憎悪の瞳,渇望する愛   作:伊佐那岐

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第11話 守る者の為に

―――――とある古城

 

 

 

「おいっ!A班、B班は表を、C班、D班はそのまま裏門を、残りの班は会場内の警備に当たれ!」

 

 

 

「はっ!」

 

 

 

 

主催会場である中世ヨーロッパ風の城ではフェニックス家が用意した下級悪魔の兵隊が物々しい数として城全体を周辺から囲むようにして展開していた。

 

 

上級悪魔同士の、更に言えば魔王サーゼクス・ルシファーの妹でありグレモリー家の跡取りであるリアス・グレモリーの婚約パーティーが行われるからである。

 

 

 

 

 

ある愚かな上級悪魔は言う。この警備を破って来れる等、SS級のはぐれ悪魔でも無理だと。

 

 

この物々しい警備を突破できるものなどいない。無理であると

 

 

 

 

 

だが悪魔たちは知らないのだ。この世界には自らの知らない勢力や力がある事を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

厳戒態勢の城の一角

 

 

 

「良いよな~。上の連中は今頃優雅にパーティーだぜ」

 

 

大理石でできた壁を背に兵士の1人が愚痴をこぼす。他の兵士も苦笑いしながら同感だと言うように頷く

 

 

「確かにな。俺らも美味い飯にありつきたいぜ。」

 

 

「そう言うなって、もし隊長にそんなこと言ってる事がばれたら、お前。減給だぞ。」

 

 

「うへぇぇ、それは嫌だな。やめよ辞めよこんな話」

 

 

「「あはははは!!」」

 

 

楽しくも和気あいあい。そんな様子で適当に警備の形をとるだけの男たちは完全にこの警備力を掻い潜ってくる人間は居ないと誰もが思っていた。

 

 

だが、そんな油断こそが己が死を速めるとは知らずに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィィィィィィィン!キィィィィィィィィン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?・・・・・・おい、何か目の前のガラスに何か映らなかったか?」

 

 

 

「はぁ?おいおい、余りにも暇だからって今度は会談でも始めようっていうのかよ」

 

 

「そうだぜ。いくら暇でも仕事なんだから。ばれない程度に真面目にってな」

 

 

残りの兵士たちが、馬鹿にしたように笑う。兵士は気のせいかな?と恐る恐る鏡に近づいた時だった。

 

 

「グオォォォォォ!」

 

 

 

グシャッ!

 

 

 

「「はっ?」」

 

 

 

獣の雄叫びが廊下に響いたと思いきや目の前の鏡に近づいた兵の頭が消えた。

 

 

いや・・・消えてはいなかった。ただ消えた頭の所には、目の前の、自分の同僚だったものが喰われていた。

 

 

 

鈍く光る黒銀の化け物に

 

 

 

「うっ!うわああああああ!!化け物だあああぁぁぁぁ!」

 

 

兵士の1人が錯乱し、武器を手放す。

 

 

逃げろ。ただその言葉が頭の中でサイレンのごとく鳴り響く。

 

 

しかし、逃げ出そうとした兵士が後ろに振り返った際に何か堅いものにぶつかる。

 

 

目の前に壁があるはずは無い、そもそも大理石の感触では無いと顔を上げる兵士が最後に見たものは

 

 

「は~い、残念~あんたはこれで、お・わ・り」

 

 

 

グシャッ!グチャッ!グチャッ!

 

 

後ろの化け物と同様に黒銀の鎧を纏った人の形をした化け物だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「状況終~了~。相川~次のステージは?」

 

 

 

男はまるでゲームを楽しむような声色で奥の暗闇に言葉をかけ、声の方向、暗闇に包まれた奥から3人は現れた。

 

 

 

「次は北東へ2m行ったところに3名ステージ2だ。その後は、まっすぐ3m向うに2名、ステージ3だ。行け」

 

 

現れた男の内の一人、相川蓮は目の前で起こった惨劇に目もくれず、それを起こしたそれ(・・)にはき捨てるようにただ淡々と命令を下す。

 

 

「了解。久々に楽しいゲームになりそうだ。」

 

 

 

それ(・・)はこの惨劇をゲームと口にすると、楽しげに次の獲物の元へと向かっていく。

 

 

 

 

 

「なぁ・・・蓮」

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

「蓮・・・気持ちは解る・・・解るがこれは」

 

 

余りにもやり過ぎだと。剣は言うが蓮にとってこんなことはやりすぎには入らないし関係ない

 

 

この兵士たちが俺の邪魔をするというのなら、容赦なく排除する。例え誰がなんと言おうと関係ない

 

 

 

「蓮・・・・僕は殺して来た側だから剣のように罪悪感を感じることはない。だけど君は」

 

 

「レオ・・・関係ないんだよ。俺は俺の目的のために全てを破壊する。俺の障害になるものはすべて排除する。言ったはずだ俺が邪魔だと思ったものは全て奪う。その命さえもだ」

 

 

 

「・・・・・・すまない。考えが甘かった。俺も覚悟を決めよう。」

 

 

 

 

剣は納得できないと言った表情を切り捨てる。そうだそれでいいんだ。

 

 

 

余計な感情を持てば隙が生まれる。隙が生まれれば奪われる。命も、大切なものも全て

 

 

だからこそ奪われる前に奪うんだ。

 

 

そして、あの子の無念を晴らさなくてはならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれは・・・そう。今から1日前・・・・・・今日、この日を迎える前日

 

 

 

蓮を含めた4人は、ミラーモンスターの犠牲者の中で、唯一の生き残りであり、佐野によって保護され、アジュカ・ベルゼブブのライダー研究所に収容されている小さな子供の様子を見に行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――1日前

 

 

 

 

 

 

蓮、剣、レオ、手塚の4人は冥界にアジュカが納める土地、そこにそびえたつ研究所の中の一つに来ていた。

 

 

ここで保護されている、ミラーモンスターの犠牲者、失踪事件の被害者の子供の様子を見に来たのだ。

 

 

 

 

 

 

「旦那・・・・お待ちしてました」

 

 

「よう・・・大分・・・・やつれたか?お前」

 

 

数日前、冥界に送り込んだ佐野だったが、目の下には隈ができており、誰が見ても疲れが目に見える。

 

 

オーディンもいるとは言え、流石に2人のライダーにこの広大な冥界の土地を任せるのは酷だったか。

 

 

 

「主」

 

 

 

ふと重苦しい声が蓮の横、研究所内に取り付けてある鏡から発せられる。

 

 

鏡には神々しい黄金の羽が舞い散っている。その中心にいる高圧的なオーラを放つ仮面ライダー、最強のライダーにして忠実なる僕、オーディン

 

 

 

「佐野 満が疲れている理由は、フェニックス領付近でナンパにいそしんでたからだ」

 

 

 

「ちょっ!?あんた何でそんな事!違うんですよ。これには深い、山よりも高く、谷よりも深い」

 

 

 

 

 

ほう・・・・ここまで来ていい訳か。シェーラ・・・やれ

 

 

 

 

 

『あらあら~いけない子には~キツイお仕置きよ♡』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぜぇ・・ぜぇ・・・ぜぇ・・・・すっすみませんでした。ちょっとした出来心が。」

 

 

 

「シェーラ・・・やれ」

 

 

 

『うふふふふ』

 

 

 

「ストップ!ストップ!!ちゃんと仕事はしておきましたし。最近はこの研究所から出ていませんって」

 

 

 

実は、と佐野は浮かない表情で話し始める。

 

 

話を聞く限り、佐野は自らあの子供の世話を買って出ていたらしい。というより、佐野以外が近づくと脅えてしまい、仕舞には泣き出してしまうとか。

 

 

だからこそ佐野が子供に付きっ切りになる羽目になり、結果

 

 

 

「こんなに疲れてしまったと。フェニックス家の探りはオーディンに任せればよかっただろう」

 

 

「いや~まぁそうなんですけどね。俺があと少し間に合っていればと思うと・・・遣り切れないですよ」

 

 

その言葉に俺は一瞬目を見開いてしまう。かつての佐野では絶対に聴ける言葉では無かった。だからこそ、うれしかった。

 

 

そんな他愛の無い会話から、現在の状況まで、詳しい状況を聞いているうちに、俺たちは薄いガラスで隔たれたある部屋の前で立ち止まる。ガラスの向こうでは一人の子供がただ扉をボーっと見つめ続け誰かを待っているように見える。そして、子供の側にはメイドが1人そばに寄り添っている。

 

 

 

「この部屋です。申し訳ないけど旦那以外の方は」

 

 

 

「わかっている。俺たちはこの部屋の前で待っていればいいのだろ。蓮」

 

 

「頼む。手塚、剣、レオ。お前らにはここで待っていてくれ」

 

 

佐野が部屋の鍵を解除した音が聞こえ、自動ドアが開く

 

 

「サノのおじちゃん!」

 

 

「こら~おじちゃんじゃ無いだろ。お兄ちゃんって呼べって言っているだろ」

 

 

苦笑いを浮かべながらも、よしよしと子供を抱きとめてその頭を撫でる。まるで父親のようにも見えるその光景に、自然と笑みを浮かべてしまう

 

 

「あの・・・・佐野様。そちらのお方は」

 

 

「えぇ・・・紹介しますよ。この人が俺の上司である。旦那もとい相川蓮。旦那、こちらミラーモンスターの被害に遭い。戦極博士に助けられた」

 

 

「レビィー・アナスタシアと申します。この度は私とこの子を助けてくださり、ありがとうございました。」

 

 

 

「相川蓮です。そんなに畏まらないでください。あなたを助けたのは戦極凌馬です。それに、助けられない命もたくさんありました。お礼を言われる価値はありませんよ」

 

 

 

 

レビィーはから視線を外すと次に俺は佐野にぎゅっと抱きついて恐る恐るこちらの様子を伺っている子供に視線を移す。

 

 

 

子供は脅えていた。無理も無い。あんな目に合わされては見知らぬ人を恐れても仕方が無い。そう考え、俺は満面の笑みをあえて浮かべると佐野の背中越しに、その小さな頭を優しく撫でる。

 

 

「こんにちわ」

 

 

「・・・・・・・・・・」

 

 

佐野も見かねたのか抱きついていた子供を地面におろす。俺も子供の目線に合わせるようにして姿勢を低くし、何度も何度も挨拶を繰り返す。

 

 

「こんにちわ」

 

 

「・・・・・・こんにちわ」

 

 

 

「うん、偉いね。ちゃんと挨拶できて、偉いよ。お名前は何て言うのかな?」

 

 

「・・・・・ルビー・カーバンクル。5歳」

 

 

「そっか。ルビー君て言うんだ。お兄ちゃんはね、君の後ろにいる佐野のおじちゃんのお友達で相川蓮って言うんだ」

 

 

「おじちゃん・・・・って」

 

 

うるさい。おじちゃんだろうがなんだろうが黙っていろと一瞬強い視線で黙らせる

 

 

「サノのおじちゃんのお友達?」

 

 

「そうだよ。だから心配しなくても大丈夫。ほら、ルビー君にお土産があるんだ」

 

 

俺は懐から冥界に来る前に買ってきた仮面ライダーナイトのぬいぐるみを手渡す。なぜそんな物があるのかは聞かないでくれ

 

 

「わ~かっこいい!!」

 

 

むぎゅ~とぬいぐるみを抱きしめる愛らしい姿によかったと安堵する。総司に感謝しないと

 

 

「旦那・・・なんで自身のぬいぐるみ¥・・・・いえすみません黙っていますハイ!」

 

 

うん黙っていよう。余計なことを言うとどうなるかやっと判ってもらえたようだ。

 

 

 

「あいがとう。え~っとレンおにいちゃん」

 

 

「うんうん。偉いね。ちゃんとお礼を言えて。」

 

 

 

それから俺とルビー君は佐野とメイドのレビィーを交えて数時間ほど他愛も無い話をした。特にルビー君は家族のことについて本当に楽しそうに話してくれた。

 

 

お父さんは小さい頃に亡くなり、顔も覚えていないと。母親と2人、それも5歳の子供だ。母親に甘えたがる年頃なのにその母親が犠牲になってしまった。

 

 

悔やんでも・・・悔やみきれない

 

 

『蓮」・・・悔しい気持ちはわかるけど、子供が心配するわよ』

 

 

・・・・そうだな。今本当に辛いのはこの子だろうな。この子が我慢して絶えているのに俺がこんな顔をするわけにもいかないな

 

 

 

 

 

「ねぇお兄ちゃん」

 

 

「ん?どうしたのかな?」

 

 

再び無理にでも笑みを浮かべる俺に、ルビー君は”こてん”と首をかしげる。何か聞きたい事でもあるのだろうか?・・・そう思っていた俺は次のこの子のこの言葉に言葉も出なかった。

 

 

 

 

 

 

「ママ・・いつ帰ってくるのかな?」

 

 

 

 

 

「「「「ッッ!!?」」」」

 

 

 

 

 

何・・・だって。

 

 

 

 

 

 

 

「ママは今、お仕事で遠くに行ってるんだ。おじちゃん、おばちゃんも居なくなって。早く遭いたいよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから俺と佐野はレビィーにルビーを預けると部屋を移した。ちょうど話を聞かなければいけない人物も居たからな

 

 

 

移動した部屋は一流企業の大会議室のように広く50人は余裕で収納できるような場所

 

 

 

そこで俺はある男と対面していた。

 

 

 

この研究所の主でもあるこの男、アジュカ・ベルゼブブに

 

 

 

 

 

「記憶を弄ったのか」

 

 

 

「そうだ。それがあの子のためと思ってやったことだ。だが母親に対する意思が強すぎて敢然には改ざんすることができなかった」

 

 

 

バキィッ!

 

 

「アジュカ様!」

 

 

「旦那!」

 

 

 

俺は自分でもわからない内に目の前で”そんなことか”と淡々と語るアジュカを殴りつけた。

 

 

興味がなさそうにしているその態度が気に食わなかった。

 

 

何時もなら気にしない態度だが今回は別だ。他人の、それもあんな小さい子供の記憶を

 

 

 

「何故だ・・・・何故記憶を・・・答えろ。アジュカ」

 

 

俺は抑えようとしても抑えられない殺気をぶつける

 

 

 

アジュカはしばらく考えたようにゆっくりと立ち上がるとその瞳で蓮を確りと見据え語る。

 

 

 

「全ての子供が君のように耐えられる訳ではない。君は今の、5歳の子供に母親、そして叔父夫婦の死を受け止められると?」

 

 

「っ!?」

 

 

 

何も言い返すことができなかった。確かにあの年の子供、しかも唯一の肉親である母親が殺され、遠縁の叔父夫婦さえも殺された。

 

 

精神的に幼い子供がそんな事実を受け止められるか?

 

 

いや・・・・・受け止められるわけが無い。俺のような特殊な例が無いわけでもないがそんなことは稀だ。

 

 

 

仮に記憶を消さなければ・・・・・あの子は

 

 

 

 

「すまない。感情的になりすぎた」

 

 

 

「いや気にしなくても良い。解ってもらえて何よりだよ」

 

 

 

ところで

 

 

 

「所で、君は今回どうするのかな?」

 

 

 

「決まっている。あの子の母親を襲ったミラーモンスター、その裏に暗躍する存在、ライザー・フェニックス。それら全ての命を刈り取る。」

 

 

 

「ふ~ん。だけどフェニックス家、いやこの悪魔社会全てを敵に回すことになるよ?それでもかい?」

 

 

 

「それでもだ。だがそうはならない・・・・・そうじゃないのか?アジュカ」

 

 

 

「ふっ・・・なるほど。君も中々読みが深いね。僕が動くことまで考えているとは」

 

 

 

「簡単なことだ。お前にとって俺たちの持つ技術は手放したくないものだろう?それに今回のことが予想できなければそもそも調査依頼など出しはしないだろう。違うか?」

 

 

 

俺の問いに業とらしく驚いた表情を浮かべ、笑うアジュカ。

 

 

 

「なるほど・・・・・ならば時間も無いことだし、単刀直入に言おうか」

 

 

 

 

一呼吸入れるアジュカ。次の瞬間、纏っていたオーラが違うものへと変わる。何か他人の反応を面白がっている研究者の顔から、頂点に立つ4人の魔王の一人の顔へと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔王アジュカ・ベルゼブブとして依頼する。この冥界に仇なす全ての障害を排除しろ。私の名の元に全てを任せる。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして現在に至る。

 

 

 

 

 

アジュカの宣言によって俺たちの動きを制限していた鎖は砕け散った。

 

 

もう俺たちを縛るものは存在しない。何も考えずに、思う存分動ける。これ以上・・・奴等の思い通りにさせないしさせるつもりも無い。邪魔するものはすべて排除する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――会場

 

 

 

一方、グレモリー家、フェニックス家の婚約パーティー会場でも自体は動いていた。

 

 

リアスのことを思い、単身会場に乗り込んでいった一誠。他のグレモリー眷属の協力、そして何故かリアスの兄である魔王サーゼクス・ルシファーの一言もありライザーとの一騎打ちに持ち込めようとした時だった。

 

 

 

 

「お待ちください。ライザー様が戦うまでもありません。この下級悪魔の処理は私がしましょう」

 

 

 

何処からか現れた執事服を着飾った男。

 

 

 

魔王であるサーゼクスの言葉を否定するかのように割り込んできた男に周囲のざわめきが広がる。

 

 

 

 

「誰かな?私はライザー君と彼の勝負を求めたはずだが?」

 

 

 

「これは失礼いたしました。私、ライザーフェニックス様の執事をしております。香川英行と申すものです。先ほどの魔王様の発言大変よろしいかと思われます。しかし、一度負けた下級悪魔をわが主が相手にもう一度と相対するならばまずはこの私が、その実力が十分に相対するものである事を確認するのがよろしいかと。ここにお集まり頂いた方々も納得できるかと?どうですか?わが主」

 

 

 

 

 

「俺のほうは構わない。どうでしょうサーゼクス様。この香川、執事としても有能なれば、腕の方もかなりの物。私は別にこのまま相手にしても構いませんが、こちらの方が余興としては面白いかと思われます。」

 

 

 

ふむ・・・と考え込むサーゼクスだが周りの悪魔が「フェニックス家の執事ですか」「その程度有能なのかしら」などと、ざわめき始める。

 

 

 

「確かに、ならばドラゴン使いくん、悪いが一度そこのフェニックス家の執事と戦い、この場でふさわしい力を見せてくれるかな?」

 

 

 

一誠は予想だにしなかった展開に戸惑ってしまうが、このままではリアスの事を助けられない。そう考えた一誠はこの申し出を受け入れる。

 

 

 

「わかりました。そこのあんた!あんたに恨みは無いが、部長を取り戻すためだ・・・悪いが本気で生かせてもらう」

 

 

 

「ではお互いに合意を得た事で、グレイフィア、ステージを「必要ありません」何だって?」

 

 

 

「必要ありません。ただ少し離れていただければそれで宜しいかと。それに申し訳ありませんが勝負は一瞬で尽きます」

 

 

 

「なっ!あんた!なめるのもいい加減に!」

 

 

 

 

ストンッ

 

 

 

(ッ!?何時の間に!!)

 

 

一瞬で距離が詰められたことに気づけなかった。目の前の男は、挨拶代わりにと言うかのように一誠の頭を軽く叩いたのだ。

 

 

勝負の合図が無いとは言え、まったく反応することができなかった。

 

 

 

「これで解るでしょう。私と君では実力差がありすぎます。大人しく身を引いたほうが身のためですよ。」

 

 

 

「うるさい・・・俺はこんな所で引くわけには行かないんだ。部長のためにも、ブーステッド・ギア!!!」

 

 

 

『Boost!!』

 

 

 

 

 

赤龍帝の籠手を発動させ、一回目の倍化を行う。こうなってしまった以上もう後に引くわけにも行かないんだよ

 

 

 

 

「仕方ありません。死んでも文句は言えないでしょうし。死んだら死んだであなたのその腕は価値がありそうですし、今後の研究のひとつとして回収させて頂きましょう」

 

 

 

香川もぶつぶつと小言を呟き不気味な笑みを浮かべ。左から半分ほど体をずらし構える。

 

 

 

『では・・・開始してください!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グレイフィアから場といる開始が告げられる。だが勝負は開始早々一方的なものとなっていた。

 

 

 

一誠は香川が繰り出す徒手空拳を腕を使って急所を必死に守り耐える。今は力をためることを優先して

 

 

 

「ハッ!セイッ!どうしました?守ってばかりでは戦いになりませんよ!」

 

 

「うるさい!『Boost!!』これで3回目、いける!うおぉぉぉぉぉ!!」

 

 

 

クロスしていた腕を崩し大きく振りかぶって香川の顔面を捕らえようとするが

 

 

 

「無駄です。兵士程度が倒せる力なんて高が知れていますよ。そんな力で私が倒せますか?」

 

 

 

ドゴォォン

 

 

 

「ゴハァッ!」

 

 

口から血があふれ出す。あまりの衝撃に意識が持って行かれそうに

 

 

 

(なんだこのけりの鋭さは・・・本当に執事か!てかこの間、戦ったイザベラっていう女戦車の比じゃない)

 

 

だけど捕まえたぜ!

 

 

「むっ!足が・・・・これが狙いですか」

 

 

 

「あぁそうさ!・・・捕らえた!悪いがこれで決めさせて貰うぜ。爆発しろ!神器(セイクリッド・ギア)!」

 

 

『explosion!!』

 

 

左手に全てのエネルギーを集中させた『ドラゴンショット』だ。しかもこの至近距離なら避ける事はできないだろう。さらに

 

 

 

「『プロモーション』!『女王』!」

 

 

 

最強の駒の力が加わった今までで最高の一撃、先ほどまでの3回に加えて先程溜まった1回合計4回分の倍化の魔力の塊

 

 

 

 

「喰らえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

 

今出しつくせる最高の攻撃が香川の至近距離で放たれる。これで決まった。そう一誠は勝利を確信した。

 

 

 

 

 

 

だが目の前の男は最高の一撃を間近で感じて、ただため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この程度ですか。存外に期待はずれですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バシュゥゥゥゥゥゥ

 

 

 

 

 

 

 

男が取った行動それはこの会場の誰もが予想すらできなかった。勝利を確信した自分さえも

 

 

 

 

「ありえない・・・・掴んだというのか。あのエネルギーの塊を!?」

 

 

 

 

ギャラリーから戦いを観戦していた敵の『戦車』イザベラすら驚きの声を吐く。

 

 

 

香川が取った行動、それは魔力を圧縮して打ち出した、『ドラゴンショット』を掴んだのだ。右手で、確りとあの高密度の塊を。その上で香川は高密度の魔力を、まるでりんごのように簡単に握りつぶしたのだ。

 

 

『女王』に昇格した最高の一撃が破られたことに動揺を隠せない。しかし敵も素直に動揺している隙を見逃すはずも無かった。

 

 

 

「隙だらけですよ。」

 

 

 

「っしまっ!?」

 

 

 

 

まずいと感じて右手を離し、一旦距離をとろうとするが遅かった。殴る、蹴るのオンパレードが一瞬の隙を突いて、豪雨の様に叩き込まれる。

 

 

 

ドガッ!バキッ!ドゴッ!ゴキッ!

 

 

 

「ガハッ!ガアアアアアア!」

 

 

 

痛いの次元ではない。打撃一つ一つが確実にこちらの骨を砕くほどの威力を持っている。倍化の能力で力も上がり、更には『女王』で身体能力も上がっているはずなのに

 

 

 

「いやぁぁぁぁぁ!イッセー!辞めて!もういい・・・・もういいわ!」

 

 

 

 

部長の叫び声が聞こえる・・・・俺は・・・俺はまた負けるのか

 

 

 

くっそ・・・せっかく力を手に入れたのに・・・・こんな所で俺は死ぬのか

 

 

 

 

部長を・・・・部長を守れないで

 

 

 

 

 

「ま・・・・・だ・・・だ。お・・・れは、まだ・・・戦え」

 

 

 

「いいえ・・・あなたはここで退場です。」

 

 

 

ガシッ!

 

 

 

(ガハッ!いっ息が・・・できない)

 

 

 

目の前の男の右腕がこちらの首を握り締める。『ドラゴンショット』すらも握りつぶす手に徐々に力が篭められる。やばい・・息が、意識が遠のいて

 

 

 

 

「残念ですがここまでです。しかしあなたの神器(セイクリッド・ギア)だけは確りとこちらの組織で管理させて有効に使わせていただきますよ。ご安心ください。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は・・・こんな、こんな何も関係ないやつに負けるのか。俺はまた泣かしてしまうのか

 

 

 

俺はまた部長を目の前で泣かすためにこんな所に

 

 

嫌だ・・・・そんなの嫌だ。誰か・・・誰でも良い。あの人を、あの人を助けてくれ

 

 

 

誰か

 

 

 

 

 

 

「では・・・・・さようなら。」

 

 

 

 

「イッセー!いやぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

 

リアスの無力な絶叫に併せて、香川の無常な一撃が一誠の心臓を貫こうと放たれた・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

筈だった。

 

 

 

 

 

だが香川の一撃は一誠の胸先数センチの所で止められていた。漆黒のコートに包まれた腕に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何っ!あなたは・・・まさかっ!?」

 

 

 

 

 

「散れっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

重く冷たい殺意と共に放たれる強力な一撃が自分の『ドラゴンショット』すら容易に砕いた香川を呆気なく蹴り飛ばす。

 

 

 

 

 

 

「ゲホッ!ゲホッ!・・・悪い、誰だか知らないけど助かっ!?お前・・・どうして!?」

 

 

 

 

自分を助けてくれた人物にお礼をとその表情を目に映した瞬間、お礼は驚愕へと変わる。

 

 

 

 

「どうして・・・・あなたが」

 

 

 

「先・・・輩・・!?どうして」

 

 

 

「どうして・・・・何故君がここに!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来て・・・くれた。来て・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様ァァァ!!どうしてここにっ!その前にどうやって冥界に入ってきたァァァ!!人間風情が!」

 

 

 

 

ライザーは続くに続く乱入者にパーティーが台無しにされたことに苛立ち怒号を上げる。

 

 

 

だがそんなライザーの怒気を鼻で笑い。ただ真っ直ぐにライザーを冷徹な瞳で睨み付ける。

 

 

 

会場の主だった人物がこぞって注目する人物・・・

 

 

 

 

 

「吼えるな屑が、お前の駆除は後だ。まずは面倒な障害を片付ける。」

 

 

 

 

 

 

一誠の窮地を救った男、漆黒のコートに身を包み相川蓮、参戦。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回 第12話【ナイトの怒り】



遂に蓮が表の舞台に登場、いよいよ次回は決着か!




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