そのあとはグリトニル戦記をこねくり回そうかと思案中です。
ミーガンとフーフェイはB-1C機動実験の事故の後、Team R-TYPEのお偉方から睨まれないか内心ドキマキしながら追試を続けていたが、特に処分は無かった。しかし逆に二人は不安な気持ちになっていた。なぜなら研究で致命的なヘマをした研究員が、すぐさま拉致され実験槽に沈められるという都市伝説はTeam R-TYPE中でまことしやかに囁かれているのだ。多少の違いはあれど二人とも、謎のエージェントが「やり過ぎましたね」といって自分たちを掠っていく夢を見たので、しばらくの間、お互いしか信じられなかった。
「自己修復因子の発現とか、リボン体の誘導体について論文まとめまくったのが良かったのかしら?」
「もう、自分の命がかかっているから真剣だよね。僕も一週間寝ずに論文を書いたのは院卒以来だよ」
「私も疲れたわ。でもそのおかげで被験者に身落ちしなくて済んだのかも」
目の下に立派なクマを付けた二人だが、周りの先輩方からは、これぞTeam R-TYPE、と生暖かい目で見られていた。そんな、周囲には気が付かず取りあえず開発課長のレホスから次の仕事で呼び出されて課長室に向かっていた。失敗の後レホスに呼び出されるのは心臓に悪い。しかし、もし見限られたとしたら、態々呼び出したりせずに書類一つで首を落とされているはずだと、二人はまだ自分たちが研究員として見られていることに安堵していた。
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課長室から戻ってきてフーフェイが一言。
「で、自己修復因子再び、なんだね」
「あの因子とリボン体の所為で死ぬ思いをしたんだから、研究し尽くして取り返すわよ」
「ごもっとも、研究者はそうじゃなくちゃね」
寝不足で少々キマっている二人は、レホスから新たに与えられた研究課題を前に気炎を上げていた。レホスは二人が書いた論文を割と気に入ったようで、新たな実験機B-1C2の開発という名目で、自己修復因子の発現とリボン体の誘導について、もっと掘り下げて研究することを命令した。
とりあえず発想は水物とばかりに、猛然と実験項目をホワイトボードに書き出す。黒く埋め尽くされたボードに満足した二人は2日ばかり死んだ様に眠った後、自己修復因子を発現させたバイド装甲の培養実験を繰り返していった。
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「次にやることは?」
「人体実験……もとい、有人起動試験」
「当然よね?」
「もちろん」
前回の自分たちを棚上げ――もとい、失敗を糧にしてミーガンとフーフェイは申請書を書き起こす。特殊資材使用申請書という名の書類は、試験概要と割り振り予算の書類を付けて提出するのだが、有用性が認められれば、どんな資材だろうと利用できる。最前線の基地施設だろうと、多量の金塊であろうと、木星基地に保管されているオリジナルのバイド種子であろうと、たとえ人間であろうと。
二人は失敗してなる物かと念の籠もった書類を提出し、そして受理された。
実験の中で、狂気の権化と思っていた先輩研究員らが自分たちと同じ普通の人であることが解り、倫理感というものは後からどうとでもなることを知った。
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そうして人体実験に精を出して二人で検討を繰り返していた。
「分かったことは、自己修復因子が発現してリボン体が誘導されるときに、何故か人間に引きつけられることよ」
「マウスはだめ、犬や猫もだめ。猿も問題ないけど人間には誘引される。か」
「エンジェルパックも誘引してしまうね」
ふたりはリボン体が誘導される条件、つまり再生時に特異現象を起こす原因であるものを特定しようと躍起になっていた。
「人間に特異なもの……高次思考だろうが」
「でも脳死直後でも誘引したわよ」
「代謝のある人細胞はまたは、人間のDNA……かな?」
もうそれくらいしかとフーフェイが匙を投げる。
ミーガンも頭が煮え立つ寸前とばかりに、椅子よりかかって思考を放棄する。
しばらく無言に過ごした後。フーフェイがぽつりと零した。
「……そういえばさ。バイドは人間のいる所を襲撃するよね。彼らは人間のDNAかなにかを察知する何かを持っているのかもよ?」
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対バイド用の防御装甲で囲われた実験区画。
まずは拘束衣を着させられた囚人がコックピットブロックに担ぎ込まれ、外から封鎖される。コックピットの機械式開口部分の上から、装甲が癒着するようにして閉じていく。外から見たB-1C2アンフィビアン2という名の実験機は、グロテスクさの中に中々のユーモラスさを備えている。魚類のような鰭が上下方向を覆い、鰓の様に見えるのはコックピットブロックへの開口部跡だ。さらにコックピット浸食を抑えるための物質をコックピットと動力部に循環させるために前方から後方に管が伸びている。
まあ、小中学生の魚の解剖実験において、解剖用の魚をストローなどで弄んだならば多少似たようなモノが知れない。戦闘機とは思えない生々しさと、冗談としか思えないような造形は、およそ兵器とはかけ離れているが、残念なことに地球連合軍やその周辺組織の人々は慣れてしまって最早疑問を覚えない。
「被検体収用しました」
「操作はすべて外部からお願い。用意が整ったら破壊試験を」
アンフィビアンシリーズとしては二回目となる破壊試験だが、今回は落ち着いている。何しろコックピットに入っているのは消耗が前提の被検体であり、前回の様に育成に費用のかかるテストパイロットではないのだ。そのためミーガンもオペレーター、技師達も淡々と作業を進める。そして、やはり前回と同じように岩石資材を用いて破壊試験を行う。ただし、今回は前回より小規模な破壊を予定していた。
「B-1C2中破、再生開始します」
身構えていたコックピットブロックへの侵食がまずは起こらなかったため、フーフェイは知らずに止めていた息を吐き出した。どうやら今回のために作り付けた回避案Hの効果があったらしい。
「ミーガン、効果あったじゃないか」
「そうね。人間の培養肉――とりあえず今回はHERA細胞塊をコックピットから動力部にまで流動させることでコックピットの人間反応を撹乱する作戦よ」
「おかげで外部配管みたいな無様な外見だけどね」
軽口を叩くふたり。管の中を人間由来の細胞を含んだ液体を循環させることで、バイドの自己修復因子とリボン体を誘引する物体であるパイロットを保護していた。このリボン体を含むバイド装甲は、人細胞流動液を管内で動かすことにより、ある程度、意図的な修復を促すことが出来た。
思考にふけているミーガンに対して、オペレーターの声がイヤホンから聞こえてくる。
『まもなく再生率8%です』
「続けて」
『しかし、すでに機体エネルギーの70%以上を消費していますが?』
外部で観測するB-1C2のエネルギー総量は明らかに減少が観察されていた。恐らく前回も起こっていた事象であるが大破してしまったため観測できなかったのだろう。それでも実験継続し結果が知りたかった。おそらく破滅的なことになるとは二人とも気がついているのだが。
「これも実験だしね」
『了解しました』
ミーガンがマイクに軽く実験続行を告げると、そのまま魚もどきがグロテスクに修復されていく。機体のエネルギー残量がほぼ0になると、鰭状組織がビクビクとうごめき始める。まるで陸上に釣り上げられた魚の様だ。すでに破壊部の再生は停止しており、装甲内部の軟組織がまだ見えている状態となっている。
『B-1C2完全に再生が停止しました。活性停滞、休眠状態にはいります』
アナウンスが無情に告げる。実験失敗とも見える事態だが、一皮剥けたミーガンとフーフェイにとってはこれも成果となる。
「この後は、再生率と消費エネルギー効率について追試ね」
「どうやら、破壊規模によっては再生が現実的ではないから、その辺も論文にまとめなくちゃね」
ミーガンとフーフェイは目線を合わせてにっこりと笑う。
知らない人間が見たら恋仲と思える甘い雰囲気だった。
「まだまだ調べたりないわ。実験をもっと沢山申請しなくちゃ」
「そうだね。論文には瑕疵があってもならないからね」
みなさんの学生時代の解剖実習は何でしたか?
割とカエルとフナが多いと思うのですが、
作者の学校では何故か牛の眼球(まつげ付き)でした。
周囲のお肉ごと切り取っているらしく割とグロかったですが、
ハサミを入れていくと水晶体がぷよぷよしていたりと面白かった記憶があります