心地よい潮の風が頬を優しくなでる……
目の前には青い海、白い砂浜、同じく青と白の空。
「おおっ!」
烈火が思わず声を漏らす。
ピーチで水着を着た美女が、トロピカルな色をしたカクテル片手に手招きしている。
「行くっきゃねーよな!?」
誰かに聞かせるつもりはないが、声を出して美女とカクテルに向けて走りだす。
しかし
「わ!わわ!何だ!??」
ビーチが揺れる!響く爆発音!
更に!後頭部への衝撃!
「起きたか烈火?」
目の前の男が言う。
(あー。夢だったのね……)
周囲の様子を確認しのろのろと立ち上がる。
「ってぇ…………ヒデェ起こし方だな。こんなんじゃ女の一人も抱けねぇぞ……」
殴られたと思わしき後頭部をなでる烈火。
(ん?ビミョーに腫れてる?たんこぶとかいつ振りだよ……)
げんなりしながら後部に有るガンポートまで出ていく。
「寝言は寝て言って、オジサン。それに強姦前提なら女は幾らでも抱けるから」
そう言いながら少女が銃を撃ち、戦車と思われる車を破壊する。
(オイオイ……強姦前提ってマジかよ……ふつう前提にするなら結婚とかにしろよ)
そう烈火が思っている最中にもまた一台戦車が破壊される。
「ヒュー!Nice Shot……てか?」
口笛を吹きながら少女を茶化す。
少女は手早くリロードを済ませ次の標的に狙いを定める。
「ふざけてる暇はないぜ、オッサン」
後ろから別の男に話しかけられる。
(えっとメドヴェーチ8だっけな?覚えにくいな……)
自分の記憶を探る。
記憶を探ってる最中で。
「耳をふさいでてよ、オジサン!」
後ろから再び少女の言葉。
「へ?なんだっ…………」
烈火が聞き返そうとした時、爆音が響いた!
「うおぉぉうぅ、耳痛ってぇ……」
今更耳を押さえながら外を確認する。
その様子は再び起こった地獄絵図。
死体、銃、壊れた兵器のオンパレード!
(命が勿体ネーなぁ……)
この惨状をもたらしたのはおそるべき事に、烈火の隣にいる数人の男女。
全員が何とも思っていない様だった。
少女自身は無線で何らかの指示を出している。
淡々と自分に必要な選択をし、生き残りと相手の殺害に特化した集団。
それが彼らなのだと改めて烈火は理解した。
「さぁて、胸糞悪いが此処は戦場だ!俺様に銃を向けたってことはだ、それなりの覚悟はあるんだよな!?」
大げさに自分に言い聞かせる。
今の烈火に必要なのは心の切り替え。
世界を平和にする祈りも、敵に対する情けさえも、戦場では命取り。
必要な物は……相手を倒す力!
(さーてと、ちーとばかし本気出しますか!……死なない程度にな)
「嬢ちゃん~俺様はどうすりゃいいんだ?」
この集団に一番必要な事をしよう、下手に無駄な事するより良いだろう。
「敵に向けて撃って」
これ以上ないシンプルな答え。
「まあ、そりゃそうか……」
自身が武器庫で適当に拝借した銃を手に取る。
そうしている間にも少女は敵兵の駆除を続ける。
経験の成せる技か、少女は次々兵士の心臓の鼓動を止める。
倒れて痙攣をしてから動かなくなる兵士、非常にグロテスクな真っ赤な血と肉の華を地面に咲かせる兵士。
「玩具みてぇな音だな」
人の命を刈り取る道具だが非常に簡素な音をしている。
烈火自身が知る限りもっとも近いのはワインのコルクを抜く音か。
数回この音が鳴るたびに、一つずつ命が消えていくのだ。
讃美歌や鐘の音でないただの乾いた発砲音に消される命。
お別れの歌を聴きながら、花に囲まれ静かに埋葬される。
そんな当たり前の尊厳すら彼らにはないのだろう。
彼らが最期のこの世で聴くのは、この乾いたワインコルクのような音なのだと烈火は理解した。
(だがそんな!おセンチに浸ってる余裕はね~ゼ?)
殺すか殺されるかの生死の境に今烈火たちはいる!
やはり今必要なのは、銃なのだ。
銃を構え相手に狙いを定めるが……
(チィ!逃げやがるか!っても当たり前か……死にたくねーモンな?お互いによ!!ット!!)
さらにトリガーを引く!
銃はその役目通り、弾を発射し敵の男に命中する。
と思ったのだが……
「当たらねぇっ!___って、いいもんあるじゃねぇか」
烈火の横に有る重機関銃座に座わる。
そして、機関銃のグリップを握る。
「ハシャグ気はねーが、男ならこういう奴って憧れるよな?」
そう言って少女に話しかけるが……
「あり?」
そこには姿が無く、再び仲間と無線で何か話している様だった。
「ま、しゃーねーな……」
再び銃座から敵兵を狙い打つ。
先ほどよりは派手な鎮魂歌。
(あばよ……名前も知らない兵士ども……)
せめて彼らへの手向けとして、懐から一本煙草を放った。
「ypa!!」
烈火の隣で聴いたことのない言語を発しながら、少女が何かを投げる!
なかなかのスピードで何かが飛んでいく。
(あ!ありゃあ!酒じゃねーか!?しかも3本も!?)
夢にまで見た酒に、烈火が驚きに目を見開く。
特徴的なボトル、その中から僅かに見える透明の液体。
(おいおい、マジでかよ?アレ、結構いい酒とかじゃね?)
3つボトルが砕け、合計6つの炎が上がる。
(ああ……よーく燃えてやがる。やっぱりアルコール分高めのヤツだな……俺も一杯やりてーな……)
先ほどまでのセンチメンタル気味な気分はどこへやら、烈火は燃えていく酒を見ていた。
「嬢ちゃん、酒投げやがったな!?」
正気に戻り少女に詰め寄る烈火。
その表情はまさに血涙一歩手前。
「戦場で酒が飲めると思っていたの?飲むぐらいなら、消毒かモロトフ・カクテルとして使った方がマシなんだよ?」
全く悪びれない少女。
最も戦場という現在の状況を考えた場合、正しいのは少女なのだが。
「知るかよ、そんな戯言。酒は飲むものだろうが!!」
やれやれと言った感じで少女が肩をすくめる。
「……ハァ。確かに、酒は飲む物だよ。……でも、それは一般の一般社会における常識の話。クドイけど、戦場で嗜好品として飲むのは馬鹿のやる事」
「……メドヴェーチ3の言うとおりだぜ、オッサン。消毒と鎮痛剤がわりには使うがな」
もう一人の男もそう話す。
(はあ。燃えちまったモンはしょうがねーか……せめてあの世で楽しめよ)
そう言って烈火は少女の近くに転がる炭化した死体を一瞥する。
「そういう事だよ、オジサン。戦場から出てから、飲酒は考えてね♪」
「言われなくても帰ったら浴びるほど飲んでやらぁ!」
そう心に決めた烈火だった。
翌日
「敵の陣営のコンテナか……」
一行は敵の陣営と思わしき野営地の前にいた。
「見たところ、敵はテント等の中だろう。メドヴェーチ3、爆発物は使うなよ?」
「了解」
「次にメドヴェーチ8無駄撃ちは控えろ。メドヴェーチ10は気に留めておけ……烈火は…………死なない程度に付いてこい」
リーダーと思わしき男がテキパキと指示を出す。
「了解だ」
「了解」
「付いてけば良いんだな?」
そう言って一行は次の相手に狙いを定めた。