プロジェクトR!   作:ヒナヒナ

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時間軸がぶれますが、ジギタリウス3なのでバイド機も中盤くらいの話になります。
ちなみに連載初期に書いた1と2の続きとなります。






B-1A3“ DIGITALIUS III”

B-1A3“ DIGITALIUS III”

 

 

 

 

 

宇宙空間にある施設には本来昼夜の観念はないが、人間のバイオリズム維持のためや、タイムスケジュールの混乱を避けるため地球と同じ標準時を取ることが義務付けられており、施設内の照明などを上下させる。しかし、通年毎日煌々と明かりを発している施設もある。Team R-TYPEのバイド実験施設である。彼ら研究員は研究課題があれば3轍もざらであるし、一度寝ると2日くらい起きてこなくなるときもある。あまり人間らしいとは言いかねる生活環境で生きる人種だった。

 

 

今日も今日とて深夜に会議を開く研究班があった。女性班長ラミを中心とするB-1Aシリーズ研究班だった。彼女を女神と讃えるオガールとエントが班員であるが、全員頭のネジは取り外し済みである。

 

 

「今日のお題は、植物性バイド装甲の長期維持について、でーす」

「たしか、戦闘無しでジギタリウス2の装甲寿命が半年でしたっけ?」

「ぶっちゃけ、中のパイロットがその前に限界になる気がするけど、装甲寿命って問題になるの?」

 

 

B-1Aシリーズであるジギタリウス1,2はその植物性装甲を維持するために、装甲を定期的に薬液(劇薬)に浸して補充する必要がある。そのメンテナンスの解決策のためにパイロットが犠牲になったのだった。

 

 

「うーん、問題があるのは保管なのよ。あれって使っていなくても半年に一回装甲を取り替える必要があるから面倒らしいのよ」

「そういわれてもなぁ。まず何を改良するか検討しよう?」

「そうだな。おいオガール、データ取って」

 

 

研究室の明かりは一週間消えることはなかった。

 

 

***

 

 

一週間後、各自が資料を持ち寄り研究室の会議机に座っていた。オガールもエントも目の下に黒々とした熊を飼っており、ラミも普段より化粧が濃く見える。全員まともに寝てないのは明らかであり、この所為で、ラミ班は夜のない研究室であるとすら言われている。もっと効率的な時間配分ができると思われるのだが、彼らは問題や課題が見つかればそれを解決するまで、まともに他のことに手が付かなくなる質だった。そういう意味で似たもの同士なのだった。

 

 

エントがまず気怠げに資料データを読み上げる。

 

 

「まず、老化を加速させた条件で、薬液を切った場合の実験をおこなったんだけど、通常条件で換算すると半年くらいで萎れて装甲強度がだだ下がりになります。これは薬液の付け方、濃度を変えたんだけど有意なデータには成りませんでした。まあ、逆に言えば薬液さえ長期維持できれば何とでも成る」

「まあ、枯れたら組織の死滅が始まるから、強度が下がって当然よね?」

「しかも、完全に枯れるまで放置すると、細胞内部にあったバイド素子が解放されて飛び散るんだよ……というか飛び散った。活性が低いのでなんとか施設の洗浄は間に合ったんですけど」

 

 

エントが疲れた顔をしていたのはバイド汚染騒ぎを起こして、施設課から絞られた所為でもあった。広域汚染までいかなかった、ということで日常に埋もれていくのがここの常であるが。

 

 

「エント君のデータはまあ前提条件よね。じゃあ、オガール君次よろしく」

「ああ、俺のは装甲内での薬液の保持法についての研究だな。これなんだが、組織構造を微改変して1から50までのバージョンを作った。これを順次薬液の保持時間と装甲強度について調査したんだ」

「んで、結果は?」

「ああ、薬液保持時間はこのNo.33が飛び抜けて成績が良かった。形状から花状装甲と呼んでいるんだが、まあ、投入した植物DNAの花卉部分が異常発現した感じだな。この萼の部分に液だまりがあってそこに薬液を劣化させずに保持できるようだ。強度についてこのNo.33を含めた5つが良い値だが五十歩百歩だな」

 

 

データに出てきた花状装甲は今までのバイド装甲機にはない一種の美しさがあった。

 

 

「なんか、これ本当に花みたいでバイドじゃないみたいだな」

「そうねー。オガール君これ可愛くない?」

「論点はそこじゃないんだが。それにほらこれが裏側の画像な」

「うわあ……。なにこれ食虫植物とかにあるやつだろこれ」

 

 

薄桃色の花弁の裏側には、ハエトリソウを思わせるドドメ色の棘が叢生しており、獲物を逃がすまいとする何か意志の様なものを感じる。これをみてしまったエントは薬液の液溜まりは消化液なのではないだろうかと思った。どん引きしているエントを余所に、ラミは感極まった様に頬を染める。

 

 

「ああ、裏側も素敵。性能よし、見た目も良しでこれに決まりね!」

 

 

感嘆に対して、沈黙で返すエントとオガール、二人は目線で「また始まった」とコンタクトを取ると、どちらともなくため息をついた。これさえなければ良いリーダーなのに、と。長い付き合いの三人なので、すでに諦めが見えていた。立て直したのはオガールだった。

 

 

「あの、リーダー喜んでもらえてとても嬉しいんだけど、これ弱点があってさ。制御系に干渉するんだ」

「干渉? ノイズを混ぜるとかかしら」

「いや、植物性にしては比較的可動性のある素材でさ、これスラスターとか機械推進系の邪魔をするんだ。具体的には各部の抵抗性変えて進行方向をある程度勝手に動かす」

「装甲板が勝手に舵取るのか。それってバイドって言うんじゃね?」

「いや、コックピット内にバイド汚染はないし、装甲材も枯れなければ素子をばらまかない」

 

 

エントの疑問はもっともで、素直に聞いたらコックピットの外をバイド組織で覆っているのと変わらないという事になる。しかし、明後日の方向に舵を取ることに定評のあるラミはこれに素晴らしいと目を輝かせた。

 

 

「何を言っているの二人とも。これを自由に動かせればよりバイドらしい無駄のない制御系統を実現できるのよ。決めた! これを主軸に据えて装甲兼、操縦系統として研究しましょう」

 

 

こうして、Team R-TYPEの夜は更けていく。

 

 

***

 

 

Team R-TYPE研究開発のチェック器官として成り立っている課長室。ラミは事前研究を重ねた上で、データをもって訪ねた。もちろん前日はきちんと寝てクマを取り払っている。相対するのは課長のレホス。いつも通りの汚い白衣サンダルに、いつも違う柄の糊のきいたシャツ、ネクタイをしている。もはや突っ込む者もいない。

 

 

「レホス課長、B-1A系列の新型案をお持ちしました」

「出す前に聞いて置くんだけどさぁ、バイド装甲機の系統は長くても3機と考えているけど、引き延ばしじゃないよね?」

「ええ、もちろん完全無欠の見た目良し、性能良し、コスト良しです」

 

 

記憶媒体に入ったデータを差し出すと、レホスはそのデータを開きスペックと実験結果を見比べ、すごいスピードで読み始める。ラミは慣れているのでレホスがその状態でも会話出来ることを知っていたので、そのまま説明を続ける。

 

 

「薬液への依存性がジギタリウス1,2共通の課題ですが、この花状装甲に付属する液溜まりには薬液を劣化させずに保持する事ができます。これにより薬液の無駄がなくなりますし、定期メンテナンスで薬液補充する間が伸ばせます」

「ふーん、まあその辺はデータ通りだね。それだけじゃ許可はだせないなぁ」

「ええ、第二の特長として、これは可動式装甲です。装甲に操縦系を組み込んでいます」

「それは操作できるの?」

 

 

レホスの疑問に答えるため、ラミは添付資料を見る様に伝える。そこには何かのプログラムと出力にかんするデータが並んでいた。

 

 

「我々はこれをバイド論理演算と名付けました。入力に対してバイドがどのように出力するかを導き出しました。これは未完成でジギタリウスシリーズでのみ載せることの出来るものですが、もっと汎用性のある物が見つかれば、他のバイド装甲機にも導入できます」

「入力はサイバーコネクトから直接で、出力はこの場合は花状装甲の挙動となる訳だねぇ。この仲立ちをするシステムはたしかに我々にとって有用だけど、これを導入したメリットは?」

「はい、まず一つ目、これを導入することにより装甲の強度を一時的に高める事ができます。次に二つ目、今まで常に薬液を消費して強度を保っていた装甲の薬液消費量を調節することにより、薬液の使用量自体が減ります」

「まあ、このB-1Aシリーズは薬液との戦いだったからねぇ」

 

 

軍人らが聞いたら、薬液と戦わずにバイドと戦えと言いたくなるような事を述べるレホス。まんざらでもない感じの反応をするレホスに、気をよくしたラミは最後の利点を満面の笑みで押し出す。

 

 

「これは操縦系統としても利用できますので、よりバイドらしい制御が可能です!」

「そうだね、身を捻って敵弾を避けるというのはとてもバイドらしいよねー。でも植物性の所為であまり効果的には見えないけど」

 

 

レホスは動画を再生しているが今一分かりにくい。しかし研究データとしては有用だった。レホスはバイド機の研究として合格ラインに達したと判断しゴーサインを出すこととした。ラミはおっとりと喜んだ後、満面の笑みでレホスに告げた。

 

 

「ありがとうございます。ではこの子を実際に作れるんですね! さすがレホス課長は分かっていますね。この装甲の裏表の色合わせとか、花が咲く波動砲とか可愛いでしょう!」

「……Team R-TYPEには通常の感性は必要ないからねぇ」

 

 

さすがにレホスもラミの事は理解できず、否定も肯定もしない返事を寄越すのだった。

 

 

***

 

 

軍の担当官は当初、生物的であるがまだまともな外見をしたバイド装甲機B-1A3“DIGITALIUS III”を見て。まず、まともな「R」機を作れよと憤り、続いてナマモノでないだけまだいいかと自分を慰めた後、Team R-TYPEの担当からの説明に切れた。

 

 

まず、人間に毒性のある薬液の使用云々が全く改善されていないこと。そして「バイドらしい制御」とかいうサイバーコネクタを通してバイド装甲に繋げる可動させるという暴挙。まだ良いと評価された外見すら一皮めくると、毒性のある薬液が滴る棘とドドメ色の気色悪い表皮という有様。

 

 

もちろん、現場ではラミの感性は理解されず、百害あって一利無しと実戦配備はされなかった。

 

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