じゅりえったのよなおしおしごと   作:柊憂

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前回のあらすじ。

庭先で幸せそうな顔をして昼寝するジュリエッタ。その横には沢山の金平糖。しかし、暗雲立ち込める刹那の後に、奉行が一歩、また一歩とジュリエッタに近づく。手には磨き抜かれ、煌びやかな装飾をされた小太刀、瞬瞳的刹那。その小太刀を握りしめ、ジュリエッタの傍まで来た奉行が言い放つ。

「…お、起きなさーい!ジュリエッタぁ!!」






第五話

 

 

小太刀の手入れも終わり、久しぶりの休日を満喫するアリア。役宅の自室で濃いお茶を飲みながら書物を読んでいた。そこへ、十手(勇往邁進)をくるくる回しながらジュリエッタがやって来た。勿論庭先からで、香炉もまだ良い匂いを漂わせている。

 

「あらジュリエッタ、どうしたの?仕事は、休憩かしら?」

「そ~ですよ、抜け出すと殺されかねませんので…」

「…だからあれは誤解だって言ったでしょう。根に持つのね…」

(誰だって根に持つよ、アレは…)

「で、どうしたの?」

「お昼ですよ、どっかに食べに行きませんか?」

 

そう言ってジュリエッタは十手を帯に差して、可愛らしい財布を取り出した。だがこの財布を取り出すという行為がジュリエッタの策だった。

 

「あら、可愛らしい財布ね。部下に食事を誘われたら行くのが上司というものよ。それに、さっきの件もあるから今日は私が奢ってあげるわ」

「計画通り…(  ̄▽ ̄)」

「ん?何が計画通りなの?」

「い、いやほら!前からアリアさんとゆっくり食事がしたかったから!」

「え…。…ジュリエッタ……ふふっ、分かったわ。こっちにいらっしゃい、出掛ける前に髪をとかしてあげるわ」

 

適当に最もらしい理由を並べ、内心『ちょろい、これでタダメシ確保』等と思うジュリエッタだった…。因みに、こんな感じでジュリエッタは他の与力や同心、岡っ引き達に甘やかされている。一応、与力なのだがその子供っぽさが原因とみられる。だがそれはあくまでも演技。彼女はこう見えて世直し仕事人なのだ。

 

「ついでに金平糖もいいですか?」

「そ、それは自分の給金で買いなさい…」

「えぇ~、だってさっき奢ってくれるって」

「それとこれは別よ…」

 

これは演技で、こう見えて仕事人…。

 

「金平糖、少しだけじゃ駄目ですか?」

「だ、駄目よ…」

「う~…」

「……す、少し、だけなら」

 

……演技じゃない所も少しはあるかもしれない…。

 

金平糖を買ってもらいご機嫌なジュリエッタを連れたアリア、二人は昼食を食べる為に蕎麦(そば)屋に入り、まず始めにお茶を飲んでいた。そこへ丁度良い具合に見た事のある若者が入ってきた。

 

「ん?…アリアじゃねえか」

 

火付盗賊改方(ひつけとうぞくあらためがた)、ジェノベーゼ・アイスラント。泣く子も黙る鬼とはよく言われたものである。

 

「あら、火盗(かとう)が蕎麦屋に来たわ。明日は雨ね…。ジュリエッタ、傘に油を塗っておきなさい」

「はーい」

「ってコラ、お前ら」

 

更に奇遇というか何というか、そこへ丁度狙ったように遊び人のモグさん(松戸)までやって来たのだ。

 

「店主、採譜(さいふ)はどこだシカシ?って、アリア嬢と鬼べーじゃねぇかシカシ」

「何度も言うが、鬼べーって言うな!」

「遊び人が来たわ。ジュリエッタ、目を合わせちゃ駄目よ。合わせた瞬間に金を貸せと言われるわ」

「は~い」

「ゴルァシカシ!誰がんな事言うかよシカシ!!」

 

何だか大所帯になってきたので奥の座敷に移動した四人。それぞれ個々に蕎麦を頼み、障子戸を閉めてお茶を飲み始めた。

 

「ずずっ、あ~。そういや久々じゃねえかシカシ?」

「…なにが?」

「この四人が集まるのが…だろ」

「そうだね~」

 

実はこの四人、随分昔から顔見知りなのだ。

 

「あの『いぶし銀のモグ』と呼ばれた悪党の親玉が、今じゃ北町奉行…」

「なぁにを偉そうに、アリア嬢だって『紅椿(べにつばき)』の異名を持ってたじゃねえかシカシ。それが南町奉行だぜシカシ」

 

何を隠そうこの四人、昔は相当やんちゃをしていたらしく、切り結んだ時すらあったくらいなのだ。

 

「ジェノっちは随分まるくなったよね。昔は本当に鬼っぽかったけど」

「…それを言うならジュリっ子、テメェが一番丸くなったな。俺はテメェに殺されかけたんだ…」

 

そして時は流れ、それぞれ火盗や奉行、与力として世の為、人の為に働いている。きっかけはアリアが同心になってからだった。それを追うようにジュリエッタが岡っ引きに。その二人に触発されたのか松戸とジェノベーゼも同心となったのだ。

 

「シカシよぅ、最近どうもキナ臭ぇ事件ばっかり起きてるような気がするぜシカシ」

「それは私も思っていたわ」

「そうか、お前らもか…」

「お蕎麦、まだかなぁ」

 

蕎麦を心配するジュリエッタをよそに、三人は最近の事件について話していた。

 

「一月ほど前から贋金(にせがね)だとかそういう事件ばっかりだぜシカシ」

「そういや先日押し入った屋敷にも贋金があったな」

「あ、もしかしてあの大々的にやった捕物(とりもの)

「あぁ、盗賊連中が絡んでたからな。俺達火盗がお縄にかけてやったんだ」

「…ん?足音だ。蕎麦が来たかも」

 

ジュリエッタの一言で、話しを中断する三人。ほどなくして蕎麦がそれぞれ運ばれ、仕事の話しは打ち止めとなった。

 

「では、ごゆるりと」

 

店主がそう言って去った後、部屋はずるずると蕎麦を啜る音が響いた。因みに、ジェノベーゼは天ぷら蕎麦。ジュリエッタはざるそば。アリアは山菜蕎麦。松戸は特注どろり濃厚油蕎麦(のうこうあぶらそば)をそれぞれ食べている。松戸が食べている特注蕎麦はラーメンのようなもので、麺が蕎麦で出来ている。豚骨で出汁(だし)をとっているらしく、(つゆ)の表面には油がぎらぎらと輝いていた。

 

「うめぇぜシカシ」

「…その油まみれの蕎麦は蕎麦であって蕎麦じゃないわ……」

「そうか?俺から見たら結構旨そうなんだが」

 

そんな三人を余所に、幸せそうにざるそばを食べるジュリエッタ。タダメシという相乗効果もあり、なおのこと美味しく感じるのであろう。

 

 

 

 




この時代に豚骨出汁があったかどうかは不明。調べていないだけであったのかもしれない…。
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