プロジェクトR!   作:ヒナヒナ

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B-1D “BYDO SYSTEM α”

B-1D “BYDO SYSTEM α”

 

 

 

【南半球第一宇宙基地Team R-TYPE開発部長室】

 

 

Team R-TYPEとは思えないほど綺麗に整頓されていて、明るい室内。

窓の外には青い空が広がっており、この南半球第一宇宙基地の地上部を一望できる。

この地球連合軍の本部ともいえるこの基地に部屋を持っていることが権力の強さを物語る。

Team R-TYPE本部にある開発部長室にいるのは男女二人。

 

 

「地球まで出張ご苦労様。その辺に座って」

「これくらい問題はありませんよ。バイド機の開発は一般研究員の手に渡りましたから。

僕がいないと課長決済が滞るだけで」

 

 

部屋の中の応接セットにはTeam R-TYPEの開発部長バイレシートと開発課長のレホスがいた。

Team R-TYPEの研究員の筆頭であるレホスと、研究よりは政治よりになりつつがる部長のバイレシートだ。

バイレシートはショートカットの髪にスカートスーツをきめており、キャリアウーマンである。

レホスもいつもの草臥れた白衣にサンダルではなく、スーツを着ている。

もともと体形はいいので、きちんとした格好をしていると意外と見られるようになっている。

無駄が嫌いな二人は挨拶もそこそこに仕事の話を始める。

 

 

「さて、いい時期だからね。これを一般研究員にも公開しようと思ってね。レホス君に任せようかと」

「バイド機? いや違いますねぇ、バイド汚染されたR機ですか」

 

 

映像データはケロイド状に見える肉塊と、その合間からのぞくスラスターなどの機械部品。

それだけならただのバイドであるが、肉塊の前部にはキャノピーらしきものが見えていた。

キャノピーの中は肉塊が蠢いているが、一部R機のコックピットシステムらしきものがあった。

 

 

「そう。ここの基地守備隊が鹵獲した機体よ」

「ああ、ダンタリオンの技術の元データですね。このOp.Last Danceの最初の突入時に地上に現れたバイド体でしたっけ」

「ええ、最初の突入機であるR-9Aアローヘッドが突入作戦を開始した直後に、これがコロニー跡から出現。

当初小型バイドと思われたこれを撃墜するために、R-9Aの突入支援を行っていた試作機が大量に投入されたわ。

結構な量のR機が投入されたけど、パイロットがへぼかったのか撃墜できなかったの」

「ああ、覚えています。あの研究所からも試作機が投入されましたよね」

「この小型バイドは始めこそ逃げるばかりだったけど、しだいに凶暴性を増していったの。

で、手に負えなくなった守備隊が試験的にフルチューンしたR-9Aと、

前大戦からのエースパイロットを投入して止めようとしたわ。

結果的には守備隊のR-9Aは撃墜されたけど、敵フォースを引き剥がし、バイド体にもダメージを与えたわ。

その後この機体が海上をふらついて居たところを、水上艦とR-11Sで攻撃。撃墜機を回収したってわけ」

 

 

一気に話したバイレシートはコーヒーを口に運ぶ。

レホスはデータを食い入るように読んでいる。

 

 

「色々突っ込みどころがありますけど、どうやってフォースを奪ったんです?」

「……R-9Aが足止めしている間に、地上カタパルトに予備のフォースロッドを用意させて射出。

敵のフォースに打ち込んで無理やりフォース化したわ。うちで昔研究していたBBSの技術が役に立ったわ」

「それ、最後にはフォースロッドシステムが破綻してバイド化しませんか?」

「したわよ。まあ、軍人の思考は、その時どう対応するかだからね。鹵獲はできたから問題ない」

 

 

そこまで話した時点でレホスがやっとディスプレイから顔を上げた。

 

 

「面白いですね。で ?部長、肝心なことをしゃべっていませんよねぇ?」

 

 

コレの中身です。とニヤリと笑うレホスに、同じ笑みで返すバイレシート。

 

 

「あらあら、さすがに分かるかしら?」

「そりゃ、僕も部長に鍛えられましたから」

「コレの中身は想像のとおりR-9Aよ。この‘Op.Last Dance’作戦当初に飛立ったR-9Aね」

「同一機体であるという確認は取れたのですか?」

「ええ、機体番号も同じだったし、中にお土産も入っていたし」

 

 

少しの間、真面目な顔をして黙考したあと、レホスが笑みを浮かべる。

 

 

「バイドが送り返してきたと言うわけですか」

「そう、大規模なものも、一機単位での時間跳躍もバイドに先を越されたわね」

「でも、この技術は有用ですね。そういえばそのR-9Aの中身はどうなったんです?」

「中身なんてもうなかったわよ」

「ああ、機体周囲の生体組織材料になったんですね」

 

 

データを見始めるレホスと、コーヒーを口に運ぶバイレシート。

暫く、沈黙が降りる。

 

 

「ふむ、分かりました。まぁダンタリオンの時点でこの機体の話は知っていましたけど、で、今、コレを出してきてどうするんです?」

「言ったでしょう。一般研究員に公開するって。これが出ればさらにバイド装甲機の開発は加速するわ。

これを見て研究意欲を刺激されない子はTeam R-TYPEには要らないわ。

だから、あなたが秘密プロジェクトで開発したことにして、バイド装甲機として公開する。

型番は適当に決めなさい。あ、ちなみに解析班での愛称はバイドシステムよ」

「開発レースをさらに加速させる起爆剤っていうわけですね。確かに起爆剤として良い研究材料ですねぇ」

 

 

***

 

 

【開発課長室】

 

 

「今はバイド装甲機は2系統かぁ、起爆剤として良いタイミングは一系統発案されてからだね。

じゃあバイドシステムαはバイド装甲機の4系統目として僕が開発した事にして……」

 

 

固定端末で開発書類を偽造しながら、ブツブツと呟くレホス。

端末のキーを打つ音と呟きだけが部屋に響く。

 

 

「バイレシート部長は起爆剤って言ってたけど、こんな面白そうな機体、

継続機を開発しちゃいけないなんて事は無いよねぇ」

 

 

しばらく、課長室から高笑いが響きわたる。

B-1Cの開発案をもってきた班長が、ドアの前でその様子に気づき、

出直したのはまた別の話。

 

 

 

***

 

 

一週間後。

B-1D バイドシステムα情報公開

 

 

 




シリアス気味だったので短い話になっています。

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