の会話をしている兵士らも目立たずに長机の隅の方に座っている。

地球連合軍の白い軍服を着た30代くらいの男と、

作業服の上からジャケットを羽織った同じく年代の男で、

二人が態々人の少ないC食堂を選んだのは、

ゆっくりと食後の情報交換と言う名の世話話をするためだった。

 

 

「いや、俺さ防衛部隊R機付きの整備員じゃん?

結構色々パイロットの愚痴に付き合わされるのよ」

「ああ、それも仕事の内だろ。いつ終わるともしれない事務より健康的だ」

「まあ、それを機体コンディションの目安にもしてるしな。まあ、そういう話の中でさ。

波動砲についても結構色々宿題貰っててさ。結構悩んでるんのよ。これでも」

「なんでお前が悩む必要がある? 波動砲の基礎整備ならともかく、

波動砲なら……それはTeam R-TYPEの課題だろう?」

 

 

軍服を着ていた男は“Team R-TYPE”の部分を発するにするにあたって、

周囲を見回してから小声で言う。

事務屋の軍服の男は几帳面かつ生真面目な性格で、

Team R-TYPEに絡まれるのだけは避けたいのだ。

C調言葉を発して居た整備員の男も、ここがどこだか思い出して声のトーンを下げる。

 

 

「わりぃわりぃ。ここがC食堂だって忘れてたわ。

で、さっきの話。波動砲は奴らの持ち分てのは重々承知なんだけどさ、

パイロットが機体の事で悩んでたら、

一緒に悩んでどうにかするってのが整備の役割でもあるわけだ。

それに今居る第五防衛部隊は乙種合格の部隊だから、

整備とかに転向したり整備から転向したりがある部隊でな。

あんまり人ごとでもないんだ。で、第一部隊のエリート様達と違って腕も劣るし、

“波動砲とフォースを両方使うなんて頭がこんがらかる”とか言っている野聞くとなぁ。

“威力重視の波動砲より簡単な波動砲を積んだ機体が欲しい”

って言うのがパイロット達の共通認識なんだわ」

「お前のその仕事に向き合う姿勢と専門性は尊敬するが、

それは研究の範疇で畑違いではどうにもならないだろ」

「そう、なんだけどなぁ。

威力が劣っても火線が多かったり周囲のバランスが取れているだけで良いんだけどな」

 

 

アローヘッドではダメなのか?

しかし、仮にもR機を擁する部隊が最も普及しているR機に乗っていないとは考えにくい。

練度不足以前にR機操縦の資質に欠けるダメ部隊の戦力を底上げするために上が動くとは思えない。

事務方の男はそんな事を考えながら茶をすすっていた。

悩んでいた整備の男がため息をつきながら大きな声を出すと言った、なかなか難しいことをした。

 

 

「せめて、波動砲とフォースの操作が一緒になっていれば、その分他の補助機構をつけても、

第五防衛部隊のパイロットでもいけるんだけどなぁ!」

 

 

***

 

 

同時刻、同じくC食堂の中央部。

 

 

「良い波動砲とは何だろうな?」

「何ですか急に」

 

 

四人掛けの席に白衣のままだらけているのは、20代と40代の男二人である。

物腰からして“先生”と“生徒”といった具合だ。

出で立ちとしても、研究区画との地理的要因からしても、

彼らがTeam R-TYPEの研究員であることは明らかだった。

 

 

「基本的に波動砲は破壊力で全てまかなうスタイルが幅をきかせているからな。

力一辺倒では美しくない。発想力で勝負する波動砲があっても良いのではないか?」

「今はみんな“破壊力が正義”って感じですからね。発想力といえば、

R-9AD系列のデコイ波動砲とか、R-9Eのロックオン波動砲とかは

だいぶギミック凝っていますよね? あと、美しさで言えば

TW系列のカーニバル波動砲はすごくきれいだった覚えがあります」

 

 

自分の理想を語る“先生”に、イロモノ系波動砲を挙げる“生徒”。

そんな生徒に、先生はダメだしから入る。

 

 

「君キミ、研究者ならば見た目で“綺麗”と言ってはいけないよ。

研究成果の奥底から見えてくる洗練された技術や発想を、綺麗というのが正解だ」

「すみません、僕はまだまだ勉強不足でして」

「うむ、しかし、キミの挙げたデコイ波動砲は発想が自由でよろしい。

あれは私の流儀ではないが素敵な波動砲だ。ロックオン波動砲は、

発想自体は単純ながらフォースやビットと組み合わせた技の妙が光っているな。

私的にはこの路線が好みではある」

「しかし、今回の会議に掛ける案件はどうしましょう。

一件は案を挙げないと上から怒られますし、あまり長考もできませんよ。

開発会議で方針だけでも立てないと我々の研究室は解散になってしまいます。

ただでさえ二人の部屋なのですから」

「ふむ。しかし私もあまり意に染まないものを作りたくはないのだが。

機体性能は二の次としても、波動砲やフォースは新しい風を呼び込みたいものだ」

「そうは言いましても……」

 

 

そんな問答をしばらく続けていた二人だが、いよいよ手詰まりになり黙ってしまった。

人が少ないことも相まって、食堂全体に気怠い空気が醸造されている。

 

 

そこに長机の端の方にいた二人組の会話が漏れ聞こえてくる。

彼らは声のトーンを落としてはいたが、軍人というだけですでに目立っている。

そして問題はその内容だった。

 

 

“波動砲とフォースの操作が一緒になっていれば”……?

 

 

何か頭に閃光が走った気がした。インスピレーションが二人に降ってきたのだ。

この獲物を逃してなるものかと、

アイコンタクトで示し合わせた“先生”と“生徒”は、スッと立ち上がると、

座っている二人組の軍人の席へと向かい、おもむろに肩を叩く。

 

 

「ちょっとその話をお聞きしたいのですが、

ここでは何ですのでTeam R-TYPEの研究室に来て頂けますか?」

 

 

そんな、ヤクザなセリフを言われ、

白衣の二人組にロックオンされた軍人二人組は恐怖に固まっていた。

周囲にいた目撃者の証言では、まるで重犯罪でMPにしょっ引かれる犯人の顔の様だったと言う。

 

 

***

 

 

所変わってTeam R-TYPE研究区画にある研究室に、“先生”と“生徒”の二人組がいた。

 

 

「なかなか見所のある青年達だったな」

「そうですね。発想だけで理論的ではありませんでしたが、それを考えるのが僕たちですしね」

「波動砲をフォースと連動させる、だったか。一緒にするとはおもしろい考え方だ。

我々は波動エネルギーを用いる波動砲と、

相反するバイド由来のフォースとを無意識に区別していたようだな」

 

 

二人はインスタントコーヒーを飲みながら新しく取り入れた案を検討している。

ちなみに軍人二人組は案を聞き出された後、

興味をなくした二人によって保安部に預けられた。

罪状は許可無くTeam R-TYPE研究区画に立ち入った事についてだ。

無理矢理拉致されたといえる状況でほとんど言いがかりであるのだが、

目先の研究課題に釣られた二人にとって塵芥に近い事柄なので、

弁護はなく完全に忘れられていた。

 

 

軍人組二人から意見だけ吸い上げた研究組は、

しばらく色々意見を戦わせていたが、まとめに入った。

 

 

「これを考えるとなると中々難しいですね。フォース自体には完全性があるといっても、

コントロールロッドとの接触面に組み込んであるバイドニューロンを

波動エネルギーに晒したらアウトですよね?」

「だが少なくともな創造的な研究だ。実験的でもあるが。それはそれでおもしろい。

といっても、君の指摘はもっともだ。なので、今回は試験機として低出力のものから研究しよう」

 

 

そう言ってR-9AFモーニンググローリーの開発計画が始動した。

 

 

***

 

 

R機と言うにはずんぐりむっくりなシルエット。コックピット下から突き出たアーム。

それはフレームだけにされた工作機の用に見え、

そこに無理矢理波動砲コンダクタとその他機器が取り付けられている。

そして、スタンダードフォース改がその前面をゆっくり回転しながら浮遊していた。

それを観測機材の隙間から見やっているのは白衣の二人組。

 

 

「波動砲-フォースの連携構想だけでまさか半年かかるとはな」

「でも、その甲斐あってフォース波動砲完成しましたね。

一応威力もスタンダード並には出せるようになりましたよ」

「始めはフォースのコントロールロッドに波動砲射出機能を持たせようと

要らん努力をしていたからな。我ながら稚拙な考えで恥ずかしい」

「ええ、よくよく考えれば実体砲身の要らない波動砲ですからね。

でも安定性か威力を犠牲にすれば波動砲コンダクタが絶対必要ではないことが

分かったことが成果ですね」

 

 

波動砲は波動砲コンダクタで制御した波動エネルギーを虚数空間にチャージして、

前方に形成した力場から、ベクトルを付与してエネルギーを解放する兵器である。

この試作機R-9AFでは波動の開放座標を機体固定ではなく、

コントロールロッドの先端付近に合わせている。

 

 

この処理はフォース側ではなく機体側に依存しており、

コントロールロッドを機体内に収納したというのが研究成果である。

とはいえ、この処理を行うため新たな機関を積んだのだが、機体性能は大きく制限され、

試作機と言うこともあって、単純な機体性能はアローヘッドにも劣ることとなった。

その不備を補うため、アームなどが取り付けられ万能機としようとして、

どれも中途半端になる典型のような性能だった。

 

 

「R-9AF自体は非力なR機に過ぎないが、この研究成果は波動砲に汎用性をもたらす」

 

 

“先生”と“生徒”の二人は満足げに笑い合うと、

この後のお披露目の日程や報告書について検討し始めた。

しばらくたってから“生徒”が問いかける。

 

 

「でも、先生。このフレームどうしましょう。これ以上機関の小型化できないので、

空間余剰の大きい工作機フレームを使うことになっちゃいましたけど……これR機で通りますか?」

「そんなことは心配しなくてもよろしい。

波動砲があってフォースがあってレーザーもレールガンもある。

ザイオング慣性制御システムもあるので、戦闘機動だって可能だ。

むしろ、これのどこがR機じゃないのか?」

「……そういわれるとそんな気がしてきますね」

 

 

そんな投げっぱなしの会話の末に、R-9AF“MORNING GLORY”が完成した。

当初の構想にあった操作性の向上なんてどこ吹く風、

それどころか試作機とあって、戦力としても心許なく、形状もぱっとしないR機だった。

しかし、その成果の一部は最高の汎用機を作り上げるという“Op.Last Dance”の流れに乗り

組み込まれていくのだった。

 




arcadiaで投稿していた時、完全に忘れ去られていたR-9AF。
こちらではちゃんとした順番で投稿しなきゃと思っていたのですが、
エタっている間に完全にそのことを忘れていました。

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