プロジェクトR!   作:ヒナヒナ

89 / 105
単発投稿です。


BX-T “DANTALION“

BX-T “DANTALION“

 

 

Rの系譜上、特に重要な機体がある。各種ボトルネックとなっていた諸問題の解決策をもたらした機体である。始まりのR機アローヘッドと、各バイドミッションで活躍した英雄機達。技術的にはそれぞれ飛躍があり、他の開発の糧となってきた。BX-Tはその機体番号通り実験機であるが、後から見るとR機の約半数を占める一群、バイド装甲機の始祖であった。

 

 

Team R-TYPEは外部から見ると、思いつきで研究している様に見える(一部真実である)ため、統制が取れているのか取れていないのか分からない組織と言われるが、一応基幹研究に関しては上層部の意志というものが明確に存在していた。それは地球本部で幹部らが集まって行われる研究開発方針会議で検討されていた。

 

 

「第五期R機開発方針決定会議を始めます。司会は研究開発部から」

「現状と各期方針確認から行います。第一期R機のベース研究とR-9アローヘッドの開発です。第二期が波動砲の多極化とフォースの改良によるテスト機群の開発と、次期単機突入機R-9Cウォーヘッドの開発。第三期が各種系統機の研究とR-9/0ラグナロクの開発。現在は第四期――近日中に終了する予定ですが、各種系統機の発展と周辺技術集積です」

 

 

説明用のデータにはR-9アローヘッドから枝分かれした系統樹が示されている。様々な挑戦や思いつきで新設された系統の中には、遊びともとれる系統もあったが、それすら技術集積という意味では無駄では無い。全てがデータとしてこのTeam R-TYPEに集められている。それを元として新しい次元に押し上げてきたのだ。

 

 

Team R-TYPEは外部から「R機開発のためならばどのような非道な研究でもする狂人集団」という評価と、「研究員個人の趣味で研究を行い珍妙なR機をつくる変人集団」という評価がある。前者が主にバイドの淘汰圧が大きく人類生存レースに必死だった第三期までの時期の評価であり、後者が多少余裕の出てきた第四期の間の評価となっている。第一期~三期は非情に短かったが、その分苛烈で強権でなりふり構わずに研究を行ってきたためにTeam R-TYPEといえばこちらのイメージが強くなっている。初期から参加していた研究者である幹部らとしては、ぬるいとさえ感じる現状なのだが、最前線たる研究開発部の部長と課長の方針であり、究極のR機を開発するという大目標のため、現状は裾野を広げることが必要であるという意見を基にしている。その研究課長レホスが第五期の開発方針について発言する。

 

 

「第五期はかねてより研究課題に上っていた“バイド素子添加プロジェクト”になります」

「しかし、レホス課長。あの計画はまだ早いのでは? バイド素子の基礎研究は済んでいるとは言え、事故誘発率が高い」

「いえ、今が最適だと考えています。全体的にR機戦力が揃い、既存戦力でのバイド対応が可能です。さらにPOWシリーズや局地戦機など、一般将兵や民間に高評価な機体のおかげで、R機やフォースの忌避感が薄れていることがあり、かつてなくバイド研究に関するハードルが下がっています」

 

 

普段は巫山戯た態度でおかしな格好をしている男なのだが、必要な時には改める事はできる。目上ばかりの会議では洒落たシャツに皺一つ無いスーツを着込んでおり、言葉遣いさえまともだった。いつもの彼と会話することとなる軍の開発局担当者が見たら、別人と思うかも知れない。常に眉間に皺が寄っている総務部長からも、指摘が入る。

 

 

「背景は分かった。総務としては予算について聞いておかなくてはならないのだが」

「各期時点での端数予算については各所に振り分けて保管しています。また、関係機関やダミー企業名義での予算管理も行っていますので、共同研究という形や技術協力といった形を取りながら資金の引出しが可能です」

「下手なところから持ってこない様に、最近は政府も五月蠅くてな。抜き打ち監査自体は“対バイド兵器及び、R型異相次元戦闘機開発に関する法令”を盾に出来るが、乱発は危険だ」

「注意します」

 

 

そこに、付属機関であるバイド研究所の所長から意見がでる。場違いな妙に明るい声だった。

 

 

「バイド装甲機の研究に着手出来るのは喜ぶべき事だ。ようやくここまで来た。だから聞くのだが、どのような開発方針を行うのか聞いておきたい」

「まず、テスト機ではBX-Tは雛型として今可能な全ての技術を組み込みます。安全性の評価は行いますが、生産性や操作性といったものは考慮しません」

「うん、良い姿勢だね」

「このBX-Tは機密としますが、研究員にはデータ閲覧可能とします。現実性の高い開発案や将来性のある研究については個別に予算は付けることで、幅広い研究案を提示させて、データ収集を行います。これはコンペに近くなるでしょう」

「ふむ? 末端の研究員に任せるとなると個々の研究レベルは低下しないかね?」

「発想を抽出することや欠陥の発見が目的ですから」

 

 

Team R-TYPE上層部では唯一の女性である開発部長も発言を付け足す。

 

 

「そこからは私が説明を。始めに強大な戦闘力を持つバイド装甲機を作ると、バイド兵器脅威論を後押ししかねませんので、今回は基礎研究を徹底して研究する形になります」

「徐々に目を慣らしてより危険性の高い物への危機感を麻痺させるのか」

「軍関係者でもフォースを快く思わない人間も一定数いますので。開発研究自体も極力基礎研究に見せ掛けておこない、最終論文発表までは秘匿します」

「そういう研究ならばバイド研からも人員を派遣しても良いかな」

「分かりました。後ほど参加する研究者を募ることとします」

「それでは、第五期の研究体制について具体案を……」

 

 

総務などの部署代表は悩ましい顔をしているが、研究関係部署は皆妙に興奮した様相だった。そしてTeam R-TYPEではそういう人間が組織のほとんどを占めるのだった。流石に幹部クラスなので取り繕ってはいるが、皆かつては第一線に構えた狂研究者なのだ。今の研究員らよりも総じて狂った研究を行ってきた実績がある。一応自重はしているが、おそらく部下や弟子達をこの久しぶりに面白そうな研究に噛ませるためにカードを切ってくるだろう。調整が大変そうであるが、研究開発課長のレホスは自らが仕切るこの研究を誰かの手に委ねることは考えていなかった。

 

 

***

 

 

地球連合本部の高層階にあるTeam R-TYPEの研究開発部長室。そこには会議を終えた開発部長のバイレシートと課長のレホスが応接セットに座って会話をしていた。会議は午後早くから始まったが、終わってみれば外は夕暮れ。随分長い間窓も無い会議室に缶詰になっていたらしい。

 

 

「それで人員は絞れたの?」

「もー大変ですよぅ。みんな目の色変えちゃって手を上げてくるんですからぁ。でも一応主任研究より上はお断りしますが」

「自分が歴史の最先端に関わっているという、あの興奮は忘れられないもの」

「この計画は柔軟性や意外性を引き出すための撒き餌ですよ。頭の凝り固まった老害に参加して貰うわけにはいかないんですー。バイド研所長みたく部下を押してくるのはまだしも、自分が参加するって言った人見ました? あのおじさん達もうブレイクスルーを考えつくような若さじゃないでしょう?」

「脳内活性は肉体活性ほど顕著に老化しないからかしら。みな若いときの興奮を忘れられないし、無意識にまだそのときのままだと考えたいのよ」

「始めから無能なら問題ないんですー。むしろ昔有能だったから老害なんですよぉ」

 

 

直属の上司であるバイレシートだけしかいないとあって、いつもの調子でだらけた声をだすレホスだが、目だけは笑っていない。そして声を低くして言う。

 

 

「でもそういう意味では私はバイレシート部長の事を高く評価しているんです。だってあなたは部長になった途端、研究から一切身を引いて政治方面の仕事を引き受けて下さるんですから」

「あなたに誉められてもね」

「いえ、研究の邪魔をする奴はすべからく害悪ですからねぇ。“今の若い者は狂気が足りない”なんて言って、強引さと履き違えてるんですから。否定から入って発想を潰してるって気がついていないんですよ」

「あなたは違う? 自己反省も大事よ」

「一応、部下から上がってきた案はどれだけ杜撰な書類でも全部目を通すし、書類だけ下手くそという可能性を考慮して口頭質問はする様にしていますよぉ。でも、老害には成りたくないので目標とした究極互換機が完成したときがやめどきでしょうねぇ。頂点ですっぱりやめるのが研究者としての美学でしょう」

「まあ、考えは人それぞれね。それで肝心のBX-Tはどういう内容にするの?」

 

 

バイレシートの問いかけに、待ってましたとばかりにレホスは資料を取り出して説明を始める。

 

 

「まずはバイド装甲の指数限界の調査と、コックピット侵食防止機構の開発、生体ベースなら操縦系統も考え直す必要もあるかもしれないですね。武装も一新します。あと今まで組み込めなかったあれこれすべて詰め込みます」

 

 

機械系ではなくて生物系だとか、バイド機に適応するパイロットの選出とか。などと呟きながら鞄から資料を取り出すレホス。女部長はその鞄からこぼれ出た記録媒体を拾い上げると、そのラベルを読み上げる。

 

 

「なにこの資料“工業技術における魔術的処理について”?」

「ああ、これ面白いから入れても良いかと思いましてぇ。バイド研の若手で面白いのがいて、バイドに対する魔術的親和性の研究とかを隙をみてやっていたそうで」

「ああ、R-9開発の時そんな話もあったらしいわね。R-9では結局“おまじない”以上のものではなかったらしいけど」

「せっかくのテスト機なんですから、試すだけなら何でもありです。中身が伴わなくてもそれを見て何か新しい発想を思いつくかもしれないですしねぇ」

 

 

その後、今までのR機やら、バイド装甲機の扱いであるとか、もとめられる施設の話など色々な事をとりとめなく話していた二人だが、話が終わる頃にはすっかり日が落ちていた。レホスは研究の場を整えるためと閉鎖されていたベストラ研究所に向かった。

 

 

 

***

 

 

BX-T “DANTALION“武装についての技術報告書

 

 

○ライフフォースについて

一部バイドがフォース様高エネルギー球をモデルとして研究を開始した。目標としてはフォースロッドを適応しないフォースとした。この目標についてはR-9Fアンドロマリウスのロッドレスフォースと類似するが、先例がR機側にフォースロッドを取り付け非接触式での保持を可能にしているのに対して、BX-Tではフォースが単独で安定しており、フォースロッドという物理的弱点を取り払った。これはフォース内にナノマシンをコロイド状の安定化状態で封入することにより成り立っている。ナノマシンはフォースエネルギーの干渉を防ぐため疑似バイド体として存在している。これによりバイド装甲機に機械性パーツが必須でないことが確認された。

 

 

○バイド波動砲

波動砲について、物理学的手法による攻撃方法の探索については、R-9以降のR機で行われてきたが、既存の武装ではギガ波動砲やハイパー波動砲など、虚数次元の波動エネルギーをチャージする量と、効率的に通常次元に発射するためのシステムが最もバイド撃破性能に長ける。一部シールド波動砲やパイルバンカーなど一芸に秀でる武装もあるが、総合的な性能には劣っている。そのため、バイド装甲機シリーズでは超生物学な手法を用いることに決定した。そのテストとしてBX-Tでは科学と生物を融合させることを目的としたが、バイド素子と波動エネルギーが反発したため、仲立ちとして魔術的要素を取り入れることとした。これはオカルト分野で魔法陣と呼ばれるものだが、我々はこれを「特殊幾何学による超物理学的効果」として再定義した。この特殊幾何学をミクロ的、マクロ的に組み込むことにより「バイド的性質を伴った波動砲」という矛盾に満ちた兵器が開発可能となった。現状では、威力は特筆すべきものではないが、以降のバイド装甲機の武装の基礎となりえる。

 

 

○コックピットシステム

バイド由来の生体装甲を使用したため、コックピットブロックが侵食を受ける事例が研究段階で数例あり、その際、被検体には神経経由の精神侵食兆候がみられた。これは各部でバイド素子と機械部との融合を図った結果、純機械製コックピット部位でも融合圧が発生したとみられる。これに対処するため、コックピット表面をバイド状生体組織で覆うことで、バイド素子の走性をかく乱し、融合圧を最小限にとどめることに成功した。なお、被検体は……

 




と言うわけで、ダンタリオンの作成舞台裏でした。
Team R-TYPEがいよいよぶっ壊れ出すのはこの後です。
開発後半の巫山戯たラインナップを見ると、正直なめプしているとしか思えない。
ここからR-99 までまともな機体が一切無いですからね。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。