暇つぶしにでもなれば幸いです。
「え~~ん、え~~ん、うえぇ~~~ん」
道の真ん中で泣いている幼い3才の女の子、彼女の名は横島唯緒。
家族で旅行に来た際に、両親とはぐれて迷子になってしまったらしい。
「え~~ん、え~~ん、おかあさぁ~~ん。うえぇ~~ん」
「あらあら、お穣ちゃんどうしたの?」
「ふえ?」
一人になった不安から泣いていた唯緒の前に一人の女性が腰を屈めて目線を唯緒と同じ高さにしながら問いかける。
「ほら、泣いてちゃ可愛いお顔が台無しよ。ほら、ちーーん」
「う、うん。ち~~ん」
女性は唯緒の涙を拭き、ハンカチで鼻をかませる。
「で、お穣ちゃんのお名前は何て言うの?」
「あ、あのね、唯緒のなまえは
「そう、唯緒ちゃんって言うの。良いお名前ね」
「あ…えへへ」
名前を誉められながら頭を撫でられた唯緒は照れくさそうに笑った。
「あのね、おねえちゃんのおなまえはなあに?」
「お、お姉ちゃん……」
お姉ちゃんと呼ばれた女性はワナワナと震えながら目を伏せる。
唯緒はそんな女性の顔を小首を傾げながら覗き込もうとする。
すると……
「おねえちゃん?」
「あああ~~~っ!なんっっって可愛いのぉ~~~~っ!!」
「わぷっ」
「”お姉ちゃん”の名前は桃子、高町桃子よ~~~っ」
桃子は唯緒を抱き抱え、頬擦りしながらぐるぐる回る。
「可愛いぃ~~♪可愛いぃ~~♪」
「あわわ~~!おめめがまわるよ~~」
「かーさん、何の騒ぎだ?」
そう言いながら一人の青年が店の扉を開いて出て来る。
手伝いをしていたのだろう、黒いシャツにエプロンが似合っていた。
「はっ!わ、私とした事が。大丈夫、お穣ちゃん?」
「はわわぁ~~~」
呼び止められた事で桃子は漸く動きを止めるが、唯緒は彼女の腕の中ですっかり目を回していた。
「その子は?」
「あっ、そうだったわ。恭也、この子は迷子らしいの。家族が探しているだろうから探し出して連れて来てくれない」
「いいけどその娘の名前は?」
「そうね、よこちまただおって言ってたから苗字は横島でいいはずよ」
「了解。向こうも探しているんなら直ぐに見つかるだろう」
「お願いね。私は店で面倒を見ているから」
エプロンを桃子に預けると恭也と呼ばれた青年は駆け出して行き、桃子は目を回している唯緒を抱き抱えたまま喫茶翠屋に入って行く。
―◇◆◇―
「あわわ~、まだおめめがぐるんぐるんしてるよ~~」
「ごめんね、唯緒ちゃん」
「ううん。もうだいじょうぶだよ、おねえちゃん」
にぱぁっ♪
ドキューーンッ!
「ざくっ!!」
桃子は唯緒のその笑顔に胸を打ち抜かれた。
胸を押さえて蹲る桃子の肩を近くに居た男性が心配そうに抱える。
「はあ、はあ、はあ。な、何っっって破壊力」
「大丈夫か、桃子?」
「き、気をつけてねあなた。唯緒たんの笑顔、まさに最終兵器よ」
「たん?ま、まあいいか。唯緒ちゃんはシュークリームは好きかい?」
「だいすきーーっ♪」
「そうか。じゃあはい、食べていいよ」
桃子の夫、士郎はそう言って唯緒の前にシュークリームを乗せた皿を置く。
「わあ。ありがとう、おじちゃん♪」
にぱあっ♪
ビギューーンッ!
「ぐふっ!!」
かいしんのいちげき。
こうかはばつぐんだ。
「だから言ったのに」
「ま、まさかこれ程とは…」
―◇◆◇―
「ああ~、唯緒はやっぱり可愛いわねぇ~~」
そんな唯緒の姿を電信柱の影からビデオ撮影している女性の姿があった。
誰あろう、彼女の母親、横島百合子であった。
つまりは迷子の件も唯緒の姿を撮影する為の正に《計画通り》なのであった。
「ちょっとアンタ、其処で何を…ぐっ!」
唯緒の親を探すのに彼女の写真を撮っておこうと戻って来た恭也だったが、電柱の影から店の中を覗き込んでいた女性、百合子の姿を見つけて話し掛けようとしたが突然後ろから首筋に手刀を当てられてしまい、その意識は容易く刈り取られてしまった。
ちなみにその相手は百合子の夫にして唯緒の父、大樹である。
(ば、馬鹿な。この俺が気配も感じずにこんなにあっけな…く)
バタリ
「誰だ、コイツは?」
「さあ?それよりもあなた。ほら、見て」
「ああ、可愛いなぁ~~、俺達の唯緒は」
もう、色々と駄目だ。この両親は。
ちなみに恭也はというと、邪魔にならない様にとダンボールに仕舞われて道の片隅に置かれている。
当然、仕舞われたのはニヤリと嗤うロゴマークがイカす、《konozama》のダンボールである。
―◇◆◇―
もぐもぐ
カランカラーン
唯緒がシュークリームを美味しそうに食べていると、其処に一人の女性が入って来た。
「ただいま、お母さん」
「お帰り、美由希」
「あれ?お父さん、この子は誰?」
「迷子の女の子で名前は唯緒たん。今、恭也に家族を探しに行ってもらってる所だ」
「…たん?そ、そうなんだ。こんにちは、唯緒ちゃん。私の名前は高町美由希だよ」
「こんにちは、横島唯緒(よこちまただお)でしゅ」
「あれ。唯緒ちゃん、ほっぺにクリームがついてるよ」
美由希はごく自然に唯緒の頬についていたクリームをティッシュで拭う。
「ま、待ちなさい美由希!唯緒たんの顔を…」
「顔?」
見ちゃ駄目と言われる前に美由希は唯緒の輝く様な笑顔を見てしまう。
「ありがとう、みゆきおねえちゃん」
にぱあっ♪
ズキューーンッ!
「どむっ!」
美由希は叫びながら胸を押さえ、仰け反るように倒れて行く。
「…遅かったか」
カランカラーン
「お母さん、ただいまーー!」
「あら、お帰りなさい。なのは」
元気良く駆け込んで来たのは桃子の娘、高町なのはである。
その肩には白いフェレットが乗っていた。
「あれ?お姉ちゃん、その娘だあれ?」
なのはは、美由希の膝に乗ってショートケーキを食べている唯緒を見てそう尋ねた。
「ん、この娘?この娘は唯緒たんだよ。可愛いでしょ」
「…たん?わあ~~ほんとだ、可愛いね。始めまして唯緒ちゃん、なのはだよ」
「はじめまして、なのはおねえちゃん。横島唯緒(よこちまただお)でしゅ」
ぺこり
「まだちっちゃいのに、ちゃんとご挨拶出来るんだ。偉いね」
「うん。唯緒、えやいの。えっへん!」
唯緒は胸を張りながら”あの笑顔”を炸裂させる。
にぱあっ♪
バキューーンッ!
「ぎゃんっ!」
その笑顔の破壊力にはさすがのなのはも全力で全壊だ。
《な、なのはぁーーーーっ!》
崩れ落ちるなのはにユーノは彼女の名前を叫ぶ、勿論喋る訳にはいかないので念話である。
そしてゆらりと立ち上がったなのはは夢遊病患者の様に調理場に行くとパフェを持って帰って来て、唯緒と同じテーブルに付く。
「は~~い、唯緒たん。パフェをどうぞ、なのはの奢りだよ」
「わあ~~い♪」
なのはは満面の笑みでスプーンで掬ったパフェを唯緒に差し出す。
「あ~~ん」
「ありがとう、なのはおねえちゃん。あ~~ん、ぱくっ」
パフェを口に含んだ唯緒はほっぺが落ちない様にと両手で掴み、足をパタパタと揺らす。
「おいし~~い。唯緒、しあわせだよ」
「や~~ん、唯緒たん可愛い~~♪」
《なのは…、!こ、これは》
唯緒にデレデレのなのはを溜め息まじりで眺めているたユーノ、その時ジュエルシードが動き出した波動を感じた。
《なのは、ジュエルシードが動き出した!早く行かないと》
「は~い唯緒たん、あ~ん」
「あ~ん、ぱくっ。おいし~~い♪」
なのはに念話で事態を知らせるユーノだが、なのはは我関せずと唯緒にパフェを食べさせている。
《なのは!急がないとジュエルシードが…》
《もう、ユーノくんは五月蝿いの!あんなのフェイトちゃんに任せとけばいいの。なのはは唯緒たんを愛でるのに忙しいの!》
《あ、あんなのって…なのはぁ~~》
ユーノがなのはのあんまりな言い方に呆然としていると唯緒がユーノの前にスプーンでパフェを差し出して来た。
「はい、オコジョさん。おいしいよ」
《え?い、いや、僕はオコジョじゃないよ。それにそんなモノ食べてる暇は》
一刻も早くジュエルシードを取りに行きたいユーノは首を振って拒否をするが唯緒は構わずに食べてくれとスプーンを差し出す。
「ダメ、オコジョさんたべて」
《もう、ユーノくん!唯緒たんが食べてって言ってるでしょ!》
《で、でも、ジュエルシードが、早くしないと!それに僕はオコジョじゃないし…》
「オコジョさん…、唯緒のぱふぇ、たべてくえないの?ぐすっ…」
「あーーーっ!ユーノくんが唯緒たん泣かせたーーー!」
「ユーノ、てめぇ…」
「唯緒たんを泣かすなんて悪い子ね…」
「今夜のおかずはから揚げかしら?何が材料かとは言わないけれど…」
高町一家から発せられる殺気に逆らえる訳も無く、ユーノはしぶしぶ唯緒の差し出すパフェを食べるしかなかった。
《あ~~ん、ぱくっ。もぐもぐ》
「わあっ♪オコジョさん、おいしい?」
《う、うん。美味しいよ》
「えへへ、よかったね」
念話は通じない筈なのに何故か会話は成立し、そして唯緒の『あの笑顔』が炸裂する。
にぱあっ♪
ドゴーーンッ!!
《ぎゃんぎゃぎゃーーーんっ!》
唯緒の満面の笑みを受けたユーノは車田的に吹き飛び、クルクルと車田的に回転しながら車田的に頭から落ちる。
《ユ、ユーノくん、大丈夫?》
なのはは流石に心配したのかおずおずと問い掛けると、ユーノはゆっくりと起き上がる。
《なのは…》
《何、ユーノくん?》
《僕が間違っていたよ。唯緒たんのこの笑顔の為ならジュエルシードなんかどうでもいいよね》
《さっすがユーノくん。きっと解ってくれると信じてたの》
ー◇◆◇ー
百合子と大樹の二人は、娘の可愛い映像を撮れた事に満足したのか唯緒を迎えに行く為に店の中へと入って行く。
カランカラーン
「あ、いらっしゃ「おかあさーーーん!」…え?」
「おがあじゃーーん、うええ~~~~ん!」
「ああ、唯緒ごめんね。寂しかったわよね」
「びええ~~~~ん!」
店の中に入って来た百合子を見た唯緒は涙腺を崩壊させ、その胸の中に飛び込んだ。
ちなみに大樹は百合子より先に店の中に入り、愛娘が抱き付いて来てくれるのを期待して両手を広げて待っていたのだが、唯緒はそれをスルーして百合子に抱き付いた。
「ばかぁ~~!唯緒、さみしかったのに~~!ひとりぼっち、こわかったのにぃ~~!うええ~~~ん」
「もう大丈夫よ、お母さんはもう何処にも行かないからね」
そんな感動の?再会を果たした母と娘の会話を背中で聞きながら両手を広げたままの格好で固まり、頬に一筋二筋と涙を流す大樹の肩に士郎は優しく手をかける。
同じ父親として何かを感じ取ったらしい。
ー◇◆◇ー
「すみません、私共の不手際でご迷惑をお掛けしました」
「いえ、いいんですよ。娘さんは良い子でしたから。良かったわね唯緒た…ちゃん、お母さんに会えて」
「うん!ありがとう、ももこまま」
にぱぁ
「じおんぐ!」
お世話になったからと”おばちゃん”ではなく”ももこまま”と呼ぶ唯緒の笑顔に再び陥落する桃子。
ちなみにこれは心の深層に居る横島からの助言だったりする。
まあ、士郎はおじちゃんのままだが。
「じゃあ、これ以上ご迷惑をお掛けするのも何ですのでおいとまさせてもらいましょうか」
「え~~、唯緒た…ちゃん帰っちゃうの?」
「なのは、我侭言っちゃだめよ。唯緒た…ちゃん達にも予定があるんだろうし」
「ぶ~、おねえちゃんだって唯緒た…ちゃんともっと一緒に居たいくせに」
そんな二人を呆れ顔で見ながらも、気持ちは分かると桃子は百合子に提案を持ちかける。
「二人共…、どうでしょう、今日の所は夕飯を一緒にという事に」
「宜しいんでしょうか?かえってご迷惑になるのでは」
「いいえ、むしろ娘達は喜びます。何しろ唯緒た…ちゃんとすっかり仲良くなったもので」
「おかあさん。唯緒、なのはおねえちゃんたちとごはんたべたい!」
「分かったわ。じゃあ桃子さん、お願いできますか」
「ええ、勿論」
今回の迷子騒動は娘の秘蔵映像を撮る為の物だったので遠慮しようとしたのだが、キラキラお目々でおねだりをする唯緒に百合子は折れる。
「わーーい」
「良かったね、お姉ちゃん」
「そうね、なのは」
「ミユキおねえちゃん、なのはおねえちゃん、あそぼ!」
「「やーーん!唯緒たん、可愛いーー♪」」
百合子と桃子が料理をしている間、子供達は仲睦まじく遊び、何かを感じあった父親コンビは肩を組み合って語り合っていたらしい。
そして二つの家族が美味しい料理に舌鼓を打っていた頃、すっかりと忘れ去られていた長男は何処かのメイドにダンボールごとお持ち帰りされ、屋敷の主人に美味しく頂かれたとさ。
~終われ~
(`・ω・)唯緒たんシリーズ三作目でした。
書き始めたは良いものの、途中でエタってしまいおよそ4年7ヶ月目にして漸く完成です。まあ、無理やり終わらせた感がありますが。