海沿いの町、海鳴市。
人気の無い場所に降り立った横島は左手にある封印具のブレスレットに【封】の文珠をはめ込んで男の姿に戻り、念の為に姿を隠す為に使っていた【隠】の文珠の効果を解く。
「さてと、この地図じゃよく解らないな。とりあえずあそこに行って街を見渡すか」
横島は辺りを見回すと山の中腹の辺りに神社があったので先ずは其処を目指す事にし、手にした鞄を勢いよく担ぎなおした。
すると……
『キャン!』
鞄の中から何やら動物の泣き声が聞こえて来た、具体的に言えば狐の様な。
「……ちょっと待て…」
横島は鞄を下ろし、中を覗いてみると、
『乱暴にしないでよ、痛いじゃない!』
そこには狐形態のタマモが居た。
「…こんな所で何をしとるんじゃ?タマモ」
「ヨコシマのバカーーーッ!」
タマモは鞄から飛び出し人間形態になると、横島にしがみついた。
「何で私達に黙って居なくなろうとしたのよ!」
横島はタマモの肩をつかんで離そうとしたが、その肩が小刻みに震えているのに気付き、逆に優しく抱いた。
「アンタが今、あの世界に居場所がないのは分かってるわよ。でもね、あの世界に疎まれているのは私も同じなのよ。私一人だけ残されて、どうしろって言うのよ…」
「…一人じゃないだろ。おキヌちゃんだっているし、美神さんや…シロだって…」
「ヨコシマがいないじゃない!ヨコシマがいなけりゃ……居ない世界なんて一人と同じよ…」
タマモは泣きじゃくりながらもしがみ付いた手を緩めようとしなかった。
「別にずっと居なくなる訳じゃないんだぞ。反デタントの過激派が居なくなれば直ぐにでも帰るつもりなんだから」
「それでもよ!」
何があっても引きそうにないタマモに横島は根負けした。
「悪かったよ」
そしてポンポンと軽く頭を叩いて優しく撫でた。
「分かればいいのよ…」
ようやく嗚咽は止まったが代わりにその顔は耳まで真っ赤だった。
―◇◆◇―
その後、何とか落ち着いたタマモは横島に話しかける。
「それでこれからどうするの?」
「とりあえず、あの神社まで行って町を見渡そうと思ってる」
そう言いながら、山にある神社を指さす。
「へぇ、気持ち良さそうでいい山ね。私、先に行って待ってるわ」
言うや否やタマモは走り去っていった。
「やれやれ」
横島は溜息を吐きながらも《八束神社》へと歩を進めていく。
―◇◆◇―
その頃、八束神社へと続く石段に、三人の人影と一匹の子狐がいた。
巫女の格好をした女性の足元に子狐が隠れていてそれを小学生位の女の子が瞳をキラキラさせながら眺めていた。
女の子の傍には少しぶっきら棒だが、それでも優しそうな目で女の子の頭を撫でている男がいた。
女性の名は神咲那美。
女の子の名前は高町なのは。
男の名はなのはの兄で高町恭也。
「少し怖がられてるようだな、なのは」
「初めて会うんだもんね。仕方ないかな…」
なのはと呼ばれた少女はそれでも諦められないというように子狐を眺めていた。
「ふわ~~、やっぱり可愛いよ~~♪」
「ごめんね、なのはちゃん。久遠は凄く人見知りなの」
「あ、いいんです。いきなり来ちゃったのは私なんですから」
「すみません神咲さん。いきなりは迷惑だぞと言ったんですがどうしても子狐が見たいと聞かなくって」
「ごめんなさい…」
「謝らなくてもいいのよ。高町さんもあまり気にしないで下さい」
「あの、このサンドイッチ、狐さんに…くおんちゃんにあげようと思って作って来たんで後で食べさせてあげて下さい」
そう言いなのはは那美にサンドイッチの入ったバッグを渡そうとすると其処に横島がやって来た。
横島は那美を見るなり、ナンパに走ろうとするがその巫女服姿を見たとたんに動きが止まる。
何も言わずに別れて来たおキヌの顔が頭に浮かんだ為だ。
「あ…こ、こんちは」
「は、はい。こんにちは」
横島は慌てて那美に挨拶をして那美も笑顔で答える。
「こ、こんにちは」
「うん、こんにちは」
(コイツは一体何者だ?唯者じゃない事だけは確かだが…)
なのはも笑顔で横島に挨拶をするが恭也の横島を見る目は鋭かった。
幾多の闘いを潜り抜けて来た彼だからこそ、隠している横島の人ならざる力に気付いている様だ。
しかし横島は恭也より那美の足元に居る久遠に気を取られていた。
(あの子狐も妖狐か。だが力は封じられている様だな)
(あの人は誰だろ?何か強い霊力を感じるけど)
那美もまた横島の力に気付いていた。すると足元から久遠の気配が消えた。
驚いた事に久遠は自分から横島に近づいて行ったのだ。
「久遠?…え、嘘……」
「く~~ん」
横島の足元まで近づいた久遠は横島を見上げて一鳴きした。
「ん?どうした」
「……くーーん♪」
横島に抱き抱えられた久遠はそのまま横島にじゃれ付いた。
「…えっと。人見知りなんじゃ……」
恭也は横島に抱かれている久遠を指さしながら那美に聞く。
「そ、その筈なんですけど。…久遠が初めて会った人に自分から近づいて行くなんて…しかもあんなに懐くなんて初めてです」
那美は呆然とその光景を見ている。
そしてなのはは。
「いいな、いいな。私もくおんちゃんと仲良くしたい」
「仲良くすれば?」
「でも怖がって触らせてくれなかったの…」
「そうなんだ」
横島は残念そうに目を伏せるなのはを見ると軽く笑い久遠を抱いたまましゃがんでなのはと顔の高さを同じにする。
「お嬢ちゃんの名前は?」
「あ、なのはです。高町なのは」
「そっか、俺は横島忠夫。よろしくな」
横島は優しく笑いながらなのはの頭を撫でる。
「は、はいっ!よ、よろしくお願いします!私の事はなのはと呼んで下さい。え、えっと…忠夫お兄ちゃん」
なのはは真っ赤になりながら答えた。
そんななのはを見て恭也は……
(コイツは…敵だ!)
シスコンパワーを爆発させていた。
「えっと、くおん…久遠か。久遠、なのはちゃんはいい子だがら大丈夫だよ。だから安心しな」
「く~ん。…こんっ」
久遠は不安そうな顔をしていたがなのはを見て一鳴きする。
そしてなのははゆっくりと久遠の頭へと手を伸ばす。
「大丈夫かな?大丈夫かな?」
優しく久遠の頭に手を載せてゆっくり撫でていく。
久遠もそれを拒む事無く大人しく撫でられている。
「ふわあああ~~~~♪」
「くうう~~ん♪」
なのはは、久遠の頭を撫でながら幸せ一杯という感じで微笑み、久遠もなのはの手の暖かさから、なのはの優しさを感じ取っていた。
こうしてこの海鳴の地で横島とタマモの新しい物語は始まろうとしていた。
=続く=
(`・ω・)横タマは大好物です。