プロジェクトR!   作:ヒナヒナ

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バイド機開発中盤、前話よりは前の時間軸です。ジギタリウスⅡができた頃です。









B-1B2“MAD FORESTⅡ”

B-1B2“MAD FORESTⅡ”

 

 

 

 

 

ここのところすっかりTeam R-TYPEの研究中枢となりつつあるバイド実験施設では、蔦が絡まった様なバイド装甲機B-1Bマッドフォレストの追実験が行われていた。マッドフォレストに特異な要素であるBI物質の研究である。実はこの物質はまだ実験段階のものであり、その振る舞いについては解明し切れていない。それがマッドフォレストという(一応)公式機体に取り入れられたのは、その自己修復機能が有用であると判断されたためだった。実際、開発班のリーダー、クアンドの先走りであった感は否めない。

 

 

「実験No.41終了。で、班長、この追実験いつ終わるの?」

「ふっ、なんだねフローレスカ。もう体力の限界かね。そんなに予備脂肪はあるのに……」

「それ以上言ったら、バイド培養槽にぶち込むわよ」

「冗談も通じないとは……あ、待って、嘘だから!」

 

 

班長のクアンドと班員の一人であるフローレスカが、地獄のスケジュールで追実験を実施している。二人の目元には疲労の跡が感じられ、肉体的、精神的に酷使している様が見て取れる。このようなハードスケジュールを行っている原因は2週間前にあった。

 

 

***

 

 

――2週間前

 

 

「失礼します。クアンド主任研究員です」

 

 

Team R-TYPEの地獄殿こと開発課長室に、レホスに呼び出されたクアンドが来た。レホスは基本的に個々の研究員の自主的な研究を推奨しているので、課長からの呼び出しというのはしょっちゅうある訳ではない。よほど怠けていたり、大問題を起こした場合は呼び出されるのだが、それは呼び出された者が実験者から被験者にクラスチェンジすることを意味するので、課長室呼び出しはかなり恐れられている。しかし、クアンドは持ち前のポジティブさで堂々と入室した。おそらく先月ロールアウトしたB-1Bマッドフォレストに関する事であると予想が付いているので、そこまで恐れてはいなかった。

 

 

「ああ、クアンド君かぁ。このB-1BのBI物質の件なんだけどどう思う?」

「あれは特異で面白い物質です。いやーああいうのをポンと見つけてしまうとは、私の日頃の行いのおかげですなっ。実に研究し甲斐があるというものです!」

 

 

日頃から調子よく言葉を滑らせるクアンドに対して、レホスはB-1Bの成果と言えるBI物質に水を向ける。呼び出しの時点で不穏な空気が溢れているのだから少しは抑えれば良い物を、クアンドの口からは次々にどうでもいい言葉が出てくる。レホスはそれを前に少し目を細め、書類を手渡しながら告げる。

 

 

「ふーん……そうだねぇ。そんな仕事熱心なクアンド君にはこの実験計画をあげるよ」

「お任せを……え”、BI物質基礎実験行程一覧? え、ちょっとこれ項目が多いのでは?」

「君なら大丈夫さぁ」

「しかし、基礎研究73課題ってちょっとこれ今からですか!?」

 

 

クアンドが焦り出すが、レホスは課長席で悠然と足を組み直して告げる。

 

 

「研究というのは自由で柔らかな発想で行うものだと思っているから、挑戦的な研究でも意義があれば通すんだよ? でもそれは適当であるのとは別さぁ。基礎を固めないまま研究を続けて、もしそれが崩れたらその上にあるものは全て意味のないことになる。まさに砂上の楼閣さぁ。そんなのは科学とは言わない。僕は個々の発想を尊重するけど、そういう無駄は嫌いなんだ。というか一応僕は君らの発想自体は良いと思ったから開発自体は通したんだけどなぁ?」

 

 

無理とは言わないよね。と笑顔のままのレホスにすごまれれば、クアンドは引きつった顔のまま了承するしかなかった。口調や服装からだらけた人間の様に見えるが、レホスはTeam R-TYPEの研究を管轄する管理職なのだった。クアンドは真っ白になったままその工程表を持ち帰るしかなかった。

 

 

***

 

 

そんな事があって、班長のクアンドとその班員フローレスカとECは今まですっ飛ばしていた基礎研究行程に精を出しているのだった。クアンドとフローレスカがじゃれ合いながら課題をクリアしていると、別室で作業をしていたECがやってきた。

 

 

「あ、班長とフローレスカちょっと見て欲しいモノがあるんだけど」

「なにEC、あんたはBI物質添加素材の破壊テストしてたんだっけ?」

「そう、このデータ見て」

 

 

フローレスカがECの持ってきたデータを見ると、眉間に皺を寄せる。BI物質添加素材は破壊時に自己修復する機能を持つのだが、以前取ったデータより修復率が極端に大きいものがあったのだ。クアンドもそれを見て首をかしげる。奇妙なデータを見た三人は、その場で車座を組んでデータをソートしたり簡易統計などの処理を行ってみる。

 

 

「特異データでは、破壊部位が全て高いBI活性を示してる。破壊後は複数箇所にBI活性が分散する様ね」

「つまり、BI活性が最も高い部位を破壊すると、各所での再生能が上がるの?」

「そうみたい……ねぇこれはもうちょっと探ってみない?」

「あと基礎実験30課題残ってるんだけど」

「そちらはクアンドまかせるわ。実験計画まではできているし、リーダーだし、リーダーなんだもの。後はやるだけ、簡単でしょ?」

「も、もちろんだとも」

 

 

フローレスカとECの意見にクアンドが口を挟むが、フローレスカに一蹴される。クアンドが情けない顔になるが、フローレスカに発破を掛けられて安請負をする。

 

 

***

 

 

班長を丸め込んでフリーハンドを得た女性研究員二人だが、すぐに検証実験に取りかかった。マッドフォレストの特長である蔦状の植物質バイド。そのサンプルをシリンダーの中にセットすると、シリンダーの一端からアームが出てくる。極めて小型で低出力の波動砲コンダクタが光り始め、青白い光がサンプルの指定した箇所を焼いていく。データを取り、サンプルを変え、実験を繰り返した後二人は頭を付き合わせて見やすく加工されたデータを読み込んでいった。

 

 

「うーん、活性部位を切り取るとその活性が他所に移るけど、その際活性全量自体が上がってるわね」

「その状態は継続してる。活性減衰データから推測すると1ヶ月くらいは活性が上がる」

「もともとの活性には頂芽優勢が認められるけど、それを切れば他の「蔓」の先端に活性が移るみたい」

 

 

そんなことをぶつぶつと呟きながら検討を続ける二人。何日かそんな実験ばかりしているが煮詰まっていく。

 

 

「あーもう! これ活性が移るけどそれをコントロール出来ないんじゃ意味が無いじゃない」

「うーん、加害部から逃げる様に活性が移動するのね……」

 

 

ECも一緒に悩むが、何もなくなったシリンダーとアームを見てふと呟く。

 

 

「ねぇフローレスカ。BI活性高いって事はバイド素子の活性も高いわけだけど、それって波動素子嫌うから焼き切ると再生しないんじゃない?」

「ん、そうね。えーと」

「バイドには本来全能性があるんだから、波動砲で削らないで物理的な損傷だったらもっと明確に再生するのでは?」

「!」

 

 

フローレスカとECは黙ったまま、新たなサンプルを備え付ける。まずは先端の高活性部位を波動砲で焼き切る。BI活性が他の部位に広がったのを確認した後、レールガンを持ってきて物理的なダメージを与える。サンプルは周囲の物質を取り込みながら急激に再生する。その様は小さな蔦の塊がうごめいて、大きさ自体が一回り大きくなった様に見える。

 

 

「これよこれ! 超回復なんて素敵性能よね!」

「これで一撃で致命傷を貰わなければ、再生を続けるR機になるかしら」

 

 

そういって小躍りを続ける二人。班長であるクアンドを放って実機サイズの実験を始めるのだった。

一人基礎研究課題をこなしていたクアンドが彼女らの暴走に気がつくのは最終段階に入ってからのことだった。

 

 

***

 

 

Team R-TYPE研究開発課長室。部屋の主の前に汗だくのクアンドが立たされている。クアンドは何時もの調子はなく、完全に顔が引きつっている。レホスは彼の方を見ずに書類を読みながら口を開く。

 

 

「君らが勝手に倉庫にあった実機フレームを使ってくれたものだから、後付けで正式型番のB-1B2を当てる事になちゃったんだけどぉ。この意味クアンド君は分かってるのかなぁ」

「え、えーと私が入ったときにはすでに実験が進んでいまして……あ、すみません。笑顔にならないで下さい。監督不届きでした」

「ふーん。この件については後で色々やってもらうとして。まあ、君だけの所為って訳じゃないし、もう少し生産性のある話題をしようか。これの成果について」

「は、はい。BI素子の活性によって自己再生の度合いが変化するのですが、BI活性はバイド活性を伴いうため、波動エネルギーを嫌う性質があります。よって波動素子で極端な活性を持つ部位を潰す事により、まんべんなくBI活性を持たせ、同時に自己回復性を高めることに成功しました。バイド指数も高まるので副次的に攻撃力の増強にも繋がっています」

 

 

失敗を取り返そうと普段より早口なクアンドにレホスは目線で続きを促す。結果を全て言えと。

 

 

「その、高める事には成功したのですが、胴体部に物理的なダメージを負いますと、一気に増殖が始まってコックピットブロックを押しつぶす事が確認できました。パイロットにBI活性を付ければ自己回復するかとも思って培養組織で実験してみたのですが、人細胞では難しくてですね」

「つまりは、まったく機体としてはなりたたないと言うわけだねぇ」

「はい、そのとおりです……」

 

 

資料にはコックピットカバーを締め付けて破壊する蔦玉がある。レホスは満面の笑みでクアンドに語りかける。安心させると言うよりは、子供がオモチャを見つけた時の表情だ。

 

 

「ねぇ、クアンド君。君は研究者だよね」

「は、はひっ」

「じゃあ、研究の失敗は研究で取り返して欲しいんだけど、どうかなぁ」

「被検体以外なら、なんでもする所存です!」

「そう、じゃあBI素子の実験を続けてね。君の班は専属にするから。軍にはB-1B2は欠点が多すぎる試作機ということで言っておくからさぁ。いち研究者として実験を続けてくれると嬉しいなぁ」

 

 

今回の実験の顛末を欠陥機として処理し、更にその研究を続けるというこは……。クアンドは社会的に死ねと言われていると感じたが、ここで断るとおそらく生物学的に死ぬことになる。彼に答えは一つしかなかった。

 

 

「謹んでお受けします」

 

 

***

 

 

真っ白に燃え尽きたクアンドを研究室で迎えるのはフローレスカとECの二人。さすがに自分たちの独断専行で課長呼び出し案件となったので、二人も顔色が悪い。多少はクアンドを気遣ってみせるが、当人は完全に上の空で、彼の精神がまともになるまで少し待つことになった。1時間ほど立ってから研究の行方を二人に話した。

 

 

「今さっき、B-1Bシリーズは研究見送りって聞いたんだけど?」

「B-1B2で見つかった課題についてさらに追実験を行っているということにする。実験計画の段階ではBI素子の名前は出さないで基礎研究とする。基礎は大事だとレホス課長も言っていたし、そこから見つかる物もあるだろ」

「それ軍を敵に回すんじゃ」

「課長を敵に回すよりはマシ」

 

 

BI性質を用いた自己修復能力は、潰された部位によっては成長しすぎてコックピットを押しつぶすため、実戦での活用は期待できないと判断され、「これ以降の研究は見合わせる」と公式文書には書かれることになった。

 

 


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