プロジェクトR!   作:ヒナヒナ

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※開発してないです。ひたすらしゃべっています


B-1D3”BYDO SYSTEM γ”

 

 

『B-1D3バイドシステムγ第14起動テスト開始します』

 

 

実験オペレーターの声が実験室に響く。周囲には小型の波動砲コンダクタが担架された砲座が複数。かなり厳重な体制のなか、中央にあるのは爛れた肉塊に歪んだ涙滴形のシルエット。その湯気さえ立ちそうな生々しい肉の間からスラスターやコックピットブロックが垣間見える。常に内部が蠢くそれは誰が見ても典型的なバイドといえる姿だった。その肉塊は放っておけば地面で潰れそうだが、内部に設置されたザイオング慣性制御システムのおかげでシリンダー中央に留まっている。

 

 

誰もが異様な物体から眼を逸らして仕事を行っている中、防弾ガラスで囲われた室内では二人の男が談笑していた。糊のきいたワイシャツの上に汚い白衣を羽織った男と、無個性なシャツのうえに白衣を着た男。開発課長のレホスと今回の開発責任者となっているニードルスだ。ニードルスは研究者から研究行程管理などの分野に進んだ変わり種の職員であり、その職務内容から開発課長のレホスや部長などと打合せを行う事が多い。今回の様に試験現場に姿を現すことは少ない。しかし、緊張感に溢れた場で雑談を行っている姿勢が浮いており、彼がこの試験を担当している訳ではないようだ。

 

 

「課長、そろそろこのバイドシステムシリーズの意味を教えて下さいよ。長期行程も考えなければならないのですから。それに一応私が開発責任者なんでしょう?」

「うん、じゃーニードルス君に質問なんだけど、バイドって何?」

「純粋な悪意。というのが模範解答ですよね。はい、こういう答えを求めてないのは分かっていますよ」

「バイド研の言葉だねぇ。でも詩的でパフォーマンス的な答えであって、それは研究者の言葉でないなぁ」

 

 

会話自体は雑談だが、明らかに周りが引いている。Team R-TYPE特有の巻き込まれたらヤバそうな雰囲気を察知して周囲の人間は気配を消している。この室内には口が堅く好奇心を抑えられる人間だけが作業しており、そうで無い者はだいたい“異動”する羽目になっている。彼らは空気に徹しながら実験オペレーターの準備報告を告げる声に救われたように自分の仕事に戻っていった。

 

 

『汚染確認……グリーン、各種システム内部循環へ切り替えます』

 

 

「そもそも疑問だったのですが、バイドシステムって名前、どういうことですか」

「アレの意義を端的に表した良いネーミングだと思うんだけどねぇ」

「分析が目的ってことは分かりますが、仮にもR機の形でやるのが分からないんです。今までだってバイド研で散々培養分析してきたでしょう。今やあそこはドプケラトプスだって作れる」

「我々が制御出来る最小単位でありもっとも効率の良い形態がこのバイドシステムだからねぇ」

 

 

レホスは手元の携帯端末を弄ると、ドプケラトプスのデータが出てくる。上位アクセス権限が必要な情報まで付属している。レポート概要にはドプケラトプスの管理記録が複数並んでいた。

 

 

「バイド研はこのドプケラトプス培養体を自分たちの最高の成果品として言っているけど、僕に言わせたら言語道断だよねぇ。こいつらは維持出来ているといっても培養管を取り付けて維持しているし、制御だって完全とは言い難い。何より単独で自立していない。知ってるでしょ、こいつらは動けないんだよ」

「まあ、ギャルプⅡの原種も壁面にくっついていましたよね」

「自立させようとしたワープ空間での実験も上手くいかずに、制御すら不能になってるからねぇ。外部骨格にして自立させようとした制御装甲を備えたザプトム計画もあるけど今のところ試験体段階だし失敗続きだよ」

 

 

レホスは呼び出したデータを消して、実験エリア中央の台座にあるB-1D3を見る。それはドプケラトプスやコンバイラといった大型のA級バイドに比べると格段に小さい。通常R機より一回り大きい程度だ。バイド装甲機は基本的にR機のフレームをバイド由来の組織で覆っているため、あまり大きくはならない。独立しており現状でほとんどのバイド装甲機はコントロール下にある。今も操作に従って基本機動を行っている。バイド計数器も安定している。

 

 

「大は小を兼ねるなんて、この分野には当てはまらないしぃ、ただただ制御が難しくなるだけだし暴走ばかりでダメだね。ああいうのは性に合わないさぁ」

「うーん、でもなにか惜しいですよね。大型のバイド戦艦とか作ってみたくないですか」

「不要だよ。バイドが何であるかを研究するのに複雑化したものは必要ない。それに軍の運用する戦艦の意義は動く基地であることさぁ。あとはR機母艦かな。どちらにしてもバイド装甲である必要性は無いんじゃない?」

「バイドが大型化するということは何らかの意識のようなものが発生しますよね。あれもどういう構造か調べたいものです。私は生化学や物理性よりそういう分野の方に興味があります」

「いわゆる中身入りってやつねぇ。それを自軍艦でやる必要も無いし、僕らが艦艇にまで手を出したら軍の開発局が発狂するよ」

「ああ、そういえばフロッグマンとかキウィベリーとか作った時も、Team R-TYPEが海軍や陸軍にまで手を出したって拗らせていましたね」

「キウィベリーに関しては軍の開発も関係してるんだけどねぇ。まあ、R機の印象の問題だよね。ウチの広報課は軍開発局を煽ることに関しては天才的だから」

 

 

軍の開発局が聞いたら歯ぎしりしそうなことを言い放つレホス。こういう部分を隠さない所為でTeam R-TYPEは傍若無人と言われることになる。一応、当人達は住み分けを守っているため、無駄な縄張り争いは発生しないが軍開発局としては面白くない事は確かだ。そんな事を言いあいながらもテストは進む。ミサイル生成機関から目玉状の推進爆発物が生まれ出てデコイに向かって泳ぐように飛んでいく。デコイに当たった目玉が破裂し破壊する。悪夢のような光景だが、バイド装甲機では基本装備である。特に問題はない。数度繰り返した後、次はこのバイド機の波動砲たるバイドウェーブ砲。

 

 

「機械式の既存R機のままだったら、波動砲はきっともっと単純で詰まらないものだったはずさぁ。基本的に波動砲は威力偏重。電気的に変換したR-13Aケルベロスの失敗からしばらくの間は特にね」

「ケルベロスといえばウォーレリック社ですけど、課長が若い頃いたんでしたっけ」

「そ、サタニックラプソディの頃はまだ僕はいないけどね。僕自身はどちらかというとクロス・ザ・ルビコンの共同開発の印象が強いんだけどねぇ」

「そのままTeam R-TYPEに居着いたのでしたっけ。珍しいですよね、ウォーレリックはどちらかというと軍開発局よりかと思っていました」

「んーまあ、ケルベロスが未帰還になるまではR機開発をメインでやろうと思ってたらしいよ。その事件が原因で艦艇武装方面に舵をきったけど」

 

 

ウォーレリックとTeam R-TYPEの不仲は、ウォーレリック社に見切りを付けたレホスが、データを持ち出してTeam R-TYPEに転向したことも、原因の一つであるのだが、レホスは話さなかった。

機動データを確認しながら雑談をしていると、実験オペレータが波動砲テストの開始を伝えてきた。

 

 

B-1D3の後方が一瞬紫色に発光したかと思うと、エネルギーを付与されたバイド粒子がB-1D3の機体表面を沿うように吹き出し機首部で合流してうねりながら前方へと向かっていく。そのエネルギーの奔流の中でバイド粒子は徐々に消滅しエネルギーに変換されつつ吹き付ける。曲線軌道のため速度は遅いが威力は高い。すり潰されるように消滅するデコイ。

 

 

「どうかな。変化は無いけど威力は高まったと思うけど」

「バイド装甲機らしい砲ですね。そういえば、このB-1Dバイドシステムシリーズはバイド装甲機の中で基本形、もっともノーマルといって良いと思うのですが、主砲だけは特徴的ですよね」

「そうだねぇ。基本形というけどバイド装甲機の中で基本形だから、バイドの基本特性ってことだね」

「いつも思っていたのですが、バイドの天敵である波動エネルギーが付与された武装をバイド装甲機が撃てるってどうなのでしょう。ブラックボックス化……というより私のような門外漢には分析のしようがないのですが」

「ああ、あれね。波動エネルギーとバイド素子が喧嘩しないように特殊幾何学による超物理学的効果って奴で仲立ちしているんだよ」

「特殊幾何学による超物理学的効果……なんですかその怪しい言葉は?」

「ダンタリオンがその試験機として……まあ、色々あるからね。ところで端的に言ってB-1D3はどう思う?」

「感情的ですが嫌悪感を強く受けます」

 

 

へぇ、と面白そうな顔をして声を少し潜めるレホス。この研究のためなら周囲を顧みない開発課長が周りを気にするとはどういうことかとニードルスは少し眉根を寄せる。

 

 

「B-1Dシリーズはバイド装甲機としては中庸といって良い性能だと思うのですが、他に感想が浮かばないのです。操縦性も割と素直ですし、一部を除いてパイロットがどうなるわけでも無いですし」

「いやぁ、それでいいんだよ。B-1Dが目指すのは“バイドらしさ”だからぁ」

「“バイドらしさ”?」

 

 

ニードルスは試験を続けるB-1D3をじっと見つめる。なるほど確かに一般人が考えるバイドと言われる性質を備えている。他のバイド装甲機が培養素材の色を強く出しているのに対して、B-1D3はバイドそのものだ。生物の部品をめちゃくちゃにしたような肉々しいテクスチャ、攻撃性を感じる面構え、生体部分と機械が融合した不気味さ。バイドそのものといえる。100人いたら99人まではバイドだと断定するだろう。おそらく残りの一人はTeam R-TYPE関係者だ。

 

 

「そ、バイドはある意味完成されているのさぁ」

「完成されている? あまりそうは見えませんが」 

「単為自己増殖が可能でぇ、食生は生物から無機物まで完全雑食、生命維持温度は分子が構成出来る温度ならばほぼ無制限、波動以外に対しては高い耐性を持つ」

「文明はないのでは?」

「文明とか文化なんて自分たちの生存率を上げるために作るものだよ。人がまとまるのはそうやって外敵から身を守るため、服を着て武器を作るのは生存環境を適合させ外敵を排除するため、我々は完全じゃ無いから文明と文化を持つ。そもそもが完全なら一個体だけで構わないはずさぁ」

 

 

突然人文的なことを言い出すレホスに面食らうニードルス。このまま話続けると面倒が待っていると分かるのだが、彼も一応研究者の端くれであり好奇心には逆らえない。結局耳を傾ける事になる。

 

 

「バイドは完全ですか」

「我々人間よりは遙かに完全に近いけど、真の完全はありえない。そして完全と不完全の間には深い溝があり、バイドと我々は共にこちら側にいるのだから手が届かない訳が無い」

 

 

B-1D3の試験は問題なく終了し、汚染度チェックやパイロットの精神鑑定、身体計測が行われている。多数のバイド装甲機を開発してきた技術集積から、パイロットに係る負荷は格段に減少している。B-1DはR機汚染体、B-1D2では早すぎた高バイド係数機であったが、3機目にして通常のバイド装甲機となった。技術がバイドにようやっと追いついて来たのだろう。

それを横目で見ながらレホスはうそぶいた。

 

 

「我々Team R-TYPEはバイドを研究し、取り入れ、追い抜くために研究しているのさ。このB-1Dシリーズはバイドの雛型で、我々Team R-TYPEはこれを取り込みこれ以上のR機をつくらなければならない。今のところB-1AからCまであってもこれを越したとは言えないから、君たちの今後に期待しているよ」

 

 

いきなりのことに気の利いた回答が用意できないニードルスはぼんやりと言葉を漏らした。

 

 

「馬鹿な発想の機体の方が多いと思いますが」

「馬鹿でも結果を残した者が勝ちだからね」

 




ネタとしか思えない“バイドらしさ”を精一杯シリアスに寄せた結果がこれだよ

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