プロジェクトR!   作:ヒナヒナ

87 / 105
R-13A2“HADES”

R-13A2“HADES”

 

 

 

R機には英雄機と呼ばれる機体がある。

バイドとの長く熾烈な戦闘の中で、特出すべき成果を出した機体を呼ぶ。

初期型R-9Aアローヘッドや、R-9Cウォーヘッド、R-9/0ラグナロクなど、

大型反抗計画である各バイドミッションの達成機が特にそう呼ばれる。

これらの機体は、再調整された後に量産化され、現在もその多くが戦線を支えている。

その他作戦でもサタニック・ラプソディ事件やデモンシード・クライシスなどの機体も

含めるのが通例だが、長い間ほとんど顧みられなかった機体がある。

悲劇の英雄機R-13Aケルベロスである。

 

 

R-13Aケルベロスは、波動砲に初めて電気的特性や追尾性能を持たせたという

ライトニング波動砲や高バイド係数高威力であるアンカーフォースなどを装備した、

当時としては野心的かつ高性能な機体である。

しかし、開発当初の技術的な制限により、

R機の基本性能の一つである異相次元干渉機能の一部をトレードオフしており、

その所為で、オリジナル機が異相次元に取り残されバイドに取り込まれる事となった機体として、

一部では有名である。

 

 

この計画の成否は軍内でも大きく取りだたされたため、

風聞でもケルベロスが帰還できなかったことは有名で、

安定性や士気を重要視する軍内で、量産化の話が殆ど出なかった機体である。

 

 

時は流れ、Op.Last Danceも中頃、

Team R-TYPE内でR-13系列機に再開発の話が持ち上がった。

 

 

***

 

 

「正直R-13系列はこのまま終わらすには惜しい系統だと思う」

「ダウングレード兼、検証試験機であるR-13Tエキドナの再開発と、

小規模に改訂版のR-13Aケルベロスも生産されていたはずですが、どうなったのですかね?

あまりその後の話を聞かないのですが」

 

 

過去資料がおさめられているデータを漁りながら、話しているのは、

この研究室の開発斑リーダーのエイジと、班員のルルー、ジョナスだ。

ルルーは声帯に異常があるのでディスプレイ越しの筆談、

会話はほぼエイジとジョナスの二人で行われる。

 

 

「これどうだジョナスって……

げ、エキドナの再開発計画ってこれレホス課長がリーダーだった時じゃないか。しかも投げっぱなし」

「うーん。レホス課長は作るまではものすごいんだけど、データ取った後すぐに熱が冷めますからね」

「これは俺らが貰っていいかな。英雄機の後続機とあれば予算も付きやすいし、

R-13シリーズのシステムはまだまだ改良の余地がある。

おもしろいし、高バイド指数フォースも弄りたい。どうだい、ジョナスにルルー?」

「やってみようか」

「……」

 

 

ケルベロスの重い背景に反して、R-13系列の再開発は至極軽く始まった。

 

 

***

 

 

「まず、改良点から挙げようか」

 

 

リーダーエイジのその宣言とともに、ジョナスとルルーから改良案がでてくる。

フォース、波動砲、レーザー、コックピット、操作性……

比較的常識的な案を出すジョナスと、飛躍的な案を出すルルー、評定役のエイジという、

Team R-TYPEにあっては意外とバランスの取れた人員で

できたエイジ斑では、討議は順調に行われる。

その中で、最も強く押されたのが、半ばR機の存在意義である波動砲だった。

 

 

“ともかく波動砲。R機は1に波動砲、2にフォース、3,4がなくて5に波動砲”

という強弁がルルーによってホワイトボードに書かれた。何かの標語のようだ。

 

 

「フォースに浮気するなよ、ルルー。

でも確かにライトニング波動砲はまだまだ可能性のある波動砲ですね。

追尾性の向上、射線数の増大、威力の向上……あと忘れてならないのが、

ライトニング波動砲の波動的性質と電気的性質の高レベルでの両立です。

後忘れてならないのが、この計画は異相次元航行が前提になっていますから、

異相次元航行機能の予備としても使えるようにしなくては」

「ああ、それは絶対に必要だな。

オリジナルケルベロスの件があるから、それを放っておくと後続機を作る許可が下りない」

 

 

言葉の足りないルルーを補足するジョナスに、エイジが答えると、

ルルーがホワイトボードに書かれたWave cannonという文字を大きく○で括る。

そして、さらにその横に“威力向上と電気的特性の折り合い”

という文字を書き添え、問題提起する。

 

 

「そうだな。ルルーの言うとおりあの事故をクリアできる水準の波動砲を積まないとな。

どうせやるなら大きく出ないと」

 

 

そして、新型機の売りとして素直にライトニング波動砲に手を掛けることが決定した。

 

 

***

 

 

ここはTeam R-TYPEの研究中枢の一つである波動砲実験棟。

施設の端から端まで長いシリンダーが設置されている。

内部で波動砲を試射し、威力、性質その他を計測するための施設である。

 

 

シリンダーの一端には波動砲コンダクターを保持する担架が設置されており、

もう一端には減衰器が設置されており、施設の安全は確保されている。

シリンダー自体は、波動エネルギーに反発する性質を付与した建材でできている。

グリトニルやゲイルロズなどの要塞外壁などにも利用されている技術だが、

強化アクリルシリンダーに付与しているのはここくらいだろう。

 

 

「ライトニング改試作12号試射、3、2、1……これもダメですね」

「これならまだ試作3号の方がマシだ。五十歩百歩だけど」

 

 

ジョナスとエイジが話す中、ルルーは行程表の試作12号の項に斜線を引く。

これで試作ライトニング波動砲改型は全滅となった。

 

「うーん。比率を波動寄りにしたら、とたんに普通以下の波動砲になりましたね」

「電気的性質を除けば、圧も掛けないで拡散するに任せている状態だからな」

「電気に寄りすぎれば、ただの放電。波動に寄せれば、しまりの無いスカ波動砲。どうします?」

 

 

悩む三人。

もともとのライトニング波動砲がいかに絶妙なバランスの上に成り立っていたかを垣間見て、

当時の開発に関わった人員のレベルの高さというか、執念の様なものを感じていた。

 

 

「波動的性質の方はMAXチャージでバイド空間次元を打ち破れるってのがやはり一種の指標だが」

 

 

彼らは、このバランスを見直すことで、改良を施そうとしている。が、みごとに失敗ばかりだ。

ライトニング波動砲の主な特徴は、追尾性とそれに付随する拡散性で、これが電気的な性質を要求する。

既存のライトニング波動砲は簡易的に表すならば、波動:電気=1:9くらいの性質だ。

 

 

一応、Team R-TYPEには、明文化されていない内部規定的なものが幾つかある。

その一つが、波動砲性能で、リミッターを解除しての最大チャージ状態での発射によって、

次元の壁を歪ませることができること。である。

多量のバイドの居る空間は次元にムラができることが確認されているが、

これに穴をあけ、異相次元に侵入・脱出できる性能が求められた。

正規の異相次元航行手順ではないので、波動砲による異相次元突入は最終手段である。

もちろん、過去にオリジナル機をロストすることになった

R-13Aケルベロスの事故を元に作られた規定であり、

ケルベロスの後継機でライトニング波動砲を改良するならば、

他の規定はともかくこれだけはクリアしなくて許可が絶対に下りない。

 

 

どうやって、ライトニング波動砲の性質を維持しつつ、

波動エネルギーの比率を次元を歪ませるに足るだけ上げるのか。

波動-電気の加減について、悩ましい思いをしている二人だが、

突然、全く話さなかったルルーが慌てたそぶりで二人を呼び、ペンを壁に走らせる。

 

 

「“チャージの最大容量を上げる”?」

「んー。ああ、つまり波動エネルギーとしての比率を上げるのではなく、

波動-電気の比率は変えずに、最大値自体を上げることで、

波動砲一射あたりに射出される波動エネルギーを既定値以上にするってことか」

「でも、技術進歩でチャージ容量は増やせるが、

波動-電気比を変えずに規定値に達するのは難題ですよ。

当時より技術水準は格段に上がっていますが、

これ基礎出力で何割ではなくて、何倍っていうオーダーです。

実際ルルーの案は厳しいと思うのですが」

 

 

すぐにルルー案を試算したジョナスは、慌てて意見を上げる。

そしてリーダーエイジは、ルルーの案とジョナスの意見を秤に掛けるが、

すぐに“できるか”ではなくす“やる”のがTeam R-TYPEであると考え直す。

 

 

「よし、むちゃくちゃな解決策でも、道は道だ。やってみてダメだったら次の手を考えよう」

 

 

自分の案が採用されて満面の笑みを湛えたルルーと、仕方ないなと言う顔のジョナスがいた。

 

 

***

 

 

数度の研究打合せの後、レホス開発課長にも話を通し、R-13A2という開発番号も割り振られ、

本格的に研究がスタートしたある日。

どうかな。というような顔したルルーが二人の班員にデータを差し出す。

新しいライトニング波動砲の設計資料だった。

 

 

「これは……、チャージ圧もすごいし、電気的な意味でも色々なものがはじけ飛びそうだな

基地自体の電力を一時制限しないと発電炉が吹っ飛ぶな」

「うーん、これ実験も怖いレベルだぞ。実験シリンダーの耐久大丈夫かな」

 

 

明らかにやっちまった系の顔をしているエイジとジョナスに対して、

ルルーはしたり顔でキーボードを叩く。

“やってみれば分かる”、“もう試作は作った”、“試射施設に設置済み”というメッセージが

ディスプレイに矢継ぎ早に表示されると、エイジ、ジョナスは腹を括ったようだった。

 

 

「予備予算で勝手に波動砲の試作を作ったことはともかく、試射はしてみるべきだな」

「そうですね。撃ってみれば分かりますね」

 

 

そのまま、三人は波動砲実験棟に移動する。

と、そこにはすでにリーダーエイジの名で施設が押さえられ、

シリンダーの一基に波動砲が設置済みになっていた。

エイジとジョナスはジロリとルルーのことを睨むが、本人はどこ吹く風だ。

 

 

「……どういうことかは後で詳しく聞くとして、

ジョナスはデータからの期待値を検算、ルルー、試射メニューは?」

 

 

エイジが渡された試射メニューを見ると、意外と普通の実験計画だった。

通常型のライトニング波動砲出力から、試作型の理論限界値まで出力していくという案で、

エイジはジョナスの試算を待ってからOKサインを出す。

 

 

「リーダー、ライトニング波動砲試作型17号試射準備完了です。第一射、通常出力です」

「試射許可」

 

 

三人が視力保護用のバイザーを掛け、チャージを開始する。

通常出力とあって少しのタイムラグの後に金属的な音が鳴り響く。波動砲のチャージ完了音だ。

ルルーがエイジに確認してから、操作盤のスイッチ類を操作し鍵を回すと、

室内に地響きの様な轟音が響き、シリンダー内が発光する。

三人は一応確認のためにディスプレイでのスロー再生で見ると、

放電現象によく似た光がシリンダー内を端から端まで走り、

余韻として僅かに波動の燐光を残して消えた。

 

 

「うん。普通のライトニング波動砲だな。当たり前だけど」

「はい、データの方もライトニング波動砲相当です。当然ですけど」

 

 

当然普通のライトニング波動砲なので何の感慨もないエイジとジョナスに、

“次々!!”と壁に字を書いて、急かしてくるルルー。

 

 

「次、200%」

「試射許可」

「まあまあですね。でも次元が歪むまではまだまだです」

 

 

「はい、次は300%です」

「許可」

「うーん、200%とあまりかわらないイメージですね」

「まあ、総エネルギーがそのまま破壊力に変わるわけでもないですし」

 

 

「次400%ですね」

「撃っちゃってー」

 

 

“施設から怖い音がする”とルルーがスケッチブックに書き付ける。

 

 

「ああ、うん。施設付属のジェネレータが唸ってきたな」

「この施設もそろそろ古いですからね」

 

 

“そろそろ限界近いから刻んで”

 

「分かりました。ルルーの言うこともありますし、次450%行きましょう」

「500%限界でだとあまり刻んでないような気がするけど、まあ良いや。許可」

「……いい感じです。データでも次元歪曲も観測されました」

 

 

……

シリンダーの中では、紫電が溢れ帰りシリンダー内を反射しながら端の減衰器に集まる。

大量の鉄骨が折り重なって落ちてきたような音が反響し、

ジェネレータがある方からはパリパリと音がする。

波動の燐光は青く残り、シリンダーそのものが淡く発光しているようだ。

三人は耳を塞いでいた手を離して、話し出す。顔には一様に興奮の色が見える。

“見た、見た!? 射線がシリンダー内をバウンドしてたよ”

とルルーが書く手間を惜しみながら乱暴に書く。

 

 

「圧が上がったことで、波動砲の性質が変化していますね。

威力も格段に上がっているようです」

「これはありだな。ライトニング波動砲2とか、改って名前にしようとしていたけど、

新しい性質があるなら別の名前にしなくちゃな」

 

 

エイジが満足げに頷いていると、ルルーが“バウンドライトニング波動砲”という案を上げる。

 

 

「それはいいな」

「でもこれ、発射時の放射がきついから装甲面も強化しないとな。

弱いとは言えうっかりデブリとかに当たって一部帰ってきた波動砲にやられたらたまらん」

“ごっついR機も有り! 電気的な反射板を供えた追加装甲を載せればいい”

「それもそうだな。でもこれで500%全開かもっといけるんじゃないか?」

「現状で次元歪曲率もクリアしていますし、破壊力も新型として二重丸です。

でもまあ、波動コンダクターの自壊確率を考慮しなければ行けます」

 

 

すでに満足できる結果を得ているが、

Team R-TYPEに安全マージンという言葉は似つかわしくない。

すくなくともそれは、実機のときに取ればいいものであって、試験では必要ないものだ。

 

 

「600%行って見ます?」

「ここまできてやらないって選択肢はないだろう。発射許可するから、やろう」

 

 

ルルーが操作盤を介してチャージを開始すると、

ジェネレータ音が異様に高まりコンダクターの先端が光る。

いよいよ音と光が大きくなると、エイジの声とともに発射キーがまわされる。

すでに耳栓越しにも耳に突き刺さる轟音と施設の端から端までを貫く光の束。

三人は生理的に目を閉じてしまったが、恐々としかし期待を込めて目を開ける。

が、様子が変だった。

 

 

この施設の耐久性で一番に考えられているのは、波動砲つまり波動エネルギーに対するものである。

物理的な耐久性や磁気、熱に対しても耐久性は考えられているが、波動エネルギーほどではない。

今回の試射実験では、ライトニング波動砲からさらに出力が上げられ、

シリンダー内を流れる電流、電圧なども膨大なものになっている。

 

 

まず異常な反応を見せたのは減衰器で、一応は耐えたが、明らかに尋常でない火花が散っている。

そして古くなりつつあるジェネレータ方面からも異音がする。

三人は興奮状態から一転、蒼白になって逃げ出す。

 

 

「っ退避ー!」

「あ、リーダーも、ルルーも先逃げないでくださいっ!」

 

 

施設からは破壊音が連続して聞こえ、次いで警報が鳴り響いたが、

逃げ出した三人は、安全距離をとった後、それを外側から呆然と眺めていた。

 

 

***

 

 

後にR-13A2“HADES”の名で呼ばれることになるR機は冥府の王の名にふさわしく、

機体本体ができる前から、Team R-TYPE施設を地獄送りにした。

 

 

この後、シリンダーの耐久性や減衰器の能力について、エイジ斑から施設課に意見書が出され、

常に研究課から無茶振りされる施設課が、胃を代償にどうにか改装する運びとなった。

これが後々開発されるバイド機の波動砲でも汚染、破壊されないという最強の実験施設の礎となる。

が、ストレスで禿散らかした施設課員の知ったことではなかった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。