鉄壁の城塞
煉瓦で囲まれた路地の中で、レイジは必死に走っていた。
「ハア、ハアハア。クソ!次は何処から……ハッ!」
ふと見上げると生気のない人間の生首が空中に浮かんでいた。
「ミ……ツケ、タ……」
生首が喋った。間違いないサロメの能力だ。
「あーら。ここに居ましたのぉ?くすくすくす」
路地の裏から巨大な鋏を携えた女性、サロメが現れる。
「ああ……ひぃ!」
レイジは自身のスキルストーンを発動させる。時間がズレる感覚がしレイジ自身の時間が加速する。戦闘で勝事は考えていなかった、ただ逃げるために能力を使用した。
「あらあら、また追いかけっこですの?」
音もなくレイジの後を追うサロメ、その瞳には狂気が宿っている。
「あああ……そんな……」
レイジの目が絶望に見開かれる。逃げた先は袋小路逃げ場は……無い。
「あはぁ!捕まえましたわぁ」
鋏を引きずりながらサロメが現れる。
「こうなったら!」
自身の剣を抜き、自分の顔を傷つけようとする。
サロメの目的はレイジの顔。傷が付けば見逃してもらえると思ったのだ。
「いけませんわぁ?また顔を傷つけるなんて」
レイジの剣が生首の歯によって止められた。
「さあ、いただきますわよ?」
サロメの持つ鋏が広げられ……
「があぁあ!」
レイジの首が挟み込まれる。
「うふふふ」
心底楽しそうなサロメの顔を見ながら、首から流れる液体の感覚と、自身の骨が折れる音を聞いた。
「新しいコレクションが増えましたわぁ」
心底うれしそうに、サロメはレイジの切り取られた首にキスをした。
「うわあああ!はあはあはあ……夢か?」
寝台車の一室でレイジが飛び起きる。そして慌てて自身の首を触る。
「まだ生きてる……」
あまりにリアルな夢に多少混乱しているレイジ。
サロメに敗北して以来、レイジは時たまこのような夢を見るようになった。
再戦を意識しているのか、ウコギナーグに近づくにつれ、よりリアルにより高い頻度でこの夢を見ている。
流石に寝る気にはなれず、列車の中をぶらぶらする事にした。
「そうだ、星を見に行こう」
夜風に当たりたくて前にプールが話していた展望車(長旅用の列車なので外に出ることが出来るデッキ付の列車がある)に行くことにした。
レイジが展望車のデッキに上がると先客がいた。
「よう。レイ公じゃねーか……どうした?」
烈火が煙草をふかしていた。
「ちょっと、気分が悪くてさ……」
「あの女の事か?」
その言葉にレイジが固まる。
「ああ、最近よく殺される夢を見るんだ……」
「あの女が怖いか?」
煙草をもみ消しレイジに向き直る。
「正直言うと怖いさ……」
「そうか……それじゃあダメだな。だが半分はそれでいい」
「どういう事だよ??」
烈火の言葉にレイジが混乱する。
「戦う前から恐怖で足がすくんじゃ、戦えねぇ。だがな全く怖いモノ知らずで突っ込んでも返り討ちに会うだけだ。すべてはバランスなんだよ。少しだけ俺様の故郷の話をしてやろう」
そう言って再び煙草に火を着けた。
「俺様の国は実はもう無い。正体不明の炎系スキルストーンに燃やされちまったんだ。昨日まで有った公園や自分の家は全部焼け落ちて気が付いたら、殆ど生き残りはいなかった。俺様は酒と煙草に逃げた……正直言うと今でも烈火狂儘に恐怖を感じる事が有る、だがそのおかげで恐ろしさは忘れないで入れるんだ。いいか!恐怖を忘れるな、だがな絶対に恐怖にのまれちゃいけねぇ。それさえしっかりしてりゃ何とかなるのさ」
真面目な口調をやめ、何時もの様子に戻る烈火。
「ありがと。少しだけ気持ちが整理出来たよ……」
「いよいよ明日だな……」
「ああ。わかってるよ……」
二人はここで別れた。
「みんな見えたわよ」
プールがメンバーに声をかける。
「なんだアレ?」
ウコギナーグのある町バスタラの外見にレイジは驚く。
バスタラは収容施設ウコギナーグの周りにできた町だ。ウコギナーグでの面会の為の宿屋や出所したが行く場所が無い人間たちが働いている。
街の外見は非常に特殊だ。街全体が巨大な壁に囲まれ外部からの攻撃に備えている、壁の外は逆に地面が掘られ、東西南北4方向に線路が敷かれている。この四本の線路がバスタラから唯一出入りできる方法だ。
街自体も中央に収容施設が有るのだが、その施設の周りにも深く溝が掘られており、ウコギナーグは地下に収容施設が有るのだ。
絶対の防御の世界一安全な収容施設。それこそが世界政府が作り出したウコギナーグの通り名だ。
「ようこそ、私のウコギナーグへ」
眼鏡をかけたやせ形の嫌味な男、それこそがここの所長ミカゲだ。
「ミカゲ所長おはようございます」
プールが丁寧にお辞儀する。
「アナタの話はもうすでに聞いています。ここが襲撃される情報をくれたんですってね?」
「ハイそうです、だから警備を……」
「そんな必要はありません!」
ぴしゃりとプールの言葉を遮るミカゲ。
「私のウコギナーグが襲われるなど信用できませんね、確かに我が収容所は大量のスキルストーンと犯罪者が居ます、取り込めば確かに大幅な戦力強化ができるでしょう。しかし!もし攻めてきたとしてどうやって囚人たちを連れだすのか?はたまた囚人たちが真世界政府のいう事を聴くのか?あなたの言う話には大きな欠点が有るのです。ご忠告はありがたいですが、あまりに現実離れした話ですね。今日は宿を街にとってあります、そこで休んで言ってください?」
プールは一方的に話され返されてしまった。
「なんだかやな奴だったな~」
レイジが忌々しげにぼやく。
「ちょっと気晴らしに散歩言ってくる」
「私もついていきます!」
レイジとカウスが散歩に出かけた。
「俺様も出かけてくるかな。朝までには帰るよ」
そう言って烈火の出かけて行った。
「ちょ!ちょっと!?約束の日までには1週間以上あるのに勝手過ぎない!?」
プールが止めるが、何時もの事なので意味はもうなかった。
「カウスちょっといいか?」
「なんですか?烈火さん?」
烈火がカウスに話しかける。
「アイツサロメの事で怯えてるみたいなんだ、支えてやってくれ」
「解ってますよ」
カウスが笑顔でそう返す。
適当に街をぶらつき酒場に入る烈火。
「お!電話じゃねーか、珍しいな」
店の端に置かれた電話を見つける。
「久しぶりに直接声を聞かしてやるか……前会ったW・I・Mの件を報告しなくちゃいけねーし」
そう言って硬貨を入れナンバーをプッシュする。
「よう!俺だ!久しぶりだな……」
会話をする烈火の後ろに人が立った。
「ねぇおじさん。昨日の夢覚えてる?」
おかしな姿をした女だった。
眠たげな表情にナイトキャップ、パジャマ姿でクマのぬいぐるみを抱いて風船を三つ浮かべている。
「ん?悪いな今電話中……」
「あはッ!」
クマのぬいぐるみが体から釘を生やし烈火に飛びかかる!
「なんだ!?」
烈火は自身の烈火狂儘を引き抜き、トリガーを引く。
クマは炎に包まれるが一向に止まらない。
「エイ!」
女が風船を振ると今度は烈火に当たる。
「ガは!」
まるで鉄の様な感触!
炎を纏ったクマがバラバラに裂け、烈火に降りかかる。
「がぁ!火が!」
「自分の火で死んでね?」
その日一軒の酒場が焼失した。