プロジェクトR!   作:ヒナヒナ

88 / 105
R-13B“CHARON”

R-13B“CHARON”

 

 

 

「次は、やはりアンカーフォースでしょうか」

 

マグカップでお茶をしばきながらジョナスがエイジに言う。横ではルルーがクッキー缶を抱えている。

エイジ斑は班員のジョナスとルルー、そしてリーダーのエイジからなる研究開発斑である。

前回作として、彼らはR-13A2ハデスを作り上げた実績がある。

ハデスは強力な波動砲を備えた機体で、波動砲特化型として成功を収めた。

不穏な噂が付くR-13系列機の常識に反して、現場では高評価で迎えられた。

高火力かつ広範囲のバイドを死滅させられるバウンドライトニング波動砲は便利だったのだ。

ということは後続機を作る余地があると言うことだ。

 

「そうだね。R-13系列のアンカーフォースは癖が強いフォースだけど、アレはアレで評価されているからね」

 

エイジの言葉にルルーが“レーザーも”とメッセージを飛ばしてくる。

レーザーはフォースを用いてエネルギーを増幅させ、効率的に用いることで敵を攻撃する。

なので、フォースの性質(正確にはフォースロッドの性能)を変えることで、レーザーも性質が変化する。

なので、フォース開発とレーザー開発は表裏の関係なのだ。

 

「アンカーフォースはフォースの中でも飛び切りピーキーですからね。レーザーも弄り甲斐がありそうです」

「うーん、じゃあ新型の目玉はフォースとして開発しよう。フォース斑と合同研究ってことでやって、

うちらはレーザーをメインで担当しよう。どうだ?」

「僕とルルーも賛成です」

「じゃあ、フォース斑に掛け合ってみる。まあ否はないだろう」

 

 

***

 

 

机の上にはアンカーフォースのコントロールロッドの設計図、その他いろいろな資料や書物が乱雑に乗っている。

3人はそれらを睨みながら、あーでもないこーでもないとぶつぶつ呟いていた。

ルルーも端末を利用して、意見を発信しているがあまり話は盛り上がっていないようだ。

 

「ロッドの資料を見る限り、すでにこの形式で考えられる最高バイド係数に達しているようですね

これ以上の強化は暴走事故を起こすようです。すでに過去実験済みですね」

“この際、威力の向上ではなくて、別の機能を持たせたのを考える?”

「どうでしょう。それはすでにアンカーフォースといえない気が」

 

それを聞いていたリーダーのエイジはうーん、とうなった後、

 

「アンカーの敵機を保持するという機能が、バイドの闘争本能に基づいているからな。

現状のまま、暴走を押さえつつ敵機に食いつくのは無理なようだね。光学チェーンの拘束は改良できるかな?」

「高バイド係数のため試作段階からかなりの件数の暴走未遂を引き起こしていますね。

現状、光学チェーンで繋いで、コントロールロッドに多量の制御情報を押しつけることで何とか処理しています」

 

アンカーフォースはその名の通り錨としてバイドに食い込み、バイドを破壊するまで食らいつくが、

フォースには盾としての機能があり、パイロット側の操作を受け付けなくなってしまうため、

対策として光学チェーンをコントロールロッドに付属させて、機体と結びつけている。

また高くなりすぎたバイド係数に比例して強まる攻撃性を抑え、暴走を抑制するためでもある。

 

「よし、とりあえず、現状でフォースがフォースとしての形状を取り得る最高のバイド係数まで上げてみよう。

たぶんそれから他の問題を対処した方が良い結果がでる気がする!」

 

そのエイジの投げっぱなしの一言で、R機で最大バイド係数(バイド機のものを除く)を持つフォースが作り上げられることになった。

 

 

***

 

 

フォース実験施設は暴走事故に備えて、他の基地や研究機関とは切り離された場所に存在する。

全てのフォースの始まりであり純粋なバイドであるバイドの切れ端は、意外に扱いやすく大人しい性質であるが、

それにコントロールロッドを付け、シナプスを接続すると、バイド係数が増加し性質も凶暴になる。

新規のコントロールロッドはデータ上でなんども接続シミュレーションを繰り返し、

やっとこの施設で接続することができるようになる。そうでないと周囲ごと原子にまで吹き飛ぶことになる。

 

「試作4号、シナプス接続、問題なし」

「ジョナス、バイド係数は?」

「安定して増加中。そろそろ開放状態では危険です。光学チェーンを繋ぎましょう」

「よろしい」

 

ジョナスとエイジが少し緊張しながら、新型アンカーフォースの実験を行っている。

今のところ、アンカーフォース特有のかぎ爪型のコントロールロッドはフォースを押さえ込むのに成功しており、

フォースのオレンジ色の光は安定していて、この光のものとでなら書類くらい読めそうだ。

 

話すことができないルルーは、体育座りをしながらその光景を先ほどからじっと眺めているが、不意におかしな事に気がついた。

ルルーはエイジの白衣の裾を引っ張り、携帯端末のディスプレイに文字を打つ。

 

“アンカーフォースが変。さっきから起動操作以外の動きが増えてる”

「えっ!」

 

アンカーフォースのコントロールロッドは、獲物をくわえ込むような動作を見せている。

それ自体はもともとロッドに組み込まれた動作なのだが、明らかにこちらのコントロール下にない動きをしている。

それは3人の見る間に増えていき、すぐに痙攣するかのような動きに変わる。

気がつくと光学チェーンの色も異様な色になっている。明らかに暴走一歩手前だ。

 

「これって暴走?」

「緊急廃棄!」

 

慌てたエイジが、救急廃棄ボタンに拳を叩き付ける。

波動の急速チャージ音が響き、燐光が収束していく。

フォースは穏当に消滅させることが現状不可能であるので、

暴走フォースの処理方法は、吹き飛ばして消滅しても何も問題のない宙域に移動させるのだ。

そこで、ジョナスが何かに気がついたように叫び声を上げる。

 

「班長、バイド係数が高すぎます! こんな状態でエネルギー食わせたら施設ごと爆発しますよ!」

 

備え付けの波動砲から発射音が聞こえる前に、シリンダー内が発光し、シリンダーに充填されていた液体が一気に蒸発する。

音からすると緊急廃棄用の波動砲が発射された様子がないが、目がくらんでしまい様子が分からない。

 

「……波動砲が発射される前にエネルギーを喰った?」

「あの量を? この警報は……バイド係数オーバー?」

 

緊急廃棄とは別種の警報が鳴った事で3人は身構える。この音がバイド係数警報であると思い当たったためだ。

みしり、という耳に触る音に振り返るルルー、そして青い顔をして、シリンダーを指さす。

二人が恐怖を貼り付けてシリンダーを見ると、二人も固まった。

 

フォースはその光の強度を増して白色に近い色になっている。

そして、アンカーフォースをつなぎ止める光学チェーンとシリンダーが3人の前で砕け散った。

 

 

***

 

 

課長室、

 

「ふぅん、フォースロッドより先に、光学チェーンがエネルギー過剰で耐えられなくなるんだ?」

 

汚い白衣を着たレホスが足を組みながらデータを見ている。

足を組むことでブランドものの靴下と、壊れかけのサンダルがとても目立つ。

先月起こったフォース実験施設の被害報告書には、原因を推察した文が連ねてある。

 

「まぁ、これはこれで有用なデータだし、フォースも暴走しなきゃかなり良い線いってるしねぇ」

 

エイジ斑が研究していたアンカーフォース改のデータ。

編集する者がいなくなったため、まだ生データであるが、レホスはそこから情報を読み取っていく。

攻撃性、バイド係数ともに最高値。なによりその特性として食い付いての攻撃に使用できるのは評価が高い。

特筆すべきはレーザーである。

対空、誘導レーザーであるシェードα+や、サーチβ+は相変わらず微妙であるが、

対地レーザーターミネイトγ+が非常に強力である。威力はそこそこながら死角のない掃射型であることが見て取れる。

遮蔽物さえない環境ならば小型バイドの掃討戦で引っ張りだこになるのが想像できる。

 

レホスがフォース事故の報告書に視線を戻す。

一般にフォース事故と言えば、臨界を超えたエネルギーを注ぎ込んだことにより、周囲を巻き込んで消滅するのだが、

今回の被害は限定的である。人的には研究員3名と不幸な作業員が2人。フォース研究施設の1/4がダメージを受けた。

 

どうやら、暴走したアンカーフォースは手近にいた研究員と緊急廃棄用波動砲をシリンダーごと喰らい、

その凶暴性が落ち着いたところで、再度光学チェーンを繋げ直して確保したとの事だ。

 

「可逆的な暴走なら、これを前提として利用したフォースって言うのもおもしろいよねぇ。

そうだね、うん自機と敵機の見分けくらいは付くようにしておこう。あとはそのままでぇ。

エイジ君達もそれなりにこのフォースの開発を楽しんだようだし、軍部もこのレーザーを見れば黙るだろうしぃ」

 

勝手な理由を付けて、レホスはアンカーフォース改の生産を承認した。

“ガワ”である装甲やコックピットはR-13A2ハデスからあまり変更がないため、ほぼそのまま流用することになる。

波動砲もハデスで開発したバウンドライトニング波動砲を取り付ける。

これに今許可したアンカーフォース改を付け、バランスを整えると……

 

「これでR-13B、えーとエイジ君達が考えていた命名案は……これがいいね死者の川の渡し守カロン。

うんR-13Bカロンはこれで完成でいいかなぁ」

 

レホスは満足げな表情で頷くと、書類を決裁していく。

一応、開発者はエイジ、ジョナス、ルルーの三名の名をトップとして配して書類を上に送った。

 

 

R-13B“CHARON”完成

 

 

***

 

 

英雄機であるケルベロスと、名機ハデスの後継機とあって、カロンは鳴り物入りで現場に迎えられた。

当初その物々しい姿と、強力なバウンドライトニング波動砲、アンカーフォース改のおかげで

強力なバイドを破壊する切り札としての役割を期待されていた。

しかし、もちろん事故が頻発する。アンカーフォースが自機の制御を離れて暴走状態になったからだ。

 

制御できないフォースなどバイドと同じであり、恐怖の対象でもある。

現場は慌てふためいて、Team R-TYPEに説明を求めたが、Team R-TYPEの回答は“仕様です”の一言だった。

 

 

「おい、R-13Bのフォースが暴走状態になる。こんな欠陥兵器を作った責任者を出せ!」

「はい、Team R-TYPE渉外担当です。お問い合わせの案件については、開発部より仕様であるとの回答がきています」

「暴走兵器が仕様とはどういうことだ!」

「仕様は仕様ですので」

「話にならん開発者を出せ!」

 

しばらくの間、そんな会話がそこら中の基地で聞かれたという。

のれんに腕押し状態の回答に怒り心頭の現場軍人達であったが、時間とともにその声は落ち着いてくる。

それが、制御できないが味方には危害を加えないことと、

それを補ってあまりある対地レーザーの強さのためだった。

スペックを最大限に発揮することができるのならば、最強の一角であると言われることになる。

こうして、R-13Bは強力無比であるが、絶対に自分では乗りたくない機体として有名になっていった。

 

ちなみに、“開発者”であるエイジらのレターボックスには、

その後も決して読まれることのない、現場将兵からの罵倒のメールや改善要求が貯まっていった。

 




これで通常機は終了です。悪夢のバイド機マラソンです。
でもその前に、arcadiaで放りっぱなしになっている
グリトニル戦記の方を先に書くと思います。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。