「ねえお兄ちゃん、ほんとに大丈夫なの?」
「心配してくれてありがとう。俺なら大丈夫だよ、慣れてるからね」
砂沙美は横島に麦茶を差し出しながら聞き、横島も麦茶を受け取りながら答えた。
「……慣れてるとかそういう問題じゃねえだろ。何者だコイツ?」
「さあ、悪い方には見えませんけど」
「ま、まあ、ともかく自己紹介をしようよ。俺の名前は柾木天地、君は?」
「俺は横島忠夫だ」
「私は砂沙美だよ。そしてこの子は魎皇鬼っていうの」
「ミャ~~ン、ミャ~~ン」
「な、何か泣いてるみたいだけど…」
「ああ、それは……」
天地は苦笑いしながら無残な姿になった畑を指差した。
其処には横島が落下した際に出来上がったクレーターがあり、辺り一面にはボロボロになった人参が散乱していた。
第
鷲 四
羽 話
ち
見 ゃ
て ん
い が
る
「この畑は魎ちゃんの大好物の人参を育ててたの」
「ミャ~~ン、ミャアァ~~ン」
「そっか。俺が落ちて来たから畑がメチャクチャになった訳か」
「しかし、何でおめーは空から降って来たんだ?」
魎呼は宙に浮きながらそう聞くが、天地はその行動を諫める様に声を上げる。
「魎呼!一般人の前で人間離れした行動をとるなと何度言えばわかるんだ!!」
「うっせーな。いいじゃねーか、別に」
「いや~、こんな所でお嬢さんのような綺麗な方に出会えるとは今日はいい日だな~」
天地はうろたえながら横島を見るが当の横島は、毎度のごとくナンパをしかけていた。
「おっ!おめー中々見る目があるじゃねーか。忠夫とか言ったな。あたしは魎呼ってゆーんだ、よろしくな」
「あ、あれ?人が浮いてるのに驚かないのか?」
「別に驚く様な事じゃないだろ。俺の知り合いにだって…」
『しかし横島よ、この者は魔族でも神族でもないようだぞ』
「うわあっ!バ、バンダナから目が…。な、何なんだい忠夫君、そのバンダナは!?」
心眼は魎呼が魔族や神族で無いと見抜き、横島にそれを伝えるが突然バンダナに現れた瞳を見て天地は驚いて尻もちをついた様だ。
…と言うより、非日常に慣れているお前が驚いてどーする。
それとは逆に、阿重霞はごく普通に心眼を見つめている。
「見たこともない生命体ですね。それとも人工的に作られた物でしょうか?」
『我が名は心眼。作られた存在と言って過言ではない。まあ、横島の使い魔とでも見てくれて構わぬ』
「それなりに頼りになる相棒だよ。それより君は?」
「あっ。申し訳ありません、自己紹介が遅れましたね。私は砂沙美の姉で柾木・阿重霞・樹雷と申します。以後、お見知りおきを」
「僕は横島忠夫、こちらこそよろしくお美しいお嬢さん」
阿重霞が一礼を済ますと横島はとてもイイ笑顔でその手を掴み、自己紹介をする。
この男にとってナンパは美女への礼儀といって過言ではないのだから仕方ないと言えば仕方ない。
「まあそんな、美しいだなんて」
阿重霞は頬を赤く染めながらもごく普通に対応した。
天地という想い人が既にいる為、横島のニコポは発動しなかったらしい。
だが、そんな態度が気に入らないのが魎呼。
自分の事を綺麗と言っておきながら今度は阿重霞に美しいと言う横島に当然魎呼はいきり立つ。
「ちょっと待て!おめー、さっきはあたしの事を綺麗だっていってなかったか」
「あら、魎呼さん。貴女は社交辞令というものをご存じないようですね」
「何だとコイツ!!」
「やりますか?」
「やらいでか!!」
第二ラウンド開始!!
「お、俺のせいか?」
『他に誰の責任だと言うつもりだ』
「まあ、いつもの事なんだけどね……」
「ミャ~~ン……」
「ん?」
横島は魎皇鬼の鳴き声が聞こえて来た方に顔を向けてみると、魎皇鬼がクレータの端で今だ泣いており、砂沙美に慰められていた。
「ミャ~~ン、ミャァァ~~ン」
「魎ちゃん、諦めようよ。もう仕方ないじゃない」
横島はそんな砂沙美達の所まで行くと魎皇鬼の頭を撫でながら話しかけた。
「魎皇鬼…だったな。今すぐに元に戻してやるからもう泣くのはやめな」
「…ミャ~ン?」
『待て横島。お前まさか』
「こんなに泣いてるんだ、可哀想じゃないか。さてと、ちょっと待ってろよ」
「ミャン?」
「直すってどうやって?」
「こうやって」
そう言いながら文珠を二つ取り出し【修】【復】と刻み込むと、クレータの中に放り込んだ。
すると二つの文珠は凄まじいまでの光を放ち、辺り一面を覆う。
「ミ、ミャン?」
「な、何、この光は?」
そして、眩い光が収まると其処には元通りの人参畑があった。
「ミャアァァァーーーーン!♪」
「ほえ~~、す、……すごーーーい!忠夫兄ちゃん凄いよーー!!」
「こ、これって…。忠夫君、一体何をしたんだい?」
「ミャンミャンミャン♪」
魎皇鬼は、元に戻った人参畑を見ると大喜びではしゃぎ回り、横島の肩の上に駆け登ると頬ずりしながら甘えてくる。
砂沙美は驚きながらも感動し、天地はあり得ない出来事に愕然としていた。
だが心眼はそんな横島の迂闊な行動を諫める様に叱責する。
『どうするつもりだ。こんな所で文珠を見せてしまって』
「仕方ないだろ、やっちまったもんは」
「た、忠夫君。君って一体誰なんだ?」
―◇◆◇―
そして、その様子は異空間の鷲羽の研究室でモニターされており、横島が文珠を使っている場面を何度か再生しながら鷲羽は一人呟く。
「あの子が持っていた珠からは、かなりのエネルギーか感知されていたわ。そして珠には二つ合わせて『修復』と書かれていた、つまりはあの珠には刻み込まれた文字を事象として具現化する力があるという事ね。…ふふふふふふふふふふふふふふふ…面白くなってきたじゃない」
怪しい
ゾクウッ
『どうした横島?』
「い、いや…な、何か背筋に悪寒が走った感じがしたんだが……気のせいかな?」
(いや、それは間違いなく気のせいじゃない。…見ていたんだろうな、鷲羽ちゃん)
天地は無駄だと知りつつも苦笑いを浮かべながら横島の無事を祈った。
そしてその頃……
キュイイイイイイーーーーーン!
皇家の樹、船穂から幾重もの光が放たれていた。
「ん?船穂……何かいい事があったようじゃな」
キュイイイイイイイーーーーーーーーン!
(ヨウコソコノ次元ヘ、ヨコシマタダオ)
「いや、ようこそと言われても」
「ミャン!」
=続劇=
「へ~~ん、も~う~ゆ~る~し~て~~!」
美星へのお仕置きはまだ続いていた。
(`・ω・)天地側は時間的にOVA2期が始まる直前といった感じです。
美星レポートは提出済なので横島の存在はGPや樹雷(水鏡のクルー除く)にはまったくのイレギュラーです