地の文での説明ではおかしいかなと思ったもので。
その後、編入先のクラスでの自己紹介をする横島だが、女性の姿の為名前は忠夫ではなく唯緒と変えていた。
「転校してきた横島唯緒です。皆さんよろしくお願いします」
『うおおおおーーーーーーーーーーーーーっ!!』
横島の自己紹介にクラスの男子は一斉に雄叫びを上げ、女子は女子で見惚れている様だ。
溜息を付いている横島が目をやると真ん中の席辺りで那美が「あはは」と乾いた笑いを浮かべていた。
「丁度神咲の隣が空いてるな。横島、彼女の隣の席に座りなさい」
「はい」
横島視点~
その後は転校生恒例の質問責め。
何処に住んでいるのだの、恋人は居るのかだの、高町との関係はどうかなどと。
住んでいるのは神咲さんと同じさざなみ寮、高町との関係はちょっとからかっただけと言ったら男子生徒は安堵の溜息を吐いた。
いや、安心されても困るんだけど。いくら精神が女性寄りと言ってもさすがに男に惚れる様な事は間違っても無いから。
恋人は居ないけど好きな人は居た、…もう死んじゃったけどね。と言ったら好きですだの付き合って下さいだのと言って来る者は居なくなった。那美ちゃんは目を丸くしてたけど。
そしてその日の学校は無事に何事も無く終わった。
那美ちゃんはこの後神社に行くと言うので途中まで一緒に帰ろうと誘い、歩いていると横断歩道の所に目を奪われた。
其処に泣いている一人の女の子の自縛霊が居たから。
「那美ちゃん、ちょっと待っててね」
「横島さん?」
那美視点~
横島さんが駆けていく先には自縛霊の女の子が居た。
そう言えばこの道路は確か三日前に人身事故が起きた場所だった。
今朝通った時には何ともなかったのに、どうやら幽霊になりたての様だ。
私も横島さんが駆け寄らなかったら気付かないほどの弱々しい霊、私もまだ修行不足かな。
横島さんはしゃがみ込んで女の子の霊に話しかける。
《え~ん、え~ん》
「こんにちは、お穣ちゃん」
《え?…お姉ちゃん、私が分かるの?》
「うん、分かるよ。お穣ちゃんのお名前は?」
《私?私の名前は一美っていうの》
「じゃあ、一美ちゃん。ちょっとお話しようか」
《あのね、誰も私の事見てくれないの。いくら話しかけても聞いてくれないし、お母さん達もお花やお菓子を持って来てくれるんだけど泣いてばかりなの。お家に連れて帰ってって頼んでも連れて帰ってくれないし私もここから動けないの。ぐすっ…お、お家に帰りたいよ~~、え~ん、え~ん》
横島さんは泣きじゃくる女の子、一美ちゃんを優しく抱きよせながらその頭を撫でてあげている。
「そうね、帰りたいよね。でもね、一美ちゃん。可哀想だけど一美ちゃんはもう死んじゃってるのよ」
《え…?う、嘘だ嘘だ、お姉ちゃんのウソつきーーっ!何でそんなイジワル言うの!》
一美ちゃんは横島さんをポカポカと叩き離れようとするが、それでも横島さんは笑顔を絶やさず彼女の頭を撫で続ける。
「辛いのは分かるわ、信じたくないのも。でもね、それを理解しないと一美ちゃんは天国に行けなくるのよ」
《え?……》
横島さんがそう言うとポカポカと叩く一美ちゃんの手が止まる。
ふと周りを見ると歩いている人達は横島さんの事を怪訝な表情で見ている、おそらく独り言を言う変な女とでも思っているのだろう。
私はそんな横島さんを背中に隠し、薄笑いをしている女の人を睨みつけるとその人は慌てたように去って行く。
そんな間も横島さんは一美ちゃんの説得を続けている。
《でも、でも…》
「う~ん、そうだ。那美ちゃん」
「は、はい。何ですか?」
「ちょっと体をお願い」
「体…、ですか?」
私がそう尋ねると横島さんは一美ちゃんを抱き抱えたまま幽体離脱をして、翼を広げて空へと羽ばたいて行く。
当然周りからは見えないのだが翼を羽ばたかせるその姿はまるで天使の様だった。
横島視点~
《お、お姉ちゃんは天使さまだったの?》
「ううん、違うよ。少し不思議な力があるだけ。さあ一美ちゃん、良く周りを見て」
《うわあ~~~♪》
一美ちゃんは空の上から見る景色に目を輝かせている。
「ねえ、綺麗でしょ一美ちゃん」
《うん、とっても綺麗》
「あのままあそこに居たらこんな景色は見れないのよ、あの砂浜で遊ぶ事も出来ない。でもね、死んだ事を受け入れて天国に行けば何時かもう一度この世界に生まれて来る事が出来るの。だから成仏しよう、もう一度この世界に生まれて来る為に」
《………》
一美ちゃんは未だ踏ん切りがつかないのか押し黙ったままだ。
ふと下を見ると花を抱えた女性が近づいて来た、おそらくは一美ちゃんのお母さんだろう。
「一美ちゃん、あの人お母さんじゃない?」
《え?あっ、本当にお母さんだ。お母さーーん!》
一美ちゃんは母親に向かって手を振っている。
可哀想だけど二人を会わせてきちんと別れをさせてやらないと一美ちゃんは何時までも成仏できない。
「一美ちゃん、お母さんにお別れの挨拶できる?」
《…お母さんと…お別れしなきゃいけないの?》
「うん。でもね、そうしたらもう一度お母さんの子供に生まれて来る事が出来るかもしれないよ」
《ほんとっ!?》
「うん、神様にお願いしたらきっと叶えてくれるわ」
《……分かった。寂しいけどお母さんとお別れする》
一美ちゃんは少し考えた後、ようやくそう言って納得してくれた。
「じゃあ、お母さんにもう一度会わせてあげる。そしてお別れしよ」
《うん…》
那美視点~
「あ、あのう。此処で何かあったんですか?」
「え?」
しゃがみ込んだままの横島さんの体を支えていると後ろから花束を持った女性が声をかけて来て、誰かなと思っていると横島さんの体に幽体が戻って来た。
「ふう。あ、一美ちゃんのお母さんですか?」
「そ、そうですけど、何で一美の名前を?」
「まずは本人とお話して下さい」
「は、話を…?」
横島さんはそう言い、一美ちゃんに霊波を送り始めるとうっすらとしか見えなかった一美ちゃんがはっきりと見える様になって来た。
パサリと音がしたので振り向くと一美ちゃんのお母さんが花を落として呆然としていた。
どうやらこの人にも一美ちゃんが見える様になったようだ。
「一美?…一美なの?」
《お母さーーんっ!》
一美ちゃんは泣きながらお母さんに抱きついた、お母さんも駆け寄って来た一美ちゃんを優しく抱きとめる。
「一美…一美ぃ!」
《お母さぁん。うわあぁぁーーん》
「ごめんね一美。助けてあげられなくてごめんね」
《もういいの、母さんともう一度会えたからもういいの。う、うえぇ~~ん》
私はその姿を見て今はもう居ない両親の事を思い出す。久遠との事にもうわだかまりは無い、でもやはりもう一度会えたらと思う。
《お母さん、このお姉ちゃんがねお母さんに会わせてくれたんだよ。そして私、天国に行くの》
「貴女が一美を?一美が天国に行くというのは…」
「はい、本当です。ここで成仏すれば一美ちゃんは天国に行けて、そして再び転生の輪に入る事が出来ます」
《そしたらね、私もう一度生まれて来れるんだって。だから…お母さん、私もう一度お母さんの子供になってもいい?》
「…ええ、ええ、勿論よ。一美が帰って来るのをお母さん何時までも待っているわ」
《うん、約束。じゃあお姉ちゃん、私天国に行くね》
「なら一美ちゃんにこれをあげる。天国に送ってくれるお守りよ」
(そう言って手渡したのは【転】【生】と刻んだ二つの文殊。これで後はこの世界のキーやんが気をきかせて上手く一美ちゃんをあの夫婦の元に転生させてくれるだろう)
そして光に包まれた一美ちゃんはゆっくりと空へと昇りながら光の中に消えていく。
《お母さん、お姉ちゃん、ばいばい》
「一美、待ってるからね。お母さん、何時まででも待ってるからね」
手を振る一美ちゃんは笑顔で光の粒となり空へと昇って行き、その後ひとしきり泣いた一美ちゃんのお母さんは横島さんに何度もお礼を言って帰って行った。
「横島さん、一美ちゃん早く帰ってこれるといいですね」
「うん。まあ、それにはあの夫婦が今夜あたりから頑張らないとだけどね」
ケラケラと笑いながら言うその横島さんの言葉でさっきまでの感動がすべて吹き飛んだ。
…最後の最後で台無しです、横島さん。
そして翌日。
「愛さ~ん、勘弁して下さ~い!」
「だ~め、大人しくしてなさい。可愛くしてあげるから♪」
「ふえ~~ん」
今日も今日とて横島さんは朝から愛さんに捕まり化粧と髪型のセッティングをされて今日は何とお団子頭だ。
似合っていて、とても可愛いのが少し悔しい。
それにしても、昨日のあの時の横島さんと今のこの横島さん。
どっちが本当の横島さんなんだろ?いや、男とか女とかは別にしても何故だかとても気になる。
「そうだ、ついでにリボンも着けちゃいましょ♪」
「い~~や~~~!」
=続く=
(`・ω・)横島と那美しか出て来なかったですね、横島も女の姿のままだったし。
まあ、この話では横島はさざなみ寮と学校では女性として過ごさないといけないので女性比率が高いです。その分オイラは楽しいですけど。
ちなみに愛が女性横島を愛でるのはオイラの独自解釈です。
でわっ(・ω・)ノシ