すみません。
まどろむ意識の中……遠くで何かが聞こえる……。
(何の音だ?)
必死になって何の音か、思い出そうとする。
(気分の良い音じゃないのは感覚的にわかる、コレは俺様の嫌いな音だ……)
少しずつ少しずつ意識がはっきりしてくる……
(そうだ!!この音は……発砲音だ!!)
その事に気が付くと同時に、烈火の意識はまどろみの中から一気に覚醒した!!
「また、アイツら来やがったな!?懲りねー奴らだ!!」
倒れていた机から起き上がり、傍に置いて有った自分が持って来た銃を手にする。
弾数の確認を手早く済ませ、安全装置も同様に確認する。
残念な事にこの世界に来てから覚えた動作だ。
「ヒッ!!」
「いやぁ!!」
烈火が銃を手にすると共に小さな悲鳴がすぐそばで上がる!!
「なんだぁ?」
声のした方に目を向けると子供が二人怯えて肩を寄せ合っていた。
(あ?なんでこんな所にガキが……?)
一瞬状態が呑み込めずに頭の中が混乱する烈火、しかしすぐに自分の現在の状況を思い出す。
(そうだ、俺様は嬢ちゃん達のトコから自衛隊さん達のトコに来たんだったな)
その事を理解すると同時に白衣の女が飛び込んでくる!!
「ちょっと!!あなた何をして……!!」
明らかにこちらに対する敵意が有る、コレは何を言っても無駄だと瞬時に判断し銃を持ち踵を返す。
「わりーなドクター!!俺様ちょっとばかり外で遊んでくるわ!!ガキども頼むわ!」
背中越しにドクターの声が響くが振り返りはしない!!
車の扉を開けて外に出る!!
こちらの世界に来て以来何度も嗅いだ火薬の匂い、人が焼ける嫌な匂いが鼻を刺す。
「ありゃ!?俺様とした事が出遅れちまったか?」
しかしいつの間にか戦闘自体殆ど収束している様だった。
所々に煙が上がって何人もの人が倒れている。
烈火はその様子を車の扉を掴みながら見ていた。
「うーん……出てきた手前帰るのはバツがワリーな……帰ったとしてガキとヒスった女しかいねーしな。どぉれ、自衛隊さん達の働きぶりでも拝ませておらいますかなっと!!」
そう言って車から飛び降り遠目に見えるロボ(正確にはパワードスーツ)に向かい走り出す。
「小隊長、この男はまだ生きています」
二人の自衛隊員が何かを覗き込んでいる。
それはまだかなり若い20代前後の青年だった。
機械みたいな外見から人間の声がするとどうしても違和感を感じる烈火。
「ぽl、mきうjんbhytgvcfrcfr?」
その時その自衛隊員が聴いたことのない言葉を発した。
(どうやら、自衛隊員さんの国の言葉じゃなぇな?どっちにせよ俺様には解かんねー言葉だが……)
しかしそれに対して倒れていた敵兵が僅かに頷く。
(ほぉう……言語が一緒なのか?何れにせよヤル事は決まってるよな……)
少し心に痛みを感じながらも
「どうするんだ?殺すのか、自衛隊さん」
解りきった答え、敵兵を生かす理由などは存在しない。
有るとすればコイツを拷問して情報を吐かせるくらいか……
烈火がそう思う中で、片方の自衛隊員が敵兵の防弾チョッキを脱がす。
「tgvyhぶjにkもl、えdxrfctgvmんhbgvfcd」
再び聞いたことのない言語。
しかしおかしな事に倒れている敵兵に僅かな安堵が浮かんだ。
(銃じゃなくナイフで殺すのか……弾の節約か、いやな話だ……)
烈火の胸の内にどうも嫌な感情が広がっていく、しかしその感情を『ここは戦場』という都合のいい言葉で自分を無理やり納得させる。
しかしその次に聞こえ言葉は烈火が全く予想していないモノだった。
「アバラの骨折と、左腕の複雑骨折ですが、この程度なら大丈夫です。助かります」
「良し」
(は?……今こいつ等なんて言った?)
烈火の混乱を余所に自衛隊員達は会話を続ける、
「子供たちには見せないようにしろ」
そう言って一人の自衛隊員が車まで走っていく。
それは明らかにこの兵隊を殺そうとしている行為ではなかった。
「なんで殺さないんだ?」
烈火は全く無意識に質問していた。
何時もの様に場をひっかき回す言葉でも、軽口でもない真剣な疑問だった。
一瞬の停止の後頭部装甲に手をかけヘルメットが外される。
そしてゆっくりと口を開いた。
「彼にはもう戦闘能力は無いし、交戦の意志がない事も確認している。俺たちはあんたが前につるんでた無頼の屑どもとは違う。交戦の意志がないものを殺すことは戦闘でも作戦でもない。ただの殺人事件、犯罪だ。餓鬼畜生のやることで兵士のやることじゃない……戦場だからと言って、あらゆる悪徳が許容されるわけではないんだ。あの屑どもとは違う、兵士には兵士のルールがある。敵味方に分かれたとしても、それだけが、ここで苦しんでいる彼や、俺たち『兵士』と奴らみたいな『屑』を区別するんだ。覚えておいてくれ。
何がエリアROS正規軍だ、あんな奴らが軍人であってたまるか。正規軍の名が穢れる。
俺たちは交戦規定を順守するし、国際法も守る。それが自衛官の誇りだ」
まくしたてるようにそう話す。
烈火はそれを理解するまで数瞬の時間を要した。
始めに来た感情は理解できないと言った感情だった。
(こいつ等敵だぜ?さっきまで必死こいて俺様たちを殺そうとした奴らだ。助ける理由なんてない……せめて殺さず放置ってとこだ、だけどコイツも助けるのか?)
先ほどの敵兵に顔を向ける。
その顔に戦闘での恐怖はもうなかった。
「気に入らないか?」
こちらを気にする様に再度言った。
それを聞いて烈火は僅かにだが理解した。
(こいつ等マジモンのバカだ!銃突きつけてきたヤツなんてぶっ殺して当然なのに!自分達だって余裕が有る訳じゃねーのに!何の役にもたたねぇガキ助けて!目の前で……仲間裏切った……ヤツ助けて……救いようのねーバカだ!!世界中探してもこんな奴らいねーよ!!)
自分の口角が吊り上っていくのを烈火は実感していた。
「わかったよ、リーダー。それを聞けて安心だ。俺はあんたたちについていくよ」
そう言って後ろを向く。
(いいねぇ……こっちに来てこんなに気分のいい日は初めてだ……極上の美酒を飲んだような気分だ!!俺様はこいつ等ほど気に入って奴は初めてだ!!最高ってのはこんな気分なんだな!!)
今にも笑声が漏れだしそうな顔で、しばし戦場の辛さを忘れた烈火だった。