はあっはあっはあっはあっ!
月明かりの中で一人の少女、佐々木まき絵は必死に逃げていた。
だが、追撃者はその手を止める事無く遂に獲物を捕らえる。
「きゃあっ」
まき絵は追いつめられ桜の木を背にしながら怯える事しか出来なかった。
「あ…いや……いやあぁ~~~ん」
そしてその叫びも誰にも届く事無く、夜の帳の中に消えて行った…
三時間目
「まったく、吸血鬼なんて居る訳ないじゃない by明日菜」
横島と木乃香の見合いから少しばかりの時が経ち、季節は春。
新学期を迎えた麻帆良学園女子中等部の3年A組には無事進級した面々が揃っていた。そんな中……
「ほえ~~」
出席番号3番、朝倉和美は携帯の画像に見入っていた。
そこに写っているのはあの見合いの時隠し撮りしていた横島の写真だった。
ガラでもない乙女モードに入っていたのが彼女にとっての一生の不覚だった。
「アイヤー、朝倉が男の写真を見て赤くなってるアルね」
古菲は朝倉の手から携帯を奪い取りながら叫んだ。
「「「「「何ぃーーーーーーーーーーーーっ!!」」」」」
「あわわ…何するのよくーちゃん。返してよーー!!」
「どれどれ?」
「どうりでラブ臭がすると思ったのよ」
「「見たい見たーーい!!」」
「あらら、素敵な笑顔ね」
「うむ、なかなかでござるな」
「優しそうな笑顔アルなー」
「こ、これは…(夕陽の中で…綺麗なのです)」
「あー、横島さんや」
「「このかさん、知ってるの?」」
「うん。ウチのお見合いの相手や」
「「「「「………何だってーーーーーーーーーー!!」」」」」
「ひょっとして横恋慕?三角関係?略奪愛?」
「違ーーーう!!」
「なあなあ、和美ちゃん。この写真ウチの携帯に移してもええ?」
「「私達も欲しーーい!!」」
「ならば拙者も」
「ワタシも」
「私も欲しいです」
本人の許可を得る事無く、画像は次々と赤外線で写し取られて行き、朝倉は諦めの溜息を付きながら机にうな垂れる。
「もう、勝手にしてよ…」
そんな中、刹那は廊下へと出て行く。
木乃香は以前から他人行儀な幼馴染と話がしたいと語りかけるが…
「なあなあ、せっちゃん。せっちゃんも見てみいひん?」
「…すみません。用事がありますので」
そう言い扉を閉めて行く刹那の後姿を木乃香は寂しそうに見つめる。
「……せっちゃん…」
廊下に出た刹那はおもむろに携帯の画像データを開く。
すると其処には横島の笑顔があった、ちゃっかりとデータをかすめ取ってたらしい。
「横島さん……」
刹那は頬を染めながらその笑顔を見つめていた。
ー◇◆◇ー
『3年ーーーA組ーーー!!』『ネギ先生ーーー!!』
「皆さんお早うございます。これからまた一年よろしくお願いします」
『はーーーい!こちらこそよろしくーーー!!』
ネギは新鮮な気持ちで生徒達を見回す。
(こうして見るとまだお話していない生徒さん達も一杯いるなあ。この一年で31人全員と仲良くなれるかなあ…)
そんな思いにふけっていると何か強い視線を感じる。
「ん?(何だこの強い視線は)」
視線を感じる方に目を向けると最後尾の席に金髪の少女がおり、ネギは出席簿を見てその人物を確認する。
(あの娘は出席番号26番エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルさん。
タカミチは困った時に相談しろって書いてるけど何で僕は睨まれてるんだろ?)
「ネギ先生、今日は身体測定なので準備をお願いします」
「あっ、そうでした。すみません、しずな先生。では皆さん、すぐに脱いで準備してください」
そこまで言うと皆は赤い顔をして叫んだ。
『ネギ先生のエッチーーー!!』
「うわ~~ん、すみませ~~ん」
ネギは真っ赤になって教室から飛び出した。
ー◇◆◇ー
「ネギ君からかうと面白いね~」
「この一年、楽しくなりそうね」
皆は着替えをしながら雑談に花をさかせていた。
「あれー?まきちゃんは?」
「そう言えば…」
「まき絵は今日身体測定アルからきっとずる休みネ」
「まき絵胸ぺったんこだからねーー」
「お姉ちゃん…虚しいです……」
「ねえねえ、ところで今寮で流行ってる…あのウワサ、どう思う?」
「何よ柿崎、それって何の話?」
「ああ、あの桜通りの吸血鬼ね」
「あーー、それウチ知っとるー。満月の夜に出てくる、まっ黒な布に包まれた血まみれの吸血鬼の事やろ?」
「おー、木乃香詳しいね」
「うん。ウチ心配になってな、横島さんに相談したんや。そしたら今度、調査に来てくれるって」
『『………えーーーーーーーー!! 横島さんって木乃香の見合い相手の!?』』
「う、うん…」
「それは楽しみでござるな」
「楽しみアルネ」
『楽しみだーー!!』
「まったく、吸血鬼なんて居る訳ないじゃない。(ん、でも魔法使いが居るんだから吸血鬼が居てもおかしくないわよね)」
「その通りだ、神楽坂明日菜よ。ウワサの吸血鬼はお前の様に元気でイキのいい女が好きらしいからな。せいぜい気を付ける事だ」
そう明日菜の呟きに笑みを浮かべて答えたのはエヴァンジェリンだった。
「は、はあ…」
ー◇◆◇ー
(あれ?何だろ、この感じ)
その頃ネギは廊下で何かの気配を感じていた。その時。
「先生ーー、大変やーー、まき絵が…まき絵がーー!!」
保健委員の和泉亜子が血相を変えて駆けて来た。
「亜子さん、まき絵さんがどうかしたんですか!?」
「まき絵が…桜通りで倒れてて……」
『『え~~~~~~!! まき絵が~~~~~!?』』
「うわあっ!!」
亜子の言葉を聞いて皆は飛び出してきた。
……下着姿で………
ー◇◆◇ー
慌ててネギ達が保健室に駆け込むとまき絵がベッドで眠っていた。
「しずな先生、まき絵さんは?」
「大丈夫よ、体には何の異常もないわ。唯の貧血でしょう」
「そうなんや~~、良かった~~」
クラスメイト達は安心するがネギはまき絵の体から微量の魔力を
感じ取っていた。
(どういう事なんだろう。僕達の他に魔法を使える人がいるのかな?でもタカミチからはそんなこと聞いてないし……)
「ネギ、ネギ」
(もしかしたら……)
「ネギったら!何を黙り込んでるのよ」
「わっ!す、すみませんアスナさん。
「まき絵は本当に大丈夫なの?」
「ええ、見た所外傷も見当たらないし、しずな先生の言うようにただの貧血でしょう」
「そうなんだ、良かった」
「それとアスナさん、僕今日は用事があるので晩ご飯はいりませんから」
「あ…そう…?」
「ネギくん、ご飯ええの?残念やな~」
ー◇◆◇ー
そして日が暮れた月夜の中、宮崎のどかは一人寮へと向かっていた。
「あ…桜通り……だ、大丈夫だよね?き、吸血鬼なんて唯の噂だよ……ね」
そう言いながらも、少し急ぎ足になる。
「こ、こわくない~♪こわくなければ~♪こ、こわ…」
ざわっ…と風が騒ぎ、地面に影が射し、街頭を見上げてみると…
「…こ、こわ…こわいとき~~…」
其処には黒ずくめの人影が立っていた。
「出席番号27番宮崎のどかか…悪いがその血、少しばかり分けてもらうぞ」
そう言いその人影はのどかに襲いかかって来た。
「キャアアアアーーーーーーー!!」
「待てーーー!!」
そこにネギが駆けつけて来たが、のどかはその姿を見る事無く失神した。
「僕の生徒に何をするんですかーーー!!」
呪文を唱えながらネギは人影とのどかの間に立つ。
『ラス・テル・マ・スキル・マギステル』
『風の精霊11人、縛鎖となりて敵を捕まえろ』
『魔法の射手・戒めの風矢』
ネギの手より風は魔力の矢となり眼前の敵に向かって行くが、
「思ったより早かったな。『氷盾』」
人影は液体の入った小瓶を投げながらそう唱える。
すると、それは文字通り「氷の盾」となりネギの呪文を跳ね返す。
「そんな、僕の呪文を全て跳ね返した!?(やはり犯人は…魔法使い…!?)」
衝撃で生じた煙が晴れるとその人影が被っていた帽子は飛ばされていてその素顔も晒されていた。
そこに居たのは金髪で小柄な少女だった。
「驚いたぞ、凄まじい魔力だな…」
のどかを介抱しながらその顔を見たネギは驚いていた。
「キ、キミは…ウチのクラスの…エヴァンジェリンさん!?」
「フフ、新学期に入った事だし改めて自己紹介と行こうか先生。いや、ネギ・スプリングフィールド。10歳にしてこの力……さすが「奴」の息子なだけはある」
「(息子?)…あ、貴女は何者なんですか!?魔法使いが何故こんな事を?」
「何故だと?面白い事を聞くんだなネギ先生。魔法使いは悪い事をしないとでも思っていたのか。私は悪い魔法使いなんだよ」
エヴァンジェリンと呼ばれた少女は2種類の小瓶を放り投げると空中でぶつかり、中の液体が混ざり合い、魔法効果を作り出す。
『氷結武装解除!!』
「うわあっ」
ネギは辛うじて抵抗(レジスト)し、片袖のみが砕けるだけで済んだが、のどかの服はほとんどが砕け散った。
「フ、やはりレジストしたか」
「大丈夫ですかのどかさ…うわあっ!!」
半裸ののどかの姿に慌てるネギだがそこに女の子が二人近づいて来た。
「こっちから聞こえて来たわよね、今の悲鳴」
「うん」
ネギの事が心配で迎えに来たのであろう、明日菜と木乃香は目の前の光景を見て驚いた。
「ア、アンタ達、何をやってるのよーー!!」
「ネギくんが吸血鬼やったんかーー!?」
「違いますよ、誤解です!!」
騒ぎに乗じてエヴァンジェリンはその場を立ち去った。
「ま、待てーー!!アスナさん、このかさん、のどかさんをお願いします。僕は犯人を追いますのでのどかさんを連れて帰ってください」
のどかを二人に任せてネギは足に魔力を集中させ高速で駆け出した。
「ちょっと、ネギーーー!!」
「うわっ、ネギくん速いな~」
「悪い魔法使い?魔法使いが悪い事をするだって?そんな事……魔法はみんなを幸せにする為の物だろ。それが魔法使いの仕事じゃないか」
(それに奴の息子って、お父さんの事を知ってるみたいだったけど…)
ネギはそんな考えを頭から振り払い相手を追う事に集中させる。
「いたっ!!」
「早い、もう追いついて来るとは。…そう言えばぼうやは風が得意だったな」
エヴァンジェリンはマントをはためかせ空へと飛んだ。
「杖や箒もなしに空を飛ぶなんて。待てーー!!」
続く