こんな、横島忠夫はどうでショー!   作:乱A

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九時間目「随分と仲が良さそうじゃないか by高畑」

 

翌日、街中のオープンテラスで横島は脹れっ面でコーヒーを飲んでいた。

その頬には真っ赤な手形が付いており、どうやらナンパに失敗したようだ。

 

「くそー、せっかくの日曜日。新たな出会いのチャンスなのに何故誰も相手にしてくれんのじゃ」

 

「ほう、ならば私が相手をしてやろうか」

「へ?」

 

声がした方に顔を向けると其処には何時の間にかエヴァと茶々丸が席に座っていた。

 

 

 

九時間目

「随分と仲が良さそうじゃないか by高畑」

 

 

「エ、エヴァちゃん?」

「どうした?この私が相手をしてやると言っておるのだぞ。もう少し喜んだらどうだ」

「いや、バインバインのお姉ーー様ならともかく、ワイはロリじゃないし」

「き、貴様っ!! こう見えても私は…」

「でもちょーど良かった。エヴァちゃんには聞きたい事があったんだ」

「聞きたい事、何だそれは?」

「『登校地獄』の事だけどもし、この麻帆良から出たらどうなるんだ?」

 

横島のその言葉にエヴァは顔を曇らせ俯き、体も小刻みに震えている。

 

「エヴァちゃん?」

「お前は酷い奴だな、そんな事を興味本位で聞くとは。いいだろう、教えてやる。もし、この麻帆良の地を出たり、学校をズル休みしたりしたらとてつもない激痛が体を襲うんだ」

「とてつもない激痛?……それってまさか、『両手両足がボキッて折れて肋骨にひびが入り、苦しくて蹲った所に小錦がドスンと落ちて来…』」

「止めろーーーーっ!!お、思い出させるなぁーーーーーーっ!!」

「マ、マスター!大丈夫ですか!?」

 

かつて味わったであろう激痛を思い出したのかエヴァは冷や汗をかき、息も絶え絶えで茶々丸に肩を抱き抱えられていた。

 

「だ、だが横島よ。何故貴様がそんなにも具体的にあの苦しみを言葉に出来る?」

「いや~~、実は以前ある事件での後遺症でそーいった激痛を味わった事があるもんで。何しろ生傷が絶えない職場やからな」

「そ、そうか…貴様も気苦労が絶えないんだな。同情するぞ」

「はははは…」

 

エヴァは心の底からそう呟き、横島も乾いた笑いを返す。

 

「そーいえばエヴァちゃんにはプレゼントがあったんだった」

「わ、私に…だと?」

「ああ」

 

そう言いながら横島は懐からピンク色の紙に包まれた薄い板の様なものを取り出してエヴァに渡す。

 

「(何だこれは?形からするとハンカチみたいな物か。まあ、それはそれでいいか)開けてみてもいいか?」

「勿論いいぞ」

 

少し照れながらも包みを開き中身を取り出す。

 

(布じゃ無い…紙か?)

 

折りたたまれていたそれを開き、そこに描かれていた物を確認するとエヴァの顔に青筋が立ちその手もブルブルと震えだす。

 

「横島…、何だこれは?」

「世界地図だけど?」

「……そう言えば貴様は別の真祖の支配下になった事があると言っていたな。…そいつの名は?」

「えっと、たしかブラドー伯しゃ…『この私をあんな化石脳味噌と一緒にするなーーーーーっ!!』どわーーーーっ!!」

 

地図を破り裂くと座っていた椅子を振り上げ横島に殴りかかる。ブラドー伯爵のボケ気味は何かと吸血鬼の間では有名らしい。

 

「何するんじゃーーっ!? エヴァちゃん!!」

「やかましいっ!! 大人しく殴られろ!!」

「嫌じゃーっ、痛いやないか」

「男ならその位我慢しろ!!」

 

そんな二人を茶々丸は静かに眺めていた。

 

(あんなに楽しそうなマスターは初めてです)

 

其処に、ネギ達はやって来てエヴァと話をしている横島を見つける。

 

「あれ、タダオ?エヴァンジェリンさんと何を話してるんだろう」

「何だか随分と仲が良さそうね」

 

ネギと明日菜はその光景を不思議そうに見つめるが、カモはと言うと……

 

「あ、あ、あ……あの兄さんは……、やっぱり俺っちは故郷に……」

「だから何でアンタはそんなに横島さんを怖がるのよ?」

「は、放してくだせぇーーーっ!!」

 

カモは涙顔で必死に逃げようとする。

あの病島(やこしま)はカモにとって結構トラウマだったらしい。

 

 

 

 

ー◇◆◇ー

 

茶々丸は腕時計を見て時間を確認するとエヴァに話しかける。

 

「マスター、申し訳ありませんが用事がありますので少しお傍を離れてもよろしいですか?」

「ん、ああ構わんぞ。あまり遅くなる前に帰って来いよ」

「はい、ありがとうございます。マスター」

 

エヴァに一礼した茶々丸はそのまま何処かへと歩いて行く。

それを見送ったエヴァは横島に向き直り、ニヤリとほくそ笑み指を鳴らしながら近づいて行くが其処にタカミチがやって来た。

 

「おーい、エヴァ」

「ん、何だタカミチ。何の用だ?」

「学園長がお呼びだ。一人で来いだってさ」

「ちっ、仕方ないな。横島、話は今度だ。次は逃がさんからな」

 

エヴァは横島を指さし、そう言い残すと踵を返して高畑と一緒に歩いて行く。

 

 

 

 

「何だエヴァ。随分と横島君と仲が良さそうじゃないか」

「五月蠅い、貴様には関係ない」

 

タカミチと一緒に歩いて行くエヴァを見送った横島は「助かった」と呟くとすっかり冷めてしまったコーヒーを飲みほして何処かへと歩いて行く。

 

 

 

 

 

「チャンスだぜ兄貴、あの茶々丸って奴が一人になった。今の内にボコッちまおうぜ!!」

「ダメだよカモ君、此処じゃ人目があり過ぎるよ」

「な、何だか辻斬りみたいね。しかも相手はクラスメイトだし。でも、アンタやまきちゃんを襲った悪い奴なんだから何とかしないとね」

 

そうして茶々丸の後を付いて行くと、まずはコンビニで何かを買った様だ。

その後も、フーセンを木に引っかけて泣いている子供の為に取ってやったり、老人を抱えて歩道橋を渡ってやったり、子供達に懐かれていたりと悪い面は無く、むしろいい面ばかりが見えて来る。

 

とは言え、さすがにジェット噴射で空を飛び、ロボットだったと解った時には驚いたが。

 

 

 

 

 

ー◇◆◇ー

 

「お待たせしました。お食事ですよ」

 

茶々丸は教会の裏庭に辿り着くとおもむろにしゃがみ込み、コンビニの袋の中から猫缶を取り出すと何処からともなく数匹の猫が集まって来る。

 

「いい人だ~」

「ホントね」

 

ネギと明日菜はそんな茶々丸を見ていてホロホロと涙を流していた。

 

「何言ってんスか、アイツは敵なんスよ!それにネギの兄貴は命を狙われたんでしょ。しっかりしてくださいよ」

「で、でもカモ君…」

「デモもストもないっス!ここは心を鬼にして一丁バシーーッとお願いしやす」

「行きましょうネギ」

「ア、アスナさん」

「しょうがないわよ。このエロオコジョの言う通り、このままじゃやられるのを待つだけよ」

「…分かりました」

 

 

 

ゴーーン、ゴーーン、ゴーーン

 

教会の鐘が鳴り、食事を終えた猫達が帰って行くのを見届けた茶々丸だが後ろに二人の人影があるのに気がついた。

 

「…こんにちは、ネギ先生、神楽坂さん。油断しました、でもお相手はします」

「茶々丸さん、僕を狙うのはもう止めてもらえませんか?茶々丸さんの事見させてもらいましたがあんな優しそうな心があるのなら…」

 

ネギは最後通告とでも言う様にそう言うが茶々丸はやはり、それに応じようとはしなかった。

 

「申し訳ありませんが私にとってマスターの命令は絶対です。そのお願いには応えられません」

「そうですか…仕方ありませんね。(アスナさん、さっき言ったとおりにお願いします)」

「(上手くできるかどうか分からないわよ。まあ、全力は尽くすけど)」

 

人気のない教会の裏庭で二人は茶々丸と対峙する。

 

「じゃあ、茶々丸さん」

「…ごめんね」

 

「はい、神楽坂明日菜さん。…いいパートナーを見つけましたね、ネギ先生」

 

「…行きます!! 「契約執行10秒間!! ネギの従者『神楽坂明日菜』!! ラス・テルマ・スキル・マギステル」

 

ネギがそう叫ぶと明日菜の体にネギの魔力が流れ込んで来てその身体能力は大幅に活性化される。

 

(何これ?体が凄く軽い。まるで羽根が生えたみたい。これが魔力の効果なの?)

 

明日菜は茶々丸が繰り出して来る拳を打ち払い、攻撃を仕掛ける。

茶々丸も攻撃を受け止め、明日菜を倒そうとする。

 

「早い!? 素人とは思えない動きです」

 

 

 

 

「光の精霊11柱…集い来たりて……」

 

ネギは攻撃の為の呪文を唱えようとするがやはり、なかなか踏ん切りがつかない様だ。

そんな時、ネギの頭の中に先ほどカモの言われた言葉が浮かんで来る。

 

《兄貴、相手はロボなんだぜ。手加減なんかしたら兄貴がやられちまうっス!! 何度も言うようですが気持ちを切り替えて完膚なきまでにブチ倒さねえと》

 

「うう、ゴメンなさい茶々丸さん!!『魔法の射手・連弾・光の11矢!!』」

 

そして呪文は完成し、魔力で創られた幾つもの光の矢は茶々丸へと襲いかかる。

茶々丸は迫って来る魔法の矢に気付くがもはや避けきれず、自分が破壊される事を悟った。

 

「すいませんマスター。もし私が動かなくなってしまったらどうか猫のエサを…」

 

茶々丸が力無く呟いたその言葉はネギの耳に届いた。

 

「くっ…や、やっぱりダメだーーーっ!!『戻れ!!』」

 

ネギがそう叫ぶと魔法の矢は引き寄せられるようにネギに舞い戻る。

 

「んきゃーーーーーっ!!」

「ネ、ネギーーーっ!?」

「ア、兄貴ーーーっ!?」

 

「ネギ先生…何故…?」

 

茶々丸は自身を傷つけてまで魔法の矢を引き戻したネギを不思議そうに見つめるが、駆け付けて来る明日菜達に気付くとすぐさまその場を飛び去った。

 

「ああーー、逃げられた!?」

「ちょっとネギ!! アンタ一体何をしてんのよ!?」

「兄貴ーーー!! 何で矢を戻したりしたんだよ!? いくら魔法の盾で緩和出来るからって今のは無茶過ぎだぜ!!」

「魔法が思ったより強くて、それにやっぱり茶々丸さんは僕の生徒だし怪我をさせる訳には」

「甘いっ!! 兄貴は甘すぎるぜ!! いくら生徒だからって相手は兄貴を殺しかけた奴なんでしょう。生徒の前に敵っスよ、敵!!」

 

けたたましく責めて来るカモにネギは俯いているが其処に明日菜が話に割り込んで来る。

 

「でもさエロオコジョ、あの茶々丸さんやエヴァンジェリンも二年間私達のクラスメイトだったんだよ。本当に本気で命を狙って来るのかな?」

「甘いっ!! 姐さんも甘々っスよ!! さっき、まほネットでしらべておいたんスけどあのエヴァンジェリンって奴は15年前までは魔法界で600万$の懸賞金が懸けられていた元賞金首ですぜ。確かに女や子供を殺したっていう記録はねえが裏の世界でも未だに恐れられている極悪人だぜ!!」

「ちょっと、何でそんな奴がウチの学校に居るのよ!?」

「それは分かんねえけどよ、とにかく奴が本気で暴れ出したらどうなるか解ったもんじゃねえ。姐さんの友達にも危険が及ぶかもしれねえぜ?」

「マ、マジッ!? そんな事になるんなら仕方ないのかな?…ねえ、ネギ…」

 

明日菜はカモの言葉を聞いて申し訳なさそうにネギに向き直るが、

 

「そ、そんな事…そんな事言われたって……ぼ、僕…僕はどうすれば……うう、ぐすっ。…うわあああ~~~~~~んっ!!」

 

ネギは突如泣きだすと、杖に飛び乗り何処かへと飛び去った。

 

「ちょっとネギ、何処に行くのよーーーっ!!」

「兄貴ーーーっ!!」

 

 

 

 

 

 

そして、そんなネギの姿を少し離れた屋根の上で茶々丸は静かに見つめていた。

 

「ネギ先生……ネギ・スプリングフィールド。……貴方は一体……」

 

続く

 

 




(`・ω・)この時間軸ではまだ小錦は現役だという事で……

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