みんなでお蕎麦を食べてきました まる
腹も膨れてきたので、奉行所へ帰る事にしたアリアとジュリエッタ。松戸とジェノベーゼとは蕎麦屋で別れた。というか、その二人が酒を注文し始めたので早々に逃げてきたという言葉の方が合っている。そして帰り際にふと足を止めたジュリエッタ。その視線は小さな
「あら、まだ有ったのね」
昔、アリアとジュリエッタが切り結び、共に誓いをたてた場所。
「あの時のジュリエッタは羅刹の瞳をしていたわ…」
そして共に歩む仲間となった場所。ジュリエッタは遠くを見るように、ただ黙っていた。
「……先に帰ってるわ。夕刻までには帰るのよ」
気を使ったのかそう言ってアリアはその場を去った。アリアが去った後、ジュリエッタは誰にも聞こえないような声でそっと呟いた。
「今でも…羅刹さ……」
人通りが少なくなった瞬間に、手際よく祠の裏に回り『依頼状』を取るジュリエッタ。すぐさま懐にしまい帰路につくのであった。この世から悪を滅ぼすこと、それがアリアとの誓い。二人はそれぞれ同じ位置から違う方法で悪に天誅を下していた…。
『高利貸しの半助が裏でごろつきを雇って、借金を返しに行く人を襲わせて払えないようにし、借金のカタにと土地の権利を不当に奪っている。少ないがこれでその半助とごろつき達に天誅を下してはくれまいか』
依頼料は百文。
「はぁっ、はぁっ!割に、合わないよ…はぁっ!」
布で顔の半分を隠した仕事人・ジュリエッタが息を切らせていた。
時刻は夜。
心を落ち着かせ、息を潜める。心臓の音が周囲に聞こえているのではないかと錯覚するほど大きく鼓動する。そう、彼女は『失敗』したのだ。
「居たぞ!」
隠れる場所など無かった。いや、この広い屋敷に隠れる場所は沢山有った。隠れさせてくれない、それだけのこと。しかも相手は三人。
「くっ!」
縁側に躍り出て、脇差しの生殺与奪と活殺自在を構えた瞬間にこめかみの直ぐ脇から月明かりにぎらりと反射した太刀が迫る。目を見開き、頭を下げる。数本の髪の毛が宙を舞い、すぐさま反撃に転じる。
「はぁっ!」
まるで意思があるかのように、動く脇差し。何度も空気を斬り裂く音を響かせながらも相手に迫る。だが相手の身体どころか太刀にすら攻撃が当たらない。
「へっ、仕事人だか何だか知らねぇが所詮はお前も人の子さ」
彼女は腕に怪我をしていた。床にぽたぽたと落ちる血液は一滴二滴ではない。苦痛に顔を歪める暇さえ与えられぬまま二方向からの攻撃。瞬時にそれを予測出来たジュリエッタ。二刀流の脇差しをそれぞれ防御の為に構えたのだが、あまりの衝撃故に血を流している方の腕に来た攻撃を完全に防ぎきる事が出来なかった。
ズブッ
肉に刀が到達する。嫌な音を起ててジュリエッタの心を揺さぶった。だが片目を閉じ苦痛に顔を歪めながらジュリエッタは一瞬のスキをついて距離を取った。
「はぁはぁはぁ…」
腕からはずきずきと鋭い痛み。遠退く意識を引き留めてはいたが、あと一撃でも貰えば限界だった。傷口に手を当てる暇さえ無い。再び脇差しを構え、相手を睨み付ける。相手は三人、内一人はどうにかなるかもしれない。そんな事を考えていると、その一人が声を上げながら太刀を降り下ろしてきた。
「くっ!」
紙一重でかわした瞬間だった。もう一人が太刀を真一文字に振るってきたのが酷くゆっくりと見える。距離的にかわせる訳も無い程の近距離。刹那に来るであろう安息。ジュリエッタは軽く笑みを浮かべて静かに瞳を閉じた。
(…最後にもう一個、金平糖が食べたかったな……)
ギン!!
……どれ程の時間が経過したのか。恐らく数秒、だがいつまでも来ない安息。おかしいと思い、ジュリエッタは静かに瞳を開いた。するとそこには…。
「……!?」
椿の花をあしらった小太刀。そう、刹那に来たのは安息では無かった。
瞬瞳的刹那
アリアの愛刀。首を刎ねる様を恐れられた一振り。
「だ、誰だテメェは!」
「…あら、この小太刀を見てもまだ分からないの?私は南町奉行アリア・ツバキよ」
「な…、んな…バカな…」
「例え相手が仕事人でも、暴行は暴行。………立派な罪よ、この場で裁いてあげるわ…」
アリアがニヤリと笑った顔を見て震え上がる三人。
「ひ、ひぃぃ!!!」
そして後ろに居た二人は、あまりの恐ろしさに悲鳴を上げて逃げ出してしまった。
「こら!待ちやがれおめぇら!ち、畜生!」
「仲間の方がよく分かっているじゃない。差し詰め、あなたは馬鹿かしら?」
「このアマぁ!ほざけ!」
「ふふっ、地獄で悔いなさい」
「うるぁぁぁぁ!!」
その瞬間、アリアは腰を僅かに落とし相手の刀の動きを注視していた。
「流動的…風雅!!」
相手の刀が到達する刹那、小太刀で刀の軌道をずらしつつそのまま相手の手首を削ぎ落としたアリア。流動的風雅、アリアが得意とするカウンター技。
「くぁ、ぎゃぁぁぁぁぁ!み、右手がぁぁ!」
血飛沫を上げて飛び散る男の右手。最早、男の目にアリアの姿は映っていなかった。映っていたのは…。
「
ヒュン!
それは見事に咲いた一輪の椿だった…。
ボトッ!ドサッ!
梟首、相手の首を居合いで刎ねる技。その速さ、驚くなかれ。目には捉えられず、また刀に血が着かない程に速い。これが、アリアが『神速の居合い』の名を欲しいままにしている理由である。
「……さて、あっちは上手くやってるかしら?」
アリアのその言葉を不思議そうに聞く仕事人ジュリエッタだった。
無事、最終話を投稿できました!