「ほー。ありゃスゲーな……」
砂が舞う中、烈火が少女の視線の先に居たモノを見て感想を漏らす。
一言で言ってしまえばロボット。黒い装甲に目を覆う赤いバイザー、チープな表現だが映画や漫画の住人の様に見えた。
「アレがさっき嬢ちゃんが言ってた強化外骨格って奴か……」
こちらに向かって歩いていた強化外骨格が足を止める。
「日本国陸上自衛隊、ISOF二等陸尉、古矢義人だ。交戦の意志は無い、そちらの指揮官との会談を要請する」
スピーカーか何かからの声。
おそらく目の前の古矢と名乗った強化外骨格が話したのだろう。
「……交戦の意志は無い、か。後方で兵士たちに警戒させて言う台詞じゃないね。……この場合は仕方ないけど……」
少女が何か相手の武器に付いて話している。
「御託は後にしてくれないか。戦場で足を止めるのは危険だろう?」
「だから、指揮官を出せ、と」
「そうだ」
二人の間に険悪な雰囲気が漂い始める。
「またか」
この一言が烈火の素直な気持ちだった。
(どーして戦場にいる奴らはみんな喧嘩腰で話すんだ?敵はわかる、情なんてかけてられねー、けどよ。『お話ししようぜ』って奴にもどうして同じ態度なのかね~?)
烈火の脳内では、敵でない奴は味方。まではいかなにしろわざわざ喧嘩腰で話す必要は無いと考えている。
「悪いけど、私達に指揮官なんて役職は無いよ」
少女が古矢に向かってそう話す、鳥つく島もないと感じたのかその言葉に古矢も黙ってしまう。
「……では、誰でも構わない。話の分かる会談相手を呼んできてくれないか?」
「呼ぶ必要は無いね。会談の必要も。……要件を言ったら、お兄さん?」
再びバッサリと古矢の話を切る少女。
(良く耐えんな~あのロボ。俺様だったらこれ位で一回ブチ切れてるぜ)
懐から煙草を取り出し口に咥える。
(あ~クソ、煙草も残り少なくなってきやがった……酒もねーしよ……このままじゃ銃弾よりも先にストレスで俺様が死にそうだ)
心の中でぼやきながら火を着ける。
「…………君の様な者では話が通じそうに無いが、仕方ない。……俺達が欲しいのはこの戦場の情報だ。何か知っている事は無いか?」
仕方なし、ダメ元といった感じで再び古矢が口を開く。
(欲しいのは情報か……弾薬も命の危険もないな……ソン位なら……)
「大した事は知らないし、教える義理もないね」
「……交換条件が必要か」
「そ、タダで教える馬鹿はいないから。対価を払えないなら、部下の元にでも帰った方が良いよ」
何処までも相手を馬鹿にした少女の言葉に遂に烈火が……
キレた。
「……おい、嬢ちゃん」
ツカツカと少女と古矢の方に歩き出す。
「さっきから黙ってりゃ、グタグタと戯言ほざきやがって。嬢ちゃんには慈悲も無ければ善意もねぇのか?」
人と人とは助け合い、旅をするうえでのある意味での鉄則。
烈火は他の旅人よりもそれを重視している。
出会いこそが宝。他者の存在こそが人生において真の意味で彩を与える存在。
しかし
此処は戦場、甘い事は言っていられない。隙を見せたらそこを突かれ自分が骸に変わるだけ、ここでの正義は少女に有る。
「無いね。そんなものは基本的に破滅の種でしかないよ」
だがこの少女は烈火の考えすべてを踏みにじった!
それだけが烈火の中でその一点だけが重要な点だった。
「……あぁ、そうかい。なら俺様は自衛隊とかいう方に付くとするわ。嬢ちゃんと一緒じゃ、心が乾いちまう」
少女に背を向け古矢の方に歩いて行く。
「好きにすれば?もっとも、そこの古矢二尉___おそらく、自衛隊の小隊長かな?___が受け入れればいいけど」
少女も吐き捨ててくるりと踵を返す。
(わかってら……この自衛隊さん共がどんなお人よしでも目の前で仲間裏切った奴はマズ信用しねぇ……適当に情報聞き出したら俺様は用済みだ。まるで童話のコウモリだな……)
「私達に、貴方が求めるような情報は無い。交戦の意志が無いのなら、私達の邪魔だけはしないで。……もし、背後から撃とうものなら____」
視線だけをこちらに向ける。
「その強化外骨格と部下達を、纏めてミートパイにしてあげるから。……あぁ、埋葬は気にしなくて良いよ。ミートパイにした後で美味しくいただくから」
その声と瞳は今まで烈火に向けられたモノではなかった。
脅しではない、この少女はたとえ烈火であろうと、何も思わず引き金を引くだろう。
しかし烈火に恐怖は無かった。
(ミートパイ……ね。そんなモンより心だけが死んで、生きた屍になる方がよっぽど怖
えーよ)
短くなった煙草を吐き捨て、足でもみ消す。
「……下衆が」
「どうとでも。……生きとし生ける物すべては下衆だから」
二人が別れの挨拶をする。
「受けて立つさ、貴様らが俺の仲間と守るべき無辜の命に手を出すというのなら、その言葉を黄泉路で悔やませてやる……覚悟しろ」
古矢がそうつぶやいた。
聞こえなかったのか、それとも無視したのか少女はもう振り返らない。
決別した二人の開いていく間を烈火は、まるで動物と鳥の間を行ったり来たりする童話のコウモリの様に歩いていた。
その後戦闘が有り自衛隊の車に烈火は通された。
(さてと……何が来るかね……牢獄か、拷問部屋か……)
自爆できるようにと、胸ポケットに隠した手榴弾を確認する。
しかし烈火の予想は違った。
案内された場所は牢獄でも拷問部屋でもなかった。
年も性別もバラバラの人間が座っている。
その中でとある人物が烈火の目を引いた。
それは、白衣の女医でもなければ、機械に身を包んだ男たちでもない。
怯えた目でこちらを見る少女達だった。
(避難民か……そうだよな。明らかに目が違う)
凍った瞳。
そんな単語が烈火の頭の中を流れた。
恐怖を感じ、絶望におびえ、やがては完全に凍りついた心と瞳。
烈火の故郷に同じ目をした人物がいた。
(こいつ等はまだそうじゃねぇ……けど、正義だ悪だと言っても被害者にとってはどっちも悪魔だよな……俺様もこいつ等から見れば悪魔の羽が見えてるのかね……なら今の俺様ができる事は……)
「俺様は烈火、よろしく頼むぜ、お姉さんがた!」
烈火はわざと明るく声をかけた。
「あなたを避難民として扱います。烈火さん、以後は安全の為に我々に従って頂けますか?」
「ああ、ノープログレムだ。何なりとご用命をってな」
かかかと笑う。
周りの人間が露骨に引いているのがわかる。
(これでいいんだ……これが俺様の正義なんだ)
烈火はここでも己の正義を貫こうと思った。
裏切り者のコウモリでもできる事は有る筈だ。
ふざけ過ぎて昏倒させられたのはまた別の話。