プロジェクトR!   作:ヒナヒナ

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※Ⅰは昔書きましたので、その続きです。でもあまり話は続いていません。


B-3A2“MISTY LADY Ⅱ”

バイド装甲機開発はB-3Aミスティレディから3世代目に入っている。

第一世代目はB-1Aジギタリウス、B-1Bマッドフォレスト、B-1Cアンフィビアン、B-1Dバイドシステムそれぞれのシリーズから構成されており、比較的分かりやすい全体コンセプト「バイド特性を備えた機体」というものである。簡単に言うならば装甲材をバイド化させコントロールすることが目的で、それぞれのシリーズは二次特性として装甲材の特色を押し出してきた。もっとかみ砕いて言うならば「できるからやってみた」というものになる。

 

 

第二世代機は技術実証試験機としてのB-2Xプラトニックラブ一機で、フレームにバイド装甲を被せるのではなく、コックピットをバイド素材の中に埋め込むという試みを行った。機体の形や名前に惑わされがちだが、色々な試作技術を詰め込み、硬質装甲ではなく軟質装甲という野心的な機体だった。そのコンセプトの中で評価された一部は第三世代に引き継がれることになる。

 

 

そして、第三世代の大目標は「バイド素子を制御する」ことである。

 

 

第3世代最初の機体であるB-3Aミスティレディは装甲が霧状物質を発生させるという意味不明なものであり、装甲の意味をなしていないともっぱらの評判である。

 

 

「バイドの巣に飛び込むのにステルス性とか馬鹿なの?」とか

「攻撃がすべて癖ありすぎる」とか

「乗る方の身にもなれ」とか

「兵器で哲学を実践するのはやめろ」とか

 

 

非常にもっともな意見が現場から出ている。

しかし、Team R-TYPEは反省しない。なぜならミスティレディは第三世代機の一機目なのだ、適当に開発した訳では無い。Team R-TYPEのすべきことはここから次の課題を抽出して、いかに活かすかなのだから。軍人とは反対に、ミスティレディは技術的な功績を認められて、その正当進化機としてB-3A2ミスティレディⅡが作られる事になっていた。

 

 

「ミスティレディはその最初の雛型である。……となってるけど、第3世代機の1番手としてはキレッキレよね」

「そうだよね。重鎮チームが開発したからみんな手堅い機体になるかと思っていたけれど、完成してみたらアレだから。装甲という概念そのものに喧嘩を売っているし、攻撃が全て何とも言えない性質だし」

「でも、あれはあれで上層部からの評価は割と良かったのよね。軍関係者は全員諦め顔だったけど」

 

 

ミスティレディⅡを開発する事になったのだが、Ⅰの開発チームは全員開発自体からは手を引いているということで、論文発表チームの名前で呼ばれるミーガンとフーフェイが引き継ぐことになった。開発課長レホスからアンフィビアンシリーズの開発姿勢を評価されたという面もある。そんな機体を前にミーガンとフーフェイはまず前回開発資料を当たって、分析に努めることにしたのだ。

 

 

まず調べて分かるのは、バイド装甲機版のステルス機であると言うことだ。攻撃性能もバイド組織の副産物を利用するという面で徹底されており、そのコンセプトを厳守する姿勢は抜きん出ている。それが現場に則していなくても。

 

 

「攻撃特性なんて二の次よ。武装をちょっとパワーアップしたの乗せておけば軍は通るから」

「それはちょっと……いやでも、そうかも。最近軍も諦めの感情が見え始めたからね」

「軍の上層部って絶対うちの組織の上とつるんでるわよね」

 

 

ミーガンとフーフェイはコンセプトに沿って研究することは得意であるが、あまり機体性能そのものを上げるのは得意ではない。まさに研究員なのだ。しかし、レホスが指名してきたと言うことは、別に攻撃力を上げることが目的ということではないだろう。彼らは自分たちのやり方に沿ってミスティレディⅡの開発方針を検討し始める。武装は出力を上げる程度で茶を濁す気満々である。

 

 

「まずはⅠの問題点から上げましょう……武装以外で」

「装甲部のステルス性能は問題ないけれど本体ともいえるコックピットブロックがどうしても足を引っ張るから、その部分をどうにかしないとね」

 

 

ミスティレディはその霧状物質を纏った構造から各種レーダー波を吸収し高いステルス性を誇っている。さらにミストフォースを装備することで性能は格段に上がる。しかし問題もあって人間が操縦するため、コックピットブロックは非バイド性・耐バイド性の素材である必要がある。そしてなにより人間が乗る。通常時は良いのだが、高速移動時や戦闘機動時には霧状物質が剥離し、この部分がどうしても一部レーダーに捉えられてしまうのだ。これはどうしようもない問題であるとしてミスティレディⅠでは解決を見送った。

 

 

「そうね。コックピットを霧状物質精製素材にするというのはどうかしら。パイロットに厳重な防護服

を着せれば解決じゃ無い?」

「さすがにR機の要件である汎用有人機って規則に引っかかるよ」

「そもそもR-9WやR-11の昔にパイロットの安全なんて目もくれて無いじゃない。でもまあバイド装甲機じゃコックピット自体には手を入れられないでしょう。高速機動時には霧状物質じゃあ覆い隠せないわよ。そこまで密度ないんだから」

「亜空間重力波計と高精度バイド係数機はごまかせないかもしれないけど、あれは戦艦かR-9Eシリーズくらいしか乗せてないから。それ以外をごまかせれば良いのでは?」

「単純過ぎるけど霧を濃くするとか?」

「試しだやってみようよ。初めっから諦めるなんて僕ららしくない。それでもダメだったらアンフィビアンみたく論文に逃げよう」

「そうね。やってみましょう」

 

 

どうあろうと論文は書くことになるのだが、技術論文の評価が高い二人は、それを盾に開発を突き進むことに決めた。

 

 

***

 

 

B-3Aの特長ともいえる霧は、装甲が分泌する特殊な溶液が微細な粒状になっているものだが、これにバイド素子が入り込んで、互いに緩やかに引き合うため霧を纏っている様に見える。また、攻撃時にもこの霧を用いる。しかし、他の機体よりバイド素子の結びつきが弱くどうしても攻撃力に欠け、結果として決定力不足となる。彼らはまずこの性質をどうにかしようとした。

 

 

「単純に霧状物質の精製量を増やすのはダメね。精製部分が大きくなってバレバレだわ」

「分泌組織を弄って霧の中に攪乱物質を混ぜ込もう」

「うーんそれ、攪乱物質が機体に追従しないわよ。ばらまくの?」

「いや霧の粒子の中にコロイド状にいれて、バイド素子を添加する」

 

 

ふたりは有用な霧を発生させるバイド装甲株を求めて、組織改良を続け実験を重ねる。その過程で、攪乱物質の重さで霧が動かなくなったり、その対策として霧の粒子を更に細かく多くしたりなど試行錯誤を続けた。このB-3A2の改良型の霧状物質は割と碌でもないことに、軽度バイド汚染を引き起こす汚染物質となるが、活動領域は地球周辺じゃないしと、対応を見送った。

 

 

「このバージョンはどうかしら、割といい追従性を持っていると思うのだけど」

「霧の粒子が小さくなって相対的にバイド素子の配分が大きくなったから、追従性は増したね。テストしてみよう」

 

 

そういう声が実験室に聞こえたのは、二人が研究室に籠もってから数ヶ月後の事だった。

 

 

***

 

 

実験は大変穏やかに見える。本来はここで飛び交うのは、禍々しいデビルウェーブ砲であるとか、気色の悪い蔦が絡み合うスパイクだとか、寄生花を植え付ける種である。ついでを言うならミサイルは目玉だしレーザーも大体が推して知るべしという感じになる。たまにハート型とかあるのが更に異様である。

 

 

その点ミスティレディⅡはひと味違う。

そこには疑似太陽光を収束させるレーザー日光や、やや前方に降り注ぎにわか雨を思わせるレーザー、霧状物質の静電気から発生する落雷。レーザーとは何ぞや、という哲学的な気分にさせてくれる。強硬派自然保護団体に向けて一般PRをしてみようなどという巫山戯た会話がされるが、こんな兵器でも一応の破壊力は備わっている。

 

 

とどめは山麓から吹き下ろす冷風の様な霧状バイド砲。機体から滑り落ちる様に下方に霧が流れて、水滴が実験室の高光度ライトの中きらめきながら分散して消えていく。その中でデコイが酸に巻かれて人知れず破壊されている。

そこは有終の美を感じさせる詩的な空間になっていた。落雷すら春の訪れの様なものを感じさせ、季節も無くイミテーションの植物しか存在しない宇宙実験施設にも関わらず春を感じる。ミーガンとフーフェイはこの宇宙コロニーの出身で実験施設勤めであるので、季節などほとんど感じることは無いが、この実験に詩情を感じていた。破壊力が多少上昇しているだとか、そんなことは小さな問題でどうにでもなる気がしてくる。妙な雰囲気を漂わせた武装実験だが、攻撃性能はお世辞にも良いとは言えず、お荷物武装になるのだった。

 

 

次の実験は高速戦闘時のステルス性のテストだ。流石に実験施設内では出来ないため、実験用に確保された宙域で行う事となっている。宇宙空間にふわりと飛び立つB-2A2ミスティレディⅡ、そのゆったりとした姿や霧の奥に本体を隠す姿は奥ゆかしくみえる。……ここにはバイド機に毒された人間しかいないのだ。

 

 

ミスティレディは緑がかった色であったが、コロイド状の攪乱物質を混ぜ込んだ霧はうっすらと紫色に見える。その中にR機がうっすら見えているが、霧状装甲がなければ解体修理中のR機にも見える。これでも従来のR機の形状をもっとも受け継ぐバイド装甲機なのだ。彼女はテストパイロットの操縦に身を任せて宙域を飛び回っていた。今までの所、大多数の計器からは観測されていないか、僅かな計測結果を残すだけだ。基地や戦艦、R-9Eシリーズに搭載される特殊なレーダーにのみ機影が観測されている。

 

 

「B-3A2試験機、もうちょっと派手な機動を試してくれる?」

『B-3A2了解』

 

 

暗礁宙域近くまで寄ったB-3A2は細かなターンを繰り返し、障害物を高速で避けていく。霧状物質はキッチリと機体に追従しており、ステルス性は損なわれていない。

 

 

『B-3A2試験機反応ロスト』 

「ええっ! なんで? デブリにぶつかった?」

『いえ、反応消失です。デブリとの衝突ならば観測できます』

「……もしかしてステルスの所為?」

 

 

その後15分ほどむちゃくちゃな機動で暗礁宙域を飛び回っていたテストパイロットだが、実験管制側の通信が無いことを不審に思い、通信を入れたことでようやく見つかった。ステルス性が高い霧状物質を振りまきながらテストを行っていたため実験施設周辺が大変レーダーが効きにくい環境になっており、通信・現在位置をロストしたという結論に達した。

 

 

こうして、バイド装甲製ステルス機という唯一無二の機体シリーズの改良型が完成した。おまけとして霧状物質濃度が上がったことで僅かに攻撃力も向上したが、現場パイロット達からの不評に変わりは無かった。

 

 

 

 

 




FINALでは大変使いにくいと評判のミスティレディさんですが、
TACTICSでは後半の難易度を左右する機体です。
ミストフォースでジャミングしたままミスティレディに付けられるのは
バグと聞きましたが、はたしてバグなのか仕様なのか

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