こんな、横島忠夫はどうでショー!   作:乱A

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「横島と狐と茜雲」

人間なんかキライだ。

 

自分達の都合だけで山を荒らす。

私達の住処を奪う。

私の……

 

私の母さんを……

 

母さんを殺した。

 

人間なんかキライだ………

 

大っキライだ!………

 

 

 

―◇◆◇―

 

ある日、横島は美神から除霊の仕事を任されようとしていた。

それも単独での。

 

「俺一人での仕事ですか?」

「ええ、簡単な仕事だからあんた一人でも大丈夫でしょ」

 

横島は美神から渡された書類に目を通している。

地方からの依頼で森の中で怪異が起こるという物だが、人的被害はさほど無いとの事なので横島一人でも何とかなるとの判断らしい。

 

「拙者も先生と一緒に行きたいでござるよ」

「あんたは私の仕事の荷物持ちよ」

「そんな~、ひどいでござる…」

 

項垂れて涙ぐむシロを尻目にタマモは笑顔で横島の方に歩いて行く。

 

「頑張って来てねシロ。じゃあ私がヨコシマと…」

「あんたもこっち、私達は私達で厄介な仕事があるだからね。勿論、おキヌちゃんもよ」

「ちっ!」

「は~~い…」

 

美神が横島に任せた仕事は本来なら受けもしない様な低額なのだが美神は以前から母親の美智恵に横島の時給を上げろと説教をされていた。

なのでこの様な低額の仕事を任せて給料upの代わりにしようという訳だ。

まあ、結局は依頼料からピンハネをする事はするのだが…

 

そして美神達は自分たちの仕事場に、横島も自分の仕事場である山の中の小さな村へと行くのであった。

 

 

―◇◆◇―

 

横島視点~

 

「幻覚に惑わされる?」

「へえ、山の中に山菜や薬草などを採りに入っても色々な幻覚で道に迷ってしまって…酷い時など崖から落ちそうになった事もありやす」

 

俺は依頼主の村人達から今回の怪異の事を聞いていた。

それによると数ヵ月前から森の中に入ると様々な幻覚が起こり、道に迷わされた揚句に元の場所に戻されてしまうとの事だ。

 

普通の村人たちはそれだけで済むのだが、銃を持って森に入る猟友会の人間や密猟者達などは先ほど説明された様に崖に誘い出したりなどと命に関わる様な出来事が頻発していた。

そこで最後の手段としてGSへの依頼となった訳だ。

 

「う~ん、事情から察するに妖怪化した動物か動物霊の仕業みたいっスね」

「何とかなりやすでしょうか?」

「とりあえずこれから森の中に入って調べてみます」

「大丈夫でやすか?」

「まあ、これでもGSのはしくれですからね。任せておいて下さい」

 

俺は捜索の為に森の中に入ったが、その途端に村人達が言っていた様に幻覚に襲われてしまった。

「見鬼くん」で辺りを捜してみるが強い霊波によって「見鬼くん」は狂わされ、人形の部分はグルグル回るだけで役には立たなかった。

仕方無く、【捜】の文字を込めて発動させた文珠で霊波の出所を捜す事にした。

どうやらあちらこちらに動きまわっている様で中々居所を特定できないが、その事は同時に俺の考えた通りだった事がはっきりした。

 

「幻術を使うって事は妖狐か妖狸といった所だな。銃を持った人間に殺意を持っている所から家族を殺されてその恨みから妖怪化したって所か……。まったく、この山は禁猟区だっていうのに」

 

 

=横島はこんな時にはその考え方は大抵、(あやかし)寄りになる。

それはかつての猫又の親子、ミイとケイ、そして最近ではタマモとの事からも明らかである。

食べる為に動物を殺す、その事自体には何の疑問も持たないし割り切っても居る。

だが、楽しむ為の狩り、娯楽の為に動物を殺すという事にはどうしても納得はいかない。=

 

 

そうこうしている内に相手の動きが止まった、其処に妖怪を縛り付けている何かがある様だ。

 

「グウゥゥゥゥゥゥゥ~~~~」

 

叢の中から唸り声が聞こえ、草をかき分けて中を覗くと其処には殺されてから数ヵ月経っているのだろう、所々白骨化して腐臭を放っている狐の死骸があり、その前にはその死骸を守る様に子狐が牙を剥きながら俺を睨みつけていた。

思った通り、銃で殺されたらしく体には弾痕があった。

死骸がそのままという事はおそらく他の動物を狙った流れ弾にでも当たったのだろう。

 

「くそっ、何でこんな事を」

「ガアアアッ!」

「痛てっ」

 

せめて墓に埋めて供養してやろうと手を伸ばすが、子狐は叫びながら飛びかかって来た。

俺の腕に噛み付き、鋭い爪で引っ掻いても来る。

 

「ガウウウウッ!……ガウ?…」

「ゴメン、ゴメンな」

 

 

子狐視点~

 

随分前に手に入れた幻を見せる不思議な力、私はこの力で母さんの体を守っていた。

もう死んでいるのは解っているけどせめて体だけは守ってみせる。

人間なんかに母さんを渡しはしない。

この人間もきっと母さんを連れて行こうとしてるんだ、そう思って私は噛み付いたり引っ掻いたりしてるけどこの人間はされるがままになっている。

それだけじゃ無く、泣きながら謝って来る。

……何なの、この男?

 

「こんな風に大事な家族を殺されて悔しいだろうな」

 

そう言いながら男は不思議な力を放つ珠を取り出すと母さんの体に当てる。

何をする気だと再び襲いかかろうとするがその珠は突然光り出し母さんの体を包む。

すると、母さんの体の鼻が曲がりそうな臭いが嘘の様に消え去って行った。

 

 

=この時横島が使ったのは【浄】の文珠、これにより死骸の腐敗は止まり、腐臭も浄化され消え去ったのだ。=

 

 

ひょっとして母さんの体を綺麗にしてくれたの?

母さんの体、持ってったりしないの?

母さんの体、守ってくれるの?

だったら……

 

噛んじゃって、ごめんなさい。

 

「解ってくれたのか、ありがとな」

「キュ~~ン」

 

 

=子狐が噛み付いていた口を離し、離れて行くと横島はその頭を軽く撫でてやり、地面に穴を掘って行く。

そして母狐の死骸を穴の中に横たえ埋め戻し、粗末ながらも墓を作ってやると再び【浄】の文珠で辺りを浄化する。

子狐はその墓に手を合わせて黙祷していた横島に近づくと傷だらけの腕や頬を舐め始める。

すると妖孤になった事でタマモやシロ同様にヒーリングの効果がある様でたちまち傷は癒えて行った。

舐め終わると子狐は甘える様に横島に頬を擦り寄せる、どうやらすっかり懐いてしまった様だ。=

 

 

「さてと、お前をどうするかだが……、連れて帰ったら美神さんは怒るやろな~」

「コン?……、キュ~~ン、キュ~~ン!」

 

えっ?私の事、置いて行くの?嫌だ、嫌だ、一人ぼっちになるのは嫌だ!もう悪い事はしないから連れて行ってよ。

 

「な、何だ?どうしたんだよお前?」

 

 

=その言葉から此処において行かれると思ったのか子狐は横島にしがみ付き、離れようとしなかった。=

 

 

「もう人を襲う心配は無いだろうけどこのまま此処において行くと他のGSに退治されそうだしな。……仕方ない、一緒に来るか?」

「コーーーーンッ♪」

 

行く、行く、一緒に行く!

嬉しい、もう一人にならなくて良いんだ。

もう、一人ぼっちじゃないんだ。

良いよね、母さん。

この人は母さんを、私を助けてくれた良い人だから。

 

 

―◇◆◇―

 

横島視点~

 

「で、その子狐が怪異の原因だと」

「はい。密猟者に母親を殺された憎しみから妖怪化し、山に入って来る人間から母狐の遺体を護る為に幻覚で道に迷わせていたようです」

「何故そいつを退治しないんだ!?」

 

散々幻覚に翻弄されたらしい村人は妖孤を退治せずに連れて来た事に腹を立てているらしく怒鳴りながら聞いて来る。

まあ、当然っちゃー当然だな。

 

「もう反省して大人しくなってますし、もし此処で退治したりしたら更なる怨念で祟り神になってしまう虞がありますから」

 

祟り神になる。そう言われた村長は顔を青ざめて慌てふためく。

まあ、これも当然だ。

 

「た、祟り神!? それは困りますだ」

「安心して下さい。こいつは俺が責任を持って保護妖怪として面倒を見ますから」

「この山において行く訳じゃねえんですな?」

「はい、俺が連れて帰ります。ほら、散々迷惑かけたんだからな。お前も謝るんだ」

「キュウ~~、コン」

 

俺がそう言うと子狐も素直に謝り、そんな様子を見ると村人達も何も言えなくなった様だ。

幸いに死傷者も無く、これからは怪異も無くなるという事でこれで良しとする事にしたらしい。

 

その後、俺は依頼料を受け取り東京に戻る為に山道を歩きながら下っている。

子狐は俺の頭に乗っかり、甘える様にじゃれ付いている。

そんな俺たちの頭上には空一面に夕焼けが広がっていて、ふと気付くと子狐もまた見惚れる様に夕焼けの空を見上げていた。

 

「お前も夕焼けが好きなのか?」

「コンコン♪」

「そっか」

 

そして再び空を見上げると、其処には紅く染まった茜雲が流れている。

 

「茜雲…茜…あかね…そうだ!アカネなんてどうだ?」

「コン?」

「お前の名前だよ。今日からお前の名前はアカネだ」

「コン……コーーーンッ♪」

 

子狐…、アカネはかなり気に入ったらしく頭から肩に降りると顔に抱きついて来て、頬をペロペロと舐めている。

 

「後は……美神さん、給料上げてくれないだろーな…」

 

 

 

―◇◆◇―

 

そして翌日……

 

「横島クン…?」

「どうしたんです、その子狐は?」

「これは一体どういう事よヨコシマ、この浮気者ーーーっ!」

「女狐が…女狐が増えたでござる」

 

仕事を終え、事務所に帰って来た美神達が見たのはバツの悪そうな顔で笑っている横島と彼の膝の上でお揚げを食べているアカネであった。

 

美神にしばかれ、タマモに燃やされた後、横島は事情を説明した。

 

「つまり、妖怪化したその狐を助ける為に保護妖怪として連れ帰って来たって訳ね」

「はい。その辺の処理は昨日帰ってから隊長に頼んで済ませてるっス」

「タマモちゃんの時といい、横島さんらしいですね」

 

美神はようやく事情を理解し、おキヌは改めて横島の優しさを再確認していた。

 

タマモとシロはと言うと……

 

「う~~~~~」

「がるるるる~~~~」

「グウゥゥゥゥ~~~~~」

 

横島の膝に抱かれているアカネと睨み合っていた。

 

「う~~~~、ねえヨコシマ。私のお揚げは~?」

「…悪い、タマモの分も買ってたんだが全部食われちまった」

「そんな~、うう~~、私のお揚げぇ~~。私のお揚げ、返せぇーーー!」

 

タマモがアカネに飛びかかろうとしたその瞬間、アカネの体から霊波が放たれ、そして。

 

「なっ!?」

「えっ!?」

「うっ!?」

「そ、そんな…アンタ…」

「そー言えば、一応妖孤だったんだよなお前」

 

横島の膝の上には人間形態に変化したアカネが居た。

セーラー服を基調としたワンピースを身に付け、その長い金髪はポニーテールと言うか、フォクシーテールに纏められていた。

 

「改めて初めまして、私の名前はアカネ」

「アカネ…ちゃんですか?」

「そうよ、ご主人様が付けてくれたの。いい名前でしょ♪」

 

 

「「「「………ご、ご、ご主人様ぁーーーーーーっ!?」」」」

 

「なっ、お、お前何ちゅー呼び方を…」

「えー?だって私は保護妖怪なんでしょ?だったら私を保護する貴方は私のご主人様じゃない」

「理屈はそうだろうけど、さすがにご主人様はヤバいと言うか何と言うか」

 

アカネは上目遣いで見上げながら横島の胸にのの字を書きながら迫り、横島は慌てふためきながらも何とか撤回させようとする。何しろ見た目中学生のアカネにご主人様と呼ばれるのはあらゆる意味で危険すぎる。

 

「よ、横島クン、アンタ…」

「横島さん…」

 

「嫌ァーーーーーっ!そんな目で見んといてーーーーっ!ワイはロリやない、ロリやないんやぁーーーーーーっ!」

 

「拙者は認めぬでござるよっ!やり直しを要求するでござる!」

「ヨコシマに助けられたのは私も同じよ、だったら私もヨコシマをご、ご、ご主人様って…」

「これ以上状況をややこしくするなーーーーーっ!」

 

 

「この馬鹿丁稚が…」

「横島さんの馬鹿…」

 

こうして美神除霊事務所に新たなる騒動の種が加わる事となったのである。

 

(人間はまだ苦手だけど、まだ嫌いだけど、でもご主人様だけは…)

「ご主人様、だぁーーい好き♪」

 

 

後に、11人(匹)増える事になるがそれはまた別の物語である。

 

 

終わりとしましょう。

 

 




(`・ω・)と、言う訳でアカネのモデルは「天使のしっぽ」の狐のあかねでした。
守護天使にすると横島の過去の話が絡んで来るので読みきりでは難しかったのでこう言う設定にしてみました。
こうなると他の娘達の話も描いてみたくなったり。まあ、無理でしょうが。

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